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2016年1月6日水曜日

ナルコレプシー (N Engl J Med 2015;373:2654-62.)より

N Engl J Med 2015;373:2654-62. でナルコレプシーのReviewがありましたのでまとめます.
ナルコレプシー

・慢性の眠気, 過眠の原因として最も多い疾患の1つ.
・2000人に1名の頻度と比較的多い疾患であるが, 発症~診断まで5-15年と長期間かかる.
 また, 未診断のまま経過する例も多い.

ナルコレプシーの症状
・10-20歳台で突如出現する日中の眠気として発症する例もあれば徐々に進行することもある.
・眠気は強く, 日中の学業や仕事に集中ができなくなる.
 また, 日活動性の行為(映画鑑賞など)も集中が困難となる.
 学力の低下, 仕事の失敗, 交通事故を契機として診断されることが多い

10-20歳台では, 夜更かしによる睡眠不足, 日中の傾眠との鑑別が重要となる
・職業上, 睡眠時間がバラバラの場合も同様.
 ナルコレプシーでは, 十分な睡眠をとった日も眠気が強い.

OSASでは十分な睡眠時間をとっても, 日中の眠気が強い ・OSASとの鑑別点は, ナルコレプシー患者では, 夜間の睡眠後, 日中の短時間の睡眠後はすっきりしていることが多く, その1-2時間後に眠気が再度襲ってくる.
 一方でOSASは寝起きからすでに眠い.

ナルコレプシーはREM睡眠障害を呈する
・REM睡眠は周期的に認める睡眠パターンであり, Rapid eye movement(REM)が認められ, 夢を見る. その間は呼吸筋以外の骨格筋はほぼ全て弛緩する
・通常入眠後はNon-REM睡眠が生じ, その後REM睡眠となるが, ナルコレプシーでは, 入眠直後にREM睡眠が生じることがある.
 その場合, 入眠時幻覚や金縛りとなる.
 入眠時幻覚では, 恐怖感を覚えるような幻覚, 動物に襲われるような幻覚が多い. 鮮明な幻覚となる.
 幻聴は認めない.
・これらの麻痺や幻覚は1-2分程度持続し, 改善する.
・入眠時幻覚や, 麻痺は健常人でも20%で認められるため, 特異的ではない

脱力発作(Cataplexy)
・ナルコレプシーではこのREM睡眠が, 睡眠中に限らず, どの時間帯でも生じるようになる.
・有名なのはCataplexy(脱力発作)で, 強い感情刺激が契機となり, 突如発症の部分的, 全体的な随意筋の麻痺を生じる.
 主に陽性の感情刺激で多く, 笑や突然の友人との再会などが典型的
 一部で陰性感情もある(怒りやイライラなど)
・麻痺は顔面頸部から始まり, 体幹, 四肢へ拡大する経過となる. この場合も呼吸筋は保たれる.
・脱力発作はナルコレプシーに特異的な症状.

脱力発作の例 ・この間意識は保たれており, 1-2分間は動けない状態が持続する
通常脱力発作は1-2分で改善するが, 小児例の脱力発作後ではしばらく筋力低下が続く
・その間歩行が覚束なくなったり, 舌の突出や, しかめっ面となる.
・部分的な脱力発作では, 会話不明瞭や表情筋の麻痺が多い
・脱力発作はType 1のナルコレプシーで認める(後述)

ナルコレプシーには症状以外の問題も多い
・ナルコレプシーでは, 夜間の睡眠も断続的となるため, 眠剤の使用が必要となる.
・これら眠剤は副作用として体重増加もあり, 小児のナルコレプシー患者では肥満となる場合が多い.
・ナルコレプシーでは一般人口と比較して, OSASやperiodic limb movement disorder, 夢遊病, REM sleep behavior disorderなどの睡眠障害を合併するリスクも高い.
・また, ナルコレプシー患者では鬱症状を有することも多い.

ナルコレプシーの診断
・病歴の確認が重要であるが, 診断には夜間PolysomnographyとMultiple sleep latency testが必要
・基本的にナルコレプシーは除外診断となる.
・夜間の睡眠検査にて他の日中の眠気の原因となる疾患を除外する.

慢性の眠気に対する鑑別疾患

夜間のPolysomnography ・ナルコレプシーでは, 断片的な浅い眠りの所見が得られる.
 また, 入眠後15分以内にREM睡眠へ移行する

Multiple sleep latency testでは患者は朝8時から夕5-6時くらいまでの間, 2時間毎に20分間寝るように指導する.
・健常人では入眠するまで15分以上かかるが, ナルコレプシー患者では8分以内に入眠する
・また, この日中の睡眠において, 2回以上REM睡眠が認められるのもナルコレプシーの特徴の1つとなる(入眠時REM睡眠)
 健常人では日中の睡眠でREM睡眠が認められることはまずない
・この検査では, 日中の傾眠と, REM睡眠の異常が証明できる.

