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2014年8月28日木曜日

持続皮下輸液 Hypodermoclysis

持続皮下輸液 Hypodermoclysisについて
(Am Fam Physician 2001;64:1575-8.)
持続皮下輸液: 文字通り輸液を皮下注射で投与する方法
 静脈ルート確保よりも簡便であり, 合併症も少ないことから長期間補液が必要となるような高齢者, 緩和ケアの一環としての補液療法, ルートのとりにくい小児例で行われる.

皮下に投与された輸液は浸透圧や静水圧, 拡散により周囲組織の血管へ吸収される
 健常人に500mlの生理食塩水を3時間かけて皮下注すると, 投与 1時間後には血管内完全に吸収されている.
 Stroke後の補液が必要な患者群でIVと皮下輸液を比較するとVol statusは両者で変わりなかった報告もある.
(Journal of Infusion Nursing 2009;32:40-44)

持続皮下輸液のメリット, デメリット
メリット
費用がかからない
IVよりも侵襲が少ない
過剰輸液となりにくい
挿入が簡便. 入れ替えも楽.
在宅でも可能
静脈炎を起こしにくい
ルート感染もおこしにくい
ルート閉塞もおこしにくい
デメリット
補液速度が1ml/minと遅い
2ルート確保でも13000ml程度
電解質, 栄養, 薬剤の投与に制限あり
投与部位に浮腫が生じやすい
局所の症状がでやすい
出血傾向があると施行不可
皮下輸液に向かない状況
 大量補液が必要となる場合(重度の脱水, ショック等)
 血小板減少や出血傾向がある場合
 重度の電解質異常がある場合 (Na>150mEq/L, 血清浸透圧>300mOsm/kg, BUN/Cre>25)
 低Alb血症で著明な浮腫がある場合
 皮膚障害が多く, 刺入部位が無い場合
(Journal of Infusion Nursing 2009;32:40-44)

皮下輸液の方法
刺入部位: どこでも可能
 動く患者では, 腹部, 胸部(乳房や肋間), 肩甲骨上であれば歩行や移動に邪魔になりにくい.
 寝たきりの患者では, 大腿部, 腹部, 上腕外側等.
 自己抜去してしまう患者の場合は背部など手の届きにくいところが推奨される.

刺入方法
 イソジンにて消毒
 皮下組織をつまみ, 45-60度の角度をつけて皮下に挿入し, そのまま固定. (針やカテーテル全体を挿入する.)

入れ替えのタイミング:
 1-4日毎(最長72時間毎と問題が生じた時)に針とチューブを交換する
 平均4.7日で交換しているという緩和ケアのデータもある. (Journal of Infusion Nursing 2009;32:40-44)
 テフロン製のカテーテル(24G)では11.9±1.7日, バタフライ針(25G)の場合は5.3±0.5日とのデータもあり. (J Pain Symptom Manage. 1994 Feb;9(2):82-4.)

投与可能な補液
 生理食塩水, 1号液, リンゲル, 乳酸リンゲルの投与は可能.
 NaClの含有されていない5%, 10%ブドウ糖は電解質含有液と比較すると吸収速度が遅く, 避けるべきとされている. そもそも脱水状態に対してブドウ糖液は選択肢とならないことも考慮すると, 脱水補正という効果はあまり期待できない.

(J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 1997 May;52(3):M169-76.)
 カリウム含有液では局所の発赤や疼痛がでやすいが, KCl 20-40mEq/L程度の濃度ならば投与可能との報告もある.
 つまり3号液程度ならば問題なく投与可能
と考えられる.
Journal of Infusion Nursing 2009;32:40-44
Journal of Infusion Nursing 2005;28:123-129


皮下輸液より投与可能な薬剤(老年医学科の医師, 看護師のアンケート) 

Palliative Medicine 2005; 19: 208-219

鎮痛剤

抗ムスカリン
制吐剤

ステロイド

モルヒネ
98%
Glycopyrronium
54%
Dexamethasone
(
デキサート®)
51%
Hydromorphone
56%
Metoclopramide
(
プリンペラン®)
44%
Methylpredonisolone
(
ソルメドロール®)
8%
Buprenorphine
(
ノルスパン®)
3%
Butylscopolamine
(
ブスコパン®)
41%


Tramadol
(
トラマール®)
2%
Atrapine
(
アトロピン®)
31%


Pethidine
(
塩酸ペチジン®)
2%
Ondansetron
(
オンダンセトロン®)
20%


Methadone
2%
Papaverine
(
パパベリン塩酸塩®)
-


Diclofenac
(
ボルタレン®)
-




Fentanyl
(
フェンタニル®)
-





抗生剤

抗精神病薬
ベンゾジアゼピン

その他

Ceftriaxone
(
セフィローム®)
41%
Haloperidol
(
セネレース®)
90%
Furosemide
(
ラシックス®)
69%
Teicoplanin
(
テイコプラニン®)
3%
Levomepromazine
(
レボメプロマジン®)
54%
Pamidronate
(
アレディア®)
3%
Amikacin
(
アミカシン®)
2%
Clonazepam
44%
Clodronate
3%
Cefepime
(
セフェピム®)
2%
Midazolam
(
ドルミカム®)
34%
Zoledronate
-
Gentamicin
(
ゲンタマイシン®)
-
Diazepam
(
セルシン®)
12%




Clorazepate
-




Lorazepam
-




Chlorpromazine
(
ウィンタミン®)
-


ただし, 上記薬剤が添付文書上皮下投与可能となっているわけではないため, 使用にはリスク-ベネフィットを考慮し, 十分注意すること.

