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2014年8月5日火曜日

肺炎随伴性胸水, 膿胸

肺炎随伴性胸水, 膿胸
Parapneumonic effusion, Empyema
Clin Chest Med 2006;27:253-66 Chest 2009;136:Issue 4, Oct.

肺炎随伴性胸水
 肺炎に随伴する胸水
 肺炎の20-57%で胸水を認める.
 滲出性胸水の1/3が肺炎に付随するもの.
 その内1-5%が膿胸へ進展する.

3段階で進行する
 Exudative Stage; 肺炎から胸膜に炎症が波及. 炎症性サイトカインにより血管透過性が亢進し, 胸水が貯留
 Fibrinopurulent Stage; 細菌が胸水内へ浸潤し, Fibrin clots, Fibrin隔壁が形成. Capsulateされた胸水貯留を認める
 Organizatioal Stage; Fibroblast proliferation, 胸膜肥厚が起こる. 拘束性肺障害を合併.

膿胸
 小児, 高齢者で多く, Risk FactorとしてDM, アルコール中毒, GERD, IV drug user, 誤嚥性肺炎がある.
 ここ20年間で頻度は上昇傾向.
 1/3は明らかなRisk Factorが無くても生じる
 胸腔穿刺に合併するケースが2%を占める
 外傷後, 食道破裂, 外科手術, 腹腔内感染に続発するケースもある (腹腔内感染, SBPから続発するケースは1%程度)

肺炎随伴性胸水, 膿胸の分類
ACCP’s consensus statement (Respiration 2008;75:241-50)
分類
Pleural space
anatomy

Chemistry
Bacteriology
Poor
Outcome

Drainage
1
少量胸水
(<10mm)

pH不明
グラム染色
培養結果不明
Very low
不必要
2
少量-中等量
(10mm-
胸郭の半分)
pH >=7.20
Glu>=60

グラム染色
培養結果 Neg
Low
不必要
3
大量(胸郭半分以上)
Loculated,
胸膜肥厚
pH <7.20
Glu<60

グラム染色
培養 Positive
Moderate
必要
4
膿胸

Pus
High
必要
Classification (Tuberkuloz ve Toraks Dergisi 2008;56:113-20)
Class
pH, Glu, LDH
Gram, 培養
Loculation
治療
1
Nonsignificant  Pleural Effusion



抗生剤
2
Typical Parapneumonic PE
pH>7.2, Glu >40,
LDH <3ULN

Neg
No
抗生剤
3
Borderline Complicated PE
pH<7.2, Glu >40,
LDH >3ULN

Neg
No
胸腔穿刺
4
Simple Complicated PE
pH<7.0, Glu <40
Pos
No
+ドレナージ
5
Complex Complicated PE
pH<7.0, Glu <40
Pos
Multiple
+外科手術
6
Simple empyema
pH<7.0
Frank pus
Single
+ドレナージ
7
Complex empyema
pH<7.0
Frank pus
Multiple
+外科手術
肺炎随伴性胸水か, 膿胸かは胸水の性状, pH, LDH, Glu, グラム染色, 画像所見で決まる.

原因菌頻度 Clin Chest Med 2006;27:253-66
胸腔内感染症の内, 66%で原因菌が同定できる
 市中感染ではGPCが64%を占め, 嫌気性菌は16%.
 院内感染ではMRSAが28%, 緑膿菌も5%で認められる
⇒ 市中感染では市中肺炎と同等と考えるが, 院内感染ではBroad Spectrumで対応する必要あり
 血液培養は12%で陽性となる

臨床所見: 重要なのは胸水pH<7.20
 臨床症状は肺炎と同様の所見をとる.
 胸膜痛(-)は膿胸, 胸膜炎を否定する証拠とはならない.
 抗生剤で改善しない, 改善が乏しい肺炎では膿胸, 胸膜炎を疑うべき

