Am J of Med. 2008;121:282-86
血管透過性の亢進によりSelf-limited, 限局的な浮腫を生じる病態.
全人口の15%で生じると言われており, 女性 > 男性
蕁麻疹は50%で認められる(タイプにより異なる)
浮腫はNon-pitting, Non-tender, Asymmetric
好発部位; 眼周囲, 唇, 舌, 四肢, 腸管 → 腹痛, 下痢, 閉塞を来たすこともある
喉頭浮腫は致死的となり得る (25-40%の致死率)
Angioedemaを来す疾患
特発性 AE 全体の38%を占める
Allergic AE(IgE-mediated AE)
Hereditary AE (先天性)
Type 1; C1 INH protein欠損 HAE中85%
Type 2; C1 INH protein異常
Type 3; Coagulation Factor XII gene mutation
Acquired AE (後天性: C1 INHを消費 or 自己免疫産生)
Type 1; Lymphoproliferative diseaseに合併
Type 2; Autoimmune(Anti-C1 INH antibody)
薬剤性AE: 主にACE阻害薬
運動誘発性AE
Cytokine-associated AE(Gleich’s syndrome)
好酸球性血管浮腫
自己免疫性甲状腺疾患由来AE
Allergic AE (IgE-mediated)
1型アレルギー反応による. マスト細胞, ヒスタミン関与
抗原暴露から数分~数時間で発症する
Hereditary AE (先天性) (NEJM 2008;359:1027-36)
再発性のNonpitting Edemaを呈する.
全身の粘膜下, 皮下に生じ掻痒感は伴わない.
1/5-10万の発症率で, 民族間の差は不明.
発症は<2yは稀で, 8-12歳での発症が最多.
7-14日間隔で発作が起こるが, 個人差も強く, 一生発作が起こらない~3日間間隔と幅広い
発症頻度は平均45.3日に1回となる (Lancet 2012; 379: 474–81)
外傷, ストレスがトリガーとなることもある
喉頭浮腫は稀であるが, 約半数の患者が一生涯に1度以上の喉頭浮腫を経験
Hereditary AEの発作形式:
前駆症状を伴うことが多い(刺痛様の感覚)
無痛性, 蛇行性の有縁性紅斑を1/3に伴い, 24hrかけて増悪を示す
48-72hrで徐々に消退
喉頭, 腹部に生じるタイプは重度となる
腹部症状 ⇒ 腹痛, 悪心嘔吐, 下痢. 筋性防御, 反跳痛を伴うケースもあり
間質への水分漏出により, 低血圧となる
左右対称性に浮腫が起こることもあり
C1 esterase inhibitor(C1 INH)の異常が主な病態
C1は古典的経路活性化に関与し, C1 INHは線溶系, 凝固系に関与 → 欠損によりBradykinin, Kallikrein, Plasmin活性↑
Type 1; C1 INH欠損 (HAEの85%)
Type 2; C2 INH異常 (HAEの15%)
Type 3; XII因子遺伝子異常 → kinin産生↑
Type 2; C2 INH異常 (HAEの15%)
Type 3; XII因子遺伝子異常 → kinin産生↑
エストロゲンの分泌亢進があり, 妊娠やEstrogen製剤で症状増悪する.
炎症, 外傷など → C1 INH低下 → Symptom↑
蕁麻疹は稀で, 影響を受けた部位の腫脹が主
C1-Inhibitor欠損235例のProspective studyでは, (Medicine (Baltimore) 1992; 71: 206–15.)
先天性血管浮腫のtypeは,
Type Iが180名, Type IIが46名. 男女差は無し.
発症年齢
<10での発症が多いが, 診断はそれからかなり時間が経過してされる
年齢 | 初発(%) | 診断(%) |
0-10 | 50% | 13% |
11-20 | 35% | 19% |
21-30 | 11% | 21% |
>30 | 1% | 47% |
発作頻度(1年あたりの発作頻度)
1年に1回以上が95%を占める.
