以前, 養豚場や屠殺場で勤務していた若い男性が心内膜炎になり,
その結果Streptcoccus suis(ブタ担毒)による感染症が判明した症例があった.
参考: http://hospitalist-gim.blogspot.com/2014/07/streptococcus-suis.html
今回, ウマとの接触が多い職業の患者で, Entry不明な敗血症を呈した症例があり,
ウマにもそのような感染症リスクがある細菌がいるのか? と思い調べてみると...
Streptococcus equi spp. zooepidemicusという連鎖球菌の報告が目についた.
S. equi ssp. zooepidemicusはC群溶連菌の1つであり, 動物, 特に馬の感染症として多く報告されている.
・ウマ以外にも牛, 羊, ヤギ, ブタ, 犬, ネコでも報告あり
・S. pyogenesと80%の配列相同性があり, 多くの病原因子が共通.
・人畜共通感染症として, ヒトに感染する例もあり,
主にウマと接触が多い職業や,
非殺菌の動物加工品の摂取が感染リスクとなる. (チーズや乳腺炎の牛から搾乳されたミルクを非殺菌で飲むなど)
・そのような食事を介したアウトブレイクも報告あり
・ウマにおける感染症は多く, 軽症であるが, ヒトに感染した場合はしばしば重篤化する
・感染症の報告例では皮膚軟部組織感染症, 呼吸器感染症, 髄膜炎やTSS, 心内膜炎, 動脈感染症, 壊死性筋炎, 化膿性関節炎の報告もある
2018年のLiterature Reviewでは, 心内膜炎17例, 化膿性関節炎16例をReviewしている.(Case Reports in Infectious Diseases Volume 2018, Article ID 3265701,)
・溶連菌感染後糸球体腎炎やリウマチ熱の原因にもなり得る (A群溶連菌に似ているため)
(Eur J Clin Microbiol Infect Dis (2010) 29:1459–1463)(Emerg Infect Dis. 2013 Jul;19(7):1041-8.)
S. equi spp. zooepidemicusによる敗血症症例のReivew
(Journal of Infection 1990;21:241-250)
・香港における11例と, Letrature reviewによる34例
・心内膜炎や動脈瘤, 髄膜炎, 蜂窩織炎などがあり, 死亡率は18-24%
S. equi ssp. zooepidemicusによる髄膜炎の報告
(Eur J Clin Microbiol Infect Dis (2010) 29:1459–1463)
・20例の解析では, 年齢中央値は67歳[13-83]
・背景疾患がある患者は38%のみ
・動物との接触歴, 加工品の摂取歴がある患者が19例.
最も多い動物がウマであった(9/20)
他に犬や牛も報告されている.
加工品は非加熱の乳製品が多い.
・死亡率は24%. 後遺症として難聴が多い
アウトブレイクの報告
ブラジルMonte Santoにおいて, 2012年12月〜2013年2月に報告された175例のS. equi ssp zooepidemicusによる溶連菌感染後糸球体腎炎症例を評価した報告.
・このアウトブレイクでは, 一部のミルクと, そのミルクを使用したアイスクリームの摂取がリスク因子となった.
ミルク: OR 4.16[1.55-11.18] アイスクリーム: OR 3.09[1.39-6.86]
(Epidemiol Serv Saude. Apr-Jun 2017;26(2):405-412.)
・このアウトブレイクにて検出された菌体では, SzPタンパク質の可変領域の同じ配列(SzPHV5)が増幅された. (J Clin Microbiol 56:e00845-18.)
2003年にフィンランドにおいて, ヤギのチーズからアウトブレイクを呈した報告もある
・7例感染し, 6例が敗血症, 1例が化膿性関節炎
(BMC Infectious Diseases2006, 6:36 doi:10.1186/1471-2334-6-36)