急性膵炎では, 膵外分泌機能の低下, インスリン抵抗性の上昇, インスリン分泌の低下などが生じ, 糖尿病を発症するリスクが上昇する.
膵炎後に発症する糖尿病を, Post-pancreatitis diabetes mellitus(PPDM)と呼ぶ.
・別名 3c型糖尿病(Type 3c DM). 続発性DMで最も多い.
・急性膵炎後に発症するもの(PPDM-A)が4/5, 慢性膵炎に続発するもの(PPDM-C)が1/5
・Meta-analysisでは, 急性膵炎の23%, 慢性膵炎の30%でDMを発症
インスリンが必要なDMは15%と17%
・Nationwide cohortにおける急性膵炎例 vs 対象群を比較した報告では,
急性膵炎におけるDM発症HRはおよそ2倍程度.
特に発症3ヶ月未満ではHR 5.90[3.37-10.34]と高く, 3ヶ月以降はHR 2.54[2.13-3.04]
これらCohortでは, 重症膵炎症例と膵炎全体でDM発症リスクは同等
(Medicine 95(2):e2448)(Am J Gastroenterol. 2015 Dec;110(12):1698-706.)
・急性膵炎発症後〜数ヶ月〜数年の単位でDMは発症するため, フォローにおいてDMの評価は重要.
(European Journal of Endocrinology (2021) 184, R137–R149)
PPDMのEtiologyは急性膵炎と慢性膵炎では異なる.
・急性膵炎ではInsulin resistanceが主, 再発, 慢性化すると インスリン分泌機能が低下
・AP患者の22%が膵炎を繰り返し, 再発を繰り返す患者の36%が慢性膵炎となる.
PPDM-Aの頻度を評価したMeta-analysis
2004年発表のmeta: 初回の急性膵炎を発症した成人症例で, 退院後1ヶ月以上フォローした前向きStudyのMeta-analysis
(Gut 2014;63:818–831.)
・AP発症前にDMやPreDMがある症例, 膵切除症例は除外
・高血糖は37%[30-45], (15 studies)
・Prediabetesの頻度は全体で16%[9-24] (11 studies), Heterogeneityが高い
重症膵炎に限定すると, 20%[13-29] (4 studies)
・DMの頻度は全体で23%[16-31] (20 studies), Heterogeneityが高い
重症膵炎に限定すると, 30%[20-41] (10 studies).
・インスリンを要するDMは全体で15%[9-21]
重症膵炎では14%[9-21]
・膵炎後長期間にわたってDM発症は認められる.
2019年発表のMeta
(Front. Physiol. 10:637. doi: 10.3389/fphys.2019.00637)
・急性膵炎後のDM発症率は23%[16-31], 31 studies.
インスリンを要する膵炎は15%[9-23]
・Etiology別では,
アルコール性膵炎では28%[15-43]
胆石性膵炎では12%[6-20]
その他では24%[4-49]
・重症度別
重症膵炎 39%[31-47] 壊死性膵炎 37%[24-51]
軽症膵炎 14%[8-21] 非壊死性膵炎 11%[1-28]
・フォロー期間別
PPDMと2型DMとの違い
(European Journal of Endocrinology (2021) 184, R137–R149)
・予後はPPDMの方が悪い
・インスリンが必要となるリスクもPPDMの方が高い .
PPDM-Aでは5.2倍のリスク
・同様に, 2型DMと比べて, 血糖コントロールが難しい.
・血糖降下薬のStudyでは, 多くがPPDMが除外されている.
従って2型DMと同様の 治療薬選択でよいのかどうかも 不明確である
・台湾のNationwide cohortでは, PPDMに対してメトフォルミンの使用は予後改善に関連する結果.
(Diabetes Care 2019;42:1675–1683)よくわかってない点:
・急性膵炎における一過性の耐糖能障害患者のうち, どの程度の割合がそのまま持続するか?
(これについてはデータが全然ない)
・急性膵炎後の糖尿病スクリーニング、フォローはどの程度の期間行うべきか?
(大体1年間くらい行われていることが多いのが現状)
・PPDMではインスリン導入を早めるべきか, 2型DMと治療を変える必要があるか?