Clin Biochem Rev 2005;26:65-79
世界で6番目に多い悪性腫瘍, 3番目に多い腫瘍死の原因
中国, 東アジア, アフリカ中部, 西部で最多発症頻度(>20/100000)
日本, 南ヨーロッパ, スイス, ブルガリアでは中等頻度(10-20/100000)
北ヨーロッパ, オーストラリア, ニュージーランドでは低頻度.
男性での発症が多く, 4:1程度(2-8:1, 地域によりバラツキあり)
好発年齢は様々だが, 基本的には40歳以降が多い
HCCの80%がHCV, HBVに起因するもの
日本国内では, HCCの25%がHBsAg陽性, 76%がHCV抗体陽性.
他にはAflatoxin, 喫煙, アルコール, 経口避妊薬, ヘモクロマトーシス, Tyrosinaemia, Hypercitrullinaemia, α1-Antitrypsin欠損, Type I, II Glycogenesis, Wilson病などが原因となる.
肝細胞癌の発症頻度
Lancet 2012; 379: 1245–55 Hepatology 2002;36:S84-S92
HCV感染患者のHCC発症率は年間0-1.6%, C型肝硬変では3-5%
肝硬変患者では年間発症率1-6%と高値
HCVは大半が肝硬変から肝細胞癌へ進展する一方, HBVでは慢性肝炎からでも肝細胞癌へ進展し得る. → HBVではスクリーニングが特に重要.
国内734名(慢性肝炎, 肝硬変患者)の1-1.1yrフォローでは, (Am J of Gastroenterolo 2000;95:1036-40)
肝硬変患者では約10%でHCC発症.
C+Bの混合感染ではRisk高い
Group
|
N
|
HCC発症頻度
|
C型慢性肝炎
|
295
|
1.4%
|
C型肝硬変
|
27
|
7.8%
|
B型肝硬変
|
268
|
10.0%
|
C+B肝硬変
|
4
|
22.7%
|
HBV DNAと肝細胞癌のリスク
HBs-Ag(+), HCV(-)の3653名 (JAMA 2006;295:65-73)
ALT < 45IU/L(94%), HBe-Ag(-)(85%), 肝硬変(-)(98%)
11.4yr follow (41779pt-yr), HBV DNA levelと癌発症Riskを評価
DNA Level
|
蓄積発症率*
|
HBe-Ag(-)
|
+ ALT正常
|
+ 肝硬変(-)
|
<300/mL
|
1.30%
|
1.20%
|
0.98%
|
0.74%
|
300-104/mL
|
1.37%
|
1.21%
|
1.25%
|
0.89%
|
104-105/mL
|
3.57%
|
3.68%
|
3.42%
|
3.15%
|
105-106/mL
|
12.17%
|
9.54%
|
8.55%
|
7.96%
|
>=106/mL
|
14.89%
|
17.88%
|
19.51%
|
13.50%
|
*13年間の蓄積
癌発症のRisk Factor
Factor
|
全患者 HR
|
男性
|
2.1[1.3-3.3]
|
年齢(1yr増加毎)
|
1.09[1.07-3.3]
|
肝硬変
|
9.1[5.9-13.9]
|
HBV DNA
|
|
< 300/mL
|
1.0 (RS)
|
300-104/mL
|
1.1[0.5-2.3]
|
104-105/mL
|
2.3[1.1-4.9]
|
105-106/mL
|
6.6[3.3-13.1]
|
>=106/mL
|
6.1[2.9-12.7]
|
ウイルス性肝炎以外の肝細胞癌のリスク因子
Meta-analysisより World J Gastroenterol 2010 August 7; 16(29): 3603-3615
Factor |
RR |
|
|
Overweight |
1.17[1.02-1.34] |
アルコール 25g/d |
1.19[1.12-1.27] |
肥満 |
1.89[1.51-2.36] |
アルコール 50g/d |
1.40[1.25-1.56] |
糖尿病 |
2.50[1.93-3.24] |
アルコール 100g/d |
1.81[1.50-2.19] |
コーヒー(2杯/d) |
0.57[0.49-0.67] |
喫煙 |
3.3[1.2-9.5] |
経口避妊薬 |
1.57[0.96-2.54] |
|
|
アルコール性肝硬変での肝細胞癌のリスク
デンマークで1993-2005年にアルコール性肝硬変と診断された8482名のCohort study.
Ann Intern Med. 2012;156:841-847.
