(Medicine 2012;91: 131-136) (Allergy 2007;62:1349-58)
〜まずは一般的知識から〜
FMFは周期性発熱疾患の1つMEFV gene @16pの異常が原因で, 小児, 成人の不定期の発熱で発症.
MEFV遺伝子の異常によりIL-1βを誘導し, 漿膜炎を来す.
50%が4yrまでに発症, 80%が10yrまでに発症する
好発人種はnon-Ashkenazi*, ユダヤ人, トルコ人, アルメニア人, アラブ人.
特にトルコ人で最も有病率が高く, 400-1000人に1名の割合.
* Ashkenazi 北欧, ドイツ在住のユダヤ人のこと.
腹痛が初発症状であることが多い. その後40度台の発熱を生じる.
再発性の発熱, 漿膜炎.
症状は1-3日間持続し, 寛解期は不定. 1wk-4moで再発.
FMFで問題となるのはAA amyloidosis.
末期腎不全のリスクとなる.
コルヒチンによる治療が確立される前までは, 大半の患者は<40yrでAA amyloidosisを発症し, 50yr以上まで生存する例は稀であったが, コルヒチンにより予後は改善.
トルコの大学病院において1992年〜2009年に診断されたFMF 650例のフォロー.(女性51%, 年齢38.6±12.6yr) (Medicine 2012;91: 131-136)
その内587名(90.3%)で評価.
症状は発熱と腹膜炎が殆ど.
女性例では関節炎を呈する例が男性よりも多い(52.3% vs 43.3%, p=0.034)
コルヒチンにより治療されたのは94.2%で, 平均Doseは1.5mg/d[0-3]
症状はほぼ全例で発熱と腹膜炎.
胸膜炎は7割, 関節炎は4-5割, 丹毒様皮疹が2-3割.
このFMF 587例のうち, 遺伝子検査されたのは436名.
M694V
|
43.9%
|
M680I
|
16.2%
|
V726A
|
9.9%
|
Exon10の変異が典型的(M694I, M680I, M694V)
CRP 0.98mg/dL[0-14.9]と軽度のことが多い.
生検にてアミロイドーシスを認めたのは37例(6.3%)
3名が無症候性タンパク尿, 12名がネフローゼ症候群, 22名が腎不全を発症. 17/22が透析.
6年間[2-10]のフォローにて, 14/587(2.4%)が死亡
死因はアミロイドーシス, 腎疾患, 加齢, 冠動脈疾患, 高血圧.
アミロイドーシスは死亡HR 17.5[3.8-81.4]と死亡に関連する.
FMFの診断Criteria; (Jpn J Clin Immunol 2011;34:355-360)
Tel-Hashomer criteria
Major 1項目またはMinor 2項目以上で診断
Major
|
Minor
|
典型的発作* + 以下を満たす
|
不完全な発作** + 以下を満たす
|
1 非限局性の腹膜炎
|
1 胸膜炎, または心膜炎
|
2 胸膜炎(片側性) または心膜炎
|
2 単関節炎
|
3 単関節炎(股関節, 膝関節, 足関節)
|
3 労作後の下肢痛
|
4 発熱のみ
|
4 コルヒチンの良好な反応性
|
**非典型的; 発熱が38度未満, 発作期間が6h-1wk, 腹痛発作の間に腹膜炎所見がないか, 限局性の腹膜炎. 上記の関節以外に関節炎を認める.
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と, ここまでが一般的な家族性地中海熱の総論.
ここで日本国内の地中海熱の特徴, 症状頻度をみてみる.
日本国内の292例の報告
(Jpn J Clin Immunol 2011;34:355-360)
性別, 発症年齢
発症年齢
|
男性(59)
|
女性(75)
|
Total(134)
|
0-9y
|
9
|
25
|
25.4%
|
10-19y
|
22
|
28
|
37.3%
|
20-29y
|
14
|
9
|
17.2%
|
30-39y
|
6
|
3
|
6.7%
|
40-49y
|
3
|
6
|
6.7%
|
≥50y
|
5
|
3
|
6.0%
|
発症年齢
|
22.5±14.4
|
17.2±15.7
|
19.6±15.3
|
診断時年齢
|
30.8±18.7
|
27.0±18.3
|
28.7±18.5
|
トルコでは小児での発症が一般的であるが, 日本国内での発症例は20歳以降が4割近くを占める.
成人発症例が多い特徴がある
国別の症状頻度
日本
|
トルコ
|
イスラエル
|
アラブ
|
|
発熱
|
95.5%
|
92%
|
100%
|
100%
|
腹痛
|
62.7%
|
93%
|
95%
|
94%
|
胸痛
|
35.8%
|
31%
|
43%
|
32%
|
関節痛
|
31.3%
|
47%
|
75%
|
33%
|
皮疹(丹毒様紅斑)
|
7.5%
|
21%
|
4%
|
3%
|
アミロイドーシス
|
3.7%
|
13%
|
27%
|
3%
|
日本でのFMFは腹痛の頻度, アミロイドーシスの頻度が低い.
典型的な "腹痛と発熱" というプレゼンは6割程度.
