Allergy 2009;64:322-34
吸入抗原による肺胞の炎症を来す疾患.
吸入抗原は様々. 農場のカビ, 干し草, 鳥, 木片, 化学薬品など.
間質性肺疾患の内, 2%(4-15%)程度を占める稀な疾患.
抗原によるため, 地域によってもかなり頻度は異なる.
診断基準が無いため, 真の頻度は不明. (実際, HPとして入院した内の73%が他の疾患であったとの報告も)
抗原に暴露した内, 5-15%がHPを発症.
HP患者の80-95%が非喫煙者であるが, 喫煙者の場合は死亡率が高い. (RadioGraphics 2009;29:1921-38)
真菌が原因の場合, BAL中β-D-glucanが陽性となるとの報告もある. (Curr Opin Allergy Clin Immunol 2010;10:99-103)
過敏性肺臓炎の原因一覧 (J Allergy Clin Immunol 2001;108:661-70)
過敏性肺臓炎の分類 Allergy 2009;64:322-34
発症形式により急性, 亜急性, 慢性に分類.
急性では, 抗原暴露後2-9hrでFlu-like症状が出現. 6-24hrでピークとなり, 数時間〜数日持続する.
亜急性では, 数日から数週かけて増悪する咳嗽, 呼吸苦が主. 低酸素を合併し, 緊急入院を必要とすることもある.
慢性では数ヶ月かけて進行する咳嗽, 労作時呼吸苦. 体重減少や倦怠感を主訴とする場合が多い.
(J Allergy Clin Immunol 2001;108:661-70)
大半のHP症例では, 抗原暴露〜発症まで数ヶ月〜数年.
例えば, 鳥愛好家では発症まで平均9年間, キノコ農家では5年, Mollusk shell HPでは11年. Hot tub lungは2年間 (RadioGraphics 2009;29:1921-38)
国内の急性HPではSummer-type HPが74.4%と最多
Farmer’s lungが8.1%, Ventilation pneumonitis 4.3%, Bird fancier’s lungが4.1%, その他が2.3%
J Allergy Clin Immunol. 1991 May;87(5):1002-9.
国内の病院で慢性HP症例をアンケート調査. 22病院から 222例の慢性HP症例の回答があった.
SubtypeではBird-related HP 134例, Summer-type HP 33例, Home-related HP 25例, Farmer’s lung 4例, Isocyanate-induced HP 3例, その他 23例であった.
Respiratory Investigation 2013;51:191-199
Farmer’s lungが8.1%, Ventilation pneumonitis 4.3%, Bird fancier’s lungが4.1%, その他が2.3%
J Allergy Clin Immunol. 1991 May;87(5):1002-9.
国内の病院で慢性HP症例をアンケート調査. 22病院から 222例の慢性HP症例の回答があった.
SubtypeではBird-related HP 134例, Summer-type HP 33例, Home-related HP 25例, Farmer’s lung 4例, Isocyanate-induced HP 3例, その他 23例であった.
Respiratory Investigation 2013;51:191-199
Summer-type HPは夏季にTrichosporon asahii, mucoidesを吸入することで生じる肺臓炎である. BMC Research Notes 2013, 6:371
環境に由来するものであるため, 家族内発症例の報告も多い
SHPの20-25%に家族内発症を認めるとの報告もある
SHPの20-25%に家族内発症を認めるとの報告もある
SHPの90%以上が抗トリコスポロン抗体が陽性で, 抗原吸入試験が誘発される.
Trichosporon spp.が生育しやすい環境は温度25-28度, 湿度80%前後で湿った木材がある環境. 腐った畳などにTrichosporon asahiiが生息していたりする
そのような環境の暴露は要注意となる
そのような環境の暴露は要注意となる
日本国内の家族性のSummer−type HPの報告地域
過敏性肺臓炎の臨床所見 (Chest 2012;142:208-17)
2つのCohort studyの結果;
HP study*
|
Mayo Clinic**
|
|
女性
|
56%
|
62%
|
年齢
|
55±14yr
|
53±14yr
|
喫煙者
|
6%
|
2%
|
呼吸苦
|
98%
|
93%
|
咳嗽
|
91%
|
65%
|
Flulike symptoms
|
34%
|
33%
|
Chest discomfort
|
35%
|
24%
|
ラ音
|
87%
|
56%
|
Wheeze
|
16%
|
13%
|
バチ指
|
21%
|
5%
|
原因
|
HP study*
|
Mayo Clinic**
|
不明
|
1.5%
|
25%
|
鳥抗原
|
66%
|
34%
|
Farmer’s lung
|
19%
|
11%
|
Hot tub lung
|
0
|
21%
|
カビ
|
13%
|
9%
|
肺機能検査
|
HP study*
|
Mayo Clinic**
|
閉塞性パターン
|
1%
|
16%
|
拘束性パターン
|
64%
|
53%
|
Mixed
|
1%
|
NR
|
非特異的
|
1%
|
12%
|
正常
|
34%
|
10%
|
**Mayo Clin Proc 82. (7): 812-816.2007
発熱は1-2割程度のみ
乾性咳嗽が多く、Fine Cracklesは9割以上で認める.
