腹部大動脈瘤
Ann Intern Med 2009 May 5; In the Clinic, JAMA 2009;302:2015-22
通常の大動脈径より50%以上増大していれば動脈瘤と定義
臨床的にはφ>3cmとすることが多い
50-79yrの米軍人にUSを施行したところ, 4.2%で3.0cm以上のAAA(+)
一般的には>50yrで3-10%はAAA(+)
男:女 = 5:1であり, 男性での頻度が3-10%であるところ, 女性は1%程度.
喫煙歴が強いRisk Factorとなる
AAAの成長速度;
Φ4.0-5.5cmのAAAは0.3cm/yrの速度で拡大. <25%で0.5cm/yrの速度で拡大する.
Φの大きさと成長速度は関連があり, Φ3.0-4.0cmは<10%/yr, Φ>4cmでは10%/yrの速度で拡大する.
AAAの破裂率
破裂した場合, 死亡率は80-90%に及ぶ.
病院前死亡率が30-50%, 到着後の死亡が40-50%
Φ<4cmでは破裂率は0.3%/yr
Φ4.0-4.9cmでは1.5%/yr
Φ5.0-5.9cmでは6.5%/yrに及び, >8.0cmでは半年で25%の破裂率となる.
他のRisk Factorとして,
女性 HR 3.00[1.99-4.53]
高血圧HR 1.02[1.00-1.03]/1mmHg↑ が分かっている.
女性 HR 3.00[1.99-4.53]
高血圧HR 1.02[1.00-1.03]/1mmHg↑ が分かっている.
Φ4.0-5.5cmで手術をする群と,
Φ5.5cmとなるまでUSフォローする群ではOutcomeに有意差無し.
Φ5.5cmとなるまでUSフォローする群ではOutcomeに有意差無し.
腹部大動脈瘤の診察; 触診では否定できない
大動脈瘤の径と触診における感度, 特異度 (JAMA Rational Clinical Examinationより)
AAA Φ
|
Sn(%)
|
SP(%)
|
LR(+)
|
LR(-)
|
>=3.0cm (all)
|
39%
|
99.2%
|
12[7.4-20]
|
0.72[0.65-0.81]
|
3.0-3.9cm
|
29%
|
97%
|
||
4.0-4.9cm
|
50%
|
16[8.6-29]
|
0.51[0.38-0.67]
|
|
>=5.0
|
76%
|
肥満, 腹壁緊張, 検者によりさらに感度は低下
腹囲 >=100cm vs <100cmで比較した場合, 感度は53% vs 91%
(全体の感度は82%[AAA Φ>5cm])
腹部触診のκ =0.53 (Arch Intern Med 2000;160:833-36)
AAAのスクリーニングについて
AAAは破裂まで無症候であることが多い
高齢者の3-6%で認めるが, 高血圧, 喫煙, 動脈硬化などRisk(+)群ではさらに頻度は高い
身体所見での感度は70%に満たない
腹部エコーを用いた場合, ほぼ100%の感度を示す
>60yrの男性, >=1 Risk factor(+) をエコーにてスクリーニング Am J of Emerg Med 2008;26:883-7
Risk Factor; 喫煙, HT, Stroke, PVD, DM, AAA家族歴
179名中, 12名(6.7%[3.9-11.4])でAAA(+); Φ >=30mm
その後のフォローにて手術適応となった例が3例認めた
スクリーニングにより死亡率は有意に低下することが分かっている (OR 0.57[0.45-0.74], Φ>5.5cmはOpe目的でコンサルト)
Society for Vascular Surgeryの推奨では,
全ての男性で65yr時にスクリーニングを行うべき
AAAの家族歴(+)群では55yr時にスクリーニングを行うべき
喫煙歴(+)の女性では65yr時にスクリーニングべき としている
U.S. Preventive Services Task Force Recommendation(2014)では
喫煙者では65-75歳時に1回のみUSでスクリーニングが推奨 (B recommendation)
非喫煙者では, 65-75歳時に主治医の判断で適応を決める (C recommendation)
非喫煙者の65-75歳の女性例ではスクリーニングの必要なし (D recommendation)
USPSTFでは, 未だスクリーニングのRisk-benefitが不明確であるとしている. Ann Intern Med. 2014;161:281-290.
このスクリーニング施行群 vs 非施行群を比較した4 RCTsのReview.
Ann Intern Med. 2014;160:321-329.
高齢者; >55-65yにおけるAAAの有病率は4.0-7.2%, 女性では1.3%程度.
アウトカム;
スクリーニング群では当然AAAの早期発見, 手術適応例の発見が増加し, 手術自体も増加する傾向にある.
反対に破裂や緊急手術例は低下し, AAAに由来する死亡リスクも低下する.
しかしながら, 全死亡リスクは有意差がない.
どの程度のリスク因子がある患者で評価すべきか, という基準が次の課題.
