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2023年3月6日月曜日

心筋障害を伴う膠原病

 ○○性の横紋筋融解症+心筋炎症例があったので

膠原病で心筋障害を伴うものはどのような疾患があるのか? を最近のレビューからまとめ

(Autoimmunity Reviews 21 (2022) 103037)


疾患

頻度

特徴

診断に有用な所見

予後への関連

心サルコイドーシス

臨床診断 0.58-7.4%
心臓MR 13-45.7%
剖検 24-45%

見逃されている症例が多い可能性がある
様々な臨床パターン

心内膜生検, PET, AHA, AIDA

予後悪への関連

SLE

臨床診断 3-11%
剖検 15-50%

女性例が90-100%
31%
は心原性ショック

高活動性のLupusは心筋障害のリスク

重症度が低ければステロイドで心機能の改善んが期待

SSc

心内膜生検で 3%程度

心臓Raynaud現象

心臓MRでのびまん性の心筋線維化. AHA, AIDA

SSc関連死亡の26%が心疾患

EGPA

8-38%で心筋炎の報告

好酸球性心筋炎
男女差は無し

ANCA陰性例の方がより頻度が高い

若年診断例で高リスク心筋炎頻度が高いと予後悪と関連

抗リン脂質抗体症候群

稀に報告

致命的な症例の14%が心臓障害を伴うCAPS

心内膜生検心筋MR, 免疫グロブリン, C3沈着所見

CAPSで心筋障害を合併予後が悪い.

皮膚筋炎

38%で心筋障害

心血管障害の合併は主な死因の1つとなる

心内膜生検心筋MR

死亡原因の46.3%が心疾患による

高安病

心内膜生検で50%

アジアの若年女性で多い疾患.

心内膜生検心筋MR, PET

TA活動性と相関して心筋障害を認める

炎症性腸疾患

全体の頻度0.01%
UC
0.018%, 
CD
0.009%
70%
が心外膜炎の報告

5-ASAの薬剤性障害の関連もある.

心筋のリンパ球浸潤や巨細胞浸潤が認められる.

巨細胞性心筋炎は予後不良と関連


サルコイドーシス, SLE, SSc, EGPA, APS, DM, TAK, IBDが代表的なところ.

2023年2月28日火曜日

関節リウマチと線維筋痛症

 線維筋痛症(Fibromyalgia:FM)についてはこちらも参照

http://hospitalist-gim.blogspot.com/2014/04/fibromyalgia.html


1年前に感染症を契機として, 全身の関節痛が出現した中年女性.

近医を受診し, 軽度のCRP上昇, ACPA弱陽性からRAと診断され, DMARDが開始.

しかしながらDMARD開始後も疼痛が改善せず薬剤はどんどん増量.... したが疼痛は持続.

転医を希望され, 紹介となった, という設定の症例.



診察すると腫脹関節は認めないが, 関節はかなり痛がる様子.

おかしいな? と思いエコーを行うが, 滑膜肥厚やPDの亢進所見は認めない.


これは,「 RAだけではない or RAじゃない」のではないかと考えて全身の疼痛を評価すると,

頸部、肩、肘〜 手指はDIP、はたまた関節外の筋把握痛など... さまざまな部位に圧痛を認める


これはFMぽい. 最初はRAだったのか? それは最初に見てないからわからない.

詳細は避けるが, 掘るとどんどん出る環境因子...



ところでRAでFMを合併するのはどの程度か, というのを調べてみた.


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RAとFM

RAとFMSは合併することがある

・報告では381例のRAのうち25.7%でFMの診断基準を満たすものや (Ann Saudi Med 41(4): 246-252. )

 
13.4%で合併するとした前向きCohort 
(Arthritis & Rheumatism (Arthritis Care & Research) Vol. 61, No. 6, June 15, 2009, pp 794–800)

 20.8%で合併していた報告など (Clinical Rheumatology (2022) 41:1235–1240)

・2019年のSystematic ReviewではRAの18-24%, axSpAの14-16%, PsAの18%で合併すると記載 (Best Practice & Research Clinical Rheumatology 33 (2019) 101423)


・およそRAの5-10人に一人がFMを満たす.


FMを合併したRA患者では, 非合併例と比較して,

・圧痛関節数が多く, PGAも有意に悪い.