胸水検査
 pH<7.20では多隔壁性の胸水貯留, 膿胸Riskが高くなるため, ドレナージが必須となる.
 胸水の酸性化は 胸水中Lacの上昇, 細菌代謝によるCO2上昇が理由.
 Glu低下, LDH上昇も認めるが, pH<7.20は単一で予後を規定する
 Glu<35mg/dL, LDH>1000IU/LはpH<7.20に匹敵する因子となる
 胸水中のpHをCheckするには, ヘパリンを加えて血ガス機にかける

pH>7.20では抗生剤単独に反応する可能性が高いが, 経過中に胸水検査を繰り返し, 度々フォローする必要がある.
同一の患者でも, 多房性の胸水貯留の場合, 穿刺部位によりpHは異なる(6.3-7.24, 6.84-7.27)為, 注意が必要. (Chest 2004;126:2022-4)

Proteus mirabilisによる膿胸では, アルカリ性の膿胸となる可能性があり, 注意が必要.
  pHは7.8-8.0台となることもあり, 臨床症状, 胸水の性状, LDH, Gluも評価し, 怪しければドレナージ.
 血液pHよりも高値な場合も注意すべき. (Chest 1983;84:109-11)

他に胸水を酸性化する病態としては悪性腫瘍, リウマチ性疾患, SLE, 結核があり, 鑑別も重要.

胸水中TNF-α
 Complicated parapneumonic effusion(23名), 膿胸(22名), Uncomplicated parapneumonic effusion(35名)で調査したStudyでは
 TNF-α >80pg/mLはSn78%, Sp89%でParapneumonic effusuionを示唆 (Chest 2004;125:160-4)
 胸水-血清TNF-αの差 >=9.0pg/mLはSn96.7%, Sp98%

Nonpurulent CPPEに対するTNF-αのCutoffと検査特性
TNF-α
Sn(%)
Sp(%)
LR(+)
LR(-)
>=60pg/mL
91[78-100]
69[52-85]
2.9[1.8-4.8]
0.13[0.03-0.49]
>=70pg/mL
83[65-100]
77[62-92]
3.6[1.9-6.8]
0.23[0.09-0.56]
>=80pg/mL
78[59-97]
89[77-100]
6.8[2.7-17.7]
0.25[0.11-0.54]
>=90pg/mL
74[54-94]
89[77-100]
6.5[2.5-16.8]
0.29[0.15-0.59]
>=100pg/mL
65[44-87]
89[77-100]
5.7[2.2-15.0]
0.39[0.22-0.70]

画像所見
 胸部レントゲンで膿胸, 肺膿瘍を区別するには, Fluid level, 胸膜との接し方があるが, 感度は低い.
 USで胸水中に隔壁を認めたり, 造影CTで胸膜肥厚を認めれば, 膿胸を強く示唆する.

Split Pleura Sign (Radiology 2007;243:297-8) 
 造影CTの所見で, 膿を囲む臓側, 壁側胸膜の肥厚と造影(+).
 Split pleuraは膿胸患者の68%で認められ, 胸膜の造影効果増強は86%で認められる.
 胸膜の肥厚+造影は滲出性胸水患者の61%で陽性だが, 漏出性胸水患者では0%と特異性も高い.
 膿胸では, 胸膜外, 肋骨下組織の腫脹を伴うことも多い(60%)
 胸膜外の脂肪組織の混濁も34%で認められる.

治療: 抗生剤
治療の中心は 栄養, 抗生剤, ドレナージ(外科手術)
 胸水量 <10mmは抗生剤のみでOK
 少量ならば経験的に抗生剤のみで治療は可能.
 抗生剤投与中に増悪している場合は少量でもドレナージの適応
 高齢者, 合併症(+), Risk(+)患者では, ドレナージ閾値は低く.

抗生剤は市中感染症ならば肺炎と同じ
 Atypical Pneumonia(レジオネラ, マイコプラズマ)では胸膜炎, 膿胸を来すことは稀であり, 通常カバーは不要
 院内感染症では, MRSA, 緑膿菌を含んだBroad Spectrumを.

