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2014年3月17日月曜日

甲状腺クリーゼ

甲状腺クリーゼ
(Endocrinol Metab Clin N Am 2006;35:663-86)

甲状腺機能亢進症に伴う多臓器不全
 日本では毎年200例程度の報告例. 0.2/10万人-yrの頻度.
 甲状腺中毒症患者のうち0.22%を占める.
 男女比は1:3程度(Graves病は1:4-7)
 発症年齢 7-88歳, 
 基礎疾患の97%はバセドウ病による.
 甲状腺中毒症発症から1年以内の発症が45%.
 20%はクリーゼが初発症状
 致死率10-20%. 死因は心不全, 不整脈, ショック, 多臓器不全

背景の甲状腺疾患
 バセドウ病が最多 (97%)
 機能性結節(プランマー病, 腺腫様甲状腺腫)
 慢性甲状腺炎
 機能性甲状腺癌
 TSH分泌性下垂体腺腫
 卵巣甲状腺腫, 奇形腫, hCG分泌胞状奇胎
 IFN-α, IL-2療法, アミオダロン

クリーゼ発症の誘因
 薬剤治療のコンプライアンス不良が34%を占める.
 感染症が24%
 DKA, 外傷, ストレスが各3%.
 その他 33%

その他には,
 妊娠, 分娩, 副腎機能不全, 
 ACS, PE, Stroke, 
 情動ストレス, 激しい運動, 抜歯, 
 多臓器手術, 
 ヨードの過剰摂取, 
 甲状腺の過度の触診, 細胞診, 
 ヨード造影剤, 
 アミオダロン, サリチル酸(タンパク結合性高いため, Free T3,T4が増加する), 
 甲状腺ホルモン大量摂取

甲状腺クリーゼの診断基準
Burch Wartofsky



体温調節
 37.2-37.7
 37.8-38.2
 38.3-38.8
 38.9-39.4
 39.4-39.9
 >40.0
 

10
15
20
25
30
頻脈
 HR 90-119
 HR 110-119
 HR 120-129
 HR 130-139
 HR ≥140
 心房細動
 

10
15
20
25
10
中枢神経
 興奮
 せん妄, 精神病, 嗜眠
 痙攣, 昏睡
 
10
20
30
心不全
 足の浮腫
 両肺底部肺副雑音
 肺水腫
 

10
15
消化器
 なし
 下痢, 悪心嘔吐, 腹痛
 原因不明の黄疸
 

10
20
誘発因子
 無し
 あり
 

10

≥45 クリーゼ
25-44 クリーゼ切迫状態
<25 クリーゼ否定的

この診断基準の問題点は
 TFT検査が必須ではない
 Evidenceが不十分
 メンドクサイ
 予後との相関性が不明

そこで国内での診断基準を作成
2008年1月に日本甲状腺学会と内分泌学会によって診断基準を作成.
作成にあたり, 既報告例と自験例を解析した. (日本医事新報 2009;4448:49)

体温
体温
クリーゼ(89)
非クリーゼ(105)
<37
11%
64%
37.0-37.4
12%
27%
37.5-37.9
11%
8%
38-38.9
35%
1%
39-39.9
19%
1%
≥40
11%
0%

脈拍
脈拍
クリーゼ(89)
非クリーゼ(105)
≤100
0%
44%
101-129
24%
49%
130-159
34%
5%
160-189
27%
2%
≥190
15%
0%

中枢神経症状
 クリーゼ例では80%. 
 また中等度以上(せん妄, 錯乱, 昏迷, 傾眠, 昏睡, JCS 2桁)が多い
 非クリーゼ例では稀

心血管症候
 心不全ではクリーゼ例の1/3であり. 非クリーゼ例では稀
 心房細動はクリーゼ例の40%. 非クリーゼ例の1.5%

消化器症状
 クリーゼ例の64%. 黄疸28%. 
 非クリーゼ例では稀

これらのデータから新しい診断基準を作成:

必須項目
 FT3もしくはFT4が高値
症状
他の原因により以下の項目がある場合は除外. 誘因であるならクリーゼの症状とする
1 中枢神経症状(不穏, せん妄, 精神異常, 傾眠, 痙攣, 昏睡, JCS≥1, GCS≤14)
2 体温≥38
3 脈拍≥130bpm
4 心不全症状(肺水腫, 肺野50%異常の湿性ラ音, 心原性ショック, NYHA≥4, Killip≥III)
5 消化器症状(嘔気, 嘔吐, 下痢, 黄疸を伴う肝障害)

判定
確実例; 必須項目+以下のどれか
 a 中枢神経症状 + 他の症状項目1つ以上
 b 中枢神経症状以外の症状項目3つ以上
疑い例;
 a 必須項目+中枢神経症状以外の症状項目2
 b 必須項目を確認できないが, 甲状腺疾患の既往, 眼球突出, 甲状腺腺腫の存在があり,
  確実例条件のa もしくは bを満たす
甲状腺クリーゼの治療
Thionamides; PTU, MMIどちらでもOK
 PTUにはT4→T3変換阻害作用があり, クリーゼには好まれる
 PTU(チウラジール) 200-250mgをq6hr
 MMI(メルカゾール) 20mgをq6hr
無機ヨード
 Thionamideを初めてか30-60min後に開始.
 無機ヨードとして200mg-2g/d
 ヨウ化カリウム丸®50mgを6hr毎投与.
β遮断薬
 Propranolol(インデラル®)は静注薬あり, クリーゼには好まれる.
 160mg/d以上の使用でT3への変換抑制作用あり.
  インデラル 静注ならば0.5-1.0mgを10分かけて投与. 数時間後に1-3mg再投与
  インデラル 内服ならば60-80mg q6hr.
 他に
  Atenolol 50-200mg/d Metoprolol 100-200mg/d Nadolol 40-80mg/d 
  Esmolol(ブレビブロック注®) 1mg/kgを30秒でIV, その後50-150µg/kg/min
副腎ステロイド
 臨床的有効性は証明されていない.
 末梢でのT4→T3変換を抑制. 
 Hydrocortisone 100mg q8hrで投与.
通常の治療が困難な場合
 リチウム; 甲状腺ホルモンの分泌低下.
  300mg x 3回/d, 血中濃度を0.6-1.0mEq/Lに維持
 β遮断薬が投与できない場合はレセルピン(アポプロン注®) 2.5-5.0mg IM q4hr
 コレスチラミン; 腸肝循環のホルモンを阻害
 血漿交換; 症例報告レベルではかなり有用.