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2014年6月10日火曜日

IgG4関連疾患②: 自己免疫性膵炎

IgG4関連疾患 (Related systemic disease: RSD) ②: 
自己免疫性膵炎(Autoimmune pancreatitis)

IgG4-RSD①: 総論
IgG4-RSD③: 後腹膜線維症
IgG4-RSD④: その他

自己免疫性膵炎 (Curr Opin Rheumatol 23:80–87)
 慢性膵炎の形をとる, 急性膵炎は稀
 膵炎以外に他の疾患の合併を49%で認める
 男性, 60-70歳代に好発. 男女比は2.85:1.
 最近のStudyでは45yr[25-75]と幅広い年齢層に生じ得る.
 発症率は0.82/100000, 慢性膵炎のうちの2%の原因を占める.
 2/3で閉塞性黄疸, 膵腫大で発症 → 腫瘍との鑑別が大事

 1/3がAIP発症前にDMを発症, 51%がAIPとDMを同時発症.

自己免疫性膵炎には2つのタイプがある (Am J Gastroenterol 2011; 106:151–156)
 Type 1 AIPはIgG4陽性のリンパ球, 形質細胞の膵臓浸潤による硬化性膵炎.
 Type 2 AIPは “Idiopathic duct-centric pancreatitis”と呼ばれる, 顆粒球の膵管上皮障害による膵炎. IgG4陽性細胞は少ない.
 Type 1はアジア諸国で多く認められ, Type 2は西欧での報告例が多い.
 Type 2の好発年齢はType 1よりも10歳程度若く, IgG4上昇も認められない. 膵外病変を伴うことも稀. Type 1と異なり, 急性膵炎, 潰瘍性大腸炎を合併することがある.
 ステロイド反応性はType 1, Type 2共に良好. (Curr Opin Rheumatol 23:80–87)

自己免疫性膵炎44名の比較 (Type 1 28名, Type 2 16名) (Am J Gastroenterol 2011; 106:151–156)
 症状は両者同等だが, 年齢はType 1の方が高い(48yr vs 27yr)
 他の臓器障害はType 1, 炎症性腸疾患はType 2で多い.
 IgG4上昇はType 2 AIPは無し. 
 再発率は両者同等.

自己免疫性膵炎30名の解析では (J Pancreas 2005;6:89-96)
 50%(43-68)でDMを併発(1型が1名, 2型が14名)
 硬化性胆管炎が27%, 関節リウマチが23%, Sjogren’s syn 17%, Nephropathy 12%, 後腹膜線維症 10%で合併

Type 1 DMの併発にはamylase α-2Aに対する自己抗体が関与
 劇症型Type 1 DMの88%, 急性Type 1 DMの21%で陽性.
 Type 2 DMでは6%でのみ陽性となる. (Diabetes 2009;58:520-22)

アジアにおける自己免疫性膵炎 327例の解析
(Pancreas 2011;40: 200-205)
日本, 韓国, 台湾, 中国, インドのRetrospective cohort
 327例中, 男性258例(78.8%), 女性69例. 平均年齢は60歳[54-64.9]
初期症状で最も多いのは閉塞性黄疸(46-74%), 体重減少は4-51%, 腹痛は17-44%.
国により頻度はバラツキが大きい.

CT所見, 検査所見の頻度
 日本と韓国では膵臓はびまん性腫大を示す例が多い(64-81%)が, 台湾, 中国では膵頭部が最多.
 特徴的な膵周囲のHaloは18-42%で認められる.
 IgG4の感度は58-100%, 日本国内では86%.
 抗核抗体は24-40%程度で陽性となる.

膵外症状の頻度

日本(137) 韓国(118) 台湾(47) 中国(25)
硬化性胆管炎 60% 81% 74% 72%
硬化性唾液腺炎 22% 7% 0 4%
硬化性胆嚢炎 10% 2% 0 0
後腹膜線維症 7% 13% 0 4%
腎障害 3% 9% 0 0
間質性肺炎 3% 0 0 0
頸部リンパ節腫脹 10% 3% NE 4%
縦隔リンパ節腫脹 9% 2% NE 0
腹腔リンパ節腫脹 7% 8% NE 0
Pseudotumor 肝臓 1% 3% 0 0
Pseudotumor 1% 3% 0 0
Pseudotumor 傍脊椎 0 1% 0 0
潰瘍性大腸炎 1% 2% 0 4%
糖尿病 1% 2% 0 4%
涙腺腫脹 1% 1% 0 0
甲状腺炎 1% 1% 0 0
副甲状腺炎 0 1% 0 0
前立腺炎 0 1% 0 0
下垂体機能低下 1% 0 0 0
Sinistral portal HT 0 0 0 0

治療; 日本国内では74%がステロイド治療.
 その全例で反応性は良好.
 初期投与量はPSL 40mg/dが53%, 30mg/dが43%と30-40mg/dが多い.