HBV, HCV陽性患者は除外.
HCCの発症率は, 肝硬変診断から1年以降の発症と定義. (肝硬変診断時にHCC+例を除くため)
死亡率も肝硬変診断後1年以降からの死亡を評価.
死亡率も肝硬変診断後1年以降からの死亡を評価.
アルコール性肝硬変患者のHCC発症リスクは5年で1%.
それよりもそのような患者群では5年死亡率は44% !
それよりもそのような患者群では5年死亡率は44% !
HCC診断された169名中, 死亡したのは151名.
HCC診断〜死亡までの期間は, 限局性のHCCでは97d[29-388], 非限局性HCCでは37d[10-137].
HCC診断〜死亡までの期間は, 限局性のHCCでは97d[29-388], 非限局性HCCでは37d[10-137].
アルコール性肝硬変患者ではHCC自体が予後に関係する事は少ない.
そのような状態こそがもう末期の証拠と捉えられる.
肝細胞癌のスクリーニング
Surveillance推奨群 BMJ 2009;339:b5039
対象
|
以下の患者でHBV感染(+)の場合
Asian-Pacific men >40yr Asian-Pacific women >50yr Those with cirrosis Those with a family history of hepatocellular carcinoma
Africans over 20 years
|
以下の原因の肝硬変患者
HCV
アルコール性肝障害 Genetic haemochromatosis Primary biliary cirrhosis |
以下の原因の肝硬変患者.
(スクリーニングによる利益は不明だが, HCC Riskあり) α1 antitrypsin欠損症 NASH 自己免疫性肝炎 |
スクリーニングは半年毎
エコー, AFP測定がCost-effective
USは感度94%と良好だが, 早期では63%と低い
HCVで肝硬変(-)群ではスクリーニングの必要無し.
HCVでは肝硬変からの肝癌発症が殆ど
エコーが出来る場合はAFPでスクリーニングを行う必要は無し
(AFP測定にてエコーで見逃したHCCを発見することは無理)
(AFP測定にてエコーで見逃したHCCを発見することは無理)
AFPはCutoff 20mcg/LでSn 60%, Sp 90.6%
>2cmのMassでは基本Biopsyは必要なし
US, CT, MRIでHCCに特徴的ならば診断可能
AFP >200mcg/L + 画像所見にてBiopsy無しで確定可能.
1-2cmのMassでは
画像所見にてHCCに特徴的とは言えない場合, Biopsyが推奨.
BiopsyによるTumor seedingのRiskは2.7%
<1cmのMassでは
3-6mo毎にエコーフォローを行う
2yr変化なければそのまま通常のスクリーニングに戻る.
2yr変化なければそのまま通常のスクリーニングに戻る.
N Engl J Med 2011;365:1118-27.
HCV慢性肝炎患者に対するHCCスクリーニングの利点
HCV患者におけるスクリーニングのSystematic Review Hepatology 2002;36:S84-S92
2回/yrのAFP + US Screening
56moのフォローにてScreening群で6.7%, Control群で5.5%でHCC(+)
単一腫瘤, <3cmの早期で発見できたのは75% vs 16%と, 2回/yrのScreening群では早期発見率が高い.
Screening群でHCCが発見された24名中, 11名は発見時AFP陰性であった.
ただし慢性肝障害患者を対象としたスクリーニングのMeta-analysisでは, 慢性肝障害患者における定期的なHCCスクリーニングの異議は未だEvidence不足と結論づけている.
スクリーニングは早期HCCの検出頻度は増加させるが, 予後への関わりは不明瞭のまま.
またスクリーニング自体による悪影響の評価不十分.
Ann Intern Med. 2014;161:261-269.
肝細胞癌の検査
腫瘍マーカー World J Gastroenterol 2009;15:1301-14
国内でよく使用されるのはAFPとPIVKA-II
α-Fetoprotein; 胎児の肝臓で生成される70kDaのGlycoprotein.
慢性肝疾患において, 高度に分化した肝細胞が生成する他, 肝細胞癌, 胚性癌腫, 胃癌, 肺癌で上昇を認める.
肝細胞癌に対するSn 39-65%, Sp76-94%
慢性肝疾患において, 高度に分化した肝細胞が生成する他, 肝細胞癌, 胚性癌腫, 胃癌, 肺癌で上昇を認める.
