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2014年6月23日月曜日

相対的副腎不全: Relative Adrenal Failure

相対的副腎不全
(NEJM 2003;348:727-34)

重度の急性疾患, 外傷, 熱傷, 術後では
 ストレスによるCRHの分泌亢進, CortisolのNegative feedback抑制
 Corticosteroid-binding globulinも急速に低下 ⇒ Free Cortisolの増加が生じる.
 炎症部位ではさらにCortisolの代謝遅延, Binding Protein低下による局所的Cortisol高濃度が維持される.

相対的副腎不全
 視床下部-下垂体-副腎系の疾患, 抑制がある状態では, 急性疾患, ストレス時のCortisol需要上昇に追い付かず, 相対的副腎不全を呈する場合がある.

 頭部外傷, CNS疾患, 下垂体卒中は下体機能不全の原因となる.
 Etomidate, KetoconazoleはCortisol産生酵素阻害を来たす.

ステロイド療法中の患者では副腎萎縮を来たす
 ステロイド投与期間, 量により程度は異なり, 個人差も大きい.
 Hydrocortisone 30mg/d(Prednisolone 7.5mg, Dexamethasone 0.75mg)を3wk以上投与している患者では副腎不全ありと思って行動する.
 Rifampin, Phenytoinはステロイドの肝代謝を亢進させる

Sepsisの様な多量の炎症性サイトカイン下では末端組織でのCorticosteroid resistanceが亢進し, Cortisolが相対的に足りない状態となり得る
HIVは視床下部-下垂体-副腎系に様々な機序で影響し, 副腎不全を来たすRiskとなる.
 ⇒ HIV患者の急性疾患では常に副腎不全の合併を考慮.

急性疾患下での副腎不全の診断
副腎不全の症状は非特異的
 嘔吐や倦怠感, 下痢, 食欲低下は急性疾患では良くある症状
 Lab testでは低Na, 高K, 低血糖を呈するが, 急性疾患では血糖は高くなり, 補液療法で電解質もアテにならない
 又, 2次性副腎不全ではRenin-angiotensin-aldsterone系は保たれる為, 高K血症は来たさないことが多い.
 急性疾患では低血糖, 好酸球増多を来たすことが非常に稀. ⇒ 上記を認めた場合, 副腎不全の合併を必ず疑うべし.(Sepsisでは低血糖はあり得る)
 治療に反応しない低血圧, 循環不全も副腎不全を疑うようにする.(特にSeptic shockでは)

血清Cortisolでの判断
Cortisol値 <15mcg/dL(414nmol/L)では副腎不全と判断.
 15-34mcg/dLではグレーゾーン,
 >34mcg/dL(938nmol/L)では副腎機能正常と判断できる.
Corticotropin stimulation test
 250mcgのCorticotropinを投与し, 0min, 30min, 60min後にCotrisolを測定
 結果の解釈はControversialであるが, 投与後30-60minでCortisol上昇値が<9mcg/dLは予後不良を示唆する

臨床で用いる基準としては急性期のCortisol値<15mcg/dLが推奨される.
 15-34mcg/dL群でCorticotropin stimulation testが推奨.

しかしながら, StudyではランダムCortisolとCorticotropin Testとの相関性は無いとの結果
82名のSeptic shock患者のCortisol値, Corticotropin testを評価 (Shock 2003;19:13-5)

Basal CortisolとΔcortisolには明らかな相関性が無い.

従って, 重症患者においてRandam Cortisolを測定したり, Rapid ACTHを必ず行う必要性は乏しい.

米国のICU患者に対するアンケートでは, (Journal of Critical Care (2012) 27, 351361)
敗血症患者に対するステロイド投与基準は,
 患者の状態次第とするのが65%. 血清Cortisolを基準とするのが35%であった.
具体的な投与基準は,

SSCG 2012年でも敗血症に対するステロイド使用基準は
『補液, 昇圧剤に反応しない敗血症性ショック』であり, そこにCortsol値やRapid ACTH試験結果は関係していない.
 ステロイド中止に関してもカテコラミンが終了できたら中止することを推奨している.