他のシリーズとアジアの症例の比較

自己免疫性膵炎の検査
(Gastroenterol Clin N Am 2007;26:230-57)
IgG4; 正常ではIgG分画の4%
IgG4の上昇を示す疾患
 皮膚疾患(尋常性天疱瘡, 落葉状天疱瘡, アトピー)
 一部寄生虫感染症
 慢性硬化性唾液腺炎(Kuttner’s Syndrome)
 Mikulicz disease(唾液線の良性腫脹)
AIPの62-94%でIgG4上昇を認める
 IgG4>135mg/dLではAIPに対する感度 54%
 IgG4陽性細胞の組織内浸潤も認められる
 ステロイド投与に伴い, IgG4の改善, 所見の改善を認める

IgG4> 135mg/dL: AIPと膵癌との鑑別において, SN95%, SP97%  (NEJM 2001;344:732-8)

45名のAIP, 465名のControl(135名の膵癌含む)での評価では, 感度76%, 特異度93%. 
膵癌 vs AIPでは感度90%となる. (Curr Opin Rheumatol 23:108–113)
 感度はStudyにより様々で, 67-96%と幅がある.
 健常人の5%, 膵癌患者の10%がIgG4>140mg/dLを満たす.

IgG4のCut-offはどうすべき? (Mod Rheumatol (2012) 22:419–425)
膵癌や膵疾患とAIPの鑑別にはIgG4>135mg/Lが使用されるが, 自己免疫疾患との鑑別で上記が有効である保証は無い.
 札幌医大, 手稲, JR札幌病院におけるStudy
 IgG4-RD患者と, 自己免疫疾患患者のIgG4値を評価. (Mikulicz’s disease 66, Kuttner’s tumor 17, dacryoadenitis 11, AIP 8) 
IgG4のCutoff >144mg/dLとすることで, 感度95.10%, 特異度 90.76%でIgG4-RDを示唆
 CSS, APS, RA, PM/DM, 好酸球性疾患, 肝炎, 肝硬変ではIgG4が高値となるので注意.

他の検査
 高γグロブリン血症(>2g/dL); AIPの53-76%
 IgG > 1800mg/dL; AIPの53-71%
 小規模Studyだが, IgG1がAIPに特異的との報告もあり (Pancreas 2006;33:20-6)
 膵酵素上昇(63%), T bil(53%), 肝酵素(73%), 胆道系酵素(83%)で上昇
自己抗体陽性率 (J Pancreas 2005;6:89-96)
ANA
ALF
ACAII
PSTI
RF
ASMA
GAD
ICA
SSA/B
AMA
75%
75%
55%
25%
25%
15%
3%
3%
3%
0%

自己免疫性膵炎におけるBiomarkerを評価 (NEJM 2009;361:2135-42)
 自己免疫性膵炎 35名, アルコール性慢性膵炎 21名, IPMN 18名, 膵癌 110名, RA 20名,  Systemic sclerosis 17名でMarkerを評価.
Autoimmune pancreatitis(AIP) peptide; SKDERRFEQPRV
自己免疫性膵炎での感度85%だが,
膵癌でも55%, アルコール性慢性膵炎で50%陽性となる.
AIP1-7 peptide; SKEDRRF
自己免疫性膵炎の感度90%, 膵癌で10%陽性となる
AIP6-12 peptide; RFEQPRV
自己免疫性膵炎の感度20%. 膵癌では50%が陽性
Plasminogen-binding protein(PBP); AKEERRY
自己免疫性膵炎の感度95%, 膵癌では5-10%が陽性
定量解析ではCutoffを>32000IUとすると, AIPに対するSn95%, Sp97%
AIP vs 膵癌の鑑別においても, Sn95%, Sp90%と良好な成績を示す.
Ubiquitin-protein ligase E3 component n-recognin 2 peptide

自己免疫性膵炎の画像所見
膵臓全体の腫脹(ソーセージ様, 様間の消失), 周囲のHalo.
 MRCP, ERCPでは膵管の不整が特徴
 Mass lesionも認めることがあり, 腫瘍との鑑別が重要 (組織上, IgG4+ cellの浸潤の有無など)
 超音波内視鏡による評価, 生検も有用な検査となり得る (NEJM 2001;344:732-8)
(びまん性膵腫大とHaloを認める造影CT所見)

MRIではHaloはT1, T2でLow intensity
 → Haloは線維被膜であり, 自己免疫性膵炎に特徴的な所見と言える.

