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2014年11月21日金曜日

過敏性肺臓炎(2014/11/21 UpDate)

過敏性肺臓炎 Hypersensitivity pneumonitis
Allergy 2009;64:322-34

吸入抗原による肺胞の炎症を来す疾患.
 吸入抗原は様々. 農場のカビ, 干し草, 鳥, 木片, 化学薬品など.
 間質性肺疾患の内, 2%(4-15%)程度を占める稀な疾患.
 抗原によるため, 地域によってもかなり頻度は異なる.
 診断基準が無いため, 真の頻度は不明. (実際, HPとして入院した内の73%が他の疾患であったとの報告も)
 抗原に暴露した内, 5-15%がHPを発症.
 HP患者の80-95%が非喫煙者であるが, 喫煙者の場合は死亡率が高い. (RadioGraphics 2009;29:1921-38)
 真菌が原因の場合, BAL中β-D-glucanが陽性となるとの報告もある. (Curr Opin Allergy Clin Immunol 2010;10:99-103)

過敏性肺臓炎の原因一覧 (J Allergy Clin Immunol 2001;108:661-70)

過敏性肺臓炎の分類 Allergy 2009;64:322-34
発症形式により急性, 亜急性, 慢性に分類.
 急性では, 抗原暴露後2-9hrでFlu-like症状が出現.  6-24hrでピークとなり, 数時間〜数日持続する.
 亜急性では, 数日から数週かけて増悪する咳嗽, 呼吸苦が主. 低酸素を合併し, 緊急入院を必要とすることもある.
 慢性では数ヶ月かけて進行する咳嗽, 労作時呼吸苦. 体重減少や倦怠感を主訴とする場合が多い.
(J Allergy Clin Immunol 2001;108:661-70)

大半のHP症例では, 抗原暴露〜発症まで数ヶ月〜数年.
 例えば, 鳥愛好家では発症まで平均9年間, キノコ農家では5年, Mollusk shell HPでは11年. Hot tub lungは2年間 (RadioGraphics 2009;29:1921-38)


国内の急性HPではSummer-type HPが74.4%と最多
 Farmer’s lungが8.1%, Ventilation pneumonitis 4.3%, Bird fancier’s lungが4.1%, その他が2.3%
J Allergy Clin Immunol. 1991 May;87(5):1002-9.
国内の病院で慢性HP症例をアンケート調査. 22病院から 222例の慢性HP症例の回答があった.
 SubtypeではBird-related HP 134例, Summer-type HP 33例, Home-related HP 25例, Farmer’s lung 4例, Isocyanate-induced HP 3例, その他 23例であった.
Respiratory Investigation 2013;51:191-199


Summer-type HPは夏季にTrichosporon asahii, mucoidesを吸入することで生じる肺臓炎である. BMC Research Notes 2013, 6:371 
 環境に由来するものであるため, 家族内発症例の報告も多い
 SHPの20-25%に家族内発症を認めるとの報告もある
 SHPの90%以上が抗トリコスポロン抗体が陽性で, 抗原吸入試験が誘発される.
 Trichosporon spp.が生育しやすい環境は温度25-28度, 湿度80%前後で湿った木材がある環境. 腐った畳などにTrichosporon asahiiが生息していたりする
 そのような環境の暴露は要注意となる
日本国内の家族性のSummer−type HPの報告地域


過敏性肺臓炎の臨床所見 (Chest 2012;142:208-17)
2つのCohort studyの結果;

HP study*
Mayo Clinic**
女性
56%
62%
年齢
55±14yr
53±14yr
喫煙者
6%
2%
呼吸苦
98%
93%
咳嗽
91%
65%
Flulike symptoms
34%
33%
Chest discomfort
35%
24%
ラ音
87%
56%
Wheeze
16%
13%
バチ指
21%
5%

原因
HP study*
Mayo Clinic**
不明
1.5%
25%
鳥抗原
66%
34%
Farmer’s lung
19%
11%
Hot tub lung
0
21%
カビ
13%
9%


肺機能検査
HP study*
Mayo Clinic**
閉塞性パターン
1%
16%
拘束性パターン
64%
53%
Mixed
1%
NR
非特異的
1%
12%
正常
34%
10%
*Am J Respir Crit Care Med 168. (8): 952-958.2003
**Mayo Clin Proc 82. (7): 812-816.2007


慢性HP 222例の症状, 所見 Respiratory Investigation 2013;51:191-199
 発熱は1-2割程度のみ
 乾性咳嗽が多く、Fine Cracklesは9割以上で認める.
 ばち指の頻度は20-40%程度.

