脾臓の役割 Am J of med 2008;121:371-5
脾臓はリンパ系の臓器にもかかわらず, リンパ組織からの連絡がない, 血流のみ流入
脾臓の役割は大きく4つ
Filtration function
Immunologic function
Reservoir function
Hematopoietic function
Filtration function
Immunologic function
Reservoir function
Hematopoietic function
脾臓の構造; 赤髄, 白髄, 中間層に分かれる. Lancet. 2011 Jul 2;378(9785):86-97.
赤髄は血液を多く含むスポンジ状の構造
白髄は脾動脈からの分枝の周囲で, T cell, その周囲にB cellが収束.
B cellの収束域は濃く染まり, Mantle zoneと呼ばれ, 小型の増殖したB cellが集まり, 中心の明るい部分をGerminal centreと呼び, B cellの選別を行う領域.
B cellの収束域は濃く染まり, Mantle zoneと呼ばれ, 小型の増殖したB cellが集まり, 中心の明るい部分をGerminal centreと呼び, B cellの選別を行う領域.
Marginal zoneでは, Memory B cellを多く含まれる.
マクロファージ, 線維芽細胞を含むperifollicular areaと接する部位.
血流が赤脾髄に流入し, 静脈洞に入ると血流速度が緩徐となり, その間に損傷したRBC, 細菌がマクロファージにより除去される.
細菌貪食にはオプソニン化が重要であり, オプソニン化された最近は脾臓, 肝臓で除去される.
Encapsulated bacteriaはオプソニン化されにくく, その様な細菌は脾臓でのみ貪食される(肺炎球菌など)
脾臓のMarginal zoneに存在するIgM memory B cellにより, 直接 or 補体を介して細菌に結合. 破壊する作用が脾臓にはある.
脾摘の感染症への影響
脾臓の免疫系への作用
IgM産生
Non-opsonized Bacteriaの除去
Tuftsinの活性化(マクロファージ活性化因子)
Properdin産生(補体の終末成分の活性化に関与)
脾摘後は肺炎球菌, 髄膜炎菌, HIB感染リスクは健常人の50倍
肺炎球菌が50-90%を占め, 次にHIB, 髄膜炎菌.
Salmonella spも脾機能低下に関連し, 骨髄炎を来すことがある.
他に関連する細菌は, E coli, P aeruginosa, Capnocytophaga canimorsus(犬咬傷), C. cynodegmi, Enterococcus sp, Bacteroides sp, Bartonella sp等.
Babesia, Bordetella holmesii, Malariaもリスク上昇.
他に関連する細菌は, E coli, P aeruginosa, Capnocytophaga canimorsus(犬咬傷), C. cynodegmi, Enterococcus sp, Bacteroides sp, Bartonella sp等.
Babesia, Bordetella holmesii, Malariaもリスク上昇.
脾摘後の感染症の死亡率は50-70%. 死亡の大半が24hr以内.
その大半が肺炎球菌によるもの. 劇症の経過をたどる.
脾摘後の致死的感染症の頻度は小児例で0.29/100pt-y, 成人例で0.10-0.13/100pt-y.
脾摘後2年間が最もリスクが高い
脾摘以外にも脾機能低下を来す疾患は多数ある Lancet. 2011 Jul 2;378(9785):86-97.
脾機能低下を来す疾患群:
脾機能低下を高頻度で来す疾患
アルコール性肝障害は脾機能低下を合併する頻度が高い.
脾機能低下の診断
脾機能低下の評価はラジオアイソトープのフィルタリングの評価,赤血球の形態評価により行われる.
核医学検査は費用が高く, 日常的にはRBCの形態評価が頻用される.
脾機能低下時のRBC形態評価
Howell-Jolly小体; RBC with nuclear remnants
感度, 特異度は不明. 無脾症には有用だが, 軽度の脾機能低下では感度低い
感度, 特異度は不明. 無脾症には有用だが, 軽度の脾機能低下では感度低い
RBC with characteristic membrane pits
Phase-interference microscopyで評価可能. (微分干渉顕微鏡)
脾機能低下に相関してpitted RBCは増加.
脾機能低下検査に最も有用であり, 多くの文献がこの方法をGold standardとして用いている.
Phase-interference microscopyで評価可能. (微分干渉顕微鏡)
脾機能低下に相関してpitted RBCは増加.
脾機能低下検査に最も有用であり, 多くの文献がこの方法をGold standardとして用いている.
無脾患者への対応 N Engl J Med 2014;371:349-56.
ワクチン接種
肺炎球菌, Hib, N. meningitidisに対するワクチンは推奨されている.
投与タイミングは前回のワクチン接種時期による.
投与タイミングは前回のワクチン接種時期による.
肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌予防にはPCV13の投与とその後8wk空けてPPSV23の投与が推奨
PPSV23単独投与よりもより抗体産生が高まる.
(PPSV23を2回投与すると, 2回目の効果が落ちるため, PCV13を投与)
PPSV23単独投与よりもより抗体産生が高まる.
(PPSV23を2回投与すると, 2回目の効果が落ちるため, PCV13を投与)
脾摘前後2wkでのPPSV23投与では効果が弱まるとの報告もあり, 避ける.
Hibワクチン
Hib感染は成人や高学年小児では少ないため, 全例にHibワクチンを接種するのではなく, 投与されたことが無い例に限定してもよいかもしれない.
髄膜炎菌ワクチン
quadrivalent meningococcal polysaccharide vaccineが使用される
2回投与
インフルエンザワクチン
インフルエンザは細菌感染のリスクを上昇させるため, 毎年のインフルエンザワクチンは推奨される.
予防的抗生剤
経口ペニシリンが推奨される.
脾摘後の予防的抗生剤を考慮すべき患者群は以下の通り;
5歳未満の小児例,
脾摘後1-2年以内の成人, 小児例
脾摘後敗血症の既往がある症例
脾摘後で犬に噛まれた患者.
5歳未満の小児例,
脾摘後1-2年以内の成人, 小児例
脾摘後敗血症の既往がある症例
脾摘後で犬に噛まれた患者.
予防的抗生剤のEvidenceがあるのは鎌状赤血球症の小児例のみであり, 具体的な適応クライテリアは無いのが現状.
無脾患者の発熱への対応
発熱が劇症感染症の初期症状であることも多く, なるべく早く抗生剤を使用することが大事.
培養を採取した後に, 発熱出現から2時間以内の抗生剤投与が推奨されている.
培養を採取した後に, 発熱出現から2時間以内の抗生剤投与が推奨されている.
抗生剤はCTRX ± VCMが推奨.
CTRXは肺炎球菌, Hib, 髄膜炎菌を含む広いカバーが可能.
CTRXは肺炎球菌, Hib, 髄膜炎菌を含む広いカバーが可能.
すぐに受診出来ない場合はAMPC, LVFXの内服を. (患者教育の後にお守りでもたせておくのも有りかもしれない.)
脾摘について
脾臓摘出後の感染, 免疫不全も判明してきており, 現在は脾摘は推奨されない.
外傷、脾損傷でも極力行わない.
外傷では, 1000mlの出血, 4U以上のMAP輸血, 進行する出血がある場合は脾摘の適応となる.
外傷では, 1000mlの出血, 4U以上のMAP輸血, 進行する出血がある場合は脾摘の適応となる.
サラセミアでも部分摘出の方が全摘よりも感染リスクが少ない.
脾臓摘出時に組織が一部残存, 他組織への付着が起こり, その後Splenosisと呼ばれる組織が増生することがある.
Splenosisにより脾機能が改善する例もあり, 今後脾摘時は人工的なSplenosisを起こす処置もでるかもしれない.
Splenosis Southern Medical Journal 2007;100:589-93
異所性の脾臓組織は2つの機序により生じる
Accessory Spleens; 胎生期に後胃間膜から発生する異所性の脾組織.
通常6カ所以下と少なく, 脾動脈からの血流を受ける.
通常6カ所以下と少なく, 脾動脈からの血流を受ける.
Splenosis; 脾組織の自己移植. 外傷性, 医原性の脾破裂後に生じる.
様々な部位に生じ得る. 100カ所以上認められ, 脾動脈に関係なく, 周囲の血管から血流を受ける.
様々な部位に生じ得る. 100カ所以上認められ, 脾動脈に関係なく, 周囲の血管から血流を受ける.
Splenosisは通常無症候であるが, 発見時には悪性腫瘍との鑑別が重要となる
Splenosisの頻度は不明.
一部では外傷性脾破裂の65%で認めるとの報告もあり.
胸腔内でのSplenosisは18%と低い. 大体が横隔膜破裂を伴っている例.
胸腔内でのSplenosisは18%と低い. 大体が横隔膜破裂を伴っている例.
特発性のSplenosisは非常に稀で18例程度の報告しかない.
Splenosis, Accessory spleensの脾機能は正常
従って, 脾摘後でも脾機能温存が期待できるかもしれない.
一部では脾摘時に故意にSplenosisを起こす方法も研究されている.
一部では脾摘時に故意にSplenosisを起こす方法も研究されている.
しかしながら摘出〜Splenosisまでの期間は, 腹腔内, 骨盤内のSplenosisでは平均10年[5mo-32y], 胸腔内では平均21年[3-45y]と長時間かかる.
Splenosisの診断はシンチグラム.
特にTc-99m heat-damaged erythrocyte, Indium 111-labeled plateletsが感度, 特異度ともに良好.