ジフェンヒドラミン中毒 (Diphenhydramine)
症例報告: 22歳男性, 痙攣
全身性の痙攣と意識障害で搬送.
BT36.6度, BP 142/90mmHg, HR 153bpm.
瞳孔は散大し, 対光反射は鈍い. 眼クローヌス(+).
Labでは, WBC 22900/µLと高値, AG開大性アシドーシスがあるのみ.
TriageではTCA, ベンゾ等すべて陰性.
CSF, 頭部MRIも問題無し.
抗てんかん薬で治療し, 翌日には眼クローヌス消失.
病歴聴取にて3.3gのDiphenhydramineを内服したと白状.
DPHの血中濃度 2.61µg/mL (健常人で50mg内服すると82.2±31.5ng/mL)
Diphenhydramine; 抗ヒスタミン薬(第一世代)
OTC薬では眠剤のドリエル®. ドリエル1錠あたり50mgのDiphenhydramineを含む.
他には酔い止め(トラベルミン®)やレスタミン®に含有される.
抗コリン作用とセロトニン再取り込み阻害作用を示す.
また, リドカインや他のClass I抗不整脈薬と同じ様なNa-ch阻害作用を示し, 徐脈, 低血圧, Wide QRS来す. IK1も阻害し, QT延長を来す
( IK1チャネルの異常はLong QT Syndrome type 2と同じチャネル異常)
(Am J Cardiol 1997;80:1168–1173)
(The American Journal of Forensic Medicine and Pathology 1998;19:143-147)
抗コリン中毒症状とセトロニン中毒症状 (NEJM 2005;352:1112-20)
薬物
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時間
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バイタル
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瞳孔
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粘膜
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皮膚
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腸蠕動
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神経筋緊張
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反射
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精神
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セトロニン
症候群 |
セトロニン
前駆体 |
<12h
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BP↑, RR↑,
BT >41.1度 |
散大
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唾液
分泌 |
発汗
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亢進
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亢進
特に下腿 |
反射亢進
クローヌス |
興奮 昏睡
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抗コリン
中毒 |
抗コリン薬
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<12h
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BP↑, RR↑,
BT <38.8度 |
散大
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乾燥
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発赤, 熱感
乾燥 |
低下
~消失 |
正常
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正常
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興奮 せん妄
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抗コリン中毒症状とセトロニン症候群の症状が混在する.
それに加えて心電図変化, 不整脈リスクがあるのがDPH中毒
抗コリン作用の方が強いので, 皮膚や粘膜は乾燥気味,
また腸管蠕動は抑制されることが多い.
瞳孔は散大する.
発熱はあるが<38.8度程度.
それに加えてセロトニン症状であるクローヌスや下肢トーヌスの亢進, 痙攣を認める
DHP単独の中毒症 282例の解析(Retrospective 232, Prospective 50) (Human & Experimental Toxicology (2000) 19, 489-495)
症状の重症度と内服量
心電図変化は1.3g[0.4-3.0]で出現. 痙攣は2.0g[1.0-2.7]で出現.
中毒量と症状の関係
<1gではほぼ神経症状は無いが, 1gを超えると痙攣や精神症が増加してくる.
<1gでは傾眠, 抗コリン症状が主. 増加してくると痙攣や昏睡, せん妄が増加. 頻脈やECG変化も増加してくる.
眼クローヌス(Opsoclonus)について
注視状態でも様々な方向へ急速に眼位が偏倚する病態.
Viral Infection後の自己免疫機序, 傍腫瘍症候群の脳症で認められる.
中毒でも認められる報告があり, 有機リン, リチウム, Cetirizine, アミトリプチリン, コカイン, そしてジフェンヒドラミン中毒での報告がある.
(N Engl J Med 2010;363:e40) (European Neurology; 2005;53:46)
DPH中毒 126例の心電図所見の評価 (Am J Cardiol 1997;80:1168–1173)
平均年齢26±11歳, 女性が80%. 大半が>500mgを内服.
健常Control 77例と各パラメータを比較
平均HRは103±25 bpm. QTcは有意に延長し, T波高は低下.
痙攣合併の有無, 意識障害の有無で比較すると
上記神経障害合併例の方がより大量服薬しており, 頻脈, QTc延長も高度となる.
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たかが抗ヒスタミン, されど抗ヒスタミン.
手に入りやすく, 一見対したことなさそうだが, 中枢神経症状, 不整脈と多彩な病状をとるため, 注意が必要な中毒症と言えるでしょう.