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2014年11月18日火曜日

メニエール病

Meniere's disease, メニエール病
BMJ 2014;349:g6544 
再発性の回転性めまい, 変動性の難聴, 耳閉感, 耳鳴を認める
 難聴は変動制, 片側性, 低音声の難聴
 7.5-160/100000の頻度, 2010年では米国で190/100000と言われている
 発作だけなら年に数例は診るかもしれないが, 新規発症例を診るのはかなり稀. 新規発症の回転性めまいで考える疾患ではない.
 好発年齢は40-60歳代

典型的な例では再発性の内耳症状(難聴, 耳鳴, 耳閉感)を伴う回転性のめまいのエピソード.
 発作はまず内耳症状が出現し, その後めまいが出現する.
 回転性めまいは急速にピークを迎え 20分~数時間で改善.
 発作は20分以上は持続するが, 24h以上は続かない.
 通常は片側性であるが, 30%で両側で発作を認めるようになる

早期のMeniere病では内耳症状とめまい症状は其々別個で生じることがある.
 243例の解析では, めまい単独で発症する例が1/4, めまい, 耳鳴, 難聴の3徴を認めるのは1/3程度であった.
 発症から数年経過すると発作時に全てが揃うようになる

発作間欠期では症状は完全に改善している.
 しかしながら晩期になると間欠期でも聴力の低下を認める
 全音域の聴力低下と耳鳴が持続する.
 これは発症から5-15年で生じ, その際はめまいは消失しているが, 軽度の不安定感, 耳鳴, 中等度の片側性の聴力低下を認める

重度のMeniere病で外科的治療を拒否した群のフォローでは
 2年後には60%, 8年後には71%で症状の大半が改善していた.
 聴力の低下は患側で50dB程度であった.
 この経過から, 患者教育としては長期的に見た際は聴力低下がおこるが, めまい発作は改善する可能性が高いと説明することも可能.

一部の患者では転倒発作やTumarkin attackを認める
 これらは意識を失うことなく倒れる発作のこと.
 Tumarkin発作後の患者はすぐに起き上がり, 通常の活動が可能.
 後ろから押された様に感じたり, 突然周囲が動いたりするように感じる.

メニエール病の評価
めまいの評価: 回転性, 浮動性, 前失神, 不安定性.
 回転性のめまいならばBPPV, 前庭神経炎, 前庭性偏頭痛, strokeなど. この中にMeniere病が鑑別にあがる.

典型例では繰り返す20分~数時間持続する回転性のめまい, 内耳症状. 発作時には水平方向性眼振を認めることもある.
 
他に回転性めまいと内耳症状を伴う疾患としては脳底動脈系のTIA, Perilymph fistulas, 聴神経腫瘍が挙げられる.

Red flags:
 神経症状(stroke),
 急性の重度の聴力障害(Fistula, cochlear ischaemia),
 新規発症の頭痛(特に後頭部)(SAH, 頭蓋内圧亢進),
 垂直方向性眼振(脳幹病変)

診断は臨床診断と, 発作時の聴力検査.
 発作時に低音域の聴力低下があり, 間欠期に改善するのを確認する
 Meniere病を疑った患者では原則MRIで聴神経腫瘍の評価を考慮する. 片側性の聴力低下を来す疾患として病態が似ている.

補足) 回転性めまいを呈する6疾患の比較 Am J Otol 1996;17:883-892

N
M:F
年齢
聴神経腫瘍
128
49:79
47[13−73]
BPPV
58
18:40
44[22-69]
Meniere
243
69:174
44[17-79]
突発性難聴
21
14:7
47[28-82]
外傷性めまい
54
28:26
39[18-72]
前庭神経炎
60
25:35
42[13-69]
聴神経腫瘍
 耳鳴は83%で認め, 回転性めまいは49%.
 めまいが無い時も時々不安定感を感じる例が32%.
 めまい(+)の持続時間は数分~4h, 発作は年に3-12回程度.

BPPV例の解析
 回転性めまいは数秒~5分程度と短時間.
 発作は週に数回.
 女性の方が悪心や頭痛が高度な傾向がある.

Meniere病の解析
 発作時間は5分~4時間, 発作は月に1-4回の頻度.
 めまい, 難聴, 耳鳴の3徴を認めるのは32%.
 めまい単独が初期症状であったのが22%.
 めまい発作中に難聴を自覚したのは64%
 突如転倒した例が72%であった. 転倒はめまいや耳鳴の強度に相関
 頭痛が64%, 不安症状が54%

脳神経症状を訴えたが, 他覚所見が得られなかった例が47%
 複視が35%, 顔面知覚鈍麻が14%. これらは発作の頻度, 強さに相関

突発性難聴症例の解析
 突発性難聴の86%で回転性のめまいを, 82%で耳鳴を認めた.
 難聴発作に合わせて短時間のめまいが生じる.

外傷性めまい
 58%で難聴, 67%で耳鳴を認める.
 めまい発作は短く, 15秒~5分程度. 頻度は週に数回程度.
 頭痛は69%.
 中枢神経症状が64%で認められた
 BPPVと同じく体位に関連して生じる例も多く, 外傷性BPPVも含まれていると考えられる.

前庭神経炎
 めまいは1-5日間持続し, 1回のみ.
 悪心は他の5疾患よりも高度. 前庭神経機能の低下も最も高度.

Meniere病の治療 Ther Adv Neurol Disord (2009) 2(4) 223–239, BMJ 2014;349:g6544 
 内リンパ水腫が原因とされており, 治療もめまい発作の予防, 難聴進行の予防が目標となるが, 効果を検討したRCTは乏しく, 経験的治療が中心となっている.
 経験的には, 塩分制限食, 利尿薬, ゲンタマイシン or ステロイドの鼓室内投与. 西欧ではBetahistine(メリスロン®)が使用されることが多いが, アメリカではほぼ使用されない.
 外科的減圧術が用いられることもある.

カフェイン, チョコレート, チーズ, アルコール摂取の制限, 禁煙指導も行われる.

UKの統計では, 94%がBetahistineを使用, 63%が利尿薬, 71%で塩分制限, 52%でSac減圧術, 50%でGrommet挿入をされている.

鼓室内ゲンタマイシン投与
 前庭機能を低下させるまで複数回投与を繰り返す.
 めまい発作予防効果を期待できるが, 50%で難聴進行を伴う.
 前向きCohortでは, 95%がこれによりめまい発作を抑制.
 12mgのゲンタマイシンの鼓室内投与1回のみで成功したのは53%, 2-3回必要としたのは32%であった.
 15 trialのMetaでは, めまいコントロール率は75%

鼓室内ステロイド投与
 後ろ向きstudyでは, dexamethasone 10mg/ml 週1回投与で, 約50%がめまい発作をコントロール成功との結論.
 4mg投与でも効果ありとの報告もあり.

Betahistine(メリスロン®)
 H1, H3 antagonist. 血流改善効果によりリンパ流の回収を促進する
 高用量 48mg/d tid, 長期間 12mo投与のほうがより効果的.
 Low quality evidenceのみだが安い薬剤であり, 試す価値はあるかもしれない

利尿薬
 利尿薬が効果的であるとの結論となった臨床試験は無し.