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2015年11月11日水曜日

Clostridium difficile感染症の診断: トキシン陰性の場合

Clostridium difficile感染症の診断は, 国内ではトキシンのAssayとGDHの2段階法が行われる.
・トキシンはA, Bに対する毒素を評価する方法で,
 CD感染症に対する感度は32-98.7%, 特異度 84-100%.
・GDHはGlutamate dehydrogenaseの略で, 全てのC. difficileで産生される酵素.
 CDの存在に対する感度75-90%以上.
(Clinical Infectious Diseases 2013;57(8):1175–81)

海外では上記2つの検査に加えて, tcdA, tcdB, tcdCに対するPCRが可能であり,
それぞれ下記のような判断方法となる.
(JAMA. 2015;313(4):398-408.)

・GDH陽性, トキシン陽性ならばCD感染症と判断
・GDH陰性, トキシン陰性ならばCD感染症は除外
-------- 日本国内ではここまで---------
・GDH結果とトキシン結果が一致しない場合はPCRを行い, 陽性ならば感染症, 陰性ならば
除外, と判断される.
・PCRが困難な環境では, 結果が一致しない場合は臨床的な判断となる.

このPCR検査では, トキシン産生に関与する遺伝子を評価するため,
トキシンが陰性でも遺伝子が陽性ならばトキシン産生株と判断される. 

しかしながらPCR陽性, トキシン陰性という場合も当然ありえ, その場合は実は過剰診断なのではないか、とも言われている.

そこで, PCR+/トキシン陰性の患者群を評価した前向きStudy
72時間以上入院している成人患者で, 下痢症状を認めCDIを疑われた1416例を対象とした前向きStudy. (JAMA Intern Med. 2015;175(11):1792-1801. )
・上記患者群においてPCRとトキシンAssayを評価.
・PCR陽性例ではトキシンの定量, DNA量の定量をさらに施行
・PCR陽性, トキシン陰性例ではCell cytotoxin assayをさらに施行した.

アウトカムはPCR+/トキシン+, PCR+/トキシン-群, PCR-/トキシン-群における下痢の持続期間とCDIによる合併症頻度.
・CDIの治療はTox+/PCR+群では100%
・Tox-/PCR+群で40.7%で施行されている. しかも後者の方が短い

PCR+/トキシン+が131例(9.3%), PCR+/トキシン-が162例(11.4%), 
 他は陰性(PCR-/トキシン-)

三群における, 治療の頻度, 合併症頻度
・CDIの治療を受けたのは,
 P+/T+群の100%, P+/T-群の40.7%, P-/T-群の32.1%
トキシン陰性でも, フォローにて陽性化する例もあり.
 P+/T-群の8%, P-/T-群の1.5%が経過中に陽性化する.

・CDIに伴う合併症, 死亡例はP+/T+群で多く,
 トキシン陰性群ではほぼ認められない. トキシン陰性ならばPCRの結果は関係ない

下痢の持続リスク
・トキシン陽性例では, 陰性例と比較して有意に下痢が持続するリスクが高い.
・一方でトキシン陰性群では, PCRの結果に関係なく, 下痢の持続リスクは同等.

これらの結果からやはりCDIの評価において重要なのはトキシンであり、
トキシンが陰性ならばGDHが陽性であろうが, PCRが陽性であろうが,
そこまで重要ではないのかもしれない.

注意点はトキシンが陰性でもフォローで陽性化する可能性があるということ.
日本国内ではPCRは難しいため, GDHに頼る必要がある.

従って, トキシン陰性, GDH陽性の場合は, まず経過観察をしつつ,
必要があればトキシンをフォローする.
改善が乏しい場合, 臨床的に疑わしい場合のみ, 治療を考慮する、という姿勢が良いのであろう.