振戦とは
リズミカルな振動性の不随意運動. 対立する筋群が交互に収縮する.
>40yrの5%で振戦を認めるとの報告もあり, Commonな症状.
原因は大きく, 神経性と非神経性に分類されるが, 数多くの原因疾患があり, 系統的な考え方が大事.
振戦の頻度[イタリア北部 706名(50-89Y)の解析]
14.5%で振戦(+)
生理的振戦 9.5% 本態性振戦 3.0%
Parkinsonian 2.8% 小脳性振戦 0.2%
生理的振戦と診断された患者の内
38%が振戦を来す薬剤を内服 13%が甲状腺疾患(+)
11%が重度の全身性疾患(+) 10%が末梢神経障害(+)
(CMAJ 2011;183:1507-10)(Lancet Neurol 2005;4:815-20)
振戦へのアプローチ(CMAJ 2011;183:1507-10)
Step 1; 本当に振戦なのか?
振戦様の行動を来す他の病態として, 悪寒戦慄, ミオクローヌス, てんかん部分発作, クローヌスがある.
ミオクローヌスはnonrhythmicalで衝動的な運動. てんかん部分発作はrhythmicalだが, 姿勢, 運動で変化しない.
クローヌスは急な筋肉の受動的収縮により反復性の筋収縮を認める反応であり, 筋を進展させると振幅や強度が増加する点が振戦とは異なる.
DystoniaやChoreaも不随意運動として有名だが, Rhythmicalではなく, 振戦と間違うことはあまりない.
Step 2; 振戦の特徴は?
分布, 振幅, 周波
静止時に出現するか
運動が振戦にどう影響するか
注意をそらした時の振戦の変化
振戦を誘発する因子の評価
Entrainmentの有無
振戦をしていない四肢で運動をしてもらい, 振戦がある部位を注意深く観察する.
(手を握る, 開くや前腕の回内, 回外の反復, 足で床をタップするなど)
軽微な振戦はこれでより観察しやすくなる.
この運動で振戦が消失した場合, 意図的に運動している四肢に同期して運動し始める(つられる)場合は精神的な振戦を考える.
振戦の分類
振戦
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静止時振戦
(resting tremor) |
静止時に振戦を認め, 運動により増強されない振戦.
観察時は完全に脱力する必要があり, 椅子の肘掛けなどに 腕を保持してもらうとより観察しやすくなる. |
運動時振戦
(action tremor) |
運動により増強する振戦. 運動テストとして, spiral test, 点と点を直線で結ぶ行為, コップから他のコップに水を注ぐなどで重症度が判定可能. 運動時振戦はさらにpostural(姿勢時), Kinetic(動的)に分類される
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姿勢時振戦
(postural tremor) |
重力に拮抗した状態で姿勢をとることで出現する振戦.
手を前に伸ばし, 10-15秒維持 もしくは水の入ったコップを持ってもらうことでより増強する. |
動的振戦
(Kinetic tremor) |
能動的運動で出現する振戦の総称.
指鼻試験, 踵膝試験で出現する. またKinetic tremorは以下に分類される |
a) Simple KT
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全ての能動的運動で出現する
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b) Intention tremor
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目標に向う行動で出現. 特に目標に近づくほど増強.
(指で目標物を触る, 取るなど) |
c) Task-specific
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特異的な運動により誘発, 増強する振戦.
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d) Isometric
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固い固定された物体に対する筋肉の収縮
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振戦
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周波数
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振幅
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関連疾患
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静止時振戦
(resting tremor) |
Low-medium(3-6)
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大きい
(目標に近づくと減弱) |
パーキンソン病, 症候群,
薬剤性, 中脳病変 |
運動時振戦
(action tremor) |
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姿勢時振戦
(postural tremor) |
Medium-high(4-12)
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小さい
(運動で増幅) |
生理的, 本態性振戦,
甲状腺機能亢進, 低血糖 クッシング病, アルコール離脱, 神経症, 薬剤 |
動的振戦
(Kinetic tremor) |
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a) Simple KT
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様々(3-10)
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目標に近づいても変化無し
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本態性振戦, Dystonic tremor,
生理的振戦 |
b) Intention tremor
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Low(<5)
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目標に近づくと増幅
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小脳病変, 薬剤, アル中
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c) Task-specific
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様々(4-10)
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様々
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Dystonic tremor
(Primary writing tremor, Musician’s tremor) |
d) Isometric
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Medium
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様々
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本態性振戦, 生理的, Dystonic tremor,
パーキンソン病 |
(Australian Family Physician 2009;38:678-683)
特殊な振戦
Holmes tremor, palatal tremor, orthostatic tremor, dystonic tremor
* Holmes tremor; 安静時のPD-likeな振戦 + intention tremor. 中脳病変により生じる.
振幅, 周波からの鑑別
周波から鑑別するのは難しく, 速い, 遅いの判断も人それぞれ.
鑑別すると, 以下の様にはなる.
Very slow
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Holmes tremor
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Slow
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パーキンソン病
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Moderate(4-12Hz)
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本態性振戦
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Fast
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生理的振戦
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Very fast
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Orthostatic tremor
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Variable
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精神性振戦
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振幅もそれで鑑別するのは難しい. Orthostatic tremor, 生理的振戦は振幅は小さい.
本態性振戦は中等度.
Holmes tremor, パーキンソンは大きめの振戦.
背景からの鑑別
発症年齢から; 本態性振戦は10台前半, 成人期紅斑の2峰性のピーク.
Wilson病や先天性小脳奇形による振戦は小児期, パーキンソン病やOrthostatic tremorは高齢者で発症する.
発症様式; 急性発症はStrokeやMS, 小脳炎を疑う.
小脳腫瘍や傍腫瘍症候群では亜急性の経過.
パーキンソン病や本態性振戦は緩徐進行性(10年単位)
(薬剤性は急性, 慢性様々で考えるべき)
左右対称性; 本態性振戦, 薬剤性, 生理的振戦は左右対称.
パーキンソン病は左右非対称が特徴.
小脳腫瘍, 梗塞による振戦は部位により異なる.
家族歴; 本態性振戦は常染色体優勢遺伝だが, 家族歴は診断に必須ではない
薬剤歴, アルコール歴, 甲状腺疾患, 褐色細胞腫などの可能性.
他の錐体外路症状, 小脳症状の評価なども重要.
薬剤性の振戦
振戦の原因となる薬剤, 増強させる薬剤
Adrenergic Activity ↑・アンフェタミン ・SSRI
・カフェイン ・気管支拡張薬
・エピネフリン ・テオフィリン
・Isoproterenol ・TCA
・Levodopa ・Nicotine
その他, 毒素, 薬物
・ヒ素 ・リチウム ・臭化物 ・水銀
・ステロイド・抗うつ薬 ・鉛 ・バルプロ酸Na
その他 Adrenergic Activity ↑
・アルコール離脱 ・低血糖 ・不安 ・興奮
・筋肉疲労 ・麻薬離脱 ・発熱 ・戦闘
・褐色細胞腫 ・Thyrotoxicosis
様々な薬剤で生じる. またtypeも様々.
プリンペランでは安静時振戦. 小脳失調typeはアルコールとリチウム.
交感神経亢進作用があるものではPostural tremor.
(Australian Family Physician 2009;38:678-683)