まず, いろいろなガイドラインにおける血圧目標値をまとめると以下のようになる
(Mayo Clin Proc. 2015;90(2):273-279)
ガイドラインによる血圧目標値は,
・一般的にはBP<140/90mmHgを目標とする.
・高齢者ではやや甘めに<150/90mmHgで許容. ただし薬剤の副作用がなく, 降圧に伴う合併症もなければ一般と同じにしたほうが良い.
・糖尿病がある患者ではガイドラインにより差はあるものの, BP<130/80mmHgとやや厳しめとすることが多い.
・慢性腎不全でもガイドラインにより差がある. BP <130-140/80-90mmHgとしている.
蛋白尿がある患者ではBP<130/80としているガイドラインも多い.
ということで, 血圧目標値においては糖尿病と慢性腎不全の有無, 年齢が血圧目標値に関連していると理解されていることが多い.
血圧を下げる目的は動脈硬化性疾患の予防が主な目的といえる.
同じく動脈硬化リスクであるDMの有無でコントロールが変わるのはわかる.
また, 動脈硬化によるCKDの増悪を予防するという理由でCKD患者で目標値を考えることもわかる.
では, 心血管リスクがある患者や, 脳梗塞, 脳出血後の患者はどうすべき?
上記の要素のみで当てはめて良いのだろうか?
血圧目標値 More intensive control群 vs Less intensive control群で比較したRCTsのMeta(2015年最新版).
(Effects of intensive blood pressure lowering on cardiovascular and renal outcomes: updated systematic review and meta-analysis. Lancet 2015.)
・19 RCTsを評価
・More intensive群での血圧は133/76mmHg,
Less intensive群では140/81mmHg
・アウトカム
アウトカム
|
RR
|
アウトカム
|
RR
|
Major 心血管イベント
|
0.86[0.78-0.96]
|
心血管死亡
|
0.91[0.74-1.11]
|
心筋梗塞
|
0.87[0.76-1.00]
|
非心血管死亡
|
0.98[0.86-1.13]
|
脳卒中
|
0.78[0.68-0.90]
|
全死亡
|
0.91[0.81-1.03]
|
心不全
|
0.85[0.66-1.11]
|
||
末期腎不全
|
0.90[0.77-1.06]
|
||
アルブミン尿
|
0.90[0.84-0.97]
|
||
網膜症
|
0.81[0.66-1.00]
|
・サブ解析:
サブ解析では,
≥62歳の高齢者,
心血管イベント率が高い患者群(≥2.2%),
糖尿病(+)群
CKD(-)群 or 混在 で, More intensive control群の心血管イベントリスク低下効果が良好であるが, 有意差はない.
心血管リスクがある患者における目標値
Cardio-Sis trial: DM合併(-) HT患者(sBP >150)で心疾患リスクがある患者1111名を対象としたRCT
・Usual Control(sBP< 140) vs Tight Control(sBP< 130)で比較
(RCT, ITT, Open-label, 評価者Blind, 2yr Follow)(Lancet 2009;374:525-33)
・心疾患リスクあり: 以下の1つ以上を満たす
(喫煙,高Chol,TG,家族歴,TIA,Stroke,ASO)
・アウトカム
Outcome
|
Usual
|
Tight
|
OR
|
ECGでLVH(+)@2yr
|
17.0%
|
11.4%
|
0.63[0.43-0.91]
|
冠動脈再灌流療法
|
2.7%
|
0.9%
|
0.33[0.12-0.91]
|
新規Af
|
3.8%
|
1.8%
|
0.46[0.22-0.98]
|
MI
|
1.1%
|
0.7%
|
0.66[0.19-2.34]
|
HF入院
|
1.3%
|
0.5%
|
0.42[0.11-1.63]
|
Stroke, TIA
|
1.6%
|
0.7%
|
0.44[0.13-1.42]
|
全死亡
|
0.9%
|
0.7%
|
0.77[0.21-2.88]
|
LVHの評価はECGであり, 感度は低いが,
心血管リスクがある場合はsBPの指標は<130がBetterと考えられる.
SRINT trial: DM(-), 心血管リスク(+)の患者群 9361例を対象としたRCT.
(A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med 2015.)
・血圧コントロール sBP<120mmHg目標群 vs sBP<140mmHg群に割り付け, 心血管リスクを比較.
