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2017年3月10日金曜日

PCI施行後のDAPT期間を考慮するためのスコア + α

薬剤溶出性ステントによるPCI後のDAPT期間は12ヶ月とすべきか, さらに長くすべきかというのは色々意見がある.

これをめぐるStudyについては2014年12月にまとめているため, 参照してほしい

PCI施行後(Drug-Eluting stent)の抗血小板薬 2剤療法(DAPT)の期間は?


それについて, どのような患者群でDAPTを12ヶ月以上延長した方がよいか,
 延長した方が害がとなるかを評価するスコアを検討したStudyが発表

DAPT trialにおける11648例を解析し, PCI後12-30M DAPTを継続することの利益, 害を予測する予測ルールを作成.
(JAMA. 2016;315(16):1735-1749.)
・上記で作成したルールをPROTECT trialにおける8136例でValidation.

DAPT開始後12-30Mにおける虚血性心疾患, ステント狭窄, 出血のリスク因子

この結果よりスコアを作成
項目
点数
年齢 75歳
65-75歳
<65歳
-2点
-1点
0点
喫煙歴
1
糖尿病
1
心筋梗塞でPCIを施行
1
以前のPCI既往, 心筋梗塞既往
1
パクリタキセル溶出ステント
1
ステント径<3mm
1
心不全もしくはEF<30%
2
静脈グラフトへのステント留置
2
-2~10点で評価. 点数が高いほど, 心血管イベントリスク, 出血リスクが高い.

スコアのカットオフと, DAPT継続 vs 単剤治療群によるアウトカム
心血管系イベント, ステント狭窄:
・スコア≥2群ではDAPTによりリスク低下効果がある.
・スコア<2では低下効果はなし.

出血や死亡リスク:
・スコア≥2では出血リスクに有意差なし.
・スコア<2では出血リスクが増加

スコア≤0では, 重症な出血や死亡リスクが上昇する結果

この結果より, 以下のことが言える
・PCI後12ヶ月DAPTし, 問題がなかった患者において,
 スコア ≥2点ではDAPTを継続
 スコア <2点ではDAPT終了
 さらにスコア <0点ではDAPTで予後が不良となる可能性がある.

Validation cohortにおける評価では,
 スコア >2は心血管イベント, ステント狭窄リスク因子(HR 2.0[1.3-3.1])
 一方で出血リスクには有意差は認められず.

Validation cohortよりもDerivationの方が重症例が多く, その点が出血リスクで有意差がなかったのでは、という解釈となっている

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Validationでもスコア≥2点は有意な心血管, ステント狭窄リスクとなるため, DAPTは継続する方が良い可能性が高い.
 低リスク群(<2点)では無理に継続する必要性はなく, さらに予後を悪くする可能性も考えなくてはならない.
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さらに, PAD(末梢動脈疾患)の有無がDAPTの期間決定に重要であるとの報告.

PRODIGY trialのSub解析において, PADの有無とDAPT期間によるアウトカムを評価

まずPRODIGY trialから (Circulation. 2012;125:2015-2026.) 
PRODIGY trial: PCI(Bare-metal, zotarolimus, paclitaxel, everolimus-eluting stent)を施行された2013例を対象としたRCT
・上記患者群をClopidogrel + ASA併用 6ヶ月群 vs 24ヶ月群に割付け, 心血管イベントリスクを比較.
・BMSで6ヶ月群に割付けられた場合, 安定した冠動脈疾患に対するPCIを行なった患者ではClopidogrelは30日以降いつでも中止可とした.

母集団データ, カテ所見, 処置の内容


アウトカム
・心血管イベントは両者で有意差を認めず, また出血リスクは24ヶ月継続群で有意に高い結果であった.
・BMS, DES別の評価でもアウトカムの改善効果は認められない.


PRODIGYのSub解析において, PADの有無でDAPT期間とアウトカムに変化があるかどうかを評価.
(JAMA Cardiol. 2016;1(7):795-803. )
・PADの有無別のアウトカム評価は, PAD+群の方が心血管イベントリスクは上昇する

アウトカム: PADの有無別のDAPT期間とアウトカム


PAD(+)群では長期間のDAPTの方がより心血管イベントリスク軽減効果が良好と言える.

・PAD+群では長期間のDAPTでも出血リスク上昇は認められない.

(2017.3.10 Update)
PRECISE-DAPTスコア: PCI + DAPT後の出血リスクを評価するスコア
(Lancet 2017; 389: 1025–34 )
・PCI + DAPT施行(大半がアスピリン+クロピドグレル)で, 抗凝固療法(-)の14963例において, DAPTによる出血リスク因子を評価し, スコアを作成.
・PLATO trial(n=8595), BernPCI registry(n=6172)のDAPT施行患者群(n=10081例)において, スコアのValidationを施行.

・患者は待機的, 準緊急, 緊急PCIを施行し, その後DAPTが開始された群を対象(88%がASA+クロピドグレル). また, 長期間の抗凝固薬を必要とする患者は除外.
・上記患者群を前向きにフォローし, PCI後7日以降に発症した院外出血イベントを評価した(7日以内の出血患者はフォロー終了).
・21963pt-yのフォロー(中央値522d[365-725])において,  出血頻度は12.5/1000pt-y, Major bleedingは6.9/1000pt-y

Derivation cohortにおける出血リスクは, 年齢, 出血既往歴, WBC上昇, Hb低値, CCr低下の5項目. この項目を用いてスコアを作成(PRECISE-DAPTスコア)

PRECISE-DAPT scoreと出血リスク

<10ptをVery low,
11-17ptをLow,
18-24ptをModerate,
≥25ptをHigh risk

DerivationとValidation cohortにおけるスコアと出血リスク
・Very low riskではどのCohortでもリスクは低いがLow riskはCohortによってはModerateと同等のこともありそう

DAPT期間別の評価

・High risk群では, ≥12MのDAPTでさらに出血リスクが上昇する.

リスク別の虚血, 出血リスク

・Very low, low riskでは, 長期間も短期間DAPTも虚血, 出血リスクは同等.
・Moderateでは長期間の方が虚血イベントは少なく, 出血リスクは同等
・Highでは虚血リスクは同等で, 出血リスクが上昇する.

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PRECISE-DAPTスコアは5項目でのみ評価する比較的簡便(計算はややめんどくさい)なスコア.
このスコアにて17点以下ならば長期間DAPTも短期間も予後は変わらない.
18-24点のModerateではできれば長期間の方がよいのかもしれないが, グレー.
≥25点では出血リスクが高いため, 長期間は避ける方が良い. という結果.