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2016年1月4日月曜日

心不全 急性期治療における利尿薬の指標はどうする?

心不全の急性期治療では, 利尿薬による前負荷の軽減は重要.
ただし, 利尿の指標はどれにすべきかは医師によって様々である
・うっ血性心不全患者の20-25%が退院後30日以内に再入院する
 そのうちの35%がうっ血コントロールが不良のため
・利尿の指標を臨床症状の改善を指標とする場合, 体重を指標とする場合, BNPを指標とする場合などある
EVEREST trialのデータでは, 起座呼吸, 下肢浮腫, JVD改善を達成して退院した心不全患者の26.2%が再入院を必要としており, 症状や所見の改善のみでは不十分かもしれない.
(The American Journal of Medicine (2014) 127, 1154-1159)

体重を指標とする場合
・体重を指標としたControlとアウトカムを評価したStudyはまだない
・フロセミド40mg IVでどの程度体重が減るか(24h)をDiuretic efficiency(DE)と呼び, 低DEは予後不良因子となる.

心不全患者を対象とした3つのCohortのDEの分布
大体0-500mg程度がピークとなる.
(Circ Heart Fail. 2014;7:261-270.) 

PROTECT trialでは平均DEは380mg[130-800]
(Eur Heart J. 2014 May 14;35(19):1284-93)

ループ利尿薬の投与量, Net fluid output, DEの死亡リスクへの影響
 DEが低い場合は有意な死亡リスク因子となる.
(Circ Heart Fail. 2014;7:261-270.) 

血液濃縮を指標とした利尿
・後ろ向き, 前向きCohortにおいて入院中にHbの増加や, Htの3%以上の増加を達成した群では, 一過性に腎機能が悪くなるが, 退院後の予後改善効果が示唆された.
・Ht5%増加毎に全死亡リスクは18%低下
(The American Journal of Medicine (2014) 127, 1154-1159)

EVEREST trialの解析
(EF≤40%のHF 1684例でVasopressin antagonismの効果を評価したStudy)
・入院時と退院時もしくはDay 7でのHt値を評価
Ht5%上昇達成群では全死亡リスクはHR 0.81[0.70-0.95]
 100日以内の心血管死亡, HF入院リスクはHR 0.73[0.71-0.76]
 100日以降ではHR 0.99[0.96-1.02] 
(European Journal of Heart Failure (2013) 15, 1401–1411)

KorHF registry: 韓国における心不全患者のCohort.
・急性心不全2357例において, 入院中にHtが上昇した例(血液濃縮群) vs 非上昇群を比較.
・血液濃縮を達成した群は1016例(43.1%)であった.
濃縮群ではEvent−Free survivalが65.1% vs 58.1%と有意に良好
 貧血合併群でも62.8% vs 50.8%
 貧血非合併群でも69.5% vs 63.8%と有意に改善する.
 貧血合併群のほうがより改善度合いが良好
(International Journal of Cardiology 168 (2013) 4739–4743)
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心不全の治療における利尿薬投与の指標はHt上昇を指標とすると良い可能性がある.
症状や所見のみでは前負荷の軽減が不十分な可能性があり, 注意.

ただし, 個人的な経験からは, 高齢者では利尿しすぎると高度脱水や心房細動を引き起こし, 血圧低下となる例もあるため, 自分は以下のようにしていることが多い.

① IV投与は症状や所見が改善するまで
② ①を達成後は内服へ切り替え, Ht 3-5%上昇で維持する.
③ 安定していれば利尿薬を微調節して退院.