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2014年10月10日金曜日

百日咳

百日咳 Pertussis
小児期の慢性咳嗽を来す疾患として有名
 DTPワクチンが開始されてからは有病率は低下していたが, Underdiagnosisであった可能性も示唆されており, 近年診断率が再上昇してきている. 特に>7yrの学童, 成人での割合が増加してきている. 

死亡率は2.4/1000000であり, 90%が乳児症例. NEJM 2005;352:1215-22
百日咳の典型的な経過
免疫のない患者での百日咳は3 phaseから成る
 カタル期; 1-2wk, 一般的なViral infectionと同様の症状. 倦怠感, 鼻汁, 軽度の咳嗽, 微熱. 流涙や結膜充血を認めるところが鑑別Pointの1つ.
 潜伏期; 7-10d, 通常のURIを来すVirusと比較して長い. 症状は無いが, 感染性は強い. 逆に, 咳嗽が出現する1-2wk前の患者との接触歴は重要.
 咳嗽期; 発作性の咳嗽が特徴. 1呼気に対して複数の咳嗽を認める. 咳嗽による低換気となり, 吸気がバラバラ >> Whoopを来す. 他の特徴としては, Posttussive emesis, Syndopeを認める.

 2-3mo経過すると, 回復期に移行する.
 100日咳だが, 実際咳嗽は40-70日程度.

小児期に施行するBordetella pertussisワクチンの有効期間は5-10年であり, 多くても12年以上は持続しない.  現在では, 百日咳症例の33%が10-19歳, ≥20歳での発症が23%.
 2001-2005年のCohort study; 咳嗽が>14d持続する5-16yrの172名中, 37.2%[30.0-44.4]で血清学的に百日咳陽性.
 
その内85.9%がワクチン済み. (BMJ 2006;333:174-7)  咳嗽が2-12wk持続する成人201名(18-63yr)で百日咳PCRを評価すると, その内11名(5.5%)がPCRにて百日咳陽性 (CID 1999;29:1239-42)

免疫のある患者での百日咳は非典型的となる.
 慢性咳嗽のみのこともあり, 鑑別は難しい.
 10台, 成人の6日間を超える咳嗽のうち, 13-32%が百日咳との報告もある.

ワクチン接種歴のある小児, 成人(5-30yr)の百日咳患者95名のRetrospective study 
Chest 1999;115:1254-8
 咳嗽は全例に認められたが, Whoopは6%のみ.
 血液検査もWBC 8700(2600), Ly 40%(12)とLy優位でも無し.
症状
%
症状
%
咳嗽
100
Wheezing
7
乾性咳嗽
93
Apnea
7
夜間発作性咳嗽
21
Whoop
6
Posttussive vomiting
13
チアノーゼ
3
発熱
13
Hoarseness
2
湿性咳嗽
7



百日咳の再定義
 成人の百日咳が増加している近年、小児例のような典型的な症状、経過を示さなくなった。
 そこで, Global Pertussis Initiative Roundtable Meeting 2011にて,百日咳の再定義がされた.
Clinical Infectious Diseases 2012;54(12):1756–64

それまでの定義は以下の通り

臨床criteria
Lab, 疫学 criteria

WHO, 2000
2wk以上続く咳嗽と以下の1つ以上
発作性の咳嗽
吸気時のWhooping
咳嘔吐, 他に原因無し
PCRにてB. pertussis検出
ペア血清陽性
clinical case;
臨床criteriaのみ満たす
Lab-confirmed case;
臨床とLab双方満たす.
CSTE/CDC, 2010
2wk以上続く咳嗽と以下の1つ以上
発作性の咳嗽
吸気時のWhooping or 咳嘔吐
他に原因無し
PCRにてB. pertussis検出
Probable; 臨床Criteriaのみ
Confirmed;
臨床+Lab
France, 2009
14日以上の咳嗽と以下の1つ以上
Whoop,
嘔吐, チアノーゼ, 無呼吸
14日以上の咳嗽と
PCR
陽性, 最後のワクチンから3年以上経過した状態で抗PT抗体>100IU/mL, もしくはペア血清で2倍以上の上昇
Epidemiologically confirmed
20
日以内に暴露歴がある
Canada, 2009
Suspect case;
他に原因なく, *の1つ以上を満たす
*発作性の咳嗽
*吸気時Whoop
*咳嘔吐 or 無呼吸
Probable case;
2wk
以上の咳嗽と*の1つ以上
疫学的に一致していない
Confirmed case;
PCR
陽性 + Probable
もしくは
疫学的に一致
Massachusetts, 2009
2wk以上の咳嗽と1つ以上を満たす
発作性咳嗽
Whoop,
咳嘔吐
Bacteriologic case; 培養, PCR陽性
Serologic case; 1
回の検査でPT抗体陽性(≥11歳のみ)+臨床Criteria
Epidemiologically linked case;
患者との接触あり+臨床Criteria

EU, 2008
2wk以上の咳嗽と1つ以上を満たす
発作性, Whooping, 咳嘔吐
もしくは,
乳児において無呼吸(+)
もしくは,
医師に百日咳と診断
B pertussisの検出
PCR
陽性
特異抗体反応
疫学的に暴露がある.
Possible; 臨床criteriaのみ
Probable;
臨床+暴露
Confirmed;
臨床+Lab
Australia, 2004
2wk以上の咳嗽
or
発作性の咳嗽
or Whoop(
)
or
咳嘔吐あり
B pertussis培養, PCR
抗体のSeroconversion, ペア血清
Whole cells
IgA抗体陽性
DFA
B pertussis検出
Probable; 臨床criteria
Confirmed;
臨床+Lab or 疫学

新しい定義では, 年齢別に分類され,
また診断アルゴリズムも年齢別, 発症からの期間で推奨検査がことなる.
年齢別に定義が分かれる.
 成人例, 10歳以上では, 発熱の無い2wk以上の乾性咳嗽と, Whoop, 無呼吸, 発作時の発汗, 咳嘔吐,  夜間増悪のいずれかを満たす.