投与速度は1ml/分.
 1箇所につき, 1440ml/24時間の補液が可能.
 2箇所確保すれば1日に3L程度の補液が可能となる.
 夜間では1L/8h程度の速度が推奨.
 また, 1L/2時間以上の速度にはしないようにする.
(Am Fam Physician 2001;64:1575-8.)

Hyaluronidase: ヒアルノニダーゼ. (国内には薬剤無し.)
 Hyaluronidaseを皮下投与すると, 補液の吸収速度が上昇し, より早く, 多くの補液が可能となる.
 効果の持続時間は24-48時間程度.
 使用方法は75Uを皮下輸液前に輸液部位に皮下注射, 150Uを補液1Lあたりに溶解し併用する.
 もしくは補液投与前に150-200Uの皮下注を24h毎に繰り返す(この場合留置したカテーテルから投与する.) (Pediatr Emer Care 2011;27: 230-236)
 試験投与として, 150U/mLを0.02mL投与し, 早期反応(5min)を評価する方法も推奨されている.

皮下輸液の合併症
局所の浮腫
最も多い. マッサージで軽快する
局所の反応
11-16%で局所の発赤や浮腫を認める*
刺入部の不快感, 疼痛
. 筋に刺入した場合や, 補液速度が速いと起こりやすい
蜂窩織炎
消毒をしっかりすること, 毎日交換でリスク低下.
血管穿刺
血管走行部位をさけて部位を選ぶ
肺水腫
0.6%程度と稀
電解質異常
IV投与と比較すると低リスク
Hyaluronidaseの副作用
*Journal of Infusion Nursing 2009;32:40-44 
(Am Fam Physician 2001;64:1575-8.)
J Am Geriatr Soc 55:2051–2055, 2007

長期療養施設に入所中の患者で, 補液治療を必要としIV補液か, 持続皮下注射を受けた患者を評価. (1日1本程度の輸液のみの患者は除外.)  1998年に5週間前向きに評価したところ, 55例が当てはまった.
 皮下注射のみが37例, IV補液のみが9例, 双方受けたのが9例.
 平均年齢は83.7歳±10.5.

24例が経口摂取不良にて慢性的に補液を受けていた.
 その全例が持続皮下輸液を受けており, 1/3 5%TZ+ 2/3NSを25-75ml/hの速度で主に夜間のみ投与されていた.
 その24例では脱水症の出現はなかった.

37例が急性の脱水症に対して補液を施行.
 28例が皮下輸液, 16例がIV補液を行った.
 全体的に改善したのが 57% vs 81%, p=0.19
 臨床的に改善したのが57% vs 81%, p=0.19
 Labで改善したのが4% vs 6%, p=1.0
 臨床的に不変が25% vs 19%, p=0.72
 増悪したのが18% vs 0%, p=0.14であった.
J Am Geriatr Soc. 2000 Jul;48(7):795-9.

小児例への皮下輸液 Pediatrics 2011; 127:e748–e757
 小児で補液が必要であるが, ルート確保が困難な場合, 先ずはNGチューブからの補液が優先される. それが困難な場合に皮下輸液の選択もあり.
 Hyaluronidaseを使用し, 20mL/kg/hで等張液を投与, その後必要に応じて皮下輸液を継続すると, 84.3%で脱水改善が可能であった.

軽~中等症の脱水の小児例(1M~10歳) 148例のRCT.
(Na<130, >155, K<3.0の電解質異常は除外) Clinical Therapeutics 2012;34:2232-2245
 recombinant human hyaluronidaseを併用した皮下注群とIV補液群に割り付け, Vol. statusを比較.
 補液は等張液20mL/kgを1時間で投与, その後必要に応じて追加する方法.
アウトカム: 両者で補液量, 脱水症状は有意差無し.

乳児での皮下輸液の投与速度は
 25mL/kgを超えない量
 速度は2mL/minを超えない速度.

3歳以上の小児では, 200mL/d程度の量が推奨される

投与部位の観察を怠らないようにし, 24-48時間毎, もしくは1.5-2Lの投与毎に刺入部位をローテーションすることが推奨される 
Nursing. 2011 Nov;41(11):16-7