(Endocrinol Metab Clin N Am 2006;35:663-86)
甲状腺機能亢進症に伴う多臓器不全
日本では毎年200例程度の報告例. 0.2/10万人-yrの頻度.
甲状腺中毒症患者のうち0.22%を占める.
男女比は1:3程度(Graves病は1:4-7)
発症年齢 7-88歳,
基礎疾患の97%はバセドウ病による.
甲状腺中毒症発症から1年以内の発症が45%.
20%はクリーゼが初発症状
致死率10-20%. 死因は心不全, 不整脈, ショック, 多臓器不全
背景の甲状腺疾患
バセドウ病が最多 (97%)
機能性結節(プランマー病, 腺腫様甲状腺腫)
慢性甲状腺炎
機能性甲状腺癌
TSH分泌性下垂体腺腫
卵巣甲状腺腫, 奇形腫, hCG分泌胞状奇胎
IFN-α, IL-2療法, アミオダロン
クリーゼ発症の誘因
薬剤治療のコンプライアンス不良が34%を占める.
感染症が24%
DKA, 外傷, ストレスが各3%.
その他 33%
その他には,
妊娠, 分娩, 副腎機能不全,
ACS, PE, Stroke,
情動ストレス, 激しい運動, 抜歯,
多臓器手術,
ヨードの過剰摂取,
甲状腺の過度の触診, 細胞診,
ヨード造影剤,
アミオダロン, サリチル酸(タンパク結合性高いため, Free T3,T4が増加する),
甲状腺ホルモン大量摂取
甲状腺クリーゼの診断基準
Burch & Wartofsky
|
|
|
|
体温調節
37.2-37.7 37.8-38.2 38.3-38.8 38.9-39.4 39.4-39.9 >40.0 |
5 10 15 20 25 30 |
頻脈
HR 90-119 HR 110-119 HR 120-129 HR 130-139 HR ≥140 心房細動 |
5 10 15 20 25 10 |
中枢神経
興奮 せん妄, 精神病, 嗜眠 痙攣, 昏睡 |
10 20 30 |
心不全
足の浮腫 両肺底部肺副雑音 肺水腫 |
5 10 15 |
消化器
なし 下痢, 悪心嘔吐, 腹痛 原因不明の黄疸 |
0 10 20 |
誘発因子
無し あり |
0 10 |
≥45 クリーゼ
25-44 クリーゼ切迫状態
<25 クリーゼ否定的
<25 クリーゼ否定的
この診断基準の問題点は
TFT検査が必須ではない
Evidenceが不十分
メンドクサイ
予後との相関性が不明
Evidenceが不十分
メンドクサイ
予後との相関性が不明
そこで国内での診断基準を作成
2008年1月に日本甲状腺学会と内分泌学会によって診断基準を作成.
作成にあたり, 既報告例と自験例を解析した. (日本医事新報 2009;4448:49)
体温
体温
|
クリーゼ(89)
|
非クリーゼ(105)
|
<37度
|
11%
|
64%
|
37.0-37.4
|
12%
|
27%
|
37.5-37.9
|
11%
|
8%
|
38-38.9
|
35%
|
1%
|
39-39.9
|
19%
|
1%
|
≥40度
|
11%
|
0%
|
脈拍
脈拍
|
クリーゼ(89)
|
非クリーゼ(105)
|
≤100
|
0%
|
44%
|
101-129
|
24%
|
49%
|
130-159
|
34%
|
5%
|
160-189
|
27%
|
2%
|
≥190
|
15%
|
0%
|
中枢神経症状
クリーゼ例では80%.
また中等度以上(せん妄, 錯乱, 昏迷, 傾眠, 昏睡, JCS 2桁)が多い
非クリーゼ例では稀
心血管症候
心不全ではクリーゼ例の1/3であり. 非クリーゼ例では稀
心房細動はクリーゼ例の40%. 非クリーゼ例の1.5%
消化器症状
クリーゼ例の64%. 黄疸28%.
非クリーゼ例では稀
これらのデータから新しい診断基準を作成:
必須項目
|
FT3もしくはFT4が高値
|
症状
|
他の原因により以下の項目がある場合は除外. 誘因であるならクリーゼの症状とする
|
1 中枢神経症状(不穏, せん妄, 精神異常, 傾眠, 痙攣, 昏睡, JCS≥1, GCS≤14)
|
2 体温≥38度
|
3 脈拍≥130bpm
|
4 心不全症状(肺水腫, 肺野50%異常の湿性ラ音, 心原性ショック, NYHA≥4, Killip≥III)
|
5 消化器症状(嘔気, 嘔吐, 下痢, 黄疸を伴う肝障害)
|
判定
|
確実例; 必須項目+以下のどれか
a 中枢神経症状 + 他の症状項目1つ以上 b 中枢神経症状以外の症状項目3つ以上 |
疑い例;
a 必須項目+中枢神経症状以外の症状項目2つ b 必須項目を確認できないが, 甲状腺疾患の既往, 眼球突出, 甲状腺腺腫の存在があり, 確実例条件のa もしくは bを満たす |
甲状腺クリーゼの治療
Thionamides; PTU, MMIどちらでもOK
PTUにはT4→T3変換阻害作用があり, クリーゼには好まれる
PTU(チウラジール) 200-250mgをq6hr
MMI(メルカゾール) 20mgをq6hr
無機ヨード
Thionamideを初めてか30-60min後に開始.
無機ヨードとして200mg-2g/d
ヨウ化カリウム丸®50mgを6hr毎投与.
β遮断薬
Propranolol(インデラル®)は静注薬あり, クリーゼには好まれる.
160mg/d以上の使用でT3への変換抑制作用あり.
インデラル 静注ならば0.5-1.0mgを10分かけて投与. 数時間後に1-3mg再投与
インデラル 内服ならば60-80mg q6hr.
他に
Atenolol 50-200mg/d Metoprolol 100-200mg/d Nadolol 40-80mg/d
Esmolol(ブレビブロック注®) 1mg/kgを30秒でIV, その後50-150µg/kg/min
副腎ステロイド
臨床的有効性は証明されていない.
末梢でのT4→T3変換を抑制.
Hydrocortisone 100mg q8hrで投与.
通常の治療が困難な場合
リチウム; 甲状腺ホルモンの分泌低下.
300mg x 3回/d, 血中濃度を0.6-1.0mEq/Lに維持
β遮断薬が投与できない場合はレセルピン(アポプロン注®) 2.5-5.0mg IM q4hr
コレスチラミン; 腸肝循環のホルモンを阻害
血漿交換; 症例報告レベルではかなり有用.