診断アルゴリズム
咳嗽<3wkならばPCR検査, >3wkならばIgGが推奨.
IgGはワクチン接種から1年以上は経過していることが重要.

百日咳を示唆する所見
JAMAのRational Clinical Examinationより (JAMA 2010;304:890-6)
症状
Sn(%)
Sp(%)
LR(+)
LR(-)
Paroxysmal cough
90.4%
21.4%
1.1[1.1-1.2]
0.52[0.27-1.0]
Posttussive emesis
64.9%
69.9%
1.8[1.4-2.2]
0.58[0.44-0.77]
Inspiratory whoop
44.7%
78.3%
1.9[1.4-2.6]
0.78[0.66-0.93]
 所見で推定するのは結構困難.
 ワクチン接種している近年では病歴も非特異的であり, 亜急性(2-8wk)~慢性咳嗽(>8wk)ならば常に疑う必要がありそう.

南ミネソタにおける百日咳アウトブレイク(2012年)の解析 Mayo Clin Proc. 2014;89(10):1378-1388
陰性例と陽性例であまり症状の差がない. 陽性例の方がより若年というくらいであるが、鑑別点となるものでもない.

百日咳の診断
Bardetella pertussis; Gram-negative coccobacillus
百日咳の検査は, 血清抗体, 鼻粘膜培養, PCRと様々だが, CDCは臨床的な診断は培養, PCRのみで行うべきとしている.
 感染している期間に培養, PCRは行う必要あり. (咳嗽出現より3wk以内, 何らかの症状出現より4wk以内)
 培養は7-10dかかる上に, 感度が30-60%とイマイチ.
 血清検査は4-6wk空けて採取し, Pair血清で評価する必要がある.(2-4倍以上の変化が陽性だが, ハッキリとしたCutoff無し)

Reference Standardを(PCR or 培養 or 抗体検査) + 臨床症状としたとき,

検査
Sn(%)
Sp(%)
培養
15.2%
100%
抗体検査(DFA)
52.2%
98.2%
PCR
93.5%
97.1%
N=319, 内46名が百日咳と診断
DFA; Direct fluorescent-antibody test
Journal of Clinical Microbiology 1999;37:2872-6


Bordetella pertussis agglutinin titer
 2007年に日本国内の大学で百日咳が流行. 計361名で百日咳が診断された.
 上記のうち310名+ Control 246名において, 国内の百日咳凝集素; 山口株(流行株), 東浜株(ワクチン株)の有用性を評価.
(RS; 症状+LAMP; Loop-mediated isothermal Amplification)

山口株 ≥160倍は感染群で有意に多い. (57.4% vs 30.1%, p<0.001)
一方, 東浜株は両者有意差無し
山口株≥160倍はSn 70.6%, Sp 56.6%で百日咳を示唆.
Jpn J Infect Dis 2010;63:108-12

現在はこの山口株, 東浜株の検査は試薬製造中止により検査不可能であり,
代わりに百日咳毒素(PT), 線維状赤血球凝集素(FHA)のIgG検査(EIA)のみ可能.

特異性が高いのはPTであり, 咳嗽出現後 2-4wkで上昇し, 4ヶ月後には陰性化する.
咳嗽出現後4wk後にPT<10EU/mLならば百日咳は否定可能であり,
≥100EU/mLならば診断可能. 
10-100EU/mLではワクチン接種歴がないならば診断可能, 
 摂取歴ある場合はペア血清を行う指針となっている.

百日咳の治療 NEJM 2005;352:1215-22
抗生剤投与が治療となり,
 症状期間の短縮, 感染の予防に有効だが, 症状の緩和, 期間の短縮に関しては, 発症1wk以内の投与のみ効果的とされている.
 学童, 成人例では咳嗽期に来院することが多く, その場合は1wkを超えているため, 治療の必要性はControversial.
 発症3wkまでは細菌が検出されているため, 発症<4wkでは投与が推奨されていることが多い.
 接触歴(+)や妊婦, 医療従事者では, 発症6-8wkでも投与すべき
 治療薬はMacrolide or ST合剤.

抗生剤;
 Azithromycin; 10mg/kg, Max 500mgを初日. 5mg/kg (Max 250mg)を2-4日.
 Clarithromycin; 20mg/kg/d (Max 1g/d) bid, 7日間
 ST合剤; Trimethoprim 8mg/kg/d (Max 320mg/d), Sulfamethoxazole 40mg/kg/d (Max 1600mg/d) bid, 7日間

予防, 発症予防 NEJM 2005;352:1215-22
 百日咳患者に暴露歴のある患者の場合, 症状がなくても抗生剤投与が推奨.
 発症予防効果が認められている. 感染拡大予防にも大事.
 予防はワクチン投与であるが, 5-10年で効果消失
 学童期, 成人での追加投与は対費用効果的にも有効.

百日咳の合併症 NEJM 2005;352:1215-22
 学童, 成人で合併症の頻度は同等. 乳児での合併症が多い
 肺炎を併発するのが2.1-3.5%. けいれん 0.3-0.6%, 脳症 0.1%
 咳嗽による失禁は年齢に応じて上昇する.
 他には腰椎ヘルニア, 肋骨骨折, 外リンパ瘻, 胸痛, 内頸動脈乖離などが考えられる.