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2022年5月19日木曜日

M蛋白血症に伴う皮膚所見

全身性の疼痛でPMRと診断, 治療されていたが, 徐々に炎症反応コントロールがつかなくなり, 皮膚病変を生じはじめた高齢女性.

皮膚は体幹は皮膚硬化や色素沈着を伴い, 四肢末梢は隆起性の掻痒感を伴う丘疹, また固い白色〜透明感を伴う小結節であり, 広範囲に拡大.

PMRではないだろう, ということで精査すると, IgGλ型のM蛋白血症が認められた


さて, POEMSやMM, ALアミロイドーシスなど, M蛋白を認める疾患ではどのような皮疹となるのか?

というようなClinical Question.


参考にしたReview

(JEADV 2017, 31, 45–52)

(Blood Cancer Journal (2022)12:58 ; https://doi.org/10.1038/s41408-022-00661-1)


M蛋白血症に伴う皮膚病変は主に腫瘍性形質細胞の浸潤と,
 M蛋白自体の皮膚沈着, またそれによる免疫や炎症反応により生じる.

・疾患としてはPOEMS症候群, AL amyloidosis, Schnitzler syndrome, Scleromyxedema, TEMPI症候群で認められることが多い.

・皮膚病変の性質や原疾患から4つのグループに分類される

 

G I: 腫瘍性形質細胞疾患によるもの; 細胞浸潤, 腫瘍性M蛋白の沈着

 
G II: 非腫瘍性疾患によるもの; M蛋白の沈着, 自己抗体やサイトカインによる炎症, 機序が不明確なものも含まれる.


 G III: 症例報告レベルのM蛋白疾患に合併した皮膚病変

 
G IV: M蛋白に関連するが, 特異的なものではない; 薬剤や過粘稠による出血, 感染症なども含まれる.


主に問題となるのがG I, G II


Group Iにおける疾患と皮疹の特徴をまとめた.

疾患/病態(Group I)

皮膚所見

POEMS

色素沈着先端チアノーゼ多毛毛細血管拡張皮膚肥厚体幹や四肢近位部の赤紫色の皮疹も認められる.
レイノー現象も認められ強皮症との鑑別で重要

WM

四肢伸側面の小さな真珠光沢を有する丘疹
 >> 真皮のIgM沈着が認められる真皮上層中部にヒアルロン酸や顆粒状の好酸球性沈着物を認める
手背の水疱びらん丘疹

AL amyloidosis

早期では刺激部位の紫斑

眼窩周囲, 顔面の紫斑 
  紫斑は血管へのアミロイド沈着, 後天性第X因子欠損, 線維素溶解の増加によるもの
点状出血, 散在する非外傷性斑状出血, 結節, 脱毛, 皮膚の強皮症様変化

ドーム状, 蝋状, 半透明の外観を持つ丘疹
口腔内では巨舌, 舌の硬結, 歯肉出血
爪甲剥離, 爪裂孔

Cryoglobulinemia(M蛋白関連ではType 1)

炎症性皮疹, 丘疹, 出血性痂皮, 先端チアノーゼ, 網様皮斑
潰瘍, 塞栓症

Plasmacytoma(皮膚形質細胞種)

赤色, 紫色, 非圧痛性結節で, しばしばびまん性の紅斑を伴う

・POEMSでは強皮症様の皮膚変化となるのがポイント. レイノー現象も認められ, 初期に強皮症と間違えられることもある. CIDP様の末梢神経障害やTP/Alb解離に注意する.

・WMでは真珠光沢を有する丘疹. 水疱, びらん.


・AL amyloidosisでは色々な皮膚病変がある. 血管への沈着による紫斑は早期に認めらる. 第X因子の欠乏による眼窩周囲の紫斑はアミロイドーシスに有名な所見の1つ.

 他には強皮症様の皮膚変化や丘疹, 蝋状の皮膚など様々. 爪の変化もある.

 巨舌の確認も忘れずに.


Group IIにおける疾患と皮疹

疾患/病態(Group II)

皮膚所見

Schnitzler症候群

慢性蕁麻疹様皮疹(薔薇色赤色の紅斑軽度隆起した丘疹)
 皮膚生検では間質や血管周囲への好中球浸潤を認める
 血管のフィブリノイド壊死は通常認めない
好中球性蕁麻疹性皮膚症と呼ばれる
IgMκ
M蛋白との関連が強い

Necrobiotic Xanthogranuloma
(壊死性黄色肉芽腫)

固い黄色オレンジ色の丘疹結節を特徴とする非ランゲルハンス組織細胞症. IgG-κM蛋白との関連が強い
眼窩周囲の皮膚病変が多い体幹や四肢のみもある

Plane Xanthoma
(平面黄色腫)

眼窩周囲, 頭部, 頸部, 体幹, 肩, 四肢などのびまん性の平面黄色腫
MGUS, MM, AML, リンパ腫, キャッスルマン病に関連することがある.
皮膚病変は斑状のオレンジ色の皮疹として生じる

Scleromyxedema

強皮症に類似した皮膚病変で, 皮膚のムチン沈着が認められる
2-3mm大の密で固い, 蝋質の, 赤色/肌色の, ドーム型/平坦頂点の丘疹を示す. 手, 頭, 体幹, 大腿に生じる

M蛋白は90%で認められ, 主にIgGλ型

Scleredema

溶連菌感染やM蛋白性疾患に伴う稀な硬化性皮膚疾患.
M蛋白はIgGで, κ>λ
真皮ムチン, コラーゲンの過剰な蓄積で, 皮膚の対象的な広範囲の肥厚や非点状硬結を生じる. 一部ではオレンジの皮のような変化.

・Group IIは結構稀な病気が多い

・高脂血症以外に黄色腫が生じる疾患としてM蛋白関連は覚えておくと良いかもしれない

 黄色腫はどのタイプも眼窩周囲で多い(60%). 次いで体幹(48%)や手足(46%)で認められる.(Blood. 2011;118(14):3777-3784)

・また皮膚が硬化することも多く, 強皮症やモルフィア, 好酸球性筋膜炎との鑑別の際にも重要