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2014年6月21日土曜日

腸間膜脂肪識炎: Mesenteric panniculitis

腸間膜脂肪識炎 Mesenteric Panniculitis
World J Gastroenterol 2009 August 14; 15(30): 3827-3830
Mesenteric Panniculitis: 慢性の非特異的な腸間膜の脂肪織の炎症, 線維化を来す病態. 原因不明であることが多い.
 別名: Sclerosing mesenteritis, mesenteric lipodystrophy, mesenteric sclerosis, retractile mesenteritis, mesenteric Weber-Christian病, liposclerotic mesenteritis, lipomatosis and lipogranuloma of the mesentery.

 自己免疫性, 感染性, 外傷性, 虚血性, 腹部手術の既往,  悪性腫瘍の関連性が示唆されている.

 有病率は0.6%. 白人男性に多く, 男女比は2-3:1との報告がある.
 また, 成人例に多く, 小児例は少ない

90%のMesenteric panniculitisは小腸腸間膜で生じる.
 S状結腸腸間膜で生じる例も報告されている.
 稀であるが, 結腸腸間膜, 膵臓周囲, 大網, 後腹膜, 骨盤で生じる例もあり

症状は6ヶ月[2wk-16y]かけて進行.
 無症候性のものもあるが, 有症状の場合は症状は様々.
 腹痛, 食欲低下, 腹満感, 悪心, 発熱, 体重減少等.
 不明熱として受診する場合もある (CLINICS 2012;67(3):293-295)
 腹部の触診で多発性のMassを認める例もある.
 稀ながら急性腹症や腸閉塞, 消化管出血, 黄疸等もある.

Sclerosing mesenteritisは3つのPhaseがある
 1)Mesenteric lipodystrophy: 腸間膜脂肪細胞がFoamy Mφに置き換えられる.
 急性炎症所見は乏しく, 無症候性の事が多い. 予後も良好.
 2)Mesenteric panniculitis: 形質細胞浸潤と軽度の多核球, 異物巨細胞, Foamy Mφを認める. 発熱, 腹痛, 悪寒を伴う.
 3)Retractile mesenteritis: コラーゲンの増加, 線維化, 炎症所見を認める. 腹部腫瘤を形成し, 腸閉塞のリスクにもなる.

画像所見
血管周囲はスペアされ, 周囲の脂肪織の混濁がある所見を “Fat ring Sign”と呼び, MPに特徴的な所見とされる.
Sivrioglu AK, et al. BMJ Case Rep 2013. doi:10.1136/bcr-2013-009305

Fat ring sign: http://images.radiopaedia.org/images/634539/638359f0f2ced01f8783800fb4d5fb_gallery.jpeg

鑑別診断

リンパ腫との鑑別点.
 リンパ腫では治療後でない限り石灰化は認めない. また, 腫瘤内部の虚血もリンパ腫では基本的には認めない.
 腫瘤が巨大となり, Discrete nodeを認める場合はリンパ腫.
 リンパ腫もSclerosing Mesenteritisもリンパ組織内の血管を含むが, 後者では血管周囲の組織はスペアされ, “Fat ring sign”を認める.

Carcinoid tumorとの鑑別
 Sclerosing MesenteritisもCarcinoidも石灰化を伴い, 線維形成反応を伴う. また, 双方とも虚血や閉塞も来す.
 Fat ring signはSMとCarcinoidの鑑別でも有用. Discrete enhancing massが腸管壁に認めたり, Hypervascular liver metastasesを認めた場合はCarcinoid tumor
(RadioGraphics 2003; 23:1561–1567)

Mesenteric PanniculitisはIgG4関連疾患でもある

Sclerosing mesenteritisの4/12(33%)が組織所見でIgG4関連性であった報告もある. 
(AJR 2013; 200:102–112)
Sclerosing mesenteritis 92例の解析
(CLINICAL GASTROENTEROLOGY AND HEPATOLOGY 2007;5:589–596)
Mayo clinicで1982-2005年に診断された症例.
症例の年齢, 背景, 合併疾患, 症状頻度
特徴

症状

腹部手術

男性
70%
無症候性
10%
胆嚢摘出
18%
年齢
64.5y[55-72]
腹痛
70%
虫垂切除
13%
偶発的な発見
10%
腹部膨隆
26%
経腹子宮切除
4%
腹部手術歴+
35%
下痢
25%
結腸切除
3%
ESR上昇
10%
体重減少
23%
Whipple
1%
SMによる合併症
66%
悪心, 嘔吐
21%
S状結腸切除
1%
小腸閉塞
24%
食欲低下
16%
合計
41%
乳び腹水
14%
便秘症
15%


SMV塞栓
3%
発熱
6%


結腸静脈瘤出血
1%
盗汗
3%


膠原病との合併
10%




後腹膜線維症
5%
腹部所見正常
51%


シェーグレン
3%
腹部圧痛
24%


強直性脊椎炎
1%
腹部腫瘤
15%


関節リウマチ
1%
乳び腹水
14%


サルコイドーシス
1%




悪性腫瘍合併頻度
腹腔内疾患の合併

卵巣癌
3%
NHL
3%
前立腺癌
2%
Endometrial sarcoma
1%
小腸間膜のLymphangioma
1%
小腸カルチノイド腫瘍
1%
腹部大動脈瘤
1%
Sclerosing pancreatitis
2%
Metanephric adenoma
1%
合計
18%
MPと悪性腫瘍の関連
2003-2010年にCTで診断された腸間膜脂肪識炎 118例 (Dis Colon Rectum 2012; 55: 806–809)
 有病率は 0.16%. 男性例が92例. 年齢は61歳[20-88].
 十二指腸腸間膜が80.5%と最も多かった.

45例(38%)が悪性腫瘍に随伴するものであった.
 大腸癌 14例, リンパ腫 13例, 泌尿生殖器 7例.

悪性腫瘍に関連する因子としては
 リンパ節 ≥1.2cmがHR 4.5[1.4-14.6]とリスク因子となる.


腹部CT所見レポートから “Panniculitis” という単語を抽出.
(J Clin Gastroenterol 2013;47:409–414)
 147794件の腹部CTより, 359例の腸間膜脂肪識炎を検出 (0.24%)
 男性例 67.1%, 年齢 66.9歳[19-97]
359例中, 悪性腫瘍の既往があるのが81例,
 MP診断時, フォロー中に悪性腫瘍が診断されたのが30例.

悪性腫瘍の原発は以下の通り.
 血液腫瘍が占める割合は多い.

MPの経過
 Stable, 改善するのが80-90%.
 新規に悪性腫瘍が診断された群でも改善する例は多いが, 他のよりも増悪するリスクも高い.

治療, 自然経過, 予後
Mesenteric panniculitisは殆どの症例で自然に改善.
 触知可能なMassは2-11年残存することもある.
様々な治療が試されるが, 決まった治療はない.
 薬物治療は基本的には症候性症例でのみ適応される.
 偶発性の腫瘤は基本的には経過観察.

治療はステロイド, サリドマイド, シクロホスファミド,  プロゲステロン, コルヒチン, アザチオプリン, タモキシフェン, 抗生剤等.

治療アルゴリズム
CLINICAL GASTROENTEROLOGY AND HEPATOLOGY 2007;5:589–596