アミノグリコシドは胸膜移行性が低く, 酸性環境下では不活化されるため, 基本膿胸には使用しない

抗生剤投与期間は決まっていないが, 経験的に3週間は投与する.
 ドレナージが効けばもっと短くてもOK.
 経静脈的投与は1週間以上は行う.

治療: ドレナージ
pH<7.20はドレナージを行う
 膿胸, 隔壁形成Riskが高く, ドレナージが必須.
 pH>7.20では抗生剤のみで治療可能であることが多いが, 治療中に度々胸水検査フォローを行い, pHをCheckする必要がある
 pH>7.30では胸水量に関わらず, 抗生剤投与のみでOK
 胸水量<10mmではそもそもドレナージ必要ないため, pHをCheckする必要も無し.

ドレナージチューブの選択
 通常28-36Fを使用する. 
 6-14Fの細いものを使用する際は, 20cmH2Oの陰圧をかけ, 6hr毎にFlushすると詰まりにくくて良い

細いチューブでは粘性の高い胸水の排液効率は低下.
 でも, 70-100%でドレナージ成功との報告もあり.
 またまた, 最初に細いチューブを用いると6-20%で外科的ドレナージを必要とするとの報告もあり.
 Evidence Levelの高いStudyは無く, 一致した見解無し.
 細いチューブはCT Guide下で, 太いのはCT or US Guide下でOK.

Chest tubeのサイズで胸膜感染症のアウトカムは変わらない
Chest 2010;137:Issue 3. March.
The Relationship Between Chest Tube Size and Clinical Outcome in Pleural Infection

405名の胸膜感染症のProspective cohort (MIST1 trial)
 Fibrinolytics療法のStudyにおいて,  Chest tubeの大きさと死亡, 外科手術, 肺機能予後の関連を評価.
 <10Fr 58例, 10-14Fr 208例, 15-20Fr 70例, >20Fr 69例.
Outcome
 挿入手技(Seldinger vs Blunt dissection), Tubeの大きさで, 死亡, 外科手術, 入院期間, 肺機能に有意差無し.
 ただし, 細いTubeでは陰圧をかける, もしくは1日に数回のFlushが必要.
 又, 血腫を認める場合, 出血を認める場合は太いTubeが良いという意見もある.

ドレーン抜去のタイミングは不定; Evidenceなし
 臨床的改善, CRPを指標とする意見
 排液量 <150ml/dを指標とする意見
 排液量 <50ml/d, 排液が透明になることを指標とする意見と様々
(Tuberkuloz ve Toraks Dergisi 2008;56:113-20)

治療: Fibrinolytics
胸腔内にFibrinolyticsを投与
 Fibrinopurulent Stageにて, Fibrin隔壁の形成を阻害, 破壊する目的
 複数のRCT, Cohortがあるが, 小規模であり, Evidence不十分.
 適応に関してはControversialであるが, Routineでは行わず, 外科手術が出来ない例で試すとのスタンスが主.
 Meta-analysisでは, 死亡率, 外科的ドレナージ適応例の有意な低下は認めないものの, 減少傾向は認められる. (Chest 2006;129:783-90)
 Fibrinolyticsの胸腔内投与は安全であるため,  効果不明確でも行ってもよいとする意見もある
Fibrinolytics
Dose
Instillation
Duration
Streptokinase
250,000 IU
100-200ml NS
Daily for ~7d
Urokinase
100,000 IU
100ml NS
Daily for ~3d
tPA
10-25 mg
100ml NS
Twice daily for ~3d

Streptokinase胸腔内投与
MIST1 (NEJM 2005;352:865-74)
454名の胸腔内感染症患者(pH<7.20, 細菌検査陽性)のDB, RCT
 SK 250,000IU twice for 3 d vs Placebo
 3か月後のOutcome評価では,
 死亡, 外科手術適応例は有意差無し(31% vs 27% RR1.14[0.85-1.54])
 死亡例(16% vs 14% RR1.14[0.72-1.81])
 外科手術適応例(16% vs 14% RR1.07[0.68-1.69])
 12か月後の評価も同様に有意差無し.
 胸膜肥厚はやや改善傾向を認める.