相対的副腎不全の持続期間は?
Laparotomyを施行された患者の正常Cortisol反応 (NEJM 1997;337:1285-1292)
 術後急速に上昇し, 24-48hrでBaselineに戻る
 術後は正常のCircadian Rhythmは認めない
重度のSepsis, 外傷では高Cartisol期間が持続
 徐々に低下するものの, 1週間以上は持続する

相対的副腎不全の対応 (NEJM 2003;348:727-34)
重症度
軽症
(
感冒, 抜歯, 局所麻酔)
中等症
(
発熱, 軽症外傷,
   Minor surgery)
重症
(Major surgery,
外傷)
Septic Shock
Dose
No Change
15mg Prednisolone/d増量
50mg hydrocortisone
 IM, IV q6hr
200mg hydrocortisone
持続注射
中止時期
No Change
24hrで元のDoseへ戻す
50%/dTapering
7日間投与
Critically ill patientでは, Hydrocortisone 50mg q6hr 7日間が推奨される
 状態, 症状, 重症度に応じて投与量, 期間は異なる.
 q6hrよりも, Hydrocortisone 200mgを24hr持続注射で投与した方が, 血糖コントロールが容易であり, 現在は持続投与が推奨される. (Intensive Care Med (2007) 33:730–733)

ステロイドカバーについて (JAMA 2002;287:236-40)
Stress
Corticosteroid Dose
Minor
鼠径ヘルニア修復
大腸カメラ
軽度の発熱疾患
軽度-中等度の嘔吐, 嘔気
胃腸炎
25mgHydrocortisone
5mg
Methylprednisolone IV
 @ Procedure day only
Moderate
開腹下胆嚢切除
半結腸切除
重度の発熱疾患
肺炎
重度の胃腸炎
50-75mgHydrocortisone
10-15mg
Methylprednisolone
 @ Procedure day,
  1-2日で通常量まで減量
Severe
, 肺のMajor surgery
Whipple procedure
肝切除
膵炎
100-150mgHydrocortisone
20-30mg
Methylprednisolone
 @ Procedure day,
  1-2日で通常量まで減量
Critically ill
Severe sepsis, septic shock
50-100mg Hydrocortisone IV q6-8hr
副腎不全のある患者に対するステロイドカバーは広く行われているが, その有用性に関しては不明な部分が多い.
表皮の手術, 1hr以内の局所麻酔で可能な手技ではステロイド増量の必要性は無し
Prednisone =<5mg/dの内服量であれば増量の必要性は無し

発熱時(>38度), 抜歯, 侵襲的検査では投与量を2倍
下痢, 嘔吐が多い場合は, 吸収阻害も起こるため, 早期にER受診が必要と教育するのも重要
ストレスが大きい場合; 手術, 感染症, MIなどHydrocortisone 80-100mg q8hrが経験的に投与される (健常人が手術侵襲で分泌するのが75-150mg/dとされる)
Hydrocortisoneの大量投与でMineralocorticoid作用も示すため, Fludrocortisoneは中止
ステロイド常用患者(Secondary AI)では, 周術期のStress Doseを行わなくても, 血行動態で有意差は認めない (Arch Surg 2008;143:1222-6, Meta-analysis)

本当にストレスDoseは必要?
副腎不全以外の疾患でステロイド内服している患者を対象としたStudyのMeta.
待機的手術(Major surgery)に際して, Stress Dose vs 通常の投与量継続群で比較した2つのRCTと7つのCohortのMeta-analysis.(Arch Surg 2008;143:1222-6, Meta-analysis)
 2つのRCTでは, 両群で低血圧, 血行動態に有意差無し.
 5つのCohortでも原因不明の低血圧発症例は1例もなし.
 2つのcohortでは各1名ずつ低血圧例(1-5%)あり. ステロイド補充で改善.
 その例では術前36hr, 48hrにステロイド内服中断している.