症例: 高齢男性. 亜急性経過での体動時痛, 倦怠感を主訴に受診.
血液検査にてWBC 5万台, Neu 65%, Eo 30%と著明な好中球と好酸球増多を認めた.
末梢血に芽球は認めず, 骨髄穿刺でもAMLや骨髄増殖性疾患を疑う所見は乏しい.
XPにて肺に5cm程度のMassを認め, 肺悪性腫瘍に伴うLeukemoid reactionを疑った.
でも, Neu上昇はわかるが, Eoも上昇するというのは。。。?
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Leukemoid Reaction(LR): 白血病反応
(Int J Lab Hematol. 2020 Apr;42(2):134-139.)(Cancer 2009;115:3919–23)
・白血病ではないが, 末梢血WBC 40000-50000/µL以上となる病態.
・成熟した好中球の増加で特徴づけられ, CMLやCNLなどの骨髄増殖性疾患が除外される.
・主に悪性腫瘍に伴うものが多く(G-CSF産生腫瘍など), 他に感染症(粟粒結核, CDAD, 細菌感染), 薬剤(GC, MINO, G-CSF), 毒素(エチレングリコール), 急性出血や溶血による報告がある
・悪性腫瘍では肺癌と腎癌での報告が多いが, さまざまな部位の腫瘍で報告例がある. また腫瘍診断の数年前(報告では最大4年)から認められることがある.
ブラジルの3次施設において, WBC>50000/µLを満たす症例を評価
(Int J Lab Hematol. 2020 Apr;42(2):134-139.)
・2016-2018年に267例認められ, このうち6割が血液増殖性腫瘍疾患.
残りの4割(105例)を白血病反応と判断し, 原因を評価した.
・感染症が59例, 悪性腫瘍が17例, その他が29例であった.
感染症は最も多い原因.
・細菌感染症が多く, 敗血症に対して ステロイドが使用された例が30%.
・悪性腫瘍では肺, 膵臓, 胃癌が多い
・その他ではGrowth factor, HLH 出血などがある.
血液検査
・どの原因でもNeuの著名な上昇が主となり, 他の血球の増多は認めない
非血液性固形腫瘍でWBC>40000/µLを満たす758名のRetrospective trial 原因頻度を評価.
(Cancer 2009;115:3919–23)
・Hematopoietic growth factorが10d以内に使用されたものが522例(69%).
感染症によるものが112例(15%).
High-dose corticosteroid ± 血管収縮薬使用例が38例(5%).
残り, 10%が傍腫瘍症候群に伴うLeukemoid reactionであった.
感染症の内訳;
傍腫瘍症候群としてのLeukemoid reaction. 77例の解析
・腫瘍自体が産生G-CSF, GM-CSF, IL-1α, IL-6などが関与しているとされる.
・96%がNeu上昇がメイン. またLR合併例は基本的に予後不良.
・発熱は38度を超えないのが普通.
・腫瘍の原発巣は, NSCLC(13), 肉腫(11), 原発不明癌(6) , 皮膚(6), 膵癌(4), 膀胱癌(4), 乳癌(3), 胆道(3), 口咽頭(3), 腎(2), 腹膜中皮腫(2), 子宮内膜(2), 胃食道(2), 甲状腺(2), 骨, 陰茎, 末梢神経鞘, 上顎洞, 舌, 胃, 肝, 頸部, 卵巣 各1例.
傍腫瘍性LRのLiterature review 179例の解析
(Pathology - Research and Practice 217 (2021) 153295)
・平均WBCは60703(範囲12200-300000)/µL
96%は好中球のみの増多.
3%(5例)がNeu+Eoの上昇,
1%(2例)がNeu+Mo
Neu+Mo+Eoが1例のみ.
Mo単独やEo単独, Baが上昇するタイプのLRの報告は認められない.
・G-CSFが測定された症例は99例. 平均値は257[33-1640]pg/mL .
測定された症例の95%で上昇が認められた.
73%が>100pg/mLを満たす.
組織のG-CSF染色は80例で行い, 94%で陽性.
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Leukemoid ReactionのほとんどがNeuの上昇を認める.
今症例のようなNeu+EoのLeukemoid Reactionはかなり稀であるが, 報告はあり.
傍腫瘍性では2021年のReviewからは5例のみとの報告である.
どのような症例報告か見てみよう.
Neutrophilic-Eosinophilic Leukemoid Reactionの症例報告
・65歳男性, 喫煙者, 肺扁平上皮癌.
WBC 37200/µL(Neu 38%, Eo 37%, Ly 4%), PLT, Hb正常
→ その後 WBC 90500(Neu 28%, Eo 34%, Ly 2%, Mo 11%)
・68歳男性, 肺腺癌 WBC 369000/µL(Neu 43%, Eo 31%, Ly 9%, Mo 6%), PLT, Hb正常
この2例では, 胸水中のGM-CSFが測定され, それぞれ 3.8ng/mL, 1.0ng/mLと検出されている(ELISA)
他の疾患12例で同様に胸水中GM-CSFを測定したところ, 検出されたのは1例のみ(Leukemia, GM-CSF 0.2ng/mL). その症例はWBC<100と低値で, 好酸球増多も認めない.
(Cancer 1992;69:1342-1346)
・41歳女性, 左膝の腫瘤と疼痛. 高悪性度紡錘形細胞肉種
WBC 126000/µL, Neu 45%, Eo 48%と上昇あり, 切除後正常化.
その後肺に転移が認められ, その際再度Neu, Eoの上昇を認めた.
血液中IL-5は正常. GM-CSFは208.8pg/mL(正常<4.8)と上昇
(Journal of Medical Case Reports 2010, 4:335)
・57歳女性. 肺の転移性腺癌, 胸膜, 肝臓, 骨転移. 骨盤癌腫症
WBC 87300/µL, Neu 54%, Eo 31.0%.
GM-CSF分泌腺癌であることが判明
(Clin Case Rep. 2019 Nov 27;8(1):9-12.)
・61歳男性. 肺非小細胞癌
WBC 77400/µL, Eo 30-40%. 血清GM-CSFは385pg/mLと上昇.
一方でIL-3やIL-5の上昇は認められず.
胸水より採取された腫瘍細胞と好酸球の亜集団よりGM-CSFの産生が証明された.
(Lung Cancer 76 (2012) 493–495)
日本からの報告
・71歳男性, 転移性の胸壁腫瘍. 組織は分類不能(Large cell type)
WBC 18100/µL(経過中のMax 48300), Neu 53.5%, Eo 31.5%(Max 37.5%)
血清G-CSFは正常範囲(3.6pg/mL), GM-CSFは112pg/mL(正常<2.0)
(Jpn J Clin OncoI 1998;28(9)559-562)
・72歳男性, 甲状腺癌
WBC 36200/µL, Neu 65%, Eo 26%.
G-CSF 150pg/mL, GM-CSF 459pg/mLと双方上昇
IL-3, IL-5は正常範囲
(Internal Medicine 1996;35:815-820)
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実際探してみると, 5例ではなく7例. 日本国内から2例(医中誌調べたらもっとあるかも)
そのほぼ全例でGM-CSFの関連が示されている.
傍腫瘍性LRではG-CSFが産生され, Neuが上昇することが多いが, GM-CSF産生腫瘍の場合にはこのNeu-Eo LRとなる例があると考えられる.