来院時出血コントロール困難であり, 気管挿管を施行. その際数回失敗している.
内視鏡検査では活動性の出血を認め, その後複数回止血するもコントロール困難.
結局アンギオを2日連続で行い止血を確認.
病状が安定したため, 第4病日(挿管後3日経過)に抜管したが,
抜管直後からStrider著明. 呼気は問題ないが吸気が困難な状態となった.
気管支鏡検査では, 声門までは浮腫無し.
声門下に吸気時に気管前方から迫り出す様な黄白色の粘膜性病変があり, それが気管を狭窄させている.
気管の虚脱の形からは気管軟化症でもないし(側方から潰れる), EDACでもない(後方から潰れる). 前方から迫り出すなんて初めての経験….
その粘膜性病変は声門直下にあるため, 全体像をつかむのも困難であった.
そのまま気管支鏡を進めると, それより中枢側は全く問題無し. 結局再挿管となった
この病変は一体…?
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Obstructive Fibrinous Tracheal Pseudomembrane
OFTP; 挿管により気管周囲に線維性の偽膜が形成される病態
抜管後の上気道狭窄の原因の1つであり, 早期発見と除去が重要.
稀な疾患であり, いくつかの症例報告しかない.
66歳女性の眠剤過量服薬症例; J Korean Med Sci 2010; 25: 1384-1386
3日間の挿管管理を行い(数回の挿管失敗, 外傷あり), 問題なく抜管
カフ圧は15cmH2Oで管理していた.
抜管後3日目にStrider, 呼吸苦, 過換気状態となり, 吸入治療反応せず.
CTをとると, 声帯直下から辺縁不整の粘膜狭窄(+)
気管支鏡施行すると,
声門下に弾性のある偽膜が全周性にあり, 狭窄を来していた.
チューブ状で4cmの長さであった.
癒着しており鉗子ではちぎれるのみであり, 硬性鏡を使用し, 切除した.
切除後の気管粘膜からは肉芽種形成は認められず, 気管軟化症も無し.
切除病変の組織検査では線維組織と好酸球, 急性炎症細胞が認められた.
25歳男性, マリファナ吸引歴あり. European Journal of Cardio-thoracic Surgery 40 (2011) 261—263
バイクによる交通外傷で搬送し, 挿管管理となった.
4日間の挿管管理後に抜管. 7h後に呼吸苦(+). 声門下浮腫として対応され, ステロイド, 気管支拡張薬を使用するも改善せず.
CT評価で気管中部に狭窄病変あり, 気管支鏡にて声門下4cmの所に気管前側壁に付着する偽膜を認め, バルブの様に呼吸を障害していた.
硬性鏡にて除去し, 組織を見るとフィブリン線維と炎症細胞成分の混在.
偽膜を除去した痕は気管粘膜の擦過傷があるのみ.
偽膜の部位は丁度カフが当たる部位に認められた.
Tracheal pseudomembrane(気管偽膜)は挿管による稀な合併症であり, 抜管失敗, 呼吸不全の原因となる.
10例の報告では, 平均挿管気管は6.2±1.8d, ただし, 4例は挿管24h以内の発症であった
7/10が抜管後 59±27hで急性呼吸不全を呈した.
偽膜は気管壁に付着しているが, どちらか一方が剥がれれば一方弁のような働きをし, 急性の呼吸不全となり得る.
剥がれるのが抜管時ならばすぐに呼吸不全が,
抜管後数日たって咳嗽等の刺激で剥がれれば, その時に急性呼吸不全を生じてしまう.
しばしば声門下浮腫と誤診されるが,
声門下浮腫は通常抜管後1hで出現し, 4h程度で増悪, 24hで改善する経過をとる. またステロイドへの反応性は良好.
OFTPは数日かけて増悪し, 治療反応性は悪く, 除去するしか無い.
気管に偽膜を生じる感染症;
ジフテリアが有名で, 他に真菌, 細菌, ウイルスも原因になり得る. ただしOFTPとの鑑別に苦慮することはあまり無い.
OFTPの機序は不明瞭だが, カフで気管粘膜が虚血となることが原因と考えられる.
偽膜下の気管支粘膜に発赤や軽度の壊死を認める所見もその理論で説明可能
ただし, カフ圧が低くても発症する症例報告はあり, それだけでも説明付かない.
挿管時の外傷や化学的刺激, 外傷等様々な要素が考えられる. 例えば, 挿管にもたついている間に口腔内に逆流した胃液でチューブが汚染され, 付着した胃液の刺激が持続的に気管粘膜に加わる, 挿管を乱暴に行うことで声帯下粘膜を障害し, 偽膜を形成する機序など.
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OFTPという病態を覚えておきましょう.
早く抜く見込みの人程、挿管はなるべくスムーズに行いたいところですね.