 ESRやCRPといった炎症パラメータ, 腫脹関節数は有意差なし (Ann Saudi Med 41(4): 246-252. )

・ステロイドや他のDMARDの使用量も多くなる傾向がある. (rev bras reumatol. 2017;57(5):403–411)


FM合併例と非合併例の比較 (Clinical Rheumatology (2022) 41:1235–1240)

・特に圧痛関節数に大きな差があり, その影響でVASやQOLの低下がある

・また, よくうつ症状や不安症状
倦怠感を訴える例も多い.


同様に合併例と非合併例の比較 (Arthritis & Rheumatism (Arthritis Care & Research) Vol. 61, No. 6, June 15, 2009, pp 794–800)

・FMに関連する症状として,

 
頭痛や倦怠感, 異常感覚, 
口渇感やドライアイ
睡眠障害, 気分障害がある

・また, 全身の疼痛が目立つ
圧痛点の数も多い.


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・RAとFMはそれなりに合併があり得る.

・FM合併例ではPGAやTJCが増加し, RAの活動性が高く見積もられるものの, それに対してDMARDを増量しても, 解決にはならない可能性がある. 

・しっかり関節所見の評価, エコーなども用いてFMを意識し, それに対するアプローチを行った方がよりよい疼痛管理, 適切なDMARDの使用ができるのでは.

2023年2月21日火曜日

破傷風

 症例: 高齢者, 腸管穿孔による腹膜炎, 敗血症で搬送された.

 緊急手術となり, 手術自体は問題なく終了. 術後ICU管理となった.

 ICU管理2日後, 意識障害と38度台の発熱, 下肢の筋硬直が出現. 

 顎を確認すると, 開口が困難であった.



さて, 何を考えるか?








というわけで, 表題通り破傷風です.


破傷風はClostridium tetani(破傷風菌)による感染症. 

(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292-301)

・嫌気性のGPRであり, 嫌気状態で芽胞化し, Neurotoxinを放出(tetanospasmin, tetanolysin).


 下肢の創傷, 産後・中絶後感染症, 不衛生なIM, 解放骨折がRisk.

 
他にはIM, IV, 鍼灸, ピアス,
中耳炎, 褥瘡からの感染もある

・QuinineのIM後に
発症するものは予後不良
(QuinineはLow pHであり, 
神経移行性がUPするため)

・また, 30%で明らかなEntryが見つからない

・潜伏期; 24hr~60dと幅広い. 
7-10dが最多. 
感染部位, Toxinの性質に由来.


外科手術後の破傷風

・75例の破傷風症例の解析では,
 外傷後が40.9%, 皮膚障害が33.8%, 外科手術後が16.9%の頻度(Med Sante Trop. 2019 Aug 1;29(3):333-336.)

・近年は抗菌薬や周術期の衛生管理の発展があり,
およそ0-3.5%が外科手術後の発症

・主な感染源は消化管.

・一般人口の1-10%で糞便よりC. tetaniが検出される.

・腹部外科手術, 腸管壊死症例などで, 術後の破傷風を発症した症例報告がある.

(BMJ Case Rep 2019;12:e229701.)


腹部外科手術後の破傷風の症例 (Surg Today (2012) 42:470–474)


ワクチンが普及したとは言え, 
未だ800 000~1 000 000/yrの死亡がある.

(内400 000は新生児例)
死亡率は6-60%

(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292-301)

・死亡例の80%がAfrica, 東南アジア.


 先進国でもたまに見られる疾患であり, 注意が必要.

・アメリカでは0.10/100万人口/yrの発症率(2001-2008年).


 65歳以上では0.23/100万とリスクは増加.
(大半がワクチン未接種 or 10年以内のブースター無しの群)

・死亡率は13.2%

・破傷風による死亡率は年齢差が大きく,
<30yrではほぼ0%, >60yrでは50%に及ぶ.(破傷風の75%が>60yr)

(Southern Medical Journal 2011;104:613-617)


ワクチンは10年毎のブースターが必要

・小児期にDPTワクチンを行うが,
 時間経過と共に効果が消失するため, 10年毎のブースターが推奨

・実際96例の日本人旅行者のAntitoxin levelを評価したStudyでは,
 (J Infect Chemother 20 (2014) 35−37)

 <40歳ではほぼ全例で
ブースター前から破傷風に対する
免疫は有しているが, 

 
≥40歳では約半数のみしか有さない

 
ブースターしても100%ではない.