ばち指の頻度は20-40%程度.
乾性咳嗽が多く、Fine Cracklesは9割以上で認める.
ばち指の頻度は20-40%程度.
過敏性肺臓炎の診断Criteria
様々な診断Criteriaが提唱されているものの, どれもValidationはされていない為, 診断能は不明.
Terho’s criteria
|
(Am J Ind Med 1986;10:329)
|
Major
|
1) 吸入抗原の暴露, もしくは環境検査にて抗原を認める, 抗原特異性IgG陽性
2) HPに矛盾しない症状, 抗原曝露後数時間で出現, 増悪を示す 3) HPに矛盾しない画像所見 |
Minor
|
1) 肺底部の捻髪音
2) 酸素拡散能の低下 3) 酸素化の低下 4) Spirometryで拘束性パターン 5) HPに矛盾しない組織所見 6) 誘発試験陽性 |
Richerson’s criteria
|
(J Allergy Clin Immunol 1989;84:839-44)
|
Major
|
1) 病歴, 所見, 肺機能検査にて間質性肺炎を示唆
2) XPでHP疑い 3) 原因となり得るものの暴露歴あり 4) 抗原に対する抗体を認める |
Cormier’s criteria
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(Thorax 1996;51:1210-5)
|
Major
|
1) 暴露歴あり
2) 吸気時ラ音 3) BALにてLy優位 4) 呼吸不全 5) CT, XPで浸潤影 |
Minor
|
1) 再発性の発熱
2) DLCOの低下 3) HP 抗原に対する抗体認める 4) 肺に肉芽腫性病変あり 5) 抗原回避, 適切な治療にて改善 |
Schuyler’s criteria
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(Chest 1997;111:534-6)
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Major
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1) HPに矛盾しない症状
2) 抗原暴露の病歴. 血液検査, BALにて抗原を認める 3) XP, CTにてHPに矛盾しない所見 4) BALでLy優位 5) HPに矛盾しない肺組織 6) natural challengeで陽性 |
Minor
|
1) 両側肺底部でラ音
2) DLCOの低下 3) 低酸素血症 |
Clinical prediction rule (Am J Respir Crit Care Med 2003;168:952-8)
the HP study
呼吸器疾患で, HPを鑑別に挙げた400名のProspective cohort.
内116名がHPと診断(BAL, 肺生検, CT). Validationは261名(HP83名)で施行.
Control群には, IIP, Sarcoidosis, 薬剤性肺臓炎, BOOP等を含む.
HPを示唆する所見は,
OR
|
|
吸入抗原への暴露
|
38.8[11.6-129.6]
|
凝集抗原陽性
|
5.3[2.7-10.4]
|
再発性の症状
|
3.3[1.5-7.5]
|
吸気時ラ音
|
4.5[1.8-11.7]
|
曝露後4-8hr後の症状出現
|
7.2[1.8-28.6]
|
体重減少
|
2.0[1.0-3.9]
|
所見の組み合わせと検査前確率.
全て陽性ならば98%でHPを示唆する.
過敏性肺臓炎の画像検査
胸部XPの役割は診断ではなく, 他の疾患の除外.
HPの約20%は胸部XP正常. CTにてGGOが評価できる.
吸入抗原が原因であるため, CTでは経気管分布をとる. (小葉中心性陰性, GGO)
また, 閉塞性細気管支炎を生じるため, モザイク性にAir trapを生じる.
RadioGraphics 2009;29:1921-38
急性
|
GGO, Micronodules
Mosaic perfusion Emphysema Honeycombing Mediastinal lymphadenopathies |
亜急性
|
びまん性の肺脆弱化
Nodular pattern Reticular pattern Patchy air space opacification Micronodular pattern(<5mm) Ground-glass attenuation Emphysematous changes Honeycombing, Fibrosis |
慢性
|
Ground-glass attenuation
Nodules, Honeycombing Micronodules Emphysema |
縦隔リンパ節腫脹10-20mmは約30%で認める.
慢性化すると線維化が進み, Honeycombing, 牽引性気管支拡張, 気管支拡張を認め, IIPとの鑑別が困難.
HPでは中肺野, 胸膜下の分布が多く, 肺底部が少ない点でIPFとの鑑別が可能かもしれない.
AJR 2007; 188:334–344
慢性HP vs IPF, NSIPの鑑別 (Radiology 2008;246:288-97)
慢性HP18名, IPF23名, NSIP25名の計66名でHR−CTを施行.
2名の放射線科医が読影し, 各疾患の特徴を評価.