・患者群は, ≥50歳で, sBP130-180mmHgで以下の1つ以上を満たす患者群
・脳卒中以外の心血管疾患既往(症候性, 無症候性かかわらず)
・慢性腎疾患(eGFR 20-60)
・Framingham riskスコアで10年心血管イベントリスク≥15%
・≥75歳の高齢者
・慢性腎疾患(eGFR 20-60)
・Framingham riskスコアで10年心血管イベントリスク≥15%
・≥75歳の高齢者
(Framingham riskスコアは http://sumasapo.ianalysis.jp/framingham で計算可. 性別, 年齢, コレステロール値, 喫煙の有無, 糖尿病で評価)
母集団のデータ
アウトカム
・Studyは平均 3.26年フォローし, 有意差がでたため終了
・sBP<120mmHg目標群で有意に心血管イベントリスク, 死亡リスクの低下が認められた.
・心血管イベント/死亡: 1.65%/y vs 2.19%/y, HR 0.75[0.64-0.89]
・項目別では,
心不全リスク: 0.41%/y vs 0.67%/y, HR 0.62[0.45-0.84]
全死亡リスク: 1.03%/y vs 1.40%/y, HR 0.73[0.60-0.90]
・CKD患者において, 腎機能増悪には関与せず.
・非CKD患者群において, 腎機能増悪リスクはsBP<120mmHg目標群で有意に増加する結果(eGFR 30%以上の低下: HR 3.49[2.44-5.10])
心血管リスクが高い患者群(DMやStrokeは除く)においては血圧を<120mmHgを目標にコントロールするほうが心不全や心血管死亡リスクを低下させるという結果.
ただし, 腎機能増悪リスクは上昇する(慢性腎疾患(-)群において)
ちなみに, sBP<120mmHg目標群といっても, 実際の血圧は120-125mmHgであり, 必ずしも<120mmHgを維持する必要はなさそう.
これらの結果を考慮すると, 心血管イベントリスクがある患者群では
やはり可能ならばBP <120-130/80mmHgを目標とするべきなのであろう.
厳しい目標値では, 薬剤の副作用やふらつき, 立ちくらみ, 転倒のリスクは当然増加する.
また, 腎機能増悪リスクもあるため, それらの合併の有無をフォローしつつ, 可能な限り厳しめでコントロールする.
糖尿病患者における目標値
糖尿病と心血管リスク
・DM患者の40.4%[20-60]がHTNを合併. 一般人口の1.5-3倍
新規発症DMでは, HTN(+)は心血管系イベントを56%増やす
・DMと心血管イベントRisk
Af OR 2.31 CAD OR 2.39
AF OR 2.20 CHD OR 3.12
LVH OR 1.85 Stroke OR 1.8-6.0
・DM患者の心血管系イベントRiskは 【実年齢+15歳】と同等
2型糖尿病患者における血圧の目標値を評価したMeta-analysis
(Arch Intern Med. 2012;172(17):1296-1303.)
・Intensive target; sBP<130mmHg, dBP<80mmHg
・Standard target; sBP<140-160mmHg, dBP<85-100mmHgの2群において, 心血管イベント, 死亡リスクを比較(5 RCTs, N=7312名.)
・各アウトカム;
Outcome | Intensive | Standard | RR |
全死亡 | 5.5% | 6.3% | 0.76[0.55-1.05] |
MI | 7.9% | 8.5% | 0.93[0.80-1.08] |
Stroke | 2% | 3.1% | 0.65[0.48-0.86] |
死亡率, MIは有意差無し.
Stroke発症率がNNT 100でIntensive controlの方が良好となる.
また, 上記の(Effects of intensive blood pressure lowering on cardiovascular and renal outcomes: updated systematic review and meta-analysis. Lancet 2015.)におけるサブ解析にて,
DM患者群ではMore intensive controlで心血管イベントリスク低下効果が示されていることから, DM患者群ではBP ≤130/80mmHgを目標とするガイドラインの記載も理解はできる.
CKD患者における目標値
上記(Effects of intensive blood pressure lowering on cardiovascular and renal outcomes: updated systematic review and meta-analysis. Lancet 2015.)におけるサブ解析ではCKD(+)群ではMore intensive controlによる心血管イベントリスク軽減効果は認められていない.
3 trials(N=2272)のMeta-analysis (Ann Intern Med. 2011;154:541-548.)
・GFR<60でACR>0.03g/g, U-prot >300mg/d, PCR>0.2g/gを満たす患者群の血圧コントロールとOutcomeを比較.
・血圧は<130/80 vs <140/90で比較.
・GFR増悪, 心血管イベント, 死亡リスクは両群で有意差無し.
・Subgroup解析では, タンパク尿が程度が高い患者群
(PCR>0.22, U-P>1000mg/d)では, <130/80を目標とした方が, 良い可能性があるものの, 降圧薬増量による副作用リスクも上昇.
