慢性頭痛の原因として近年発見が増加している疾患
髄液の漏出による低髄圧が原因であり, 臥位で改善し, 立位で増悪する慢性頭痛を来す.
頭痛は立位で増悪し, 数分〜数時間かけて増悪する.
一部で急性のThunderclap headacheを訴える例もある.
頭痛以外には悪心, 嘔吐, 羞明, 後頸部痛, 項部硬直など
髄膜刺激症状は比較的多く認められる.
18例のSIH患者群の評価 (Arch Neurol 2003;60:1713-1718)
診断時の年齢は38歳[22-55], 女性例が15例. 男性例が3例.
18例の症状頻度
症状
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頻度
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症状
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頻度
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体位性頭痛
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18/18
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顔面の痺れ
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3/18
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頸部痛/項部硬直
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10/18
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音声恐怖症
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2/18
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悪心/嘔吐
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9/18
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複視
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2/18
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聴覚障害
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7/18
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上肢感覚麻痺
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2/18
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視覚障害
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5/18
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パーキンソン
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1/18
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羞明
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4/18
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味覚障害
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1/18
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認知障害
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4/18
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初期診断
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初期診断
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片頭痛
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4/17
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緊張性頭痛
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1
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髄膜炎
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3/17
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TIA
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1
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原因不明の頭痛
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2/17
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硬膜下血腫
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1
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後頸部痛
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2/17
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精神性
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1
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SAH
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2/17
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SIHの診断
診断Criteria; (Headache 2011;51:1442-1444)
A
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起立時の頭痛
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B
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以下の1つ以上を満たす
1) 髄液初圧 ≤60mmH2O 2) 硬膜外Blood patchで改善する 3) CSFのリークが証明される 4) MRIにて典型的な像を認める(後述) |
C
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最近の硬膜穿刺の既往無し
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D
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他に考えられる疾患が無い
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腰椎穿刺; 初圧は通常<60mmH2Oとなる
CSFを採取できないこともあり, その場合はシリンジで引いたり, バルサルバ法を併用する.
CSF中のリンパ球は上昇することがあるが, 200/mLを超えない.
MRI所見; 主要所見は3つ
髄膜肥厚, 下方への陥凹, 硬膜下水腫.
SIHの大半の患者で造影効果を伴う硬膜肥厚を認める.
肥厚はびまん性に認められる.
硬膜は血管組織が豊富であり, 低髄圧では硬膜から補正するために水の動きが起る → 血流が豊富になる.
硬膜肥厚は, 他に悪性腫瘍, 炎症性, 肉芽腫性疾患で認められる.
下垂体の鬱血による腫大も合併し, 高プロラクチン血症を来すこともある.
脳の下方陥凹(Brain sagging)
SIHに特異的所見.
トルコ鞍上の脳槽の欠如, 視交叉が下垂体窩へ傾く所見, 斜台に対して橋が平坦となる所見, 小脳扁桃が下方へ陥入する所見で判断する.
Chiari I奇形と所見が類似しており, 手術される症例もあるが, 通常効果は無い.
Chiari I奇形の鑑別において, SIHや水頭症の除外は重要.
Chiari I奇形による頭痛は典型的には咳嗽時の頭痛. (Neurol Sci (2011) 32 (Suppl 3):S291–S294)
硬膜下水腫は両側性が多い. 軽度で, Mass effectは来さないことが多い.
一部で症候性の硬膜下血腫を来す症例があり, 脳外科的治療が必要となるが, SIHに合併した血腫の場合, SIHがある限り高確率で再発する.
(Nerurol Med Chir (Tokyo) 2000;40:484-488)
ガイドラインで推奨されるその他の画像診断 (脳脊髄液減少症ガイドライン2007)
RI脳槽, 脊髄液腔シンチグラム; 以下の1項目あれば診断
早期膀胱内RI集積; RI注入後3時間以内に頭蓋円蓋部までRIが認められず, 膀胱内RIが描出される.
脳脊髄液漏出像; くも膜下腔外にRIが描出される
RIクリアランスの亢進; 24時間後に30%以下である
(Spine 2012;37:E237–E242)
シンチよりCTミエログラフィーの方がより漏出部位の検出には有用
SIHの診断基準を満たす12名で, CTMとRIC(Radioisotope cisternography)を試行.RICでは, 早期膀胱造影が9/12, 脳槽の造影遅延が10/12, 造影剤の漏出所見が8/12で確認.
CTMでは12/12で漏出所見を検出可能であった.
双方とも100%で検出は可能だが, 漏出部位の検出となるとCTMの方が有用となる.
漏出部位
漏出部位は頸椎〜胸椎で最も多く, 腰椎となると少ない傾向がある.
(Spine 2012;37:E237–E242)
RIC; 25G針でLPを行い, 初圧測定後に37MBq 111-Indium diethylene-triamine-penta-acetic acidを1ml髄注.
全身のスキャンを3, 6, 24時間後に行う. 排尿は3時間は我慢.
3時間以内の膀胱内貯留がある場合, 3時間で基底槽まで, 6時間でシルビウス槽まで到達しない, 24時間以内に円蓋部まで到達しない場合は間接所見陽性.
脊柱近傍への漏出(Narrow-window)を認める場合は直接所見陽性.
CT myelography; 25G針でLPを行い, 10mlのIohexiol(240mgI/mL)を髄注する. 造影しながら体位を変換し, 頭蓋底まで造影剤が到達するようにする.
その後すぐに1mmスライスの全脊柱CTを行い, 漏出をCheck.
脊髄MRIによる評価 (Neurology® 2013;81:1789–1792)
12名の起立性頭痛 + CT myelographyにてCSF流出(+)患者において, 脊髄MRIを評価し, 感度を評価.
評価アルゴリズム
上記12名中, 11名がMRIにてリークを検出可能であった(感度91.7%)
所見
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硬膜外CSF(+), 硬膜造影(+)
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6名
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硬膜外CSF(-), 硬膜造影(+)
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0
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硬膜外CSF(+), 硬膜造影(-)
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5名
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SIHの治療
保存的加療; 約2週間の安静臥床と十分な水分摂取
1000-2000ml/dの水分摂取, 補液を行い, 経過観察.
保存的加療が第一選択となる.
Epidural Blood Patch (硬膜外自家血注入)
漏出部位が同定できる場合は, その近傍より施行する.
腰椎では20-40ml, 胸椎では15-20ml, 頸椎では10-15mlの血液量
治療後は1週間の安静が望ましい. 再治療に関しては3ヶ月以上あける.
難治性SIH 14例に対するEBPの効果 (J Headache Pain (2011) 12:453–457)
難治性: 保存的加療にて軽快しない頭痛.
頭痛の程度(VAS), 持続時間を評価.
頭痛の程度はEBPにより有意に低下するものの, 頭痛の頻度, 持続時間は有意差が無かった.
EBPは唯一の治療だが, そこまで効果は期待できるものではない…