(Current Opinion in Hematology 2008, 15:15–21)
好中球減少症, 顆粒球減少症はNeu<500/µLで定義される.薬剤性では化学療法が多いが, 化学療法以外の薬剤によるものをIdiosyncratic drug-induced agranulocytosisと呼ぶ.
薬剤性好中球減少症のCriteria:
原因薬剤投与中, もしくは中止後7日以内の発症で,
中止後1m以内に改善する
再使用にて再現性を認める
他の好中球減少を来す疾患の除外
薬剤性好中球減少症の機序;
免疫による造血障害の機序: 抗甲状腺薬, βラクタム等. 好中球に対する抗体産生を認め, 原因薬物存在下でのみ活性化する. Hapten,免疫複合体, 補体による障害が関与する.
骨髄細胞への直接障害: クロザピンはATPを阻害し, 細胞死を誘導する.
薬剤性好中球減少はヨーロッパでは1.6-9.2/100万人, アメリカでは2.4-15.4/100万と稀な頻度.
高齢者程高リスクであり, 小児が占める割合は全体の10%だが, 60歳以上は半数を占める. 全体の67%が65歳以上との報告もある.
高齢者程薬剤使用量が多い点, 代謝が遅い点が原因と考えられる.
原因薬剤 (Annals of Clinical and Laboratory Science 2004;34:131-137)
薬剤性好中球減少症の臨床症状, 所見
最も多いパターンは無症候性で, 偶発的に発見されるパターンであるが,
有症状例では発熱, 悪寒, 倦怠感, 筋肉痛, 関節痛, 非特異的な咽頭痛, 深部感染症.
上記症状を認めた場合, 無治療では>60%が敗血症となる. 早期の抗生剤で悪化を予防することが可能.
抗甲状腺薬による顆粒球減少を来した55例中,
43/55(78.1%)は発見時無症候.
薬剤中止後14例で症候性となり, 最終的に52.7%が無症状であった.
(Arch Intern Med. 1990 Mar;150(3):621-4.)
致命的な顆粒球減少症の症状は,
発熱のみが41%, 敗血症, 敗血症性ショックが34%, 肺炎 10%, 咽頭痛, 急性扁桃炎 7%, 皮膚感染症 4%, 深部感染症 4%.
貧血は30%, PLT減少は10%で合併.
薬剤性好中球減少の骨髄所見
薬剤性好中球減少では, 骨髄所見は軽度Hypocelluarで, 骨髄性前駆細胞が低下している.
骨髄系の成熟細胞が減少し, 前駆細胞は保たれている場合, 免疫機序による好中球減少の可能性を示唆する.
前駆細胞が消失している場合, 薬剤中止しても14日間では血球は戻らない.
反対に成熟細胞が消失している場合は, 中止後2-7日で戻る.
薬剤性好中球減少症のMeta-analysis
(Ann Intern Med. 2007;146:657-665.)
672 articles, N=980例の解析
年齢は51.4歳[18-92], 好中球減少の期間は平均8日間.
感染性の合併症は敗血症が16%, 感染症が52%.
原因薬剤をEvidence Level別に評価
各薬剤のOdds Ratio
Drug
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OR
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Drug
|
OR
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Acetaminophen
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2.4[1.1-5.2]
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Erythromycin
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7.6[1.1-51.1]
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Acetyldigoxin
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9.9[2.3-42.0]
|
Indomethacin
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8.9[2.9-27.8]
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Aprindine
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上昇
|
Methimazole
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230.9[120.4-453.5]
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Ca dobesilate
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77.8[4.5-1346]
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Phenytoin
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11.6[3.1-43.5]
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Carbamazepine
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5.9-16.9
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Prednisone
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19.9[10.1-49.7]
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Carbimazole
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16.7[2.6-69.7]
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Procainamide
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上昇
|
Cinepazide
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上昇
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Propranolol
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2.5[1.1-6.1]
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Clomipramine
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20.0[6.1-57.6]
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Pyrithyldione
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200.11[22.62-∞]
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Chlorpromazine
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15.7[1.3-182]
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Spironolactone
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20.0[2.3-175.9]
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Diclofenac
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3.9[1.0-15.0]
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Sulfasalazine
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24.8-74.6
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Digoxin
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2.5-5.9
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Ticlopidine
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103.2[12.7-837.4]
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ST合剤
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10.4-25.1
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薬剤開始〜好中球減少までの期間と中止〜改善までの期間
薬剤開始後〜発症まで2ヶ月かかる症例もあり.
薬剤歴の確認は2-3ヶ月前に遡り評価する必要がある.
中止後改善するまでの期間は1-2週間が主.
薬剤性好中球減少症の鑑別疾患
無顆粒球症の70-90%が薬剤性.
急性の無顆粒球症の97%が薬剤性であった報告もある.
鑑別として考慮すべき疾患は,
感染症: 重症敗血症, ウイルス感染.
MDSの初期症状
脾機能亢進によるもの
栄養障害(Vit B12, 葉酸)
末梢での破壊(Felty症候群, SLE, Sjogren症候群)
自己免疫性好中球減少
マネージメントについて
原因となり得る薬剤の即時中止. 中止後も増悪する可能性はある.
発症から~2, 3ヶ月程度の薬剤は原因となり得る為注意.
重症例ではG-CSFが予後を改善させ得る.
G-CSFを評価したStudyのまとめ;
Neu<100/µLの症例で投与することで,
予後の改善効果が期待できる.
Neu減少の改善までの期間を3-5日程度早められる.
ただしMeta-analysisではG-CSFの使用の有無で死亡率に有意差無し.
(Ann Intern Med. 2007;146:657-665.)