HBV陽性患者の場合, リツキシマブ(Rituximab)やTNF-α阻害薬による免疫低下に伴いウイルス量が増加し, 劇症肝炎となるリスクがあることは有名であり, すでにガイドラインも作成されている.
しかしながらHCVについては明確な規定は無い.
2007-2009年の日本国内の劇症肝炎のSurveyにて, 原因としてHCVが占める割合は1.1% (Hepatology Research 2013;43:97-105)
RituximabによるB cell抑制でHBV, CMV, VZV, Echovirus, Parvo B19のウイルス量が増加する報告はあり, それに加えて HCVのウイルス量も増加することも判明している.
(Clinical and Developmental Immunology Volume 2012, Article ID 945950, 5 pages)
リンパ腫に対するR-CHOPによりC型肝炎が急性増悪し, 劇症化する症例報告も複数認められており, HCVもHBV同様にRituximab使用時には注意すべき感染症と言える.
R-CHOPによるHCV急性肝炎は化学療法後2-4wkで肝障害が出現する経過をとることが多い
(大崎市民病院誌 2006;10:53-55) (Journal compilation 2008;80:381–385)
R-CHOP中に徐々に肝細胞障害が進み, 最終クール終了後1-2ヶ月後に劇症化を認める例もあり, 細胞内でのウイルス量の増加を裏付ける経過. (Lancet 1996;347:92-93)
R含有化学療法中のHCV増悪を報告したStudyのまとめ
(Clinical and Developmental Immunology Volume 2012, Article ID 945950, 5 pages)
[40]のStudyでは7/8が化学療法中にHCV-RNA量が血清で1.5 log IU/mL, 末梢血単核球中で1.1 log IU/mL以上増加していた.
一方で, RNA量が減少しても急性増悪する例もある (Digestive and Liver Disease 43 (2011) 139–142)
Rituximabを含んでいない血液腫瘍のレジメでは,
HCV(+)群とHCV(-)群で肝障害の頻度は同等であった.
ただし, 中等度〜高度感障害(AST≥2.5ULN, Bil≥3.1mg/dL)は24% vs 15%, p=0.13と有意差はないもののHCV(+)群で多かった報告がある. (Cancer 1998;83:1224–30.)
報告例はほぼ全てR-CHOPによるものであり, Rituximab単剤での報告は更に少ない.
Rituximabに加えてPSLの使用がさらにリスクとなると考えられている.
報告のまとめから,
HCV(+)のリンパ腫に対する化学療法において, HCV由来の肝障害を生じる頻度は7-30%.特にステロイドの併用ではリスクが高く, 一度肝障害が出現すると死亡率は20-45%と高い.
PSL以外のリスク因子は, HBVの併存感染, RNA量の高値が挙げられる.
元々の肝障害の有無はリスクとならない.
(Journal compilation 2008;80:381–385)
HCV陽性患者 + リンパ腫への対応HCV陽性患者への化学療法 + 抗ウイルス治療の併用については未評価の状態4症例へのR-CHOP + Peg IFN 0.5-1µg/kg/wk sc, Ribavirin 1000-1200mg/dを行った報告では血液毒性が強かったため, 化学療法後 3ヶ月あけてIFN, Ribavirinを使用する方法へ変更した.
B cell lymphomaやSplenic lymphoma自体の原因としてHCVもあり, HCVの治療が抗腫瘍効果を示す報告もある. その場合はHCV治療を優先するか, R-CHOPと併用するかの選択となるが, その点もなにがBestかは今は不明.
B cellリンパ腫とHCV感染症の関連
HCV感染症がB cellリンパ腫のリスク因子となる報告が多いが, この点は未だ議論がある.
日本国内より, B cellリンパ腫, 非B cellリンパ腫とHCV感染率を評価
(Internal Medicine 2000;39:112-117)
N
|
HCV(+)
|
|
B-cell LPD
|
||
CLL
|
4
|
0%
|
MM
|
17
|
6%
|
B-cell NHL
|
100
|
17%
|
Non-B-cell LPD
|
||
ATLL
|
5
|
0
|
HD
|
8
|
0
|
Non-B-cell NHL
|
25
|
0
|
T/NK-cell NHL
|
18
|
0
|
Non-T-non-B-cell NHL
|
7
|
0
|
Total
|
38
|
0
|
Control
|
516
|
6.6%
|
B-cell NHL症例ではHCV感染率が他のリンパ腫と比較して高い.
B cell NHLにおいてHCV(+)の確率を評価したMeta-analysis
(GASTROENTEROLOGY 2003;125:1723–1732)
48 studies, N=5542例の評価では, HCV(+)患者は13%[12-14].
特にイタリアで20%, 日本で14%と多い傾向があった.
健常人の有病率と比較した10 studiesでは, B cell NHL群で17% vs 1.5%, OR 10.8[7.4-16]
他の血液腫瘍群と比較した16 studiesでは, B cell NHL群で13% vs 2.9%, OR 4.2[2.5-7] と
いずれもB cell NHLとHCV感染の関連性が示唆された.
GELA program LNH 93, LNH 98のデータにおいて, B cell NHL + HCV(+)症例を評価.
(J Clin Oncol 2006;24:953-960.)
B cell NHL 5586例中, HCV(+)症例は0.5% (26/5586).
B cell NHL + HCV感染の22例の解析では
Low-gradeが多く, また, Splenic lymphomaが4/22.
通常Splenic lymphomaは全体の1%のみであり, HCV(+)のDLBCLではリスクとなる可能性がある. (PLoS ONE 8(11): e80264.)
また, HCVの治療でSplenic lymphomaが治癒した症例報告もある.