Neurotoxin: Tetanus, Botulinus Toxinは共通部分が多い

(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2004;75(Suppl III))

・100kDaのHeavy chain, 50kDaのLighter chainを有し,
 H鎖は末梢神経末端のGangliosideに結合し, Endocytosisを起こす.

・H鎖は小胞壁に通過性の孔を形成し, L鎖が細胞質内へ侵入する.

・Botulinus, Tetanus ToxinのL鎖はZn Activated Proteaseであり,
 Synaptobrevin(VAMP), SNAP-25, Syntaxinに結合, 作用する

・ToxinとTarget Proteins

Toxin

Target

Tetanus toxin

VAMP

Botulinum toxin A

SNAP-25

 B

VAMP

 C

SNAP-25

 D

VAMP

 E

SNAP-25

 F

VAMP

 G

VAMP

 ・Tetanus, Botulinumも作用部位は同じであり,
 分解作用, 伝導の阻害作用を示すが,
 一方は強直, 一方は弛緩症状が主.

・Botulinumは末梢神経末端に残存,

・Tetanusは軸索を逆行し, 神経細胞, CNSへ.
 中枢を抑制し, 末梢は興奮してしまう

 ・両方とも自律神経系も同様に作用するが,
 Tetanusの方が強く作用, 自律神経障害を認める


破傷風の臨床

・全身性破傷風; 全身の筋硬直, 疼痛, 頭痛, 硬直性発作

 局所性破傷風; 感染部位周囲の硬直, 疼痛

・全身性が一般的であるが, 局所性の場合は予後は良好.

・初発症状として, Lock jawが最も多い.

・軽い刺激(音, 触, 光, 注射, 吸引) で硬直発作が誘発されるため,
暗室に入院させ, 出来るだけ刺激を避ける必要がある.

・Spasm ⇒ 喉頭閉鎖, 胸郭の運動低下 ⇒ 肺コンプライアンス低下
, 呼吸停止による死亡例が多い.
(新生児では死亡率65-90% without Ventilator vs 10% with Ventilator)

・Spasmは2wkでピークとなり, 
自律神経障害はSpasm発症後 数日~2wkで出現する
 

 交感神経↑ ⇒ 唾液分泌, 頻脈, 高血圧, 下痢と褐色細胞腫Like.

・筋硬直は6-8wkまで持続することもある.


成人例 500名の解析(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292-301)

・Entry Site; 下肢 53.3%, 頭部 10.4%
, 上肢 10.8%, 注射 1.8%
, 不明 22.2%

・潜伏期間;  平均9.5d [1-60]

・初発症状~Spasmまでの期間; 48hr[0-264]

・入院時の症状;

Lock jaw

96%

Spasm

41% 

背部痛

94%

発汗

10%

筋硬直

94%

呼吸困難感

10%

Dysphagia

83%

発熱

7%

Reviewより, 入院時の症状の頻度 (Lancet 2019;393:1657-1668)

破傷風の診断は臨床診断が決め手となる

(Southern Medical Journal 2011;104:613-617)

・特異的な検査は無く, 創部培養も補助手段程度の診断能しかない

・創部培養は通常陰性. 症例の30%程度でしか菌は検出されない.

・検査は他の疾患の除外目的として行われる.

・鑑別診断として,


 Tetany, ストリキニーネ中毒, 薬剤性ジストニア, 狂犬病,
 口腔, 顔面感染症, セロトニン症候群, 蜘蛛刺傷など

 
新生児例では,
 低Ca血症, 低血糖, 髄膜炎, 髄膜脳炎, てんかんも重要な鑑別


重症度


破傷風の治療:

(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2000;69:292-301)

治療は創部のデブリ & 抗生剤で毒素放出の抑制し,
 遊離毒素の中和をTetanus immunoglobulinで行う.

Anti-tetanus Immunoglobulin(テタノブリン); 発症24hr以内に投与.

 Doseは小児も成人も500IUを筋注.
500IU IMは3000-10000IU IMと同等の効果を示す.

 重症例では1500-5000Uを筋注もしくは緩徐に静脈投与

 罹患期間, 重症度の改善効果を示すが,
 Anaphylactic reactionが20%で認められる.

 カテコラミン, ステロイド, 補液を必要とするものは1%程度


・破傷風トキソイド

 Immunoglobulinによる短期的免疫反応に加えて,
トキソイドによる長期的免疫反応を引き起こす.