日本国内の126例のMEFV遺伝子変異型
Mutation
|
|||
M694I/M694I
|
6.3%
|
E148Q/R202Q
|
1.6%
|
M694I/normal
|
12.7%
|
E148Q/G304R
|
0.8%
|
M694I/E148Q
|
19.8%
|
E148Q/S503C
|
0.8%
|
M694I/L110P
|
1.6%
|
E148Q/L110P/R202Q
|
0.8%
|
M694I/E148Q/L110P
|
11.1%
|
E148Q/R369S/R408Q
|
4.0%
|
M694I/E148Q/E148Q/L110P/L110P
|
0.8%
|
E148Q/R202Q/R369S/R408Q
|
0.8%
|
M680I/E148Q/L110P
|
0.8%
|
E148Q/G304R/R369S/R408Q
|
0.8%
|
E148Q/E148Q
|
0.8%
|
R202Q/normal
|
0.8%
|
E148Q/E148Q/L110P
|
1.6%
|
S503C/normal
|
0.8%
|
E148Q/E148Q/P369S/R408Q
|
1.6%
|
E84K/normal
|
2.4%
|
E148Q/normal
|
6.3%
|
P369S/R408Q
|
4.0%
|
E148Q/L110P
|
5.6%
|
(-)
|
13.5%
|
トルコでの587例の解析では, 遺伝子異常はM694V, M680I, V726Aの3種類である一方,
日本国内では様々な遺伝子変異型が報告されている.
トルコで多いExon10の変異(M694I, M680I, M694V)を認めるのが67例,
それ以外の変異が59例と国内では約半数がExon10以外の変異.
このExon10変異(+)群 vs (-)群を比較すると,
exon10
変異あり(67) |
exon10
変異無し(59) |
|
腹痛
|
74.6%
|
49.2%
|
胸痛
|
59.7%
|
13.6%
|
関節痛
|
22.4%
|
44.1%
|
筋痛
|
10.4%
|
13.6%
|
アミロイドーシス
|
4.5%
|
3.4%
|
発症年齢
|
17.9±11.6y
|
20.6±18.3
|
男/女
|
34/33
|
19/40
|
家族歴
|
35.8%
|
13.6%
|
漿膜炎の頻度, 関節炎の頻度が大きく異なる.
Exon10の変異(完全型FMF)では腹痛頻度が高く, それ以外(不完全型FMF)では腹痛よりも関節炎頻度が高い.
FMF variant(不完全型FMF)
症状が非典型的なFMFで, 発熱期間が4日以上であったり, 発熱が<38度であったり, 漿膜炎発作が典型的ではなく, 関節症状, 筋症状が強かったりする.
日本人のFMF 311例をTel Hashomer criteriaで典型的, 非典型的FMFに分類し, 双方を比較.
典型例は178例, 非典型例は133例であった.
典型例と非典型例の比較.
非典型例の方がより発熱期間が長い
胸痛や腹痛は典型例で多く, 皮疹や関節痛は非典型例でより多い.
胸痛や腹痛は典型例で多く, 皮疹や関節痛は非典型例でより多い.
典型例ではExon 10変異が62.4%, 非典型例では11.3%のみ.
非典型的なFMF (FMF variant)を疑った場合, 遺伝子検査が有用
MEFV遺伝子検査を行い, Exon 10の変異があればFMFと診断.
Exon 10以外の変異があれば, 不全型FMFの可能性あり.
exon1(E84K), exon2(E148Q, L110-E148Q, R202Q, G304R), exon3(P369S-R408Q), exon5(S503C)の変異を伴っていることがある.
FMF同様にコルヒチンへの反応は良好であり, 不全型FMF, 疑い例ならばコルヒチンへの反応性を評価し, 反応あれば不全型FMFと診断する形となる.
これらをふまえて,
日本国内で提唱されたCriteria
必須項目 + 補助項目 1項目以上を満たし, 他疾患が除外される場合に診断
必須項目
|
補助項目
|
12h-3d続く38度の発熱を3回以上繰り返す
|
1 発熱時の随伴症状として
非限局性の腹膜炎による腹痛 胸膜炎による胸背部痛 関節炎(股関節, 膝関節, 足関節) 心膜炎 精巣漿膜炎 髄膜炎による頭痛 |
2 発熱時にCRPや血清アミロイドAなど
炎症検査の上昇を認め, 間欠期には消失 | |
3 コルヒチンによる発作が消失, 軽減
|
(家族性地中海熱診療ガイドライン2011)
FMFの治療
コルヒチンが1st choice.
小児例ならば0.01-0.02mg/kg/dを分2-1で開始. 0.03mg/kg/dまで増量可
成人例ならば0.5mg/dを分2-1で開始. 1.5mg/dまで増量.
コルヒチンが不応例が10%程度あり, その場合はIL-1 R拮抗薬(アナキンラ), TNF-α阻害薬(インフリキシマブ, エナネルセプト) サリドマイド が効果的との報告があり, 試される.
Rilonacept (IL-1 R拮抗薬) はコルヒチン不応性, もしくは副作用で使用できないFMF症例において, 発作頻度の減少効果が示唆されている(N=14のSmall study) (Ann Intern Med. 2012;157:533-541.)
個人的にはFMFは2例経験があります。
双方とも成人発症の長い経過の後に診断。特にアミロイドーシス合併は無し。
発熱エピソードから、徐々に腹痛や胸痛、関節痛などが加わる経過でした。
トルコ近辺で言われているFMFと経過も症状も異なる事が多い日本国内のFMF。
これはもう家族性日本発熱(FJF)とか家族性アジア発熱(FAF)とか言ってはダメでしょうか?(笑)