毎月発症するのも30%あり.
毎月発症するのも30%あり.
回数 | % |
0 | 5% |
<1 | 26% |
1-5 | 23% |
6-12 | 16% |
>12 | 30% |
症状頻度
浮腫の部位 | % |
皮下組織 | 91% |
腹部 | 73% |
喉頭 | 48% |
発作のトリガー
トリガー | % |
精神ストレス | 26% |
軽度の外傷 | 53% |
月経 | 15% |
血液検査所見
Type | C1-INH Ag(%NHPP) | C1-INH fn(%NHPP) | C4(%NHPP) |
I | 16.2±10 | 15.0±11 | 20.4±16 |
II | 112.5±97 | 18±12 | 23.8±15 |
正常値 | 63-137 | 69-119 | 67-130 |
NHPP; Normal Human Pooled Plasma
46%が末梢の局所的な浮腫, 33%が消化管, 口腔内が6%, 同時に2カ所以上の浮腫を認めるのが15%.
脳, 関節, 下部呼吸器の浮腫は稀.
発作は1-5日持続することが多い
浮腫は~16hr持続. 他に倦怠感や皮疹, 局所の違和感が持続する.
消化管の浮腫では, 腹部症状, 嘔気嘔吐, 下痢を認める.
発作時のカプセル内視鏡では腸粘膜浮腫が認められる.
発作時のカプセル内視鏡では腸粘膜浮腫が認められる.
Acquired Angioedema (後天性)
40歳以降の発症が多い
Type 1; Lymphoproliferative Disease (High-grade lymphomaなど)
悪性細胞によるC1 INHの消費が主な病態
Type 2; 自己免疫性. C1 INHに対する自己免疫による
薬剤性AE
ACE阻害薬の0.1-2.2%で生じる.
25%が内服開始後1ヶ月以内 (内服後数年後の発症もある)
他にはアスピリン, 降圧薬, 麻酔薬, 経口避妊薬が原因となる.
部位; 舌, 口唇, 顔面
African american, 喫煙者, 女性, 季節性アレルギーはACEIによる血管浮腫のリスク
Immunol Allergy Clin N Am 26 (2006) 725–737
その他
身体刺激(冷感, 熱, 振動, 外傷), 感情ストレス, 紫外線により誘発されるAEもある
Cytokine-associated AE Syndrome
好酸球増多に伴うもの, Gleich’s syndrome → 通常発熱, 10-20%の体重増加, 好酸球↑, IgM↑を伴う
原因は不明; GSF, IL-2, 5, 6の増加, CD4+ Tcellが関与?
蕁麻疹との関連
蕁麻疹(-)
|
どちらもありえる
|
蕁麻疹(+)
|
HAE Type 1,2
|
慢性特発性AE
|
身体刺激性AE
|
Acquired C1 INH欠乏
|
Allergic AE
|
ACE阻害薬由来
|
特発性再発性AE
|
Aspirin, NSAID由来
|
蕁麻疹を伴わない, 再発性の血管浮腫929例の解析
(CMAJ 2006;175(9):1065-70)
原因の判明した776例
原因 |
頻度(%) |
男:女比 |
発症年齢 |
特異的な因子に関連* |
16% |
0.51 |
39[13-76] |
自己免疫疾患/感染症 |
7%(55) |
0.62 |
49[3-78] |
ACE阻害薬関連 |
11% |
0.93 |
61[32-84] |
C1-inhibitor欠損 |
25%(197) |
|
|
先天性 |
|
0.88 |
8[1-34] |
後天性 |
|
1.8 |
56.5[42-76] |
不明(Idiopathic) |
38% |
|
|
Histaminergic |
|
0.56 |
40[7-86] |
Nonhistaminergic |
|
1.35 |
36[8-75] |
末梢, びまん性浮腫 |
3% |
0.17 |
|
*薬剤, 食事, 虫刺され, 環境, 身体刺激
自己免疫/感染症の55例の内訳
C1-inhibitor欠損 197例の内訳
105例の血管浮腫症例のRetrospective review.