睡眠検査を行う前の注意点
・REM睡眠を抑制する薬剤を中止する.
 半減期の長い抗鬱薬は3週間以上前に中止
 精神興奮作用のある薬剤は中止 (覚醒作用のある薬剤は1週間以上前に中止)
・Multiple sleep latency test前に, 1週間分の睡眠記録を取ってもらい, 十分な睡眠がとれていることを確認する.
 不十分の場合は偽陽性が増加する.
・夜間のPolysomnographyでは, 成人では6時間, 小児ではそれ以上の睡眠時間が必要.

ナルコレプシーのタイプ, 原因
現在までに2タイプ確認されている.
・Type 1は脱力発作と, 髄液中のOrexin-A濃度の高度低下が認められ, Type 2は脱力発作がなく, Orexin-A濃度の低下も認められない.
・Type 1は視床下部外側のOrexin-A, Bを産生するニューロンの低下が原因
・Orexin neuronは覚醒時に活発となる神経であり, 脳皮質や脳幹を刺激し, カテコラミン分泌を亢進させる.
 作用は長期間持続するため, 覚醒を維持するのに重要な因子となる
 またREM睡眠を抑制する作用もある

日中の眠気や症状はType 1の方がより強く, Type 1の方が診断は比較的しやすい. ・髄液中のOrexin-A値の測定も有用.

Type 2では診断がしばしば難しく, 複数回の睡眠試験が必要となることもある.

遺伝要素も関係しており,  Type 1の98%がHLA-DQB1*06:02を有する.
・HLA-DQB1*06:02はType 2でも50%で認められる.
 一般人口では30%程度であり, 機序は不明であるが, 関与はあると考えられている
・他の遺伝子の関連も示唆されており, TCRA, TCRB, P2RY11, EIF3G, ZNF365, IL10RB-IFNAR1, CTSHm TNFSF4などが挙げられている
・ただし, ナルコレプシーはそのほとんどが孤発性であり, 両親がナルコレプシーの場合, 子供も罹患する可能性は1%程度.
 患者が1卵性双生児の場合, もう一方で発症するのは30%.

ナルコレプシーの症状の多くは春に発症する
・これは冬季の感染症が誘因となっている可能性が示唆される
 ナルコレプシー発症者の多くはAntistreptolysin Oに対する抗体価が高い報告やある年度で発症例が増加する報告もある.
・H1N1インフルエンザが流行し, PandemrixというH1N1インフルエンザ特異的なワクチンが開発され, 接種された年では, 新規ナルコレプシー診断例が12倍となった.
 発症はワクチン接種後1-2ヶ月後で多い.
 新規発症者はDQB1*06:02陽性の小児例のみ.
・中国ではH1N1流行した2009-2010年では新規発症者は3倍
・これらより, 遺伝因子 + 感染誘因 + 若年が発症に関連していそう

ナルコレプシーの治療
非薬物治療
・夜間の良好な睡眠の確保と, 日中の15-20分の睡眠により日中の眠気は軽快する.
・また, 他の睡眠障害の合併の評価, 対応も重要.
・入眠時幻覚や金縛りは患者教育により対応可能なことが多い
 重度の場合はREM睡眠を抑制する抗うつ薬を使用する

薬物治療

薬物療法: 日中の眠気に対する治療 ・ナルコレプシー患者の大半で日中の覚醒を促す薬剤が必要となる.
・軽度-中等度の眠気ではモダフィニルが有用.
 ドパミンの再取り込みを阻害することで覚醒を促す.
 副作用は比較的少なく, 依存性も低い.
・メチルフェニデート, アンフェタミンなどはより作用は強いが, その分副作用も多い. 依存や中毒のリスクも高くなる.
 Slow-release formulationの薬剤で副作用や依存のリスクは軽減する

薬物治療: 脱力発作に対する治療
・脱力発作は抗うつ薬により改善が見込める
 抗うつ薬はREM睡眠を抑制する.
・Venlafaxine(イフェクサー®)は副作用の観点, 効果の観点から好まれる
・Clomipramine(アナフラニール®)は抗コリン作用による副作用が難点となるが, 脱力発作の誘発暴露前に使用することで予防効果が期待できる. (パーティーや結婚式の前など)
・入眠時幻覚や金縛りは患者教育で対抗可能なことが多いが, 重度の場合は抗うつ薬を用いる

Sodium oxybate: γ-hydroxybutyrateのナトリウム塩
・眠前とその2.5-4時間後の使用により, 良好なnon-REM睡眠を確保可能.
 機序は不明であるが, 日中の眠気や脱力発作の予防効果が期待出来る.
・副作用として悪心や嘔吐, めまいがあり過量服薬にて昏睡のリスクがある.
・中等度-重度の眠気や脱力発作で使用する.
 日本国内では承認されていない.

これら薬物治療を行っても完全に改善することは少ない
・程度は様々ながら日中の眠気や症状は残るため, 患者の家族や職場, 学校スタッフとよく相談し, 配慮してもらうよう指導することは重要
・運転中の事故のリスクも健常人の3-5倍となるため運転を控えるか, 運転前にモダフィニルなどの使用を行う
・同様に職業運転手や高所作業は禁止すべきである.

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