症例: 10代女性 胸痛
来院4時間前に部屋の掃除をしていたところ, 突然前胸部のズキズキする疼痛, 咽頭痛が出現. 痛みは突然発症で, 徐々に増悪. 鋭い痛みで放散は無し. 吸気時、咳嗽時、嚥下時に疼痛は増強する. 体動による変化無し. 冷汗, 動悸, 嘔気無し. 発症時, カーテンに手をかけていた. 外傷歴無し.
安静にて様子を見ていたが, 改善しないため, ERを受診.
喘息の既往無し. 気胸の既往無し. 酒, 喫煙無し. 受動喫煙; 父親が喫煙あり.
内服薬無し. アレルギー無し.
所見:
General; 苦悶様表情
Vital; BP 124/60 HR 72 RR 20 Sat 100%(RA) BT 37.4度
HEENT; 眼瞼結膜蒼白無し. JVH 6cmH2O, 甲状腺触知せず. 右前頚部で皮下気腫(+), 気管支偏移無し.
胸部; 両側肺胞呼吸音. 左右差無し. Hamman’s sign(+). 心音 S1, S2亢進, 減弱なし. Murmur無し
腹部; 平坦, 軟. 圧痛無し.
画像は以下の通り:
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特発性縦隔気腫 Spontaneous Pneumomediastinum
稀な疾患で, 12年間のRetrospective analysisでも28例のみ.
といっても, 個人的にも年1例程度は経験するため, もっと多いと思われる.
機序は胸腔内圧の上昇などが原因で肺胞が破裂し, 気管支に沿って縦隔内に気腫を形成すると説明されている (臓側胸膜破裂を伴えば気胸となる)
Arch Intern Med 1984;144:1447-53
縦隔気腫の原因 (AJR 1996;166:1041-8)
Cause
|
疾患
|
Cause
|
疾患
|
肺胞内圧上昇による
肺胞破裂 |
喘息, 人工呼吸器,
胸部外傷 Valsalva法, 嘔吐 気圧の変化 |
頭頸部外傷
手術治療 |
鼻咽頭の穿孔
顔面骨骨折 Dental procedures 頚部手術 感染症 |
肺胞疾患による
肺胞破裂 |
感染症, 誤嚥
肺気腫 間質性肺疾患 サルコイドーシス, Silicosis |
腹部, 後腹膜外傷
手術治療 |
腸管穿孔, 憩室炎
ヘルニア 潰瘍 外傷 直腸, S状結腸手術 |
気管, 気管支傷害
|
外傷
医原性(Bronchoscopy) 気管, 気管支腫瘍 |
食道穿孔
|
嘔吐
医原性, 外傷(穿通性) 悪性腫瘍 |
特発性縦隔気腫の症状; 28例のRetrospective analysis Ann Thorac Surg 2008;86:962-6
平均年齢は27(17)yr[3-71]
最も多い症状は胸痛
症状
|
%
|
症状
|
%
|
胸痛
|
54%
|
皮下気腫
|
32%
|
呼吸苦
|
39%
|
頚部腫脹
|
14%
|
咳嗽
|
32%
|
気胸
|
7%
|
嚥下痛
|
4%
|
胸部レントゲンにて縦隔気腫を認めるのは69%
SPMの基礎疾患
基礎疾患
|
%
|
喫煙者
|
29%
|
喘息患者
|
14%
|
特発性肺線維症
|
7%
|
COPD
|
4%
|
吸入薬使用
|
0%
|
SPMの29%が喫煙者. 喘息もRiskとなる.
SPM発症のトリガー
嘔吐, 喘息が多いが, 原因が不明なものも21%あり.
Trigger
|
%
|
Trigger
|
%
|
嘔吐
|
36%
|
窒息
|
4%
|
喘息
|
21%
|
排便
|
4%
|
咳嗽
|
7%
|
不明
|
21%
|
身体運動
|
4%
|
吸入薬使用
|
0%
|
Secondary Pneumomediastinumとの違い
SBM
|
Secondary
|
p value
|
|
男性
|
57%
|
68%
|
|
年齢 yr
|
27yr
|
39yr
|
<0.05
|
胸部Xpでの診断
|
69%
|
47%
|
<0.05
|
CTで皮下気腫
|
40%
|
64%
|
<0.001
|
気胸合併
|
14%
|
56%
|
<0.001
|
Chest tube留置
|
7%
|
46%
|
<0.001
|
胸水併発
|
0%
|
12%
|
<0.001
|
入院 d
|
3d
|
19d
|
<0.001
|
死亡率
|
0%
|
39%
|
<0.001
|
1990-2012年に発表されたSPM症例の報告27論文より, 600例のSPMを解析
Asian Cardiovascular & Thoracic Annals 2014, Vol. 22(8) 997–1002
発症年齢の中央値は22.8±4.64歳[17.6-36.8], 男性が73.8%
肺疾患の既往は22%で認められる.
