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2014年6月3日火曜日

後天性血友病A: Acquired hemophilia A

後天性VIII因子障害: Acquired hemophilia A (AHA)
(Int. Jnl. Lab. Hem. 2014, 36, 398–407) (POLSKIE ARCHIWUM MEDYCYNY WEWNĘTRZNEJ 2014; 124 (4):200-206)
Acquired hemophilia A(AHA): 第VIII因子に対する自己抗体を産生し, 重度の出血を来す疾患.
 VIII因子障害であり, APTTの延長, PT正常となる.
 自己免疫疾患や悪性腫瘍に合併するものや, 特発性が多い.
 Polyclonal inhibitory immunoglobulins G (特にIgG1, IgG4)による.
 VIII因子に結合し, IX因子, Phospholipid, vWFとの反応を阻害する.
 自己抗体産生にはCD4+ Th1, Th2 cellが関連している.
AHAの頻度は1.5/100万-y, 男女差は無し.
 ただし多くの患者が診断されていない可能性がある.
65-70歳の男性例で特に多く, 加齢に伴い増加する傾向がある.
 <16歳では0.045/100万, >85歳では14.7/100万の頻度.
また, 出産可能年齢の女性でも多く, 妊娠関連AHAは全体の2-21%.
 Inhibitorは出産後3-150日の間に検出されることが多い. 中央値89日[25-180].
 出産後AHAは1/350000出生の頻度.
AHAの臨床像
 先天性の血友病と異なり, AHAはびまん性, 巨大な皮下血腫を呈する.
 疼痛を伴い, 出血性の貧血も多い.
 筋肉内血腫, 粘膜出血, GI出血, 尿路出血と様々な部位から出血がある
 関節内血腫は少ない.
 著明な出血は抗凝固や抗血小板薬を契機として出現することもある.
筋肉内血腫は出血のみならず, 圧迫による阻血, 神経障害も合併する.
 腹壁筋の出血では筋性防御を来たし, 急性腹症と誤診するリスクもある

UKで2年間で診断されたAHA 172例のCohort (Blood. 2007;109: 1870-1877)
発症率は1.48/100万-y, 年齢は78歳[2-98]
年齢分布

原因疾患

FVIII

1y-16y
0.7%
無し
63.33%
重度: ≤1U/dL
29.87%
16-65y
14.3%
自己免疫
16.66%
中等: 1-5U/dL
36.36%
65-85y
63.0%
RA
6.00%
軽症: ≥5U/dL
33.77%
≥85y
22.1%
PMR
2.00%




SLE
2.00%
Inhibitor

男性
42.62%
その他
6.66%
0-10BU/mL
6.25%
女性
57.38%
悪性腫瘍
14.66%
11-100BU/mL
80.56%


肺癌
3.33%
101-1000BU/mL
11.11%


GI
3.33%




前立腺癌
2.00%




その他
5.33%




皮膚疾患
3.33%




Pemphigoid
2.00%




その他
1.33%




妊娠
2.00%



出血部位の頻度:
出血による死亡が9.1%
早期死亡例はGI出血や肺出血が多い.  晩期死亡例では軟部組織, 頭蓋内出血, 後腹膜血腫等
EACH2: 501例のAHA症例のCohort (@ヨーロッパ) (Journal of Thrombosis and Haemostasis, 10: 622–631)
 男性266例, 女性235例. 平均年齢73.9歳[61.4-80.4].
出産可能年齢では女性の方が多く, 高齢者では男性の方が多い.
二峰性ピークをとる.