米国の慢性腎不全(eGFR<60)で新規に降圧薬が追加された77765例を解析.
(JAMA Intern Med. 2014;174(9):1442-1449.)
・血圧コントロール sBP<120mmHg vs 120-139mmHg群を抽出し, Propensity score-matched analysisを施行(各群 5760例を抽出)
・アウトカム:
平均6年間のフォローにて, 死亡リスクは有意にsBP<120mmHgで高い(HR 1.61[1.5191.71])
サブ解析でも一様にsBP<120mmHg群のほうが予後が悪い
DMの有無にも関わらない.
従って, 慢性腎不全患者では, sBP <140/90mmHgを目標とする.
蛋白尿が顕著な例では<130/80を目指しても良いかもしれない
そしてどちらにしろsBP<120mmHgは予後を増悪させる可能性があるので注意が必要.
脳卒中既往患者における目標値
脳梗塞後の患者での目標血圧
≥50yで非心原性脳梗塞後患者20330名のCohort study (JAMA. 2011;306(19):2137-2144)
・sBPにより5群に分類し, 脳梗塞再発率を評価;
血圧 | 脳梗塞再発率 | 血圧 | 脳梗塞再発率 |
<120mmHg | 8.0%[6.8-9.2] | 130-140mmHg | 6.8%[6.1-7.4] |
120-130mmHg | 7.2%[6.4-8.0] | 140-150mmHg | 8.7%[7.9-9.5] |
≥150mmHg | 14.0%[13.0-15.2] |
sBP 130台を基準としたとき, sBP <130mmHg, ≥140mmHgは脳血管イベントリスク因子となりえる. 特に <120mmHg, ≥140mmHgとなるのは避けるべきであり, 目標は120-140mmHg程度と言える.
ちなみにラクナ梗塞では,
SPS3; 症候性のラクナ梗塞を罹患した3020名のopen-label RCT. (Lancet 2013; 382: 507–15)
・血圧目標値 130-149mmHgとする群 vs. 目標値 <130mmHgとする群に割り付け, Stroke再発リスクを評価
・患者群は30y以上で, 180d以内の症候性ラクナの既往あり, 同側の頸動脈狭窄が無く, 心原性梗塞の可能性も低い患者.
アウトカム; 平均3.4年間フォロー.
アウトカム | BP130-149 | BP<130 | HR |
脳梗塞 | 2.4% | 2% | 0.84[0.66-1.09] |
頭蓋内出血 | 0.38% | 0.23% | 0.61[0.31-1.22] |
脳内出血 | 0.29% | 0.11% | 0.37[0.15-0.95] |
硬膜外, 下血腫 | 0.091% | 0.11% | 1.18[0.36-3.88] |
MI | 0.7% | 0.62% | 0.88[0.56-1.39] |
・脳梗塞, 死亡リスクは両者有意差無し.
・脳出血リスクは血圧低値群の方が少なく, 脳梗塞ではなく出血予防目的に血圧を低値にコントロールする意味合いが強い
ラクナ梗塞ではやや甘めでも良いのかもしれない.
脳出血後の目標血圧
脳出血後90日以上生存した1145例を対象とした単一施設のCohort研究において, 血圧コントロールと再出血リスクを評価 (JAMA. 2015;314(9):904-912. )
・平均36.8ヶ月フォローし, 血圧コントロールと再出血リスクを評価.
・フォロー中の再出血はLobar ICH 505例中102例(20.2%), Nonlobar ICH 640例中44例(6.9%)
血圧と再出血リスク
前高血圧(BP >120/80mmHg)でさえ再出血リスクは上昇する結果.
脳出血患者群では可能な限り降圧するほうが再出血リスクは低い.
目標としては BP<130/80となるか.
高齢者における目標値
高齢者はそれだけで心血管リスクがあるため, 降圧治療を行うべきであり, 目標も低くすべきか?
・上記SPRINT trial(A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med 2015.)では, Inclusion criteriaに>75歳がふくまれている.
しかしながら, 高齢者における血圧は低すぎるのも有害との報告もある.
各年齢層と血圧に対するPrimary outcomeのHR (Am J Med 2010;123:719-26)
・Primary outcome; 全死亡, MI, Stroke発症を評価
U-shapedになっており, 高齢者(>70歳)では目標血圧が低すぎても有害の可能性がある.
・70歳以上ではsBPが140mmHgあたりでU字の底となっている
dBPは70-80mmHgあたりが底.
・基本的70歳以上ではBP ≤140-150/70-80mmHgあたりを目標とすると良いかもしれない.
