造影剤投与3日以内に, Crが>25%上昇 or >0.5mg/dL上昇し, 他に原因が無い場合にCINと診断
腎機能正常の患者では頻度は0-10%程度
腎機能障害や, リスクがある患者では25%
糖尿病, 心不全, 高齢者, 他に腎毒性のある薬剤, 蛋白尿, 腎手術, 痛風もリスクとなり得る
造影剤腎症予測スコア
造影剤腎症は大きく, PCI等手技に伴う腎症と造影CTに伴う腎症の2つのパターンがある.
StudyはPCIに伴う腎症の予測, 予防についての方が多く, 先ずはそちらを紹介.
PCIに伴う造影剤腎症予測スコア
Mehran's score (J Am Coll Cardiol 2004;44:1393–9)
PCI施行予定の8357例を対象とし, 5571例で造影剤腎症のリスク因子を評価し, スコア作成
2786例のValidation setにてスコアとCINリスクを評価.
Mehran’s score
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Score
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sBP < 80mmHgが> 1hr持続 + IABP or 昇圧剤の使用
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5
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IABPの使用
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5
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心不全(NYHA III or IV), 肺水腫
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5
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年齢 > 75歳
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4
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Ht < 39%(男性), Ht < 36%(女性)
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3
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糖尿病(+)
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3
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造影剤の量
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100ml毎に1pt
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Cr > 1.5mg/dL
or 予測GFR < 60 (40-60, 20-39, <20) |
4
(2, 4, 6) |
Total Score
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造影剤腎症リスク
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透析リスク
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=< 5
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7.5%
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0.04%
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6-10
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14.0%
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0.12%
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11-15
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26.1%
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1.09%
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>=16
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57.3%
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12.6%
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Bartholomew’s score: (Am J Cardiol 2004;93:1515–1519)
1993-1998年にPCIを施行した患者群でリスク因子を評価し,1999-2002年にPCIを施行する群でValidation.
造影剤腎症はPCI後にCre値 ≥1.0mg/dLの上昇で定義.
Derivationでは10481例, Validationでは9998例で評価.
上記CINの定義を満たしたのは2%.
Bartholomew’s score
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CCr <60mL/min
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2
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IABP使用
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2
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緊急PCI施行
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2
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糖尿病
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1
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うっ血性心不全
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1
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高血圧
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1
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PADあり
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1
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造影剤量 >260ml
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1
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Score
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腎症
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死亡
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0-4
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0.2%
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0.2%
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5-6
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2.8%
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2%
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7-8
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10%
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9%
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9-11
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28%
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17%
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Bartholomew's scoreは造影剤腎症の定義が異なっていることに注意.
Simple CIN risk score; (Am J Cardiol 2014;113:1487-1493)
よりシンプルに, 5項目で評価したScore.
腎疾患の既往
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2 pt
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メトフォルミンの使用
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2 pt
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PCIの既往
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1 pt
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PADあり
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2 pt
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造影剤量 ≥300ml
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1 pt
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このスコアを緊急, 待機的PCI施行患者2882例で評価.
CINは15.7%で認めた.
ScoreとCIN発症率
このSimple CIN risk scoreは前述のMehran's scoreやBartholomew's scoreと比較しても遜色無い予測能を有していた.
Simple score≥3でCINリスクが20%を超える.
腹部造影CT後の造影剤腎症の予測Nomogram
こちらの方がより臨床では使用する頻度が高いであろう.
(American Journal of Emergency Medicine (2011) 29, 412–417)ERにおいて緊急造影腹部CTを撮影した750名のRetrospective study
34/750(4.5%)で造影剤腎症(+).
年齢と基礎のSCr値が有意に造影剤腎症発症に関連.
年齢1yr毎 OR1.04[1.02-1.07], Cr値1mg/dL毎 2.51[1.67-3.78]
リスクに応じたNomogramを作成.
年齢とCre値でPoint計算し, リスクを評価する.
造影剤腎症のリスク因子: その他
造影剤腎症のリスクをPropensity-matched cohortで評価 (Am J Kidney Dis. 60(4):576-582)
ACE/ARB阻害薬は造影剤腎症のリスクとなり得る.
他には貧血, 低アルブミン, 利尿薬はリスクファクター.
造影剤は5 x Wt/Cre mL以下とすべき
561名のSTEMI患者に対するPCIを解析
Maximum Contrast Doseを5 x Wt/Cr mLとしたときの造影剤腎症, 予後に関する前向きコホート (Ann Intern Med 2009;150:170-7)
20.5%が造影剤腎症を併発
MCDを超える量の造影剤を用いた患者では, 有意に腎症併発が多い
使用造影剤量/MCD とContrast Induced Nephropathyの頻度
造影剤腎症の予防 (Ann Intern Med 2008;148:284-94)
造影CT前後12hrの補液(1ml/kg/hr)は飲水よりも予防効果が大きい
造影剤腎症の予防として最も確実な方法は細胞外液によるVolume Expansionであるが, どのくらい前から, どのくらいの量投与すべきかははっきりしていない.
そこで心カテーテル患者を対象とした1つのRCTが発表された.
POSEIDON trial: 心カテーテルを予定されている成人例396例を対象としたDB-RCT.
(Lancet 2014; 383: 1814–23)
患者はeGFR ≤60mL/min per 1.73m2で, 以下の1つ以上のリスク(+)
DM, HT, CHF既往, 75歳以上.