原疾患の頻度:
特発性
51.9%

薬剤性
3.4%

悪性腫瘍
11.8%

β-lactam

23.5%
固形癌

67.8%
Clopidogrel

17.6%
血液腫瘍

32.2%
β-lactamAbx

11.8%
自己免疫疾患
11.6%

INF

11.8%
RA

34.5%
NSAID

11.8%
他のCTD

13.8%
アミオダロン

5.9%
SLE

8.6%
リバスチグミン

5.9%
自己免疫性甲状腺炎

6.9%
Sunitinib

5.9%
Sjogren症候群

5.2%
ヘパリン

5.9%
抗リン脂質抗体症候群

3.4%
MGUS
2.6%

他の自己免疫疾患

32.8%
PMR
2.2%

妊娠
8.4%

皮膚疾患
1.4%

感染症
3.8%

Psoriasis

42.9%



Pemphigus

42.9



その他

14.3%



輸血
0.8%




その他
8.2%


Cohort studyのまとめ:

特発性が半分. 残り半分は二次性であり,
 悪性腫瘍, 自己免疫疾患, 妊娠, 感染, 薬剤, 皮膚疾患が主なカテゴリー
AHAの診断
 APTT単独の延長で疑い, VIII活性, Mixingテスト, VIII inhibitorの測定(Bethesda assay)を行う.
 APTTは2-3倍に延長することが多い. FVIII活性は<15%に低下する. 66-76%は<5%となる.
Mixingテストは, 患者血漿と正常血漿を1:1で混合し, 37度で1-2h保温後にAPTTを評価する方法.
 FVIII欠損であれば正常血漿でVIIIが補充され, APTTは正常化.
 FVIII inhibitorであれば正常血漿のVIIIが不活化され, APTTは延長のまま.
 1-2h反応させないとAPTTが正常と出てしまう可能性がある.
FVIII inhibitor: Bethesda assay
 InhibitorのTiterはStudyにより, 0.1-2800BU, 中央値12.8, 0.8-717BU, 中央値12.8と幅が大きい.
 Bethesda Unit: FVIII, FIXに対するInhibitorを測定する際の単位.
 患者血漿と正常血漿を等量で混和し, Control(正常血漿+緩衝液の混合)の凝固因子活性と比較. Controlと比べて50%失活した場合を1BU/mLとする.

AHAの治療: InhibitorがあるのでFVIIIの補充は不適
 Inhibitorの抑制として免疫抑制剤の使用(PSL)
 出血時はVIIIの下流にある因子の補充
  FVII(rFVIIa)もしくは活性化Prothrombin complex concentrate(aPCC)を用いる.
rFVIIa(ノボセブン®) 90µg/kg 2-3h毎
aPCC(ファイバ®) 50-100IU/kg 8-12h毎, 最大200IU/kg/d
 rVIIa, aPCCによる出血コントロール率は75-100%と良好.
 ただし, 非常に高価であり, 数百万〜1千万程かかることも.
免疫抑制療法
 PSL 1mg/kg/d 4-6wk継続から開始する.
 もしくはPSL + Cyclophosphamide 1.5-2mg/kg/d ~6wkを併用.
 InhibitorはPSL単剤で58-76%, PSL+CYCでは77-89%で消失する.
 全体的な生存率は単剤, 併用で変わらないため,  患者の年齢, 状態で決定すべき.
 FVIII inhibitorが未検出となり, 活性が50%以上となれば寛解と判断.
 そこまでは大体5wk程度かかる.
 免疫抑制療法中はAPTT, Inhibitor, FVIII活性を毎週測定し, 3-6wkたっても改善しない場合は2nd-lineを考慮する.
2nd-line treatment; CyA 200-300mg/d + PSL
もしくはAzathioprine, 6-merkaptopurine, vincristine, mycophenolate mofetilを考慮.
 Rituximabは42-87%で効果が期待できるため, 好まれるが保健適応無し
 Rituximab 100mg + Dex 40mg/wkを4wk施行 + CYC 1000mgをDay 1,22に投与するレジメで高い寛解率が得られた報告もある.
 高用量IVIGはAHAには効果は期待できない.

Cohortにおける治療選択と反応性 (Blood. 2007;109: 1870-1877)

AHAの予後
 出血の重症度, 基礎疾患により予後は異なる.
 自然寛解も25-36%で認められる. 特に出産後, 薬剤性で多い.
 全体的な生存率は69-78%との報告がある.
 寛解導入できても, 20%は再発する. 再発は最初の2年間で多い.
  従って, FVIII活性は最初の6Mは毎月チェック, その後6Mは2-3M毎のチェック, 最終的に6M毎のチェックの継続は必要.