自己免疫性膵炎の診断 (Curr Opin Rheumatol 23:108–113)
Proposed Criteria for AIP (Clin Gastroenterol Hepatol 2006;4:1010-6) (@ Mayo clinics)
Group A
膵組織所見
どれか1
陽性
 1; LPSPの所見を満たす
  (リンパ球, 形質細胞の浸潤, 閉塞性静脈炎)
  (花弁状の線維化)
  Lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis
 2; >=10 IgG4陽性細胞/HPF
Group B
画像, 血液検査所見
全て認める
 1; CT, MRIにて膵臓全体の腫脹
  辺縁の後期造影効果
 2; 膵管全体の不整像
 3; 血中IgG4の上昇
Group C
ステロイドへの反応性
全て認める
 1; 原因不明の膵疾患(癌をR/O)
 2; 血中IgG4上昇, IgG4陽性細胞の組織浸潤
 3; ステロイドにて膵症状, 膵外症状の劇的な改善
Revised Japanese Criteria
1
膵管全体, 局所の狭小化, 拡張所見(CT, MRI, US)
2
γグロブリン, IgG, IgG4高値 or ANA, RFの存在
3
小葉間の線維化, 膵管周囲のリンパ球, 形質細胞の浸潤, リンパ小胞
1+ 2or3を満たせば診断. 水癌, 胆管癌の除外は必要.
Modified Japan Pancreas Society Criteria (NEJM 2001;344:732-8)
画像所見(1項目以上)
検査, 組織所見(1項目以上)
Imaging
ERCP, MRCP
Serologic
, 胆道組織
非消化管組織
膵びまん性腫大
膵管狭窄所見
(Segmental)
IgG4上昇
膵管周囲の
リンパ球浸潤,
線維化
尿細管間質性腎炎
免疫複合体の
基底膜沈着
膵周囲のHalo
膵管狭窄所見
(Focal)
IgG, Ig上昇
閉塞性静脈炎
肺間質への
IgG4
陽性形質細胞浸潤
膵頭部の
低吸収性のMass
膵管狭窄所見
(Diffuse)
ALA, ACA II,
ASMA, ANA(+)
IgG4陽性
形質細胞(+)
IgG4陽性形質細胞
による慢性唾液腺炎

Asian Diagnostic Criteria
日本と韓国が合同で作成した2008年のCriteria. (J Gastroenterol 2008; 43:403–408)
Criterion I; 画像(1,2を満たす)
1) びまん性/区域性/局所性の腫大, 周囲のLow(Halo)
2) びまん性/区域性/局所性の膵管狭窄, 胆道の狭窄を伴うことが多い
Criterion II; 血液検査
IgGもしくはIgG4の高値
自己抗体の検出
Criterion III; 組織所見
線維化とリンパ球、形質細胞の浸潤を伴う. IgG4陽性細胞の浸潤
オプション
ステロイド治療への反応性が良好.
Criterion Iと, II-IIIのいずれかを満たす場合, もしくは切除病変においてリンパ形質細胞浸潤を伴う硬化性膵炎が証明された場合に診断

Mayo clinicのCriteriaではIgG4 ≥140mg/dL,
Asian CriteriaではIgG4≥135mg/dL,
他のCriteriaではIgG4≥130mg/dLとしていることが多い.

自己免疫性膵炎の治療
ステロイドが著効
 ステロイド開始後 2週間以内に反応を示す.
閉塞性黄疸, DMがコントロール付いた後に, PSL 0.6mg/kg/dより開始し, 2-4wkl継続する.
 3ヶ月かけて2.5-5.0mg/dの維持量までTaperingし, 3年間継続する.
Mayo clinicでは, 40mg/dより開始し4wk継続.
 その後7wkかけて5mg/wkまでTapering. 第11wkでステロイド中止.
 ただし, この方法では50%が終了後3mo[0-14]で再発.
再発率は高く, 治療終了後6moで32%, 1yrで56%, 3yrで92%との報告もあり, 治療は長期間必要.

膵臓Size, 症状, Lab所見は数週間単位で改善を認める.
反応が乏しい場合は膵癌精査が必要. (AIP+膵癌のOverlapもあり得る)
治療によりIgG4が正常化するのは63%.
 IgG4が正常化した群では再発率は10%のみ.
 IgG4が高値のままの群では再発率30%.
 IgG4は再発率を予測する因子となるが, 完全な指標とはならない. 

ステロイド無しでも24-75%は自然寛解を示す.
 自然寛解する例では, 症状が軽く, IgG4が比較的低値.
 軽症ならば経過観察するのも手.
 ステロイド投与の方が寛解までの期間も短い. 寛解率も高い(98% vs 74%)

ステロイド減量で再発した例に対して,
 Azathioprine 2.0-2.5mg/kg/d もしくは,
 Mycophenolate mofetil 750mg bid 6mo[2-19]がMayo clinicではおこわなれている.
 ステロイド反応性が悪い症例ではRituximab投与, Bortezomib投与も行われている.