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2014年4月6日日曜日

上肢のDVT

上肢のDVTについて
Circulation 2002;106:1874-80 J Thorac Imaging 2010;25:W1-3 N Engl J Med 2011;364:861-9. J Am Board Fam Pract 2005;18:314-9


主に腋窩静脈, 鎖骨下静脈の血栓症のことを意味する.
 全DVTの2-4%と低頻度. 
 CVカテ, PM留置が増加するに伴い, 上肢DVTの頻度も上昇傾向.
 発症率は0.4-1/10000人口

CVカテーテルに伴う2次性, 運動, 姿勢に伴う内皮傷害から生じる1次性(Paget-Schroetter syndrome)がある

 上肢の疼痛, 浮腫, SVC症候群を来すが, 下肢DVTよりは低頻度. 肺塞栓も6%のみ(下肢では15-32%)
 Post-thrombotic syndromeも上肢DVTでは5%, 下肢では56%.
 再発率は2-5%@12moであり, 下肢よりも低頻度(10%)

Primary UEDVT; Paget-Schroetter syndrome, Idiopathic UEDVT
 上肢DVTの20%がPrimary. 胸郭出口症候群, 特発性, 運動性がある.
 頻度は2/100000/yrと稀な疾患.
 血管内皮障害によるPaget-Schroetter syndrome, 全く原因がないIdiopathic UEDVTの2つに分類される.

Idiopathic UEDVT; Upper Extremity DVT
 明らかな原因を認めないが, 血栓を生じる病態.
 1/4に悪性腫瘍(肺癌, Lymphomaが主)を1yr以内に認める.
 また, 先天性の凝固異常症の関与もあるため, 家族歴(DVT, 流産), DVTの既往の情報は重要.(下肢DVTと同様)

Paget-Schroetter syndromeは基礎疾患のない健常人に生じる上肢DVTであり, 通常利き腕側, スポーツに伴うことが多い. 血管内皮に微小な損傷を生じ, 凝固系の活性化を誘導する.
 Primary UEDVTの72%を占める.
 バレーボール, 野球, 重量挙げ,ボート, テニスなどでの発症報告例がある. 
 上腕二頭筋短頭, 鳥口腕筋の発達が原因のことも.
 肩関節の過外転, 過進展, 外旋が発症に関与している.
 繰り返す損傷でより大規模な血栓を生じることもある. また, Mechanical compressionにより生じることも.(胸郭出口症候群)


Secondary UEDVT
 CVカテーテル, Pace Maker, 悪性腫瘍に由来する血栓症
 上肢DVTの80%がSecondary.
 カテーテルなどの物理的な要因, 悪性腫瘍の合併, 外科手術後, 外傷後, 妊娠, 経口避妊薬が原因.
 この場合の悪性腫瘍は圧迫が関連.
 カテーテルでは, 挿入時, 薬剤投与時の血管内皮障害, カテーテル自体による血流障害が主な原因. 従って, カテ先は必ず右房との境界まで挿入する. 当然, 留置ミスでRisk増大するため, 注意.

UEDVTの所見, 症状
 無症候性のこともあるが,  一般的な症状は肩, 頸部の違和感, 上肢浮腫.
 SVC血栓を生じた場合はSVC症候群を来す; 上肢, 顔面浮腫, Bluured vision, head fullness, めまい, 呼吸苦など
 胸郭出口症候群(thoracic outlet obstruction)を合併してる例では, 腕神経叢の損傷により, 上腕内側, 前腕〜第4-5指の疼痛を認める.
 症状は姿勢に依存し, 肩の過外転, 挙上で増悪する.
 胸郭出口症候群を疑った場合は, 鎖骨上窩から腕神経叢の触診, 手, 上肢の筋萎縮の有無, 誘発テスト(Adson’s, Wright’s maneuver)を.

UEDVT患者512名の原因と死亡率, 症候性PE合併率. (Chest 2008;133:143-8)

カテーテル
悪性腫瘍
N
20.3%
18.0%
24.2%
37.5%
症候性PE
7.7%
13%
8.9%
7.8%
3mo死亡率
16%
28%
4.8%
2.6%

下肢DVTとの比較

 324名(6%)のCVC由来UEDVT, 268名(5%)のUEDVT, 4796名(89%)の下肢DVT患者を比較.
 (Circulation 2004;110:1605-11)
 下肢DVTと比較して, 若年, BMI低値. 喫煙率は高い傾向.
 顕性のPE合併率は下肢と比較して低い.