LV end-diastolic pressureを評価しつつVol負荷を行う群と通常のVol負荷を行う群に割り付け, 造影剤腎症のリスクを比較.
補液はNSを用い, カテ前1hより3ml/kg/hを投与.
LV end-diastolic pressure群では, <13mmHgで5mL/kg/h,13-18mmHgで3mL/kg/h, ≥18mmHgで1.5mL/kg/hの速度で投与.
Control群では1.5mL/kg/hで投与.
補液はカテ後4時間まで継続.
アウトカム:
補液量はLVEDP群で有意に多い.
造影剤腎症の頻度はLVEDP 6.7% vs Control 16.3%と介入群で有意に低リスクとなる.
合併症は両者で有意差なかった.
Volume Expansionは多ければ多い程良い可能性が高い. ただしそれで心不全となっても困る.
心不全にならない程度に限界まで補液するとよりリスク軽減効果が高まるとの理解もできるか.
エコーで評価する方法が知りたいところ.
Nアセチルシステイン(NAC)による予防
Meta-analysisでは, High-dose NACは造影剤腎症予防効果があるとの結果
High-dose; 1200mg/24hr or 造影前<4hrに600mg投与. 投与経路は経口, 経静脈投与.
16 trials, N=1677のMeta-analysis (Am J of Med 2009;122:874.e9-e15)
High-dose NACの造影剤腎症予防効果は RR 0.46[0.33-0.63]
Funnel plotにてPublication biasも指摘されず.
このへんのNACのstudyも殆どがPCI時における予防のStudyであり, 造影CT時の予防については少ない.
造影CTにおけるNACの腎症予防効果を評価したDB-RCT. (Ann Emerg Med. 2013;62:511-520.)
胸部, 腹部, 骨盤部造影CTを予定している患者群をNAC群 vs. NS群に割り付け, フォロー NAC群では3g/NS500mlを30分でBolusし, CTを撮影. その後200mg/h(3g/NS1000mlで67ml/h)で2~24h継続.
NS群では同量のNSを投与.
StudyはN=399の時点で終了.
両群で造影剤腎症の頻度, Cre値変動に有意差無し.
Bicarbonateによる予防
3ml/kg/hrを造影前, 1ml/kg/hrを造影後に6hr
生食負荷と比較し, 腎障害予防効果は有意差無し (CCr 25%減少がOutcome, RR 0.94[0.55-1.60])
(JAMA 2008;300:1038-46)
Bicarbonate + 生理食塩水 vs 生理食塩水のみで比較
Cr >=1.5の患者で待機的冠動脈造影を行う265名を対象
8.4% Bicarbonate 75ml + NS 1L vs NSを, 造影前1hrより3mL/kg/hrで開始, 造影後は1mL/kg/hr 6hr投与
造影剤腎症発症率は 7.4% vs 5.9%, OR 1.36[0.45-3.50]
(Am J Kidney Dis 2009;54:610-8)
冠動脈造影直前のBicarbonate 1回投与は腎症を予防する
軽度腎障害(Cr 1.1-2.0)のある待機的冠動脈造影患者144名
造影剤投与5分前のBicarbonate 20mEq bolus vs 通常の輸液負荷(0.5-1mL/kg/hr 12hr前~12hr後)で比較 (RCT, Single-blind, 大分のStudy)
造影剤腎症発症率は1.4% vs 12.5%(p=0.017)
心不全などの合併症は有意差無し. (Am J Cardiol 2009;104:921-5)
BicarbonateのMeta-analysis (Ann Intern Med 2009;151:631-8)
23 RCT, N=3563, 内造影剤腎症は396名(11.1%)
Bicarbonateの造影剤腎症RR 0.62[0.45-0.86]と, 予防効果あり
N, Jaded Scoreが多いものでは有意差無く, 結論は出せないが, 行ってもよいかもしれない予防法と考えられる.
造影しながらの透析は無意味
造影剤腎症予防目的の透析療法を評価したRCTのMeta.
(The American Journal of Medicine (2012) 125, 66-78)
9 RCTsと2 non-RCTs, N=1010. (8 trialsがHD, 3 trialsがHDF, HF)
透析は殆どのStudyで造影直後〜2時間後までに開始.
造影前から開始が1 trial, 造影中に開始するのが2 trials.
透析療法群の造影剤腎症合併率は23.3%,
通常の内科的予防群では21.2%, RR 1.02[0.54-1.93].
HDのみに限定すると, 造影剤腎症リスクはRR 1.61[1.13-2.28]と,むしろ造影剤腎症が増加する.
基本的に造影剤腎症は透析してもダメ.
造影剤腎症, その他の予防 (Ann Intern Med 2008;148:284-94)
他の薬剤はイマイチ
テオフィリン: RR0.49[0.23-1.06]*
ドパミン, スタチン, マンニトール, Fenoldopam(ドーパミンα1 agonist), iloprost(prostaglandin製剤) は有意差なし
フロセミドは増悪因子: RR3.27[1.48-7.26]
造影剤は低浸透圧性が最も侵襲が大きい
等浸透圧, 高浸透圧と比較し, OR 0.50[0.36-0.68]
造影剤の量が5ml x Wt(kg) /Crを超える場合もHigh Riskとなる
*テオフィリンは16 RCTsのMeta-analysisがあり(Am J Kidney Dis. 60(3):360-370.)
全体では造影剤腎症のリスクを軽減させる RR 0.48[0.26-0.89]
ただし, Jadad score>3のStudyでは有意差認めず. RR 1.39[0.71-2.73]