Crackleは, 吸気時, 呼気時に聴取する断続性の音であり, 肺炎や心不全など様々な肺疾患で聴取する.
Crackleの機序は主に2つ提唱されている.
・中サイズ〜大サイズの気管, 気管支内に気道分泌物が貯留することで生じる音
これは咳嗽や咳払いなどすると軽減する. COPDや肺炎で多い.
主に吸気時(早期)で生じるCrackle
・細気管支や呼吸細気管支が吸気時に突如開くこと, 呼気時に突如閉じることで生じる音
これは咳嗽や咳払いでは変化しない. 肺炎, 心不全, 気管支拡張症, 肺線維症など様々な病態で関与.
吸気時のみならず, 呼気時にも聴取する. 呼気時のCrackleは通常吸気時よりも少ない.
(Ann Thorac Med. 2015 Jul-Sep;10(3):158-68.)(CHEST 2009; 135:156–164)
肺炎, 心不全, 肺線維症のCrackleの違い
肺炎 37例, 心不全 5例, 肺線維症 13例でCrackleを評価 (CHEST 2009; 135:156–164)
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肺炎
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HF
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IPF
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吸気時 Crackle
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数 /1回 呼吸
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9±5
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13±6
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24±17
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周波数(Hz)
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316±71
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326±43
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441±80
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呼気時 Crackle
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数 /1回 呼吸
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6±4
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6±2
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8±5
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周波数(Hz)
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289±79
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303±55
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421±78
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肺炎 49例, 心不全 52例, 肺線維症 18例でCrackleを評価 (Respir Care 2011;56(6):806–817. )
上記患者において, 通常の呼吸 → 深呼吸 → 咳嗽 → 深呼吸 → Vital capacity maneuver → 深呼吸 の順番でCrackle数を評価し, 変化率を比較した.
・平均Crackle数
これらの結果からは, 肺炎, 心不全のCrackle数は1吸気あたり10回前後と言える
肺線維症は20-30回と多く, 細かいCrackleとなる(Fine)
呼気時のCrackleは吸気時と比較して, あまり大きな差とはならない.
呼吸の方法でのCrackleの変化を見てみると,
肺炎とCHFのCrackle数は同じ位であるが通常呼吸時と深呼吸時で
・肺炎ではCrackleが増加
・CHFでは不変
・IPFでは減少する.
深呼吸時を100%とすると通常呼吸時では
・肺炎は74%
・CHFは108%
・IPFでは147%となる
(Respir Care 2011;56(6):806–817. )
肺炎と心不全ではCrackleの数だけでは鑑別は難しいが
通常呼吸時と深呼吸時の変化を評価できれば鑑別がつくのかもしれない.
肺炎におけるCrackle
肺炎の原因菌とCrackleの質を評価 (Postgrad Med J 2008;84:432-6)
細菌性肺炎
Bacterial
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Pan-inspiratory
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Late
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Early-to-mid
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Crackle(-)
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S pneumoniae (n=43)
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48.8%
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7%
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0
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44.2%
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H influenzae (n=34)
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44.1%
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8.8%
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2.9%
|
44.1%
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S aureus (n=10)
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50.0%
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20.0%
|
0
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30.0%
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M catarrhalis (n=7)
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42.9%
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14.3%
|
0
|
42.9%
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K pneumoniae (n=6)
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83.3%
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16.7%
|
0
|
0
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非定型肺炎
Atypical
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Pan-inspiratory
|
Late
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Early-to-mid
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Crackle(-)
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Mycoplasma pneumoniae (n=74)
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5.4%
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33.8%
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2.7%
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58.1%
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Legionella spp (n=7)
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14.3%
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42.9%
|
0
|
42.9%
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Chlamydia pneumoniae (n=2)
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0
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0
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0
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100%
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まず市中肺炎の4-6割がCrackleを認めない.
そして細菌性肺炎ではPan-inspiratoryが多く, 非定型肺炎ではLate-inspiratoryが増加する結果
Crackle(+)の肺炎患者群において,
Pan-inspiratory crackle(+) ⇒ Sn 83.1%, Sp 85.7%でBPを示唆
Late-inspiratory crackle(+) ⇒ Sn 80%, Sp 84.7%でAPを示唆する結果であった.
肺炎の経過とCrackleの変化
11例の肺炎患者において, 症状出現から5.8±2.3日と8.6±2.2日目にCrackleを評価(Chest 1992;102:176-183)
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1回目
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2回目
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吸気時の評価
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Crackle数
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5.0±1.9
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6.0±5.3
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Crackleの始まり
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35±16%
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53±19%
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Crackleの期間
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35±13%
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36±8%
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呼気時の評価
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Crackle数
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0.8±0.8
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0.7±0.14
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Crackleの始まり
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56±14%
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63±14%
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Crackleの期間
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46±39%
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22±0%
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%は吸気時の評価ではTidal volumeにしめる割合, 呼気時の評価では呼気時間にしめる割合
経過で異なるのはCrackleが始まるタイミング.
肺炎初期では吸気時前半でCrackleが始まるが, 時間の経過と共に吸気後半でCrackleが始まるようになる.
病初期では細胞浸潤や浮腫により気管内の分泌物が貯留するため, 吸気時早期に出現するが, 改善してくれば肺はDryとなり, 吸気後半に移動する.
呼気時のCrackleにはあまり変化はない. ただし短くはなる.