特徴
CVC-UEDVT
UEDVT
P
LEDVT
P
年齢
57.2(16.3)yr
59.2(18.2)yr
0.20
64.2(16.9)
<0.0001
BMI
26.3(6.5)
26.8(7.1)
0.49
28.5(7.3)
<0.001
喫煙率
17%
19%
0.53
13%
0.02
無症候性
5%
6%

6%

患側の腫脹
82%
79%
0.35
69%
0.001
不快感
37%
46%
0.02
55%
<0.01
発赤
13%
15%

12%

呼吸苦
6%
11%
0.02
20%
<0.001
胸痛
3%
3%
0.94
8%
<0.01
咳嗽
1%
3%
0.22
4%
0.19
失神
1%
1%

2%

その他
10%
11%

8%

PE
3%
2%
0.35
16%
<0.0001

RIETE; 症候性DVT11564名中, 512名(4.4%)がUEDVT. (Chest 2008;133:143-8)
 UEDVT中, 38%が悪性腫瘍(+), CVC関連が45%.
 UEDVT vs LEDVT;
Variables
UEDVT
LEDVT
OR
男性
59%
52%
1.35[1.13-1.62]
年齢
54(19)yr
66(17)yr
P<0.001
体重
71(14)kg
74(14)kg
P<0.001
4d以上のImmobility
14%
25%
0.47[0.36-0.60]
2mo以内の手術
14%
12%
1.14[0.88-1.47]
VTE既往
7.0%
17%
0.36[0.26-0.51]
悪性腫瘍
38%
20%
2.46[2.04-2.95]
Left side
45%
53%
0.72[0.60-0.85]
両側性
3.9%
4.8%
0.81[0.49-1.24]
症候性PE合併
9.0%
29%
0.24[0.18-0.33]
3mo死亡率
11%
7.0%
1.58[1.18-2.11]
下肢DVTは女性, 高齢者, 肥満患者で多い. 
症候性PEは下肢DVTの方が多いが,  3mo死亡率は上肢DVTの方が高い.

下肢DVTと異なり, 上肢DVTでは凝固異常症が基礎疾患にあることは少ない.
36名のPrimary UEDVT, 121名のPrimary LEDVT, 108名のControl. (Ann Intern Med 1997;126:707-11)

UEDVT
LEDVT
Control
U vs L
U vs C
L vs C
Protein C抵抗性
8%
18%
3%
0.1[0.06-0.6]
2.6[0.4-17.1]
13.3[3.0-58.9]
AT III欠損
0
3%
0
Pro C欠損
0
4%
1%
Pro S欠損
0
2%
2%
抗リン脂質抗体
0
7%
0
NA
NA
NA
Hyperhomocysteinemia
6%
14%
7%
0.6[0.1-3.1]
0.8[0.1-7.9]
2.5[0.8-7.8]
Total
15%
42%
12%
0.1[0.08-0.5]
1.6[0.4-7.3]
14.7[5.3-40.8]

上肢 vs 下肢DVTの死亡率,  VTE再発率, PE合併率の比較
(The American Journal of Medicine (2011) 124, 402-407)

再発率は上肢DVTの方が高いが, PE合併率は下肢DVTの方が高い.
死亡率は上肢DVTの方が若干高い.

UEDVTの診断 
Prediction Rule (The American Journal of Medicine (2011) 124, 402-407)

V, 鎖骨下V内のdevide(CVC, PM)
1pt
局所の疼痛
1pt
片側のPitting edema
1pt
他に疑わしい診断あり
-1pt

pt
検査前確率
-1~0pt
9-13%
2~3pt
64-70%
Doppler US; 小規模のStudyのみであり, 感度は56-100%, 特異度77-100%と様々. (Arch Intern Med 2002;162:401-4)

Compression USでは感度97%[90-100], 特異度96%[87-100]

造影CT; SVCの評価も可能.
MR Angio; Venographyとの相関性は高く,SVCも評価可能.