 トキソイドでアレルギーを来すのは1/50 000と稀
しかも大半が疼痛,浮腫,Flu-like illness.


破傷風トキソイドとグロブリンは同じ部位に投与しては×

注射部位で反応を起こしてしまう.
同じ部位に投与する場合は, グロブリンの投与量を調節すべき

抗生剤の1st choiceはMetronidazole

・Metronidazole; 400mg q6hr直腸投与. 7-10d継続


  500mg q6hr IV投与. 7-10d継続

・他にはエリスロマイシン, テトラサイクリン, VCM, 
クリンダマイシン, ドキシサイクリンなどを使用.

・ペニシリンも有効であるが, てんかん閾値を下げるため避ける

 PCのβ-lactam環より遠位部の構造がGABAと似ており,
 高濃度で使用すると, CNSにてGABA抑制効果を示す可能性が示唆される

 破傷風の中枢性の筋硬直を助長する可能性があり, 避ける.

 Metronidazoleによる治療と比較し,
 Outcomeは同等であるが, 鎮静, 鎮痛剤の必要量は低下する.

呼吸筋硬直, 喉頭閉鎖による呼吸不全治療, 予防に
挿管, 人工呼吸管理も重要な治療

・PropofolはSpasm, rigidityのコントロールも可能で良い適応.
・鎮静剤としてはベンゾも有用 
⇒ 自律神経障害にも有効だが, 半減期が長く,残存する可能性も.
・筋弛緩薬; Pancuronium, Vecuroniumが良く使用される.

自律神経障害

・カテコラミン過剰状態 ≒ 褐色細胞腫の症状と類似.
 発汗, 頻脈, 高血圧, 流涎など
・ベンゾジアゼピンやβ, α阻害薬が有効.
・Diazepamは大量に必要となり, 200mgまで増量することも.

その他の治療

・マグネシウム
 >15yrの破傷風患者256名のRCT; 硫酸Mg IV群 vs Placebo群で比較
(DB, 7dフォロー) (Lancet 2006;368:1436-43)
 Mg; 40mg/kg 30minでLoading
 Wt >45kgでは2g/hr, Wt =<45kgでは1.5g/hrで持続.
 人工呼吸器使用, 生存率は有意差認めなかったが,
 鎮静剤の必要量は有意に低下を認めた.
 副作用は有意差無し

・Vit B6, ステロイド



2023年1月19日木曜日

本の感想: 臨床推論の落とし穴 ミミッカーを探せ!

 献本御礼


臨床推論の落とし穴 ミミッカーを探せ!


総合診療業界の西の雄のお一人である長野広之先生の執筆された本です.

「疾患のミミッカー」という定義には定まったものはなく, 人によりその言葉に持つ印象は異なるでしょう. この本では一般的な疾患を疑う/診断する時に, その疾患に表現型が近い疾患群をミミッカーと定義しています.

つまるところ, ミミッカー =「鑑別疾患の上位5つ」, というような印象でした.

その鑑別を押さえつつ, 診断を間違えないように注意する方策が書かれている. 

そんな内容の本になります.



対象は初期研修近辺かと思います.


個人的にはミミッカーと聞くと,

・正直鑑別に万策突きて, ミミックの可能性がわかっていながら飛び込まねばならないギリギリな感じ.

・それなりに気をつけてても痛い目にあった失敗症例

・想定外に視野のそとからぶん殴られたような症例


をイメージしているので、ミミッカーと呼ぶのには違和感はありました.

ただ, コモンな疾患のコモンな鑑別疾患を扱う本, と考えればよい勉強材料になるのは間違えないので, 初期研修や医学生, 初学者にはお勧めします.

2023年1月9日月曜日

症例: 寝ている時に生じる呼吸苦と肺水腫

ある日の当直で: 近隣の病院より 「中年男性の原因不明の間質性肺炎で診てください」との連絡. 

急性発症の呼吸苦, 低酸素にCTで両側のすりガラス陰影あり, COVID-19は陰性であるとこと.


画像はこのような感じ(CTは論文より;)

(Respiratory Medicine Case Reports 31 (2020) 101153)

・心拡大は認めず, 両側の小葉中心性のGGO分布.
・胸水は認めず.

肺水腫を疑ったが, 心臓の壁運動は問題なし. IVCの拡張も認めなかった.