肝細胞癌に対するSn 39-65%, Sp76-94%
>400ng/mLではより巨大なHCCを示唆
>1000では血管浸潤を示唆 (61% vs 32% in =<1000)
>1000では血管浸潤を示唆 (61% vs 32% in =<1000)
AFPの3分画
AFPにはAFP-L1, 2, 3の3分画存在
AFP-L1; non-LCA-bound fraction: 非悪性腫瘍性慢性肝疾患ではL1上昇を認める.
AFP-L3; Lens culinaris-reactive AFP: HCC患者で上昇を示し, <3cmのHCCでは1/3で上昇を認める.
Cutoffは10-15%.
Cutoff 15%とした場合, Sn 75-97%, Sp 90-92%と良好.
Mass<2cmではCutoff 10%とすると良好な結果が得られる.
Cutoffは10-15%.
Cutoff 15%とした場合, Sn 75-97%, Sp 90-92%と良好.
Mass<2cmではCutoff 10%とすると良好な結果が得られる.
PIVKA-II(DCP)
Des-gamma carboxyprothrombin(DCP)
DCPはHCC患者, Vit-K欠乏患者, Warfarin内服患者で上昇するProtein
Prothrombin前駆体のCarboxylationが阻害されることで生じる.
Cutoff 40mAU/mLでSn 48-62%, Sp 81-98%
AFP, AFP-L3, PIVKA-IIの3つのマーカーが国内では使用可能.
PIVKA-IIはHCCと肝硬変の鑑別に最も有用(Sn 86%, Sp 93%)
ただし, PIVKA-IIはHCCの大きさに依存するため, 小型のHCCではAFPの方が有用.
Test*
|
Cutoff
|
Sn(%)
|
Sp(%)
|
AFP
|
200ng/mL
|
13.8%
|
97.4%
|
|
20ng/mL
|
62.1%
|
78.3%
|
PIVKA-II
|
100mAU/mL
|
24.1%
|
98.7%
|
|
60mAU/mL
|
41.4%
|
90.9%
|
AFP+PIVKA-II
|
40ng/mL, 80mAU/mL
|
65.5%
|
84.5%
|
World J Gastroenterol 2009;15:1301-14 *Am J of Gastroenterolo 2000;95:1036-40
その他のマーカー
Marker
|
説明
|
Cutoff
|
Sn(%)
|
Sp(%)
|
CA125
|
男性12U/mL, 女性55U/mL
|
92%
|
48.5%
|
|
α-I-fucosidase(AFU)
|
哺乳類のLycocomeに存在
LC, HCCで活性増加 |
870nmol/mL
|
81.7%
|
70.7%
|
Glypican-3(GPC3)
|
細胞表面のGlycoprotein
GPC3 mRNAはHCC, 胎児, 胎盤にのみ認める |
GPC3染色陽性
|
83.3%
|
96%
|
Scc antigen(SCCA)
|
|
0.37ng/mL
|
84%
|
49%
|
Golgi protein 73(GP73)
|
|
10U
|
69%
|
75%
|
Hepatocyte growth factor(HGF)
|
HCCの予後因子として有用
|
1.0ng/mLでPoor survivalを示唆
|
||
Transforming growth factor-β1(TGF-β1)
|
|
1.2mcg/L
|
89.5%
|
94%
|
Vascular endothelial growth factor(VEGF)
|
HCCの予後因子として有用
|
245pg/mLでPoor survivalを示唆
|
World J Gastroenterol 2009;15:1301-14 Clin Biochem Rev 2005;26:65-79
エコーによるHCC検査 World J Gastroenterol 2009;15:1301-14
腹部エコー
エコーの像は非特異的であり, 肝硬変患者において>1cmのMassがあればHCCとして精査すべき (Sn 65-80%, Sp >90%)
Color Doppler US
門脈の血栓 or 腫瘍性閉塞の検出に有用(HCC患者において)
Sn 92%, Sp 100%
Sn 92%, Sp 100%
Contrast enhanced US(CEUS)
造影剤(ソナゾイド®)を使用することで, Massの特性(血流)を判定.
肝動脈相(10-20s), 門脈相(投与後~120s), 実質相(4-6min)で評価.
造影CTと同等の感度87%を示し, さらに腫瘍の大きさにより感度の低下を認めない利点がある.