慢性HP > IPF, NSIPとなる画像所見は,
Attenuationが低下したLobular area, 小葉中心性の結節, 嚢胞形成.
下肺優位に分布はIPF, NSIPで多く, 上肺優位は慢性HPの方が多い.
上肺野の線維化は慢性HP, IPFで多い.
気管支血管周囲の病変分布は慢性HPでのみ認められている.
末梢優位の病変分布はIPF, NSIPで多い.
まとめると, 慢性HPを示唆するCT所見は
分布; 下肺優位ではない病変, 小葉中心性, 気管支血管束周囲病変,
所見; GGO, Honeycombing, Air trapping. ということになる
他の検査
肺機能検査
肺機能検査自体ではHPと他の疾患との区別はできない.
HPでは拘束性パターン, DLCO(CO diffusion capacity)の低下が主.
肺気腫を合併している場合は閉塞性パターンも認める.
特異抗体
陽性率は低く, また, 陽性=HPと言える訳でもなし.
特異抗原に暴露したヒトではその大半が抗体を有するが, 通常無症候. 抗原陽性者の1-15%程度がHPを発症する.
特異抗体は抗原暴露を証明する情報にはなる.
過敏性肺臓炎のBAL所見
HPに対するBALは重要な検査.
BAL中のLyが正常ならば, HPは否定可能!
ただし, Lyが高値でもHPとは言えない. Ly上昇とは, 非喫煙者でLy>30%, 喫煙者でLy>20%で有意ととる.
間質性肺炎 + BAL中Lyが異常高値ならばHPを強く疑う証拠となる.
HPではBAL中のLyは60-90%となる. 抗原曝露後24-48hrで上昇し, 以後持続する.
抗原に暴露した無症候性患者でもLy高値となる.
BAL中Lyが優位となる疾患
Ly優位(≥15%)
|
サルコイドーシス
HP ベリリウム肺 膠原病性ILD 薬剤性ILD 放射線性肺炎 IIP(NSIP, COP, IPF)
炎症性腸疾患
職業関連肺疾患 Mycobacteria感染 ウイルス性肺炎 |
HPではCD8+ T cellが高値となり, CD4+/CD8+は通常<1.
反対に高値ならばSarcoidosisとなり, 鑑別可能と言われていたが, 急性HPと慢性HPで異なるとの報告がある.
また, 吸入抗原によっても異なってくるため, これだけ判断は困難
健常者(Control)10名, 抗原曝露後2日以内のHP患者4名, 抗原曝露後5日以上経過したHP患者4名, Sarcoidosis 11名. (Chest 1984;85;514-522)
BAL中リンパ球はControl 8±3%に対して, HP 66±20, 74±13%, Sarcoidosis 54±22%と優位に多い.
Ly
|
CD4/CD8
|
|
Control
|
8±3%
|
1.8±0.7
|
HP exposed
|
66±20%
|
0.9±0.3
|
HP not exposed
|
74±13%
|
1.3±0.4
|
Sarcoidosis
|
54±22%
|
1.8±1.0
|
CD4/CD8 比は, 抗原曝露後早期ならばCD4/CD8 <1となるが, 時間が経つとCD4/CD8>となることもあり, 注意が必要となる.
ちなみに健常者のBAL所見 (Clin Pulm Med 2007;14:148-56)
細胞数は100/µL前後が正常となる.
過敏性肺臓炎では, 300-400/µLとなる
BALF中のβ-D-Glucanの上昇も認める. (Respiration 2008;75:182–188)
10例のFarmer’s lung, 4例のsummer-type HP, 10例の健常人でBALF中のβ-D-Glucanを評価.
肺生検
生検をするならばTBLBよりは外科的に生検した方が診断能は良好
組織変化はリンパ球浸潤 → 肉芽腫形成 → 線維化の段階で変移.
大半の急性, 亜急性HPは以下の4所見の組み合わせとなる.
1) Cellular bronchiolitis; Small airwayに沿った慢性炎症細胞浸潤. 内皮の潰瘍性病変.
2) びまん性, 慢性の間質への炎症細胞浸潤. Ly > 形質細胞 > Eo, Neu, 肥満細胞の順.
3) 辺縁不明瞭な非乾酪性肉芽腫の形成. 細胞はLy, 形質細胞, 内皮Histiocyte, ± 巨細胞. 細気管支に生じればBOOPとなる.
4) 肺胞, 間質への巨細胞浸潤.
(Allergy 2009;64:322-34, J Allergy Clin Immunol 2001;108:661-70)
過敏性肺臓炎の治療
最も重要なことは抗原の回避
職業上困難な場合も多い. 換気装置や職場変更などを考慮.
症状が重度の場合はステロイド投与により症状改善を見込める.
PSL50mg/d or 20mg/d. 決まった量は無し. 長期的予後は改善しない.
Low-dose PSLは抗原回避と同等の効果を示す.