Nail-fold Capillaryは爪の起始部を皮膚鏡(Dermatoscopy)で拡大して観察する身体所見.
この部位では人体で唯一、毛細血管が肉眼で観察可能とされる部位であり, 毛細血管障害を来す様な疾患: 強皮症, SLE, 皮膚筋炎, で異常が生じる.
特に強皮症で有名な所見.
強皮症の診断基準にも含まれている (J Rheumatol 2001;28:1573–6)
Type | |
lSSc | RP(客観的) + 以下の1つ以上. SSc-type nailfold capillary pattern SSc selective 自己抗体 RP(主観的) + 以下の2つを認める SSc-type nailfold capillary pattern SSc selective 自己抗体 |
lcSSc | lSSc + 末梢の皮膚変化 |
dcSSc | lSSc + 近位部の皮膚変化 |
Diffuse fasciitis with eosinophilia | lSSc, lcSScを満たさない近位部の皮膚変化 |
自己抗体: 抗セントロメア抗体, Antitopoisomerase I, antifibrillarin, anti-PM-Scl, anti-fibrillin, anti-RNA polymerase I or III
RP: レイノー現象
この診断基準では, レイノー現象 + Nail-fold capillary異常 もしくは 自己抗体が陽性で診断.
つまりNail-fold capillaryと自己抗体が同等の診断能をもつ所見とされている.
ACR/EULAR2013年の強皮症診断クライテリアでは,
このスコアより≥9点で強皮症と診断.
Nail-fold capillaryの異常は2点.
このスコアと他のクライテリアにおける感度, 特異度
(Ann Rheum Dis 2013;72:1747–1755. )
ということで, 膠原病を診る医師にとってはこの所見を知っていて当然ということになる.
ではどんな所見となるか
Nail-fold Capillaryの所見
赤丸の部分を皮膚鏡でキシロカインゼリーで浸潤させて観察する.
ゼリーを使用する理由は皮膚表面の反射を抑制し, 皮下の組織を評価しやすくするため.
A; 正常の毛細血管: 均等な毛細血管ループが密に認められる.
B; 拡張毛細血管
C; 点状出血
D; 血管狭小化, 消失
B; 拡張毛細血管
C; 点状出血
D; 血管狭小化, 消失
このうちB, Dは強皮症で認められる所見で強皮症パターンと呼ばれる.
出血は皮膚筋炎で多い所見とされる.
SSc 27名, 皮膚筋炎 11名, MCTD 8名, Control群でNail-fold capillaryを評価. (Handheld dermatoscopeを使用) (Arch Dermatol. 2003;139:1027-1030)
以下の2つ以上を認める場合をSSc-DM patternと定義
Capillary loopの拡張, Capillaryの消失
Capillaryの分布異常, “Budding” “Bushy” Capillary
Twisted enlarged capillary, Capillary hemorrhage.
Capillary loopの拡張, Capillaryの消失
Capillaryの分布異常, “Budding” “Bushy” Capillary
Twisted enlarged capillary, Capillary hemorrhage.
ドイツ製の皮膚鏡を油浸して評価.
SSc, DM, MCTDで感度>50%.
SLE, RP, Controlでは陽性率0-5%程度. 特異度も高い.
膠原病患者447名のNail-fold capillary所見 (JEADV 2004;18:62-8)
N | Capillary拡張, 消失 | |
Raynaud現象 | 186 | 12.9% |
UCTD | 65 | 13.8% |
SLE | 47 | 8.5% |
DM/PM | 26 | 26.9% |
RA | 14 | 0 |
シェーグレン | 7 | 0 |
SSc | 102 | 65.6% |
SScでは6-7割で陽性.
diffuse cutaneous SScでは87.5%
limited cutaneous SScでは61.6%.
diffuse cutaneous SScでは87.5%
limited cutaneous SScでは61.6%.
DM/PMでも多いが, 27%程度.
日本国内のStudy:
62名のSSc患者, 年齢, 性別をMatchさせた健常人18名, SLE 28名, 皮膚筋炎 10名でNail-fold capillaryを評価. (Journal of Dermatology 2012; 39: 331–335)
患者群の所見頻度
拡張はSSc, DMで多く, 出血, 毛細血管消失所見はDMで多い.