CT, MRIによるHCC検査
Multiphasic helical CT
4相でCT評価; 造影前, 動脈相(25s), 門脈相(70s), 遅相(300s)
肝細胞癌に対するSn 80%, Sp 96%
腫瘍の大きさに左右され, Mass >2cmではSn100%だが, 1-2cmでは93%, <1cmでは60%まで低下
造影USと造影CTを比較したStudyでは,
造影US; Sn 91.1%, Sp 87.2%
造影CT; Sn 80.4%, Sp 97.9% とほぼ変わらない結果.
造影US; Sn 91.1%, Sp 87.2%
造影CT; Sn 80.4%, Sp 97.9% とほぼ変わらない結果.
Multidetector helical CT(MDCT)
Early(18-28s), Late(35-45s) arterial phaseを評価する撮影方法
HCCに対しての感度が良好. (97.5-97.6%)
造影MRIと同等(vs 90.7-94.7%)だが, HCC=<1cmに関してはMDCTの方が高感度(90-95% vs 70-85%)
MRI
HCCはT2で高信号, T1では様々な信号パターンを示す.
造影ではCT同様, 早期相で高信号 → 等信号 → 低信号の経過.
肝細胞癌の診断
肝細胞癌の診断は病理学的診断がGold Standardではあるが, 非侵襲的な診断方法として,
肝硬変患者において, 以下を満たす場合に診断可能
EASL consensus 2001
|
|
Radiological criteria
|
2種類の画像検査で>2cmのMassを認め, Hypervascularである場合.
|
Combined criteria
|
1種類の画像検査で>2cmのMassを認め, AFP>400ng/mLを満たす
|
AASLD criteria 2006
|
Focal lesion=< 2cm, 2種類の画像検査で認め, 動脈相で濃染, 静脈相でWashoutを認める
|
Focal lesion >2cm, 1種類の画像検査で認め, 動脈相で濃染, 静脈相でWashoutを認める
|
ちなみにHCCの針生検により, HCCが播種する確率は,
8つのTrialのMeta-analysisの評価では, 全体で2.7%[1.8-4.0], 1年間のリスクは0.9%/yr[0.6-1.3]
Gut 2008;57:1592–1596.
肝細胞癌に対する治療 N Engl J Med 2011;365:1118-27.
手術治療;
肝硬変(-)の早期HCCで適応となる. → 主にB型肝炎によるHCC.
肝硬変(+)ならば, 腫瘍サイズ<3cm, 門脈圧亢進(-), Bil正常範囲ならば適応
5年再発リスクは70%. これは基礎疾患によるもの.
Radiofrequency ablation;
腫瘍径2-3cmのHCCで適応.
外科手術, 移植不能例でも施行可能.
外科手術, 移植不能例でも施行可能.
Transarterial chemoembolization and radioembolization(TACE);
肝機能が保たれているHCCで適応.
肝硬変があっても, Child-Pugh A程度ならば施行可能.
肝硬変があっても, Child-Pugh A程度ならば施行可能.
血管浸潤や遠隔転移は適応外.
肝移植のneoadjuvant therapyとしても施行される.
術後50%で腹痛, 発熱を併発(肝梗塞による症状)
Targeted molecular therapy;
Sorafenib; smallmolecule multikinase inhibitorがHCCに有効との報告あり.
Lancet 2012; 379: 1245–55
Sorafenib(ネクサバール®)
Multikinase inhibitor; VEGF, PDGF, Raf, c-Kitを阻害する
増殖, 血管新生, 腫瘍進展を抑制し, 予後を改善させる.
602名のPhase 3, DB-RCTでは,
Sorafenib群の平均生存期間は10.7m[9.4-13.3].
Placebo群では7.9m[6.8-9.1], HR 0.69[0.55-0.87]
Sorafenib群の平均生存期間は10.7m[9.4-13.3].
Placebo群では7.9m[6.8-9.1], HR 0.69[0.55-0.87]
この薬剤, 200mg錠で5426円. 800mg/dで月65万円...
費用に見合う効果があるのかどうか...?
現在1500名以上を対象としたphase 4 trialが進行中 (GIDEON trial; J Clin Oncol 2011;29:4001)
肝細胞癌の予後 BMJ 2009;339:b5039
無症候性の患者では1,2,3yr生存率は80%, 65%, 50%
Child-Pugh class Aで単一のHCCならば5年生存率は80%
切除不能例では予後不良. 1, 2yr生存率は10-72%, 8-50%
無症候性, 多発性のHCCで血管, 肝外浸潤(-)では平均生存期間は16mo