Am Fam Physician 2008;77:1291-96
BMJ 2014;348:g474
三叉神経痛は稀な, 繰り返す顔面痛で通常片側性, 電撃痛, 軽い触診で増悪する痛み.
V2−3の三叉神経痛ではしばしば歯牙に由来する疼痛と勘違いされ, 不必要な歯科処置を受けることもある.
両側性は3%のみ. しかも両側同時に出現するのはさらに稀.
上顎神経が最多, 眼神経が最少
有病率; 4.3/100,000
右側 : 左側 = 1.5 : 1と右側で多い. 右側の正円孔, 卵円孔が狭い為
女性 : 男性 = 1.74 : 1 (女性は5.7, 男性は2.5/100000)
ピークは50-60歳, <40Yでの発症は稀
三叉神経の解剖
Diagnostic and Interventional Imaging (2013) 94, 993—1001
三叉神経は大きな感覚枝と小さな運動枝からなる.
感覚枝はV1−3で別れ, 下図のような支配領域となる.
運動枝は片側の咀嚼筋を支配する.
運動枝は感覚神経と画像上区別するのは困難.
三叉神経痛は三叉神経感覚枝の核〜抹消神経, 皮膚に至る部位のどこかの障害で生じ得る.
三叉神経核は脳幹〜上位頚椎まで広範囲に存在する
頸髄, 延髄, 橋, 中脳病変はすべて三叉神経痛の原因と成り得る.
三叉神経は橋から生じ脳槽からMeckel’s caveを通る.
Meckel’s caveは硬膜のひだで形成され, 髄液を含む.
このなかにGasser’s ganglionがあり, 三叉神経は3つに分岐する
V3と運動枝は卵形孔を通過し, 咀嚼腔へつづく
この経路はMeckel’s caveの終わりから海綿静脈洞に入る前に分岐するため, V3のみ海綿静脈洞を通過しないことになる
V1, 2は海綿静脈洞を通り,
V2はその後 正円孔, 翼口蓋窩, 眼窩下管を通過し, 皮膚に至る.
V1は眼窩上管を通過し, 眼窩内を通過
三叉神経痛の特徴 BMJ 2014;348:g474
三叉神経痛初発の65%が5年以内に再発をみとめ, 77%が10年以内に再発を認める.
発作中は3−4回/dの疼痛発作を認めるが, なかには70回/dという報告もある.
1/3が夜間に疼痛発作を認める.
V1領域単独での発症は非常に稀.
より弱い疼痛が発作期間中持続するタイプがあり, それをtrigeminal neuralgia type 2, もしくはtrigeminal neuralgia with concomitant persistent facial painと呼ばれる.
または典型的な疼痛をEssential neuralgia, 4−5時間の持続痛で, トリガー誘発されないタイプをSecondaryと呼ぶこともある.
Diagnostic and Interventional Imaging (2013) 94, 993—1001
三叉神経痛に自律神経症状が合併する例もある
結膜充血, 流涙, 結膜浮腫, 眼瞼下垂, 顔面発汗など.
Microvascular decompressionを行った患者群の後ろ向き評価では67%が1つ, 14%が4つ以上の自律神経症状を認めた.
自律神経症状がある群では手術に対する反応も乏しい傾向にあった.
自律神経症状がある群では手術に対する反応も乏しい傾向にあった.
この場合, 三叉神経痛かShort unilateral neuralgiform pain with autonomic symptoms(SUNA)やshort unilateral neuralgiform pain with conjunctival injection and lacrimation(SUNCT)との鑑別が難しい.
三叉神経痛の原因
血管の圧迫が95%で認められるが, どのような圧迫が原因となりえるかは未だ不明.
中枢における神経分岐部の脱髄病変の関連性が示唆.
また, 侵襲刺激に対する中枢抑制の低下も関与している.
これは手術により圧迫を解除しても障害が残存する例があること,家族性の三叉神経痛がある点から推測されている.
これは手術により圧迫を解除しても障害が残存する例があること,家族性の三叉神経痛がある点から推測されている.
