脳底型片頭痛(Basilar-type migraine)
1961年にBasilar artery migraineとしてBickerstaffが提唱した“migraine with aura”(前兆を伴う片頭痛)の1つ。
当初、病因として“血管攣縮説”が唱えられたが、現時点では“皮質拡延性抑制”にとどまっている。
他のmigraine with auraとの違いは、前兆症状の局在が脳幹,両側後頭半球であること。
(典型的なmigraine with auraは一側半球である)
疫学
有病率:不明
発症年齢:7〜20歳が多い(65%が30歳未満)
→発症が遅くなるにつれて重症になりやすい。
性差:女性1.3〜3.8:男性1
家族歴:片頭痛(73〜86%)、てんかん(12%)
症状
1.前兆
持続時間:5〜60分(ただし、2分〜72時間の報告あり)
前兆の症状は2つ以上ある。
25%で2〜30分程度の意識障害あり。
95%で典型的な前兆が認められる。
ほとんどの患者で何らかの視覚異常がある。
2.頭痛
持続時間:4時間〜2日
拍動性後頭部痛で嘔気を伴うことが多い。
26%の患者では前兆があっても頭痛がみられない。
前兆の症状
回転性めまい (61%)
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両側性感覚異常 (24%)
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構音障害 (53%)
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意識障害 (24%)
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耳鳴 (45%)
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難聴 (21%)
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複視 (45%)
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失語 (40%)
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両側性視野障害 (40%)
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発作のトリガー
1.ストレス
2.月経
3.気圧変化
4.頭部外傷
5.食事
6.避妊薬
7.喫煙
8.過労
診断基準 International Headache Society
他の疾患に起因しない発作が少なくとも2回あり、以下を満たす。
1.運動障害のない以下の完全可逆的な前兆が2つ以上ある。
構音障害、耳鳴、難聴、めまい、意識障害、運動失調、複視、
両側性感覚異常、両眼の耳側および鼻側の両側にわたる視覚異常
2.少なくとも以下の2項目を満たす。
-少なくとも1つの前兆は5分以上かけて徐々に進展するか、または/および、異なる複数の前兆が引き続き5分以上かけて進展する。
-それぞれの前兆の持続時間は5分以上60分以内。
3.片頭痛が前兆出現中もしくは前兆後60分以内に生じる。
検査
種々の検査は、他の疾患の除外目的に行う。
1.頭部MRI,MRA,CTA
時々、血管浮腫による後頭皮質の変化が一過性にみられるとの報告あり。
ただし、基本的には椎骨脳底動脈血栓症、動脈瘤、動脈拡張、動脈狭窄、動静脈奇形などの除外目的。
2.EEG
発作中は、全ての患者で徐波異常を認めたとする報告あり。てんかん様活動をみることあり。
鑑別疾患
一過性脳虚血発作(TIA)
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メニエール病
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椎骨脳底動脈解離
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前庭神経炎
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家族性 or 孤発性片麻痺性片頭痛
(→運動障害の有無が鑑別点)
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後頭蓋窩の腫瘍
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側頭葉てんかん 複雑部分発作
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キアリ奇形
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脳底動脈瘤 くも膜下出血
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静脈洞血栓症
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発作性運動失調症
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代謝性脳症(中毒含む)
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良性発作性頭位めまい症
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精神疾患
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BTMと遺伝子異常
例えば, ATP1A2の変異、CACNA1Aのナンセンス変異
報告レベルであり、集団研究では認められず。
BTMと家族性片麻痺性片頭痛(Familial hemiplegic migraine:FHM)はオーバラップした点があり、FHMがBTMのgenetic formである可能性ある。FHMの72%は片麻痺さえ除けばBTMと同じ発作を生じる。
BTMの治療
BTM治療のRCTはない。
1.他の片頭痛の発作時治療
→ただし、トリプタン、エルゴタミン、β-blockerは血管収縮作用があるため、理論上薦められないとする専門家が多い。
2.制吐薬
3.後頭神経ブロック
→40mgのトリアムシノロン(ケナコルト-AR)を混ぜた0.25%ブピバカイン(マーカインR)3ccを注射する。
予防薬
ベラパミル (ワソランR)
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HMで効果示され、first choice
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ラモトリギン (ラミクタールR)
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副作用皮疹のため、16歳未満には推奨されない。
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フルナリジン
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入手できない。
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フェニトイン(アレビアチンR)
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プリミドン (プリミドンR)
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トピラマート (トピナR)
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バルプロ酸 (デパケンR)
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アミトリプチリン
(トリプタノールR)
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ナロキソン (ナロキソンR)
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1つだけ0.8mg/日で効果あったとの報告。
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発作が頻回であったり遷延するなら予防治療の適応になる。
1.ベラパミル120mg/日から開始する。
(最大360mg/日 分1or分2まで増量できる。ただし、小柄、高齢者では120mg/日よりさらに少量から開始する。)
↓ 効果ない、中止するしかない
2.ラモトリギン25mg/日に変更する。
(最大100mg/日まで週単位で増量できる。ただし、最初の1-2ヶ月で皮疹が10%ほど認められる。成人1/1000人でStevens-Johnson syndromeなど致死的な皮疹が生じる。その頻度は小児でさらに多く、16歳未満では推奨されない。)
↓ 効果ない、中止するしかない
3.アミトリプチリン、トピラマート、バルプロ酸を試す。