改めて病歴を聞くと:

・本人は高度肥満: BMI ≥30
・OSASの既往あり、未治療
・高血圧症あり、治療中
・呼吸苦は今までも同じような感じが数回. いずれも寝ている時.
 夜間や早朝、昼寝時など. 起きている時に生じたことはない.
 安静にして数時間休むと改善していた。

とのことであった.


さて, この肺水腫の原因, なんだろうか?



















診断: OSASに伴うNegative Pressure Pulmonary Edema

Negative Pressure Pulmonary Edema(NPPE)またはPostobstructive Pulmonary Edema(POPE)と呼ばれる.
(J Intern Med Taiwan 2015; 26: 63-68)(Can J Anaesth 1990;37:210-8
)(Chest 1988;94:1090-2)

・非心臓原性の肺水腫であり, 過度な胸腔内圧の陰圧により生じる.
・機序には2種類あり,

 Type Iは努力吸気による陰圧形成により生じ,
 
Type IIは慢性経過の気道閉塞の開通後に生じる

・Type Iの例は, 溢頸, 窒息, 誤嚥, 溺水, 気道狭窄, 抜管後の気道狭窄, OSASなど. 
 努力吸気により陰圧を生じる.
・Type IIの例は巨大な扁桃線の切除後など.
 
 そもそもが陽圧(PEEP)となっている状況で, 閉塞が解除され陰圧化することで生じる



最も多い原因は気管挿管患者の管理や, 抜管後の喉頭攣縮に伴うものであり, ICU症例を管理する医師は知っておく必要がある病態.
・気管チューブの狭窄や閉塞
・小児ではクループや喉頭蓋炎
・他は上気道の腫瘍や甲状腺腫, 気道異物
・OSAS, 窒息, 溺水, 声帯麻痺など.

通常の胸腔内圧は吸気時に-2~-8cmH2O程度となる
・健常人では-140cmH2Oまで下げることが可能.
・気道閉塞にて過度な陰圧となると, 肺毛細血管の血流の増加, 間質液の増加を生じ, 肺水腫となる.

 さらに低酸素は肺血管抵抗を増加させ, 右心の拡大を生じ, 左心を圧排する. 
 またストレスによる血圧の上昇は心拍出を阻害する.


診断は病歴が重要.
肺内が過陰圧となったエピソードの後に生じる肺水腫.
・誤嚥性肺炎や心原性の肺水腫, アナフィラキシーが鑑別として重要.
・心原性の場合はBNPの上昇やTropの上昇, 心エコーが鑑別に有用


治療は酸素投与, 必要に応じて陽圧換気(CPAP)
・またフロセミドも使用されることが多い
・肺水腫は3-12時間程度(論文によっては6-24時間と記載)で改善するが, 
一部では48時間程度まで持続する例も報告されている.


2023年1月5日木曜日

膿胸, 肺炎随伴性胸水に対するNaHCO3の胸腔内投与

膿胸や肺炎随伴性胸水ではしばしば線溶作用のある薬剤(ウロキナーゼ)の胸腔内投与が行われる.

外科治療の必要性やドレナージ治療の成功率の改善が期待できる.


しかしながら, 現状ウロキナーゼが品薄であり, 供給が停止している.


そんななか, NaHCO3(重炭酸ナトリウム: メイロン®)の投与が有用かも?という報告.



NaHCO3は抗血栓作用や抗菌作用を有している

(International Journal of General Medicine 2022:15 8705–8713 )

・
Caイオンをキレートし, フィブリノーゲンからフィブリンへの変化を抑制.

・
細菌のバイオフィルム形成, 特にブドウ球菌などのグラム陽性菌の付着力を低下させる作用も期待できる.

・NaHCO3イオンは細菌の膜透過性を変化させ, 細菌自体の構造を変化させる可能性が示唆されている.


35例の肺炎随伴性胸水, 膿胸患者を対象としたRCT

(European Respiratory Journal 2017 50: PA3750; DOI: 10.1183/1393003.congress-2017.PA3750)

・膿性胸水, pH<7.20, 培養/グラム染色陽性例を導入.

・両群で胸腔鏡治療を行い, 且つ

 
8.4% NaHCO3 200mLで胸腔内洗浄を行い, 以後200mL/日を胸腔内投与群と

 
生理食塩水 500mLで胸腔内洗浄群に割り付け, 比較.


