コルヒチンは結晶性関節炎や家族性地中海熱など炎症性疾患の治療薬となり, さらに近年心血管イベント抑制効果が証明されており, 今後使用頻度もさらに上昇する可能性を秘めた薬剤.
このコルヒチンであるが, 使用に際してはいくつか制限がある.
有効血中濃度が狭く, しばしば副作用や中毒を呈しやすい.
・コルヒチンは基本的には腎障害や肝機能障害がある患者で, さらにCYP3A4阻害薬やP-gp阻害薬と併用する場合は禁忌となる.
・それぞれ個別の場合は慎重投与.
・CYP3A4阻害薬: アゾール系(ボリコナゾール, イトラコナゾール, フルコナゾール), エリスロマイシン系(テリスロマイシン, クラリスロマイシン, エリスロマイシン), サキナビル, ネファゾドン, ジルチアゼム, ベラパミル, シメチジン, グレープフルーツ
・P-gp阻害薬: ベラパミル, クラリスロマイシン, エリスロマイシン, イトラコナゾール, シクロスポリン, キニジン, リトナビル, ネルフィナビル, プロパフェノンなど
・また副作用の筋症リスクが上昇する可能性があり, スタチンとの併用では注意すべきとしている報告もある (相乗効果の有無や機序は不明確)
コルヒチンの薬物動態 (Clinical Toxicology (2010) 48, 407–414)
・消化管で速やかに吸収され, 血中濃度ピークは0.5-3時間
・吸収後は肝臓で代謝されるため, Bioavailabilityは25-50%程度と低い
・治療量では, 蛋白結合率は10-50%, Vol of distributionは2-12L/kg
OverdoseではVd 21L/kgとなる.
・半減期は治療量で4.4-16h, Overdoseでは11-32h 投与
9日後にも尿中からコルヒチンが検出され, 白血球内に存在する.
白血球内のコルヒチンの半減期は60時間.
・代謝は肝臓のCYP3A4が関連して行われ, 胆汁内に排泄.
その多くが腸肝循環にて再吸収される.
・腎クリアランスはコルヒチンの全代謝の10%程度を占める.
・腎障害や肝障害があると, 著しくクリアランスは低下する.
・P-gp(MDR1[ABCB1]遺伝子にコードされる膜内ATPase排出ポンプ)の阻害があると, 腸管からの吸収が促進され, 肝排泄が低下するため, それも中毒のリスクとなる.
作用機序 (Clinical Toxicology (2010) 48, 407–414)
・細胞内蛋白のtubulinに結合し, tubulinのα, β型が重合して微小管を形成するのを阻害する
・これによりゴルジ体でのタンパク質の合成が阻害され, エンドサイトーシスやエキソサイトーシスが減少し, 有糸分裂が停止する.
・また, 微小管ネットワークの障害は好中球膜上の接着分子の発現を低下させ, サイトカイン産生を抑制する.
好中球では, P-gpの発現が少ないため, リンパ球と比較してコルヒチンの濃度が3倍高く, より好中球の作用を低下せることが予測されている.
・また, 肥満細胞からのヒスタミン放出の抑制や インスリン分泌の阻害作用なども認められている
・中毒量では, この細胞分裂の停止が過度に生じ, 多臓器障害を生じる
特に分裂が多い骨髄や消化管, 毛胞は影響が生じやすい
・心筋細胞の微小管に結合することで, 心臓の伝導と収縮を阻害する作用もある.
腎障害(-), 軽症, 中等症, 重症腎障害, ESRDで透析あり/なし患者の各8例に対してコルヒチン 0.6mgを1回投与した際の血中濃度を評価
Cohort 1: ClCr ≥90mL/分 Cohort 2: 軽症腎障害 eGFR 60-89mL/min/1.73m2
Cohort 3: 中等症 eGFR 30-59 Cohort 4: 重症 eGFR 15-29
Cohort 5: ESRD, eGFR <15 透析患者では, 透析前, 中, 後で投与.
・Cmax, tmaxは腎機能障害患者でも大きくは変わらず・半減期は,
健常Control群で30.6±5.43h,
軽症腎障害群ではほぼ同等. 中等症ではx1.3倍, 重症例ではx1.6倍
・Total body clearance(CL/F)は
中等症でx0.5, 重症例でx0.4と低下するが, ESRD群では大きく変化なし
・ESRD患者におけるコルヒチンの血中濃度が低いレベルで推移した理由は不明.
肝代謝の変化や蛋白結合率の変化では 説明できず,
胆汁排泄の増加が予測されるものの確定的なことが言えないと結論
・また, この報告から, 3-4hの透析で除去されるコルヒチンは平均5.2%, 最大でも10%程度
・維持透析患者で長期的にコルヒチンを使用(0.5-1.5mg/d)した22例では Control群を比較して明らかな問題は生じなかった報告もあり, 患者によっては使用可能な可能性もある(American Journal of Therapeutics 21, e189–e195 (2014)
・若年(18-30y)+腎機能正常群(CrCl≥80mL/min)と高齢(≥60y)+軽度腎機能低下(CrCl≥50mL/min)におけるコルヒチン1回投与後の動態を比較した報告では, 両群で薬物動態は同等.(Adv Ther (2012) 29(6):551–561.)
これら報告からは, 軽度の腎障害であれば, コルヒチンの動態は健常人と同等といえる.
また, 透析患者やESRDでは代償性に胆汁排泄が高まっているのか, 血中濃度は上昇しにくい可能性がある(が, 当然注意は必要である)
最も危ない患者は中等症〜重度の腎障害がある患者群. GFR 15-50mL/min/1.73m2程度.
この群では半減期の遅延が生じ, 蓄積しやすい可能性がある.
参考書からの, コルヒチンのRenal dose
(American Journal of Therapeutics 21, e189–e195 (2014))・痛風の治療において,
ClCr 35-49mL/minでは0.6mg/d,
ClCr 10-34mL/minでは0.6mgを2-3日毎
ClCr <10mL/minでは投与を推奨しない とする推奨もあり (N Engl J Med. 2003;349:1647–55.)
CYP3A4またはP-pg阻害薬と併用する場合は, 特に腎障害がある場合, 痛風急性期では投与量を33-66%に減量 慢性期の予防では50-75%に減量することが推奨される. (Clin Drug Investig (2014) 34:845–855)
・隔日投与〜数日毎の投与とする方法もよい方法
・シクロスポリンはコルヒチンの血中濃度を上昇させるが タクロリムスは基本的には問題なし.
ただし一部で中毒症の報告はある (Clinical Transplantation. 2018;e13405.)
----------
こういったことを踏まえて,
腎機能が低下した症例や高齢者でコルヒチンを使用する場合,
eGFR<50の症例では0.25mg/d(半錠)〜0.5mgを隔日投与
eGFR10-30の症例では0.25mg隔日投与 とかしています.
あまり長期間にならないように, また副作用には注意しつつ使用します.
適応となる症例は少ないですが, 偽痛風を繰り返す高齢者がこれで全く発作なく長期間過ごせることもあり, まんざら捨てたものではない治療とも思います.