Prediction ruleとD-dimer, Compression USを用いた診断アルゴリズム (Ann Intern Med. 2014;160:451-457.)
Ruleで≤1pt, D-dimer正常 → 除外
Rule >1ptならば エコー陰性, D-dimer正常 → 除外

このアルゴリズムでは3ヶ月フォローにおけるDVT見逃し例は1例のみ(0.4%[0.0-2.2])

UEDVTの治療 (Circulation 2002;106:1874-80)
通常のDVTと同様, UFH, LMWH, Warfarinによる抗凝固療法.
 下肢DVT治療と同様, LMWHが出血リスクが少なく, 第一選択.
 再発率は1.9%, 出血リスクは2-4%.
 Warfarinは最低3-6moは継続する必要あり. 
 他には, SVC filter, 血栓吸引療法, 血管形成術, ステント留置など.
 胸郭出口症候群があれば, 外科手術の適応にもなる.

カテーテル由来のDVTの対応
 ルーチンなカテーテル抜去は推奨されない.
 必要があってカテ留置されている為, Risk-benefitを考慮すべし.
 カテーテルの必要がない場合, 感染, カテ不全合併している場合, 抗凝固療法でもうまく行かない場合は抜去を考慮する.
 74名のカテ由来上肢DVT患者(担癌患者)をカテ抜去無しで治療.
 治療はDalteparin 200U/kg/d 5-7d, その後Warfarin INR2-3. 
  >> 3ヶ月後の評価では, 57%がカテ機能残存.  43%がカテ機能不全にてカテ抜去.
 血栓症が増悪した例は0例. 再発も0例.
(J Thromb Haemost 2007; 5: 1650–3.)

血栓溶解療法は, 若年で出血リスクが少ない場合に考慮
 早期の治療は内皮傷害を軽度にし, 後遺症も軽減できる可能性あり.
 薬剤が局所に効く様, カテーテルを血栓手前に留置し, 側副血行路ができる前(発症〜数wk以内)に行うことが推奨される.
 適応は若年者のUEDVT, SVC症候群合併例, CVカテーテルを抜去できない症例.

静脈の圧迫がある場合は外科治療にて再発予防を試みる.
 血栓溶解後に姿勢を変えながらUSで静脈圧迫評価を行うのは大事.
 圧迫がある場合で, 内科的治療で上手く行かない場合は解除術が推奨される. 通常, 第一肋骨, 鎖骨の部分切除となる.
 外科的血栓除去術は侵襲的であり, 気胸や腕神経叢損傷のRiskもあり, 通常推奨されない. 難治性の場合に考慮されるべき.

SVC filterは抗凝固療法ができない場合, PE合併例で行う
 SVC filterの利点, 合併症に関しては未だ評価不十分.
 filterのズレ, SVC症候群の合併の可能性もあり. 
 またUEDVTによる致死的PEは稀.

UEDVTの再発 
初発のUEDVT患者224名を平均3yrフォロー (Circulation 2008;118:1366-72)
 男性47%, 平均年齢は46yr[21-67]
 悪性腫瘍(+)は70名(31%)
 再発率は13.4%, 43.2/1000/yr[27.8-58.7], 再発のRisk Factors;
Risk Factors
HR
Risk Factors
HR
女性
1.8[0.9-3.9]
鎖骨下静脈血栓 以外
2.0[0.8-2.7]
年齢>50yr
0.6[0.3-1.3]
鎖骨下静脈以外の1箇所
2.7[0.8-8.7]
悪性腫瘍
1.1[0.5-2.4]
多発血栓
0.9[0.4-2.2]
CVC
0.2[0.1-1.0]
BMI 25-29
1.6[0.7-3.8]
外科手術あり
1.1[0.4-3.2]
BMI >=30
2.7[1.0-7.3]
Idiopathic
1.2[0.5-2.7]
経口避妊薬
0.8[0.3-2.1]


FVL or prothrombin(+)
0.7[0.2-2.2]
 CVCによる血栓症では再発Riskは低く, 肥満患者では再発Riskが高い. 悪性腫瘍, 凝固異常は有意差無し

別のStudy(512名のUEDVT)では, (Chest 2008;133:143-8)
 悪性腫瘍は再発のOR 3.0[1.4-6.4], 症候性PEは再発のOR 2.8[1.1-7.2] とRiskとなり得る

UEDVTの合併症
UEDVTの約1/3でPEを合併
 UEDVTによるPEは稀ながら, 再発性, 致死的のこともある.
 カテーテルによるUEDVTの場合, カテ抜去により,  周辺のFibrin血栓が生じ, PEとなる可能性も示唆されている.
 Post-thrombotic syndromeはUEDVTでもあり. ストッキングが有用かも(下肢DVTではEvidenceあり)