アウトカム

・NaHCO3群では88%が完全治癒, 12%が部分治癒

 
対象群では70%, 30%と有意にNaHCO3群で良好の結果.

・在院期間は2.9±1.1日 vs 5.1±1.3日とNaHCO3群で短縮された.


感染性の胸水症例40例を対象とした前向きCohort.

(International Journal of General Medicine 2022:15 8705–8713)

・画像上胸水貯留を認め, 膿性胸水, pH<7.20, 胸水培養陽性のいずれかを満たす症例が対象.

・ウロキナーゼ胸腔内投与による治療群とNaHCO3投与による治療群でアウトカムを比較した.

・ウロキナーゼは1回 10000UI/50mL


 NaHCO3は50 mEq/50mLを使用.


 胸腔穿刺後, トロッカーより薬剤を胸腔内に投与した.

・胸水穿刺は残った胸水を排液するために繰り返された.


・アウトカムは良好な治療成績であり,
 

 十分な胸水排出, 臨床症状の改善, 全身感染の抑制, 画像上の改善で定義


母集団

・Group AはNaHCO3群, Bはウロキナーゼ群


画像所見/検査の比較

・多くが胸腔の半分異常を占める
胸水貯留

・膿瘍は20%

・Gram陽性菌はおよそ半数程度


アウトカム

・抗菌薬投与期間や発熱持続期間, 
治療成功率は両者で有意差を認めなかった.

・複数回の胸腔穿刺の必要性も両者で差は認めない結果.


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まだまだエビデンスは弱く, 規模の大きいRCTが欲しいところではあるが,

現状のウロキ供給停止下では一つの選択肢として押さえておくと良い

2022年12月29日木曜日

ITPに対する新薬: Fostamatinib(タバリス®)は関節リウマチ合併ITPによいかも

新しくITPの治療の選択肢となったFostamatinib

Spleen Tyrosine kinase(Syk)阻害薬である.

・SkyシグナルはITPにおいて抗体を介した血小板破壊の中心的な役割を担う. このSykを阻害することで血小板破壊の抑制効果が期待できる.

・Fostamatinibは経口Sky阻害薬であり,
FIT1, 2 trialsにおいて有意に血小板の改善が得られている.


FIT 1,2: 持続性, 慢性ITP患者を対象

(Am J Hematol. 2018 Jul;93(7):921-930.)

・Fostamatinibを1日2回内服群とプラセボ群に割り付け比較


 投与量は100mgを1日2回, または150mgに増量が可能.

・アウトカムはPLT >5万/µL達成, 維持率

・5万以上を維持できた症例は
投与群で18%, プラセボ群で2%と
有意にFostamatinib群で良好.

・12wk以内にPLT ≥5万達成率は43% vs 14%であった.


FIT 1,2の長期フォロー

(Am J Hematol. 2019 May;94(5):546-553.)

・28ヶ月間において, 44%でCRを達成.

 
TPO製剤が無効であった症例の34%でCR

・有害事象は下痢や高血圧, 嘔気嘔吐, 肝機能異常があったが, 軽症や中等症が主.


ということで, FostamatinibはTPO製剤が無効であったITP症例の1/3でCRが期待できる, 新たな治療の選択肢となる薬剤と言える.


そして, このSky阻害薬がRAでも効果が期待できる.


MTX投与下の活動性RA患者457例を対象とし,
Fostamatinib 100mg bid, または150mg/d(1日1回)群, Placebo群に割り付け, 比較したDB-RCT

(N Engl J Med 2010;363:1303-12.)

・MTXは7.5-25mg/wkを3ヶ月以上使用している状況で,

 
TJ, SJが6箇所以上, 炎症マーカー上昇を認める群.

・他のcsDMARDの併用は可. PSL ≤10mg/dの使用は可.


 bDMARDはWashout期間を経ている場合は使用歴があっても良い.


アウトカム


・Fostamatinib群では有意にACR20, 50, 70達成率が良好.

 
特に100mg bid群(200mg/d)で効果は良い

副作用の頻度


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しばしばRA患者に合併するITP症例はある. またその逆も.

そういった症例で, 難治性ITPでTPO製剤を使用するくらいならば, このsky阻害薬の選択は双方にとってよいかもしれない.

選択肢として覚えておく価値はありそう.