Single center, RCT (Am J Respir Crit Care Med 2004;170:49-53)
53名の膿胸(+)患者でSK 250,000IU once for 4.5±2d vs NSで比較
 3日経過時では両者に有意差認めないが,
 7日後では有意にClinical success rateは改善(82% vs 48%),
 外科手術適応例も有意に低下(9% vs 45%)

Urokinaseの胸腔内投与
UKに関してはRCTが少なく, 1つのみ
31名のMultiloculated pleural effusion(+)患者のDB, RCT
UK 100,000IU/100ml vs NS 100ml for 3d
 3日間での排液量は970ml(75) vs 280ml(55)とUK群で多く, 完全に排液を達成できたのは86.5% vs 25%とUK群で有意に多かった.
(Am J Respir Crit Care Med 1999;159:37-42)

t-PAの胸腔内投与
膿胸52名, 複雑性胸水41名, 血胸10名, 癌性胸水17名の計120名. 
ドレナージ, 内科治療でコントロール困難な上記120名において, t-PAを胸腔内投与施行したObservational cohort. American Journal of Therapeutics 2007;14:341-5
 投与量は10-100mg/d, 大半の患者で3-4回施行している.(D 1,2,3, その後は2d毎)(膿胸, 複雑性胸水では50-100mg/d, それ以外では10-25mg/d)
 NS100mlに溶解し, bolus投与. その後30-50mlでフラッシュ.
 投与後は対側臥位となって20分間安静. ドレーンは1hrクランプし, その後解放.

Outcome; 102/120(85%)がComplete response.(膿胸でも85%.)
 Partial responseは10/120(8%). 反応無しが8名(7%).
反応のない8名中5名が膿胸. 1名が中皮腫, 2名が肺膿瘍.
副作用; 
Dose
10mg
25mg
50mg
100mg
投与回数
30
220
77
18
胸痛
2
4
0
0
重度の胸痛
0
1
0
0
出血
0
1
1
0

MIST2 trial; 胸膜炎210名の2x2 RCT. N Engl J Med 2011;365:518-26.
 t-PA胸腔内投与 10mg 2回/d 3d,
 DNase胸腔内投与 5mg 2回/d 3d,
 Placeboの組み合わせで4群に割り付け, 比較.
 薬剤投与後は1時間のクランプ後, 開放している.
Outcome; Day 1-7の胸部正面XPで評価した胸水量(面積)
 外科手術適応例, 胸水ドレナージ量を評価.
t-PAの胸腔内投与では, 胸水ドレナージ量, 外科手術適応症例の改善には有意差無し.
DNase併用では外科手術例減少効果があるものの, DNase単独では外科手術例増加するため, t-PAの胸腔内投与を判断するにはもっと大規模なStudyが必要.

MIST1ではOutcomeに有意差無しとの結果であったが 3, 12か月フォローは長すぎるとの意見が多い.
他のStudyでは3日~7日間での評価であり, Fibrinolyticの胸腔内投与は短期的なドレナージ促進効果が期待できるかもしれない.
外傷による胸腔ドレナージ患者を対象としたStudyでは, 外科的ドレナージの適応例の減少効果が示されている.
(J trauma 2004;57:1178-83)

線溶療法の禁忌: Curr Opin Pulm Med 2006;12:205-11
絶対禁忌
相対禁忌
アレルギーの既往
気管胸腔瘻
48hr
以内の手術, 外傷
2wk以内のMajor thoracic, abdominal surgery
脳出血, SAHの既往
2wk
以内の頭部の手術, 外傷
凝固欠損症

治療: 外科手術
日経過しても改善を認めない, 改善が乏しい場合は外科適応となる.
約30%の症例が外科手術適応となる.
1st ChoiceはVATSであり, 86.3%の成功率を示す