多発性硬化症やラクナ梗塞で橋小脳, 脳幹の三叉神経領域に微小な病変が生じる場合も三叉神経痛を来しえる.
Essential neuralgiaでは
血管による圧迫, MS, 脳槽での神経圧迫, Chiari奇形が原因としてある.
あきらかな原因のないものも多い.
Secondary neuralgiaでは
CN Vの経路の障害すべてで生じ得る.
三叉神経痛の原因と成り得る病態 Eur Radiol (2005) 15: 511–533
三叉神経痛の診断
臨床診断と除外診断が基本となる.
International Headache Societyの診断クライテリアはあるものの, Validationされたものではなく, あくまでも指標的な役割.
Classical TN(血管による圧迫によるTNの診断クライテリア)
A) 数秒〜2分の突発的な疼痛発作. 三叉神経領域 1領域以上 + B,Cを満たす
B) 疼痛の性状
1: 痛烈な疼痛で, 表面的な鋭い, 刺されるような疼痛
2: トリガーゾーンから広がる. トリガーポイント陽性
C) 疼痛発作は各個人で決まった形をとる
D) 神経障害を示唆する所見なし
E) その他の疾患に由来しない
血管以外の原因によるTNのクライテリア
上記A~Cは同様
D) 症候を来す原因が診断学的検査で明らかである.
Red Flags: TN以外を示唆する所見, 情報
神経学的異常(+)
口腔, 歯, 耳の異常所見(+)
<40歳
両側性の症状
Dizziness, Vertigo
難聴, 聴覚異常
麻痺, 痺れ
2分以上の持続
三叉神経領域外の症状
視覚障害
TNの身体所見は正常 →異常があれば他の診断を疑え
耳, 口, 歯, Temporomandibular joint診察は重要
三叉神経痛の診断検査
Lab testでは有用な項目無し
MRIにて三叉神経痛の原因が判明するのは15%[11-20]程度.
血管による圧迫に関しては, Sn 52-100%, Sp 29-93%で判別 (Neurology 2008;71:1183-90)
MRIでは他の疾患の除外も可能(Mass, 副鼻腔炎, 脱髄, 脳梗塞など)
三叉神経反射テスト; 三叉神経分枝に電気刺激 → ElectromyographyにてCheck
Classical vs Symptomatic TNの鑑別にSN 94%[91-97], SP 87%[77-93]
Classical vs Symptomatic TNの鑑別にSN 94%[91-97], SP 87%[77-93]
初期評価としてのMRI Diagnostic and Interventional Imaging (2013) 94, 993—1001
T1 Sagittal: 三叉神経核, 三叉神経が評価可能. また頸後頭部結合部の評価も可能.
T2 axial: 脳幹, 海綿静脈洞, 顔面骨の評価
T2 axial, CN V評価
CN Vの造影Thin sliceを評価. それによる所見でさらなる検査を考慮する.
圧迫があれば, 3D構成を行う.
三叉神経痛の治療 BMJ 2014;348:g474
第一選択はカルバマゼピン(テグレトール®)
200-800mg/dで使用. NNTは2.5, NNH 3.7 (Cochrane)
他の薬剤として, Bacrofen(リオレサール®)
10-80mg/dで使用.
Lamotrigine, Gabapentin, Pregabalinも選択肢となる.
Carbamazepineでは, 70%の患者でほぼ100%の鎮痛を期待できるため, 第一選択となる.
しかしながら副作用頻度も高い.
疲労感や集中力の低下が多い副作用, また薬剤相互作用も多い
疲労感や集中力の低下が多い副作用, また薬剤相互作用も多い
Oxcarbazepineは副作用が少ないものの, 未承認..
上記薬剤が使用できない場合に他薬剤を考慮する.
薬剤治療でもコントロール不良な場合は外科手術を考慮
Pain Crisis時の対応
三叉神経痛のCrisisで鎮痛が得られない場合
Opioidを使用することもあるが, 効果は乏しいと考えられ, NICEガイドラインでは推奨されていない.
臨床経験から, トリガーポイントへの局所麻酔投与は疼痛コントロールに有用な可能性が示唆されている.
入院管理とし, FosphenytoinのDIV投与も行われることもある