全体的な異常所見はSScの48.4%, DMの80%で認められた.
SSc群における身体所見, 抗体陽性とNail-fold capillary所見の関係
血管拡張, 出血と関連が強いのは手指潰瘍と抗セントロメア抗体陽性.
SSc vs 健常人の判断において, Nail-fold capillary拡張 ± 出血は感度40.8%, 特異度93.5%
Nail-fold capillary拡張は感度34.8%, 特異度88.2%でSScを示唆する.
強皮症の病期とNFC所見の変化 (Journal of Dermatology 2011; 38: 66–70)
早期より毛細血管ループの乱れが生じ, その後拡張を認める.
晩期では毛細血管が消失する経過.
SScにおけるNail-fold Capillaryの異常はSSc由来の間質性肺炎と強く相関する.
SSc患者91名のProspective Study (J Rheumatol 2004;31:286–94)
Nail-fold Capillary異常は肺GGOと有意に相関する.
特にSSc診断5年以内の群では, Nail-fold Capillary異常(+)の14/19で間質性肺炎合併,
一方で異常(-)8名中, 間質性肺炎合併は0例.
特にSSc診断5年以内の群では, Nail-fold Capillary異常(+)の14/19で間質性肺炎合併,
一方で異常(-)8名中, 間質性肺炎合併は0例.
A; 総合重症度評価とGGOの関係.
B; Nail-fold Capillary異常とGGOの関係
B; Nail-fold Capillary異常とGGOの関係
Nailfold capillaryの数の減少は肺高血圧と相関
1mmあたりの血管ループ数 (Ann Rheum Dis 2009;68:191-195)
SSc-non PAH(19)では6.56(2.78)個
SSc-PAH(21)では4.23(1.77)個
Nail-fold Capillaryの異常はレイノー現象(+)患者の将来の強皮症発症予測因子にもなる.
(Arthritis and Rheumatism 2008;58:3902-12)
初診時にRPを認めた784名を評価.
784名中, 1yr以上フォローできた586名で評価した結果, 12.6%がSScと診断. 2.3/100pt-yr
RP(+)患者における, SSc発症のRisk Factors
Factor | HR | Factor | HR |
RP発症年齢/yr | 1.02[1.01-1.04] | ANA(+) | 5.67[1.87-17.1] |
女性 | NA | SSc特異抗体 | 4.7[2.48-8.9] |
臨床所見* | 1.98[1.21-3.25] | 抗Topoisomerase I | 3.8[1.49-9.7] |
Puffy fingers | 1.89[1.12-3.26] | 抗Th/To | 3.56[1.5-5.3] |
NCMにてSScパターン | 4.5[2.7-7.5] | 抗セントロメア | 2.8[1.59-7.9] |
毛細血管拡大 | 7.2[4.2-12.4] | 抗RNAP III | 2.44[1.19-5] |
毛細血管消失 | 2.5[1.2-4.9] |
初診時の所見と数年後のSSc発症率
初診時の所見 | No | @5yr フォロー |
@10yr フォロー |
@15yr フォロー |
|
NCM | SSc特異抗体 | ||||
正常 | Neg | 446 | 1.3% | 1.6% | 1.8% |
SScパターン | Neg | 31 | 22.6% | 22.6% | 25.8% |
正常 | Pos | 65 | 21.5% | 32.3% | 35.4% |
SScパターン | Pos | 44 | 65.9% | 72.7% | 79.5% |
Total | 586 | 9.5% | 11.4% | 12.6% | |
P値 | <0.001 | <0.001 | <0.001 |
NCM異常, SSc特異抗体(+)ではほぼ80%がSScを発症する.
ちなみに強皮症のNFCの評価は手で行うのが基本.
足でも所見は得られるが, 感度が低下するため, 勧められない.
SSc 36名で手と足で評価したところ, 感度は97.2% vs 66.7%
SSc 36名で手と足で評価したところ, 感度は97.2% vs 66.7%
(J Clin Rheumatol 2011;17: 311-314)
また, 健常人の1mmあたりのCapillary loopの数は, 加齢に伴い増加する傾向がある.
Loopが少ない小児でも <5 loop/1mmとなることは無いため, <5 loop/mmは明らかなLoopの減少と捉えられる. (Ann Rheum Dis 2003;62:444–449)