AAAを見つけた時のフォロー間隔は
腹部大動脈瘤破裂の所見
AAA破裂の御診断
AAAを見つけた時のフォロー間隔は
Φ3.0-3.4cmでは3年毎
Φ3.5-4.4cmでは毎年
Φ4.5-5.4cmでは半年毎にフォロー J Vasc Surg 2009;50:880-96.
Φ3.5-4.4cmでは毎年
Φ4.5-5.4cmでは半年毎にフォロー J Vasc Surg 2009;50:880-96.
腹部, 鼠径, 背部の疼痛は80-100%
便秘, 排尿障害はそれぞれ22%で認める
失神は26%で経験.
AAAのRupture時に腹部の拍動性腫瘤を認めるのは40-60%のみ
低血圧は50-70%
腹部圧痛が70-90% と, History, 身体所見で完全に評価するのは困難.
画像所見では,
TEST
|
Sn(%)
|
Sp(%)
|
腹部US
|
4%
| |
CT
|
77-94%
|
93-100%
|
USではAAAの存在は評価できても, 破裂の評価は困難.
腹痛 + AAA(+) ⇒ 造影CTを撮ること!
AAA破裂の御診断
AAA破裂187例中, 初期に正しく診断できたのは99例のみ (CMAJ 1971;105:811-5)
誤診断の内訳
誤診断
|
例(88)
|
(%)
|
心筋梗塞
|
17
|
19%
|
尿管結石
|
16
|
18%
|
未診断の腹痛
|
14
|
15%
|
憩室炎
|
9
|
10%
|
小腸閉塞
|
5
|
5.6%
|
消化管潰瘍穿孔
|
4
|
4.5%
|
腸管膜動脈塞栓
|
2
|
2.2%
|
その他
|
21
|
24%
|
疼痛の部位, 放散痛の頻度
AAAの治療: 血管外 or 血管内
OVER trial; AAAに対する待機的治療の適応患者881名のRCT JAMA 2009;302:1535-42
血管内治療(444) vs 開腹手術(437)で術後2年間比較
Outcome
|
血管内
|
外科手術
|
P値
|
全死亡率
|
7.0%
|
9.8%
|
0.13
|
術後30日死亡
|
0.2%
|
2.3%
|
0.006
|
術後30日 or 入院中死亡
|
0.5%
|
3.0%
|
0.004
|
Φ <5.5cm
|
0.5%
|
2.6%
|
0.10
|
Φ >=5.5cm
|
0.4%
|
3.2%
|
0.02
|
間欠跛行の増悪, 出現
|
8.3%
|
4.6%
|
0.02
|
死亡原因, 手技の失敗に関しては両者有意差無し
術後1年以内のMI, Stoke, 下肢切断, 腎不全合併も有意差認めず
血管内治療の方が術後死亡率は有意に低くなるが, 2年間で比較すると有意差は認めない. やや低下する傾向にある.
間欠性跛行は血管内治療群で有意に増加するとの結果
OVER trialの長期予後 (平均5.2年, 最大9年間) N Engl J Med 2012;367:1988-97.
長期での死亡率は両者変わらず.
術後早期(~2yr)では, 血管内治療の方が死亡率は少ない.
術後早期(~2yr)では, 血管内治療の方が死亡率は少ない.
Sub-analysis; 年齢で最も差が大きく,
<70yrでは血管内治療の利点が大きく,
≥70yrでは開腹手術の方が死亡リスク低くなる可能性がある
<70yrでは血管内治療の利点が大きく,
≥70yrでは開腹手術の方が死亡リスク低くなる可能性がある
EVAR 1 trial; >60yrで, 径>5.5cmのAAA患者1252名を, Endovascular vs Open repairに割り付け, 比較したRCT NEJM 2010;362:1863-71
*外科手術適応例のRCTがEVAR 1で, 非適応例をEndovascular治療したものがEVAR 2 trial
Outcome; /100pt-yr
Outcome |
|
Endovascular |
Open repair |
HR |
全死亡 |
全体 |
7.5 |
7.7 |
1.03[0.86-1.23] |
|
0-6mo |
8.5 |
15 |
0.61[0.37-1.02] |
|
6mo-4yr |
6.7 |
6.3 |
1.12[0.86-1.45] |
|
>4yr |
8.4 |
7.9 |
1.09[0.82-1.44] |
動脈瘤関連死亡 |
全体 |
1 |
1.2 |
0.92[0.57-1.49] |
|
0-6mo |
4.6 |
10 |
0.47[0.23-0.93] |
|
6mo-4yr |
0.6 |
0.4 |
1.46[0.56-3.82] |
|
>4yr |
0.8 |
0.2 |
4.85[1.04-22.72] |
Outcome |
|
Endovascular |
Open repair |
HR |
合併症 |
全体 |
12.6 |
2.5 |
4.39[3.38-5.70] |
|
0-6mo |
48.7 |
15.6 |
3.18[2.23-4.52] |
|
6mo-4yr |
9 |
1.1 |
7.92[4.80-13.09] |
|
>4yr |
5.1 |
1.4 |
3.33[1.76-6.29] |
再手術 |
全体 |
5.1 |
1.7 |
2.86[2.08-3.94] |
|
0-6mo |
22.9 |
13.8 |
1.75[1.16-2.63] |
|
6mo-4yr |
3.4 |
0.3 |
9.12[3.90-21.3] |
|
>4yr |
2.4 |
0.8 |
3.24[1.48-7.11] |
OVER trialと同様, 血管内治療では術後早期の死亡率は低下.