肺疾患 |
|
|
|
喘息 |
13.7% |
ブラ |
0.7% |
間質性肺疾患 |
3.3% |
胸腔内腫瘍 |
0.7% |
COPD |
2.2% |
嚢胞性病変 |
0.3% |
気管支拡張 |
0.8% |
呼吸器感染 |
0.3% |
発症のトリガーは
不明 |
34% |
咳嗽 |
10% |
その他 |
1.3% |
運動 |
14% |
喘息発作 |
9% |
出産 |
0.8% |
薬物濫用 |
14% |
嘔吐 |
7% |
外傷 |
0.5% |
None specified |
7% |
呼吸器感染 |
5% |
接触あるスポーツ |
0.3% |
コカイン |
2% |
仕事中 |
2% |
消化管潰瘍 |
0.3% |
Cannabis |
2% |
飛行訓練 |
1.7% |
|
|
メタンフェタミン |
1% |
長く叫ぶ |
1.5% |
|
|
症状、所見の頻度
胸痛 |
61% |
発声困難 |
4.8% |
ストライダー |
1.5% |
呼吸苦 |
41% |
嚥下痛 |
3.8% |
不安 |
0.7% |
胸部皮下気腫 |
40.3% |
鼻音症 |
3.3% |
腹痛 |
0.7% |
持続する咳嗽 |
20% |
発熱 |
3.2% |
頻脈 |
0.7% |
頚部痛 |
16.5% |
胸痛+呼吸苦 |
2.7% |
奇脈 |
0.3% |
頸部皮下気腫 |
14.5% |
めまい(非回転) |
2.5% |
喉頭腫大 |
0.2% |
嚥下障害 |
14% |
摩擦感 |
2% |
著明な皮下気腫 |
0.2% |
Hamman徴候 |
13.8% |
背部痛 |
1.7% |
|
|
頸部浮腫 |
8.8% |
全身の脱力 |
1.7% |
|
|
胸部レントゲンの感度は83%
SPMの合併症
緊張性気胸 |
1.2% |
症状の増悪 |
0.2% |
再発 |
0.8% |
SPMで重要な身体所見としてHamman's Signがある.
心拍動に一致したCrunching, bubbling, popping, crackling sound
一度聞けば忘れない音で, 心拍動に一致した水疱音
縦隔内のAirの存在を示唆する所見である (縦隔気腫, 気胸+縦隔気腫)
(Chest 1992;102:1281-2)
心嚢内気腫では, 心音が高くなり, 金属様の音を聴取することもある.
特発性縦隔気腫に対する感度は報告により様々(0−100%)
上記の600例での解析では感度は13.8%のみであり、除外には使用できない。
特発性縦隔気腫に対する感度は報告により様々(0−100%)
上記の600例での解析では感度は13.8%のみであり、除外には使用できない。
SPMと類似した状態で特発性心嚢内気腫(Spontaneous Pneumopericardium)がある
心嚢内気腫
特発性心嚢内気腫は非常に稀な病態
心嚢内気腫の大半が悪性腫瘍(気管支, 消化管)
外傷, 手術の合併症
感染症
食道/胃潰瘍, 食道裂孔ヘルニアからの瘻孔形成 に起因する
(Thorax 1976;31:460-5)
外傷, 手術の合併症
感染症
食道/胃潰瘍, 食道裂孔ヘルニアからの瘻孔形成 に起因する
(Thorax 1976;31:460-5)
時に心タンポナーデを来し致死的となり得る
特発性では稀であり, 2次性で認められる.
瘻孔がある状態での上部内視鏡検査なども原因となり得る.
心タンポナーデ時は心臓が圧排され,
XPにて縮小された像を認める. (Heart 2002;88:e5)
XPにて縮小された像を認める. (Heart 2002;88:e5)
特発性縦隔気腫 + 特発性心嚢内気腫はPericardial-mediastinal emphysemaと呼び, さらに稀
通常出産, 肺Barotrauma, 重度の咳嗽, 喘息, Cocaine inhalation, 塩素ガス吸入, 嘔吐, 運動などがTriggerとなる
肺血管上の心膜翻転部が最も脆弱であり, 同部位からAirが侵入すると考えられている
(Asian Cardiovasc Thorac Ann 2000;8:59-61)
先天性胸膜心膜欠損による機序も報告されている
特発性縦隔気腫のみならば予後は良好であり, 外来フォローも可能.