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2014年11月25日火曜日

蜘蛛咬傷 Spider bite (2014/11/25 UpDate)

H24年9月24日の京都新聞より, 左京区の公園でセアカコケグモが100匹以上発見されたとの記事があり。左京区なので遠いけど、この際蜘蛛咬傷についてまとめておく。

(Lancet 2011;378:2039-2047)より
クモ咬傷で問題となるものは主に2つの種類のクモ.
 Latrodectism(ゴケグモ咬傷)とLoxoscelism(イトグモ咬傷)
 Latrodectismでは, 局所の紅斑, 疼痛と, 全身症状, 非特異的症状, 交感神経亢進症状を認め,
 Loxoscelismでは, 局所の紅斑を伴う壊死を生じる. 溶血を来たし, 腎障害に至るCaseもあり. ただし, 日本国内にいるイトグモからは壊死を来す毒素は検出されておらず, 問題となるのはゴケグモのみと言える.
 他には少ないが, Australian funnel-web spider(Atrax spp, Hadronyche spp), Armed spider(Phoneutria spp)が重要だが, それぞれオーストラリア, ブラジルにしか生息していない.

ということで, 日本国内で問題となるのはゴケグモ咬傷ということになる.

Latrodectus(ゴケグモ)
世界中に分布するクモで, 日本国内にもいる.
 中型のクモで全体的黒色. 前面に赤い模様をもつ. 雌グモの方が雄グモより一回り大きく, 刺すのは通常雌グモ.
 模様により様々な種類に分類される.
 Latrodectus hasselti セアカコケグモ
 Latrodectus mactans クロゴケグモ
 Latrodectus curacaviensis オレンジゴケグモ
 Latrodectus indistinctis 
 Latrodectus geometricus ハイイロゴケグモ
 Latrodectus tredeciguttatus ジュウサンボシゴケグモなど, 30種類程度確認されている.

セアカゴケグモ (http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/5f/spider.html)
 大阪, 奈良, 和歌山で発見報告あり. 今回は京都左京区.
ハイイロゴケグモ(http://www.env.go.jp/nature/intro/1outline/list/L-ku-04.html)
毒素; α-latrotoxin.
130kDaの神経毒であるが, どのように作用し, 神経伝達物質を誘発するかは不明.
急性反応は5%で認め, アナフィラキシーは1-2%.
晩期反応, 血清病は10%で認められる.

ゴケグモの種類と臓器症状の頻度

セアカ
クロ
オレンジ
ハイイロ
ジュウサンボシ
局所の疼痛
100%
38%-91%
56%
93%
90%
四肢へ放散
38%
18%
41%
7%
-
腹痛
9%
17%-53%
17%
27%
35%
胸痛, 絞約感
6%
4%
10%
0%
14%
背部痛
-
56%
-
7%
45%
発汗
34%
22%-70%
28%
-
55%
悪心
24%
11%
-
0%
12%
嘔吐
4%
11%
5%
0%
-
頭痛
10%
9%
8%
0%
12%
腹部板状硬
-
45%
-
7%
-
高血圧
1%
17-29%
4%
0%
-
焦燥感
-
44%
14%
13%
-

治療は対症療法でほぼ問題は無いが, 重症例では抗毒素の筋注が必要となる
抗毒素は以下に保管されているらしいが、1997年の情報なので現在有効かは不明.
(http://idsc.nih.go.jp/iasr/18/211/dj2112a.html)

国立感染症研究所      TEL 03-5285-1111
三重県立総合医療センター     0593-45-2321
大阪府立病院           06-692-1201
沖縄県立中部病院         098-973-4111

ゴケグモ抗血清のRCT: >7歳のセアカコケグモ咬症患者224例を対象 [Ann Emerg Med. 2014;64:620-628.] 
 通常の鎮痛治療 vs 通常治療+抗血清を使用し, 疼痛の経過をフォロー.
 通常治療: アセトアミノフェン 1g (20mg/kg), イブプロフェン 800mg (10mg/kg)オキシコドン 5mg (0.1mg/kg)
 対象患者224例中, 76例で全身症状(+)

アウトカム
2時間後, 4−24時間後の疼痛、全身症状の改善に有意差はない。
抗血清は必須というわけでもないか。

ちなみにこのStudyより疼痛の経過もわかる.
疼痛は最初の24h程度で半分に。1週間程度で改善してゆく。