しかしながら, 人工血管に由来する合併症は多く, 長期的で見た時の死亡率は同等.
再手術Riskも上昇してしまうとの結果.
しかしながら, 人工血管に由来する合併症は多く, 長期的で見た時の死亡率は同等.
再手術Riskも上昇してしまうとの結果.
EVAR 2 trial; >60yr, 径>=5.5cmのAAA患者で, 開腹術が不適応と判断された404名をEndovascular repair vs 経過観察のみの群で比較したRCT NEJM 2010;362:1872-80
Outcome; /100pt-yr
Outcome |
|
Endovascular |
経過観察 |
HR |
全死亡 |
全体 |
21 |
22.1 |
0.99[0.78-1.27] |
|
0-6mo |
26 |
19 |
1.32[0.68-2.54] |
|
6mo-4yr |
21.4 |
23.6 |
1.02[0.75-1.37] |
|
>4yr |
17.3 |
20 |
0.72[0.42-1.24] |
動脈瘤関連死亡 |
全体 |
3.6 |
7.3 |
0.53[0.32-0.89] |
|
0-6mo |
16.3 |
9 |
1.78[0.75-4.21] |
|
6mo-4yr |
2.3 |
7.6 |
0.34[0.16-0.72] |
|
>4yr |
0 |
5.5 |
NC |
Graft-related complicationは97名(49.2%)の患者に計158回(15/100pt-yr)
術後6年間の間に27%がReinterventionを必要とした.
外科手術に耐えられない患者群において, 血管内治療はAAA由来の死亡Riskは改善させるものの, 全体の死亡Riskは改善させない.
Graft由来の合併症やReinterventionも多いためと予測される.
DREAM study; 平均年齢70yr, 径>5cmのAAA患者で, 血管内治療, 手術治療双方に耐えられる患者351名のRCT. NEJM 2010;362:1881-9
Endovascular vs Open repairに割り付け, 長期予後を比較.
6.4yr[5.1-8.2]フォロー(5yrで100%, 6yrで79%フォロー)
Outcome |
Endovascular |
Open |
AD |
6yr生存率 |
68.9% |
69.9% |
1.0[-8.8~10.8] |
Freedom from Secondary Intervention |
70.4% |
81.9% |
11.5[2.0-21.0] |
他のStudyと同様, 長期予後は両者有意差無し.
再手術率はEndovascular repairで多い.
再手術の原因
Indication |
Open(178) |
Endo(173) |
全原因 |
30 |
48 |
Graft関連 |
4 |
36 |
血栓閉塞 |
3 |
12 |
Endoleak type 1 |
0 |
12 |
Migration |
0 |
7 |
人工血管感染 |
0 |
2 |
Endotension |
0 |
1 |
Material failure |
0 |
1 |
吻合部周囲瘤 |
1 |
0 |
動脈瘤破裂 |
0 |
1 |
創部関連 |
15 |
3 |
切開部ヘルニア |
14 |
0 |
創部感染 |
1 |
2 |
その他 |
0 |
1 |
局所, 全体 |
11 |
9 |
出血 |
5 |
2 |
Endoleak type 2 |
2 |
6 |
腸切除, イレウス |
3 |
0 |
その他 |
1 |
1 |
AAA破裂症例に対する治療
IMPROVE trial; 腹部大動脈瘤破裂例 613例のRCT. BMJ 2014;348:f7661
>50歳で臨床的に腹部動脈瘤, 腹部〜腸骨動脈瘤破裂と診断された患者群を対象.
血管内治療群 vs 開腹手術治療群に割り付け, 予後を比較.
血管内治療群では, CT評価にて血管内治療に適すると判断した場合に施行し, 不適と判断された場合は開腹手術を行う.
血管内治療群に割り付けられた316例中, 283例(90%)がAAA破裂の確定診断をえた.
また, 272例でCT評価を行い, 174例で血管内治療に適すると判断.
不適の理由として多いのは動脈瘤の基部での破裂であった(75/84).
血管内治療は154例で施行された.
不適の理由として多いのは動脈瘤の基部での破裂であった(75/84).
血管内治療は154例で施行された.
開腹治療群に割り付けられた297例中, 261例(88%)で手術を施行.
アウトカム;
30日死亡率は 血管内治療群で35.4% vs 37.4%(開腹術), 有意差無し.
Sub-analysisでは, 女性でより血管内治療群で予後が良くなる以外は, 有意差を認める項目は無し.
血管内治療と開腹手術では, 死亡率は変わらないが,直接病院から自宅退院となる率が有意に良好となる.