また, 高齢者における血圧目標値を評価したRCT が2つ日本国内よりあり
Hypertension. 2010;56:196-202.
VALISH trial; 日本国内において, 70-84歳で, 高血圧のみの3260例を対象としたopen-label RCT
・高血圧はsBP >160, dBP <90で定義.
・二次性高血圧, 悪性高血圧, sBP≥200, dBP≥90, 6m以内の脳血管イベント, MIの既往, 開始の6m前後にAngioplastyを施行された患者, NYHA III以上の心不全, 重度AS, 弁膜症, Af, flutter, 重度の不整脈, Cre≥2.0mg/dLのCKD,valsartanへのアレルギーのある患者は除外
・上記患者群を厳密なBPコントロール群(sBP<140) vs. 緩徐なコントロール群(sBP 140-150)に割り付け, 心血管予後を比較.
・降圧はValsartanを使用し, 増量でもコントロール困難ならば他の薬剤を追加する方法.
母集団と使用薬剤
・二次性高血圧, 悪性高血圧, sBP≥200, dBP≥90, 6m以内の脳血管イベント, MIの既往, 開始の6m前後にAngioplastyを施行された患者, NYHA III以上の心不全, 重度AS, 弁膜症, Af, flutter, 重度の不整脈, Cre≥2.0mg/dLのCKD,valsartanへのアレルギーのある患者は除外
・上記患者群を厳密なBPコントロール群(sBP<140) vs. 緩徐なコントロール群(sBP 140-150)に割り付け, 心血管予後を比較.
・降圧はValsartanを使用し, 増量でもコントロール困難ならば他の薬剤を追加する方法.
母集団と使用薬剤
アウトカム
3.07年フォローにて, 心血管イベント, 死亡, 腎不全特に有意差無し.
Sub解析でも有意差認める項目無し.
3.07年フォローにて, 心血管イベント, 死亡, 腎不全特に有意差無し.
Sub解析でも有意差認める項目無し.
Hypertens Res 2008; 31: 2115–2127
JATOS trial; 日本国内において, 65-85歳のsBP>160を満たす本態性高血圧患者4418例を対象としたopen-label RCT.
・dBP≥120, 二次性高血圧, 6m以内のStroke, 6m以内のMI, angioplasty, 入院が必要な狭心症, NYHA≥IIの心不全, Af等の持続性不整脈, 大動脈解離, 閉塞性動脈疾患, 高血圧性網膜症, 肝酵素≥2ULN,コントロール不良なDM(HbA1c ≥8%), Cre≥1.5mg/dLのCKD, 悪性腫瘍, 膠原病は除外.
・上記患者群をsBP<140でコントロールする群 vs sBP 140-160で維持する群に割り付け, 心血管予後を比較
・治療はCCBを主に使用し, コントロール困難な場合, 他の薬剤を使う方法
アウトカム;
心血管, 脳血管, 腎不全全て両者で優位差無し.
心血管, 脳血管, 腎不全全て両者で優位差無し.
これら2つのRCTでは, CKDやDMなど, 心血管高リスク群は除外されている.
従って, 高齢者で心血管リスクが高くない患者では, 血圧目標値は140-160mmHg程度でよいと考えても良い.
------------------------------------------
さて, 長々と書いてきました.
まとめますと, 以下を把握しておけばなんとかなりそうです.
・DM患者では≤130/80mmHgがよい
・CKDがあればDMの有無に関わらず, 130-140mmHgを目標に. <120mmHgとならないように注意する.
蛋白尿が顕著ならば<130mmHgを目指しても良いが, <120mmHgとならないように.
・DMがなくても, 心血管イベントリスクが高い患者群では, <120-125mmHgを目標に降圧する.
リスク因子は高脂血症やPAD既往, 脳梗塞(非心原性), Framinghamスコアなど.
SPRINT trialでは, CKD患者や≥75歳の高齢者が高リスク群に含まれているが, その群でsBP<120-125mmHgを目標として良い可動かは注意したほうが良い.
・脳卒中既往患者における目標値は,
脳梗塞患者では120-140mmHg程度を目標とする. ≤120, ≥140mmHgとなるのは避けたほうが良い.
脳出血患者では, 血圧は低いほど再出血リスクも低い. 正常化(≤120/80mmHg)を目標とするが, 達成困難ならば≤130/80も許容される.
・高齢者、特に70歳以上では血圧を下げすぎても心血管イベントリスク, 死亡リスク上昇するため, 130-150/70-80mmHgあたりを目標とする.
心血管イベントリスク, CKD, DMがない患者群ならばsBP 140-160mmHgでも予後は変わらない可能性が高い.