過敏性肺臓炎の診断Criteria
様々な診断Criteriaが提唱されているものの, どれもValidationはされていない為, 診断能は不明.
Terho’s criteria
(Am J Ind Med 1986;10:329)
Major
1) 吸入抗原の暴露, もしくは環境検査にて抗原を認める, 抗原特異性IgG陽性
2) HP
に矛盾しない症状, 抗原曝露後数時間で出現, 増悪を示す
3) HP
に矛盾しない画像所見
Minor
1) 肺底部の捻髪音
2)
酸素拡散能の低下
3)
酸素化の低下
4) Spirometry
で拘束性パターン
5) HP
に矛盾しない組織所見
6)
誘発試験陽性

Richerson’s criteria
(J Allergy Clin Immunol 1989;84:839-44)
Major
1) 病歴, 所見, 肺機能検査にて間質性肺炎を示唆
2) XP
HP疑い
3)
原因となり得るものの暴露歴あり
4)
抗原に対する抗体を認める

Cormier’s criteria
(Thorax 1996;51:1210-5)
Major
1) 暴露歴あり
2)
吸気時ラ音
3) BAL
にてLy優位
4)
呼吸不全
5) CT, XP
で浸潤影
Minor
1) 再発性の発熱
2) DLCO
の低下
3) HP
抗原に対する抗体認める
4)
肺に肉芽腫性病変あり
5)
抗原回避, 適切な治療にて改善

Schuyler’s criteria
(Chest 1997;111:534-6)
Major
1) HPに矛盾しない症状
2)
抗原暴露の病歴. 血液検査, BALにて抗原を認める
3) XP, CT
にてHPに矛盾しない所見
4) BAL
Ly優位
5) HP
に矛盾しない肺組織
6) natural challenge
で陽性
Minor
1) 両側肺底部でラ音
2) DLCO
の低下
3)
低酸素血症
Clinical prediction rule (Am J Respir Crit Care Med 2003;168:952-8)
the HP study
 呼吸器疾患で, HPを鑑別に挙げた400名のProspective cohort.
 内116名がHPと診断(BAL, 肺生検, CT). Validationは261名(HP83名)で施行.
 Control群には, IIP, Sarcoidosis, 薬剤性肺臓炎, BOOP等を含む. 
HPを示唆する所見は,

OR
吸入抗原への暴露
38.8[11.6-129.6]
凝集抗原陽性
5.3[2.7-10.4]
再発性の症状
3.3[1.5-7.5]
吸気時ラ音
4.5[1.8-11.7]
曝露後4-8hr後の症状出現
7.2[1.8-28.6]
体重減少
2.0[1.0-3.9]

所見の組み合わせと検査前確率.
全て陽性ならば98%でHPを示唆する.
過敏性肺臓炎の画像検査
胸部XPの役割は診断ではなく, 他の疾患の除外.
 HPの約20%は胸部XP正常. CTにてGGOが評価できる.
吸入抗原が原因であるため, CTでは経気管分布をとる. (小葉中心性陰性, GGO)
 また, 閉塞性細気管支炎を生じるため, モザイク性にAir trapを生じる.
RadioGraphics 2009;29:1921-38

急性
GGO, Micronodules
Mosaic perfusion
Emphysema
Honeycombing
Mediastinal lymphadenopathies
亜急性
びまん性の肺脆弱化
Nodular pattern
Reticular pattern
Patchy air space opacification
Micronodular pattern(<5mm)
Ground-glass attenuation
Emphysematous changes
Honeycombing, Fibrosis
慢性
Ground-glass attenuation
Nodules, Honeycombing
Micronodules
Emphysema

縦隔リンパ節腫脹10-20mmは約30%で認める.
慢性化すると線維化が進み, Honeycombing,  牽引性気管支拡張, 気管支拡張を認め, IIPとの鑑別が困難.
 HPでは中肺野, 胸膜下の分布が多く, 肺底部が少ない点でIPFとの鑑別が可能かもしれない.
AJR 2007; 188:334–344

慢性HP vs IPF, NSIPの鑑別 (Radiology 2008;246:288-97)
 慢性HP18名, IPF23名, NSIP25名の計66名でHR−CTを施行.
 2名の放射線科医が読影し, 各疾患の特徴を評価.

慢性HP > IPF, NSIPとなる画像所見は, 
 Attenuationが低下したLobular area, 小葉中心性の結節, 嚢胞形成.
 下肺優位に分布はIPF, NSIPで多く, 上肺優位は慢性HPの方が多い.
 上肺野の線維化は慢性HP, IPFで多い.
 気管支血管周囲の病変分布は慢性HPでのみ認められている.
 末梢優位の病変分布はIPF, NSIPで多い.
 