Clinical and Developmental Immunology Volume 2007, Article ID 26438, 6 pages doi:10.1155/2007/26438
105例の原因
蕁麻疹(-)例が55例, 蕁麻疹(+)例が50例. 全身症状を伴う血管浮腫が45例であった.
各タイプの症状頻度, 浮腫の部位
血管浮腫を来す疾患とLab所見
Angioedema
|
C4
|
Antigenic
C1 inhibitor |
Functional
C1 inhibitor |
C1q
|
C3
|
先天性AE
(C1-inhibitor異常) |
↓
|
Type I; ↓
Type 2; 正常 |
↓
|
正常
|
正常
|
後天性
C1-inhibitor欠損 |
↓
|
↓ or 正常
|
↓
|
↓
|
正常 or ↓
|
先天性AE
(C1-inhibitor正常) |
正常
|
||||
ACE-I由来AE
|
|||||
特発性AE
|
|||||
アレルギー性AE
|
|||||
NSAID由来AE
|
|||||
蕁麻疹性血管炎
|
↓
|
正常
|
正常
|
↓
|
↓
|
先天性AE(C1-inhibitor関連)の診断 Lancet 2012; 379: 474–81
C4の低下, C3正常は先天性血管浮腫を示唆する所見.
無症候性の患者でも認められる所見であり, Screening testとして有用だが, C4正常でも否定はできない.
C1-inhibitor蛋白は85%で低下(type 1)だが, 15%では正常で, 活性が低いのみ(type 2). その場合は活性を測定する必要がある.
鑑別診断
C4低下はSLE, hypocomplementamic urticarial vasculitis, Cryoglobulinemiaなどで認める.
特にSLEでは2次性の血管浮腫を来すため, 鑑別には注意.(他の膠原病やリンパ増殖性疾患でも)
診断のフローチャート
蕁麻疹を伴わない血管浮腫の診断アルゴリズム(CMAJ 2006;175(9):1065-70)
Idiopathic Recurrent Angioedema
Idiopathic Angioedemaは他に原因のない血管浮腫であり, 除外診断.
Recurrentは6M-1yの間に3回以上のエピソードがあり, 共通したトリガーや原因がはっきりしない例と定義される.
疫学, 頻度は不明.
全人口の10-20%が一生涯に1回以上の血管浮腫, 蕁麻疹を認める.
女性は男性よりもやや多い傾向がある.
全人口の10-20%が一生涯に1回以上の血管浮腫, 蕁麻疹を認める.
女性は男性よりもやや多い傾向がある.
慢性蕁麻疹患者の83%で血管浮腫を認める報告もある.
