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2014年3月15日土曜日

メトクロプラミド(プリンペラン®)による錐体外路症状

Metoclopramide(プリンペラン®)はDopamine antagonist(D2-R)で中枢, 末梢の抗Dopamine作用を呈する薬剤.

末梢では胃の幽門括約筋を弛緩させ, 蠕動を促進し, 制吐作用を示す.
中枢では錐体外路症状を来すことがあり, この薬剤の重要な副作用となる.
錐体外路症状としては, Akathisiaが有名だが, 他にはDystoniaを生じ, Acute dystonic reactionと呼ばれる症候を呈する.

Akathisiaは座っていられないような下肢の筋収縮, ムズムズ感等.
Dystoniaはゆっくりとした筋収縮で, 特に顔面, 頸部, 上肢に多い.

Metoclopramideは静注では投与後1-3分程度で錐体外路症状を発症し得る.
 内服でも数分で発症する報告があり, 早期で出現すると考えられる.

薬剤の代謝に関連するCYP2D6 allelesの異常があると, 薬剤代謝が遅延し, より生じやすいという報告もある.
(The Netherlands Journal of Medicine 2006;64:160-162)

同一家族内の3人の兄弟で発症した報告もある
 6歳男児が5mgのMetoclopramideを1回内服し生じた例
 8歳男児が5mgのMetoclopramideを1回内服し生じた例
 15歳男児が10mg処方され, 生じた例.
遺伝的要素(代謝の関連)がある可能性 = CYP2D6 allelesの異常が関連する可能性が示唆

Metoclopramideと錐体外路症状の頻度 (BMJ 1985;291:930-932)
1967-1982年に英国におけるMetoclopramideによる錐体外路症状の報告は479例(処方件数は1590万件).
479例中 455例がDystonia-dyskinesiaで, 20例がParkinsonism, 4例がDyskinesiaであった.
Dystoniaは女性例が70%を占めた.
Dystonia-dyskinesiaの好発年齢は10-29歳であった.
(TABLE II; 報告症例数, TABLE IV; 年齢別の頻度 /100万処方あたり)

対応は抗コリン作用をもつ抗パーキンソン薬の投与
症例報告では, 抗パーキンソン作用を認める下記薬剤の使用で速やかに改善するとの報告がある(成人例).
 アキネトン®(biperiden) 5mg (国内には1mg錠, 静注5mg)
 アーテン®(Trihexyphenidyl) 1mg (国内には2mg錠)
(The Netherlands Journal of Medicine 2006;64:160-162)

小児例の3例(6歳, 8歳, 15歳)でも,
 アネキトン® 5mg 投与で10分後には改善を認めている.
(J Res Med Sci. Mar 2012; 17(3): 308–309.)

Acute Dystonic Reactionと破傷風 (BMJ 2007;334: 899-900)
Acute dystonic reactionでは, 急性の筋強直, 特に顔面や頸部に来ることが多く, 破傷風との鑑別が重要な場合がある
症例報告でも当初破傷風と診断し, 高次施設へ搬送した後に, Metoclopramide内服が判明し, Dystoniaであったとの報告もある.

両者の鑑別点は,
 創傷の有無
 薬剤歴
 発症年齢
 不随意運動のタイプ
 抗コリン性の抗パーキンソン薬への反応性 が挙げられる

Acute dystonic and dyskinesiaの運動は
 持続性の筋収縮で, 捻る様な, 変な体位となる様な運動.
 急性のDystoniaでは, Buccolingual(舌が引っ張られる様な運動), Torticollic(頚を捻る, 顔面筋の攣縮), Oculogyric(眼を回す, 偏視), Tortipelvic(腹部の強直), Opisthotonic(体全体が攣縮する)といった症状.
 持続時間は数時間で, 抗コリン性の抗パ薬で速やかに改善する.

他にDystonic reactionを来す薬剤一覧
抗精神病薬や抗うつ薬, 鎮静剤で発症することは想像に難くない.
それ以外に一般的に用いる薬剤として, 制吐剤, Metoclopramide, Domperidone, Ca-ch阻害薬も原因となる. また, 上記表にはないが, ジフェンヒドラミンでも報告されており, 感冒薬でも生じる可能性があることは覚えておく.

MetoclopramideによるAkathisiaはSlow IVで予防可能
ER受診し, Metoclopramide投与する68名のRCT(DB)
2min bolus vs 15min DIV で比較 
Akathisiaを来したのは11.1% vs 0% (p=0.026)
制吐作用に関しては有意差無し

薬剤性のAkathisiaは以下で診断:
Prince Henry Hospital-modified Akathisia scale
 薬剤性Akathisia; Objective >=1pt + Subjective >=2pt
Objectiveは,
 0pt; 無し
 1pt; 25%
 2pt; 25-50% 
 3pt; >50%  
 4pt; 持続

Objective; 2min Seated observation
 1. じっと座っていられない
 2. 無意味な下肢の運動あり
Subjective; 3 questions
 1. むずむず感, 動きたい感じがありますか? 特に下肢に.
 2. 下肢を動かさずにいられますか?
 3. じっと座る, 立っていられますか?


プリンペラン®を使用するならばIVよりも15分程度でDIVした方が安全かもしれない.
(Am J Em Med 2009;27:475-80)

補足: Dopamine阻害薬による錐体外路症状125例の解析
(Southern Medical Journal 1990;83:525-32)
125名の平均年齢は56.1yr[13-87], 加齢に伴い頻度は増加.
錐体外路症状の種類
Primary Dx
N
Dyskinesia
79
Parkinsonism
38
Dystonia
30
Akathisia
9
Tremor
2
錐体外路症状の部位
Affected Region
N
顔面上部
18
顔面下部
57
咽頭, 喉頭
11
頸部
28
体幹
57
上肢
48
下肢
50


Tardive dystonia; 持続性の捻るような不随意運動. 薬剤投与後wk-yrの単位で生じる
Akathisia; 安静にしていられない感覚, 筋肉の運動.
Tardive myoclonus; 突然の痙攣様の不随意運動. 薬剤中止後も持続する.
Parkinsonism;  薬剤投与中に出現し, 中止後もMo-yrの単位で持続する. 他の薬剤性運動障害を認めない場合Idiopathic PDとの鑑別は難しい.
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これらの副作用は代謝が低下し, 抗精神病薬の使用頻度が高くなる高齢者で多い傾向があるが, Metoclopramideに関しては10-20歳台で多い傾向がある点で異なる.