まとめると, 慢性HPを示唆するCT所見は
 分布; 下肺優位ではない病変, 小葉中心性, 気管支血管束周囲病変, 
 所見; GGO, Honeycombing, Air trapping. ということになる

他の検査
肺機能検査
 肺機能検査自体ではHPと他の疾患との区別はできない.
 HPでは拘束性パターン, DLCO(CO diffusion capacity)の低下が主.
 肺気腫を合併している場合は閉塞性パターンも認める.

特異抗体
 陽性率は低く, また, 陽性=HPと言える訳でもなし.
 特異抗原に暴露したヒトではその大半が抗体を有するが, 通常無症候. 抗原陽性者の1-15%程度がHPを発症する.
 特異抗体は抗原暴露を証明する情報にはなる.

過敏性肺臓炎のBAL所見
HPに対するBALは重要な検査.
 BAL中のLyが正常ならば, HPは否定可能!
 ただし, Lyが高値でもHPとは言えない. Ly上昇とは, 非喫煙者でLy>30%, 喫煙者でLy>20%で有意ととる.
 間質性肺炎 + BAL中Lyが異常高値ならばHPを強く疑う証拠となる.
 HPではBAL中のLyは60-90%となる. 抗原曝露後24-48hrで上昇し, 以後持続する.
 抗原に暴露した無症候性患者でもLy高値となる.
BAL中Lyが優位となる疾患
Ly優位(≥15%)
サルコイドーシス
HP
 
ベリリウム肺
膠原病性ILD
薬剤性ILD
放射線性肺炎
IIP(NSIP, COP, IPF)
 
炎症性腸疾患
職業関連肺疾患
Mycobacteria
感染
ウイルス性肺炎
HPではCD8+ T cellが高値となり, CD4+/CD8+は通常<1.
反対に高値ならばSarcoidosisとなり, 鑑別可能と言われていたが, 急性HPと慢性HPで異なるとの報告がある.
また, 吸入抗原によっても異なってくるため, これだけ判断は困難

健常者(Control)10名, 抗原曝露後2日以内のHP患者4名, 抗原曝露後5日以上経過したHP患者4名, Sarcoidosis 11名. (Chest 1984;85;514-522)
 BAL中リンパ球はControl 8±3%に対して, HP 66±20, 74±13%, Sarcoidosis 54±22%と優位に多い.

Ly
CD4/CD8
Control
8±3%
1.8±0.7
HP exposed
66±20%
0.9±0.3
HP not exposed
74±13%
1.3±0.4
Sarcoidosis
54±22%
1.8±1.0

 CD4/CD8 比は, 抗原曝露後早期ならばCD4/CD8 <1となるが, 時間が経つとCD4/CD8>となることもあり, 注意が必要となる.

慢性HP症例 222例の肺機能、BALの結果  Respiratory Investigation 2013;51:191-199
 これからもCD4/CD8比は様々であり, あてにしないほうが良い

ちなみに健常者のBAL所見 (Clin Pulm Med 2007;14:148-56)

細胞数は100/µL前後が正常となる.
過敏性肺臓炎では, 300-400/µLとなる

BALF中のβ-D-Glucanの上昇も認める. (Respiration 2008;75:182–188)
 10例のFarmer’s lung, 4例のsummer-type HP, 10例の健常人でBALF中のβ-D-Glucanを評価.

肺生検
 生検をするならばTBLBよりは外科的に生検した方が診断能は良好
 組織変化はリンパ球浸潤 → 肉芽腫形成 → 線維化の段階で変移.
 大半の急性, 亜急性HPは以下の4所見の組み合わせとなる.
 1) Cellular bronchiolitis; Small airwayに沿った慢性炎症細胞浸潤. 内皮の潰瘍性病変.
 2) びまん性, 慢性の間質への炎症細胞浸潤. Ly > 形質細胞 > Eo, Neu, 肥満細胞の順.
 3) 辺縁不明瞭な非乾酪性肉芽腫の形成. 細胞はLy, 形質細胞, 内皮Histiocyte, ± 巨細胞. 細気管支に生じればBOOPとなる.
 4) 肺胞, 間質への巨細胞浸潤.
(Allergy 2009;64:322-34, J Allergy Clin Immunol 2001;108:661-70)

過敏性肺臓炎の治療
最も重要なことは抗原の回避
 職業上困難な場合も多い. 換気装置や職場変更などを考慮.
 症状が重度の場合はステロイド投与により症状改善を見込める.
 PSL50mg/d or 20mg/d. 決まった量は無し. 長期的予後は改善しない.
 Low-dose PSLは抗原回避と同等の効果を示す.