血管浮腫の治療
急性期治療; Airway Protectionが重要
タイプ別
アレルギ―性; 抗ヒスタミン, ステロイド, エピネフリン
先天性;
急性発作時の治療
C1 inhibitorのIV投与が第一選択. 500-2000U IVにて30-60min以内に発作は軽快
(Cynryze® 国内未承認, 米国も)
(Cynryze® 国内未承認, 米国も)
喉頭浮腫(+)ならば挿管の考慮も
Epinephrineは一時的に効果を示す可能性あり
ステロイド, 抗ヒスタミンのBenefitは無いとされる
Epinephrineは一時的に効果を示す可能性あり
ステロイド, 抗ヒスタミンのBenefitは無いとされる
短期予防
トリガーが判明しており, 暴露する可能性のある場合 (待機的手術, 出産, 歯科治療等)
C1-inhibitor 500-1500U; 暴露の1hr前に投与
17α-alkylated Androgen(ダナゾール) 200mg tid Orally; 暴露の5-10日前より開始
FFP 2U DIV; 暴露の1-12hr前に投与
長期予防
頻回, 重度の発作がある場合に適応
17α-alkylated Androgen(ダナゾール®, Max 600mg/d),
抗線溶療法は 28日のフォローでAttack free 90%
抗線溶療法は 28日のフォローでAttack free 90%
Drug
|
Adult Dose
|
Pediatric Dose
|
17α-Alkylated androgens
|
||
ダナゾール
(ボンゾール®) |
200mg/day
(100mg/3日毎-600mg/day) |
50mg/day
(50mg/wk-200mg/day) |
Methyltestosterone
(エナルモン®) |
男性のみ 10mg/day
(5mg/3日毎-30mg/day) |
小児へは推奨されない
|
Antifibrinolytic agent
|
||
Tranexamic acid
(トランサミン®) |
1g bid
(0.25g bid-1.5g tid) |
20mg/kg bid
(10mg/kg bid-25mg/kg tid) |
副作用
17α-Alkylated Androgen 体重増加, 男性化, 性欲低下, 筋肉痛, 頭痛, うつ
倦怠感, 悪心, 便秘, 肝酵素上昇などなど
倦怠感, 悪心, 便秘, 肝酵素上昇などなど
Antifibrinolytic agent 悪心, 回転性めまい, 下痢, 起立性低血圧
筋肉痛, CPK上昇
筋肉痛, CPK上昇
後天性; 急性AAEならばFFP投与が効果的
Type 2では自己免疫あるため, 治療反応性不良
Type 2では自己免疫あるため, 治療反応性不良
薬剤性; 原因薬剤中止
特発性; ステロイド使用は急性期には効果的
慢性の使用は副作用 > 利点となる
予防は抗ヒスタミン薬が良い, 3-4M毎にフォロー
ブラジキニン受容体阻害(Icatibant), カリクレイン阻害薬(DX88)の治験が始まっている
慢性の使用は副作用 > 利点となる
予防は抗ヒスタミン薬が良い, 3-4M毎にフォロー
ブラジキニン受容体阻害(Icatibant), カリクレイン阻害薬(DX88)の治験が始まっている
Idiopathic recurrent angioedemaの治療 Immunol Allergy Clin N Am 26 (2006) 739–751
教育: 皮膚が乾燥しないようにする.
Cosmetic cream, perfumes, deodorantはトリガーとなる可能性あり
使用を避ける様に指導する.
Cosmetic cream, perfumes, deodorantはトリガーとなる可能性あり
使用を避ける様に指導する.
薬剤治療はStep-wiseに行う
Step 1: 非鎮静系の抗ヒスタミン薬
Fexofenadine(アレグラ®), Cetirizine(ジルテック®), Loratadine(クラリチン®), Desloratadine(未承認)
Fexofenadine(アレグラ®), Cetirizine(ジルテック®), Loratadine(クラリチン®), Desloratadine(未承認)
しばしば高用量で効果的なことがある. 特に蕁麻疹(+)例.
Fexofenadine 180mg, cetirizine 10mg, loratadine 10mg bid等
Fexofenadine 180mg, cetirizine 10mg, loratadine 10mg bid等
Step 2: 鎮静系抗ヒスタミンの追加
Doxepin, Hydroxyzine(アタラックス®), Diphenhydramine(レスタミン®)
効果があり, 鎮静作用が許容可能なレベルまで増量可能.
Step 3: 報告レベルではあるが, 効果が期待できる薬剤の追加
Cyclosporine: 効果期待できるが, 副作用も多い
Nifedipine: RCTで効果が証明
MTX, Warfarinの報告もある.
Nifedipine: RCTで効果が証明
MTX, Warfarinの報告もある.
経験的にコルヒチン 0.6mg 1~2回/d, Dapsone 25mg bid, 100mg bidまで増量, Sulfasalazine 500mg 1-2回/dも効果が期待できる.