MAS: Macrophage activation syndromeはマクロファージが過度に活性化した状態であり, 血球貪食リンパ組織球症(HLH)としても知られている.
・組織マクロファージの活性化によりINF-γ, IL-1β, IL-18, フェリチンの過剰な産生が認めれられる.
・ 悪性腫瘍や自己免疫性疾患, 先天性, ウイルス感染症(EBV)に伴うものが有名であるが, 重症敗血症でも伴うことが知られており, その場合MALS: Macrophage activation-like syndrome と呼ばれる.
敗血症におけるMALSの頻度. 予後への関連
敗血症(= 感染症+SIRS ≥2項目)患者において, MALSの頻度を評価.
(BMC Medicine (2017) 15:172)
・MALSはHScore陽性 and/or 肝胆道系障害+DIC合併で定義
・この研究ではHScoreの骨髄検査がRutineに行われていないため, 35点を引いて, カットオフ値を151点とした(通常は169点)
評価項目 | 評価と点数 |
元々免疫抑制状態がある* | なし: 0点, あり: 18点 |
体温 | <38.4度: 0点, 38.4—39.4度: 33点, >39.4度: 49点 |
臓器腫大 | なし: 0点, 肝腫大もしくは脾腫大: 23点, 肝脾腫: 38点 |
血球貪食の系統数** | 1系統: 0点, 2系統: 24点, 3系統: 34点 |
フェリチン値(ng/mL) | <2000: 0点, 2000-6000: 35点, >6000: 50点 |
トリグリセリド(mg/dL) | <133: 0点, 133-354: 44点, >354: 64点 |
フィブリノーゲン(mg/dL) | >250: 0点, ≤250: 30点 |
AST(IU/L) | <30: 0点, ≥30: 19点 |
骨髄像で血球貪食像 | なし: 0点, あり: 35点 |
・肝胆道系障害は以下のうち2つ以上を満たす;
(1) Bil≥2.5mg/dL, (2) AST ≥2ULN, (3) INR ≥1.5
・DICはDICスコアを用い, 5点以上を有意とした
・また, 登録患者はSepsis-3の定義を用いて, 敗血症を分類し, 敗血症+上記を満たす群をMALSと診断.
・MALSの合併と10日死亡リスクへの関連,
血液中サイトカイン, フェリチン値の関連を評価した
・One test cohort 3417例, Validation cohort 1704例
アウトカム: MALSの死亡リスクへの関連
・MALSは有意な死亡リスク因子となる; 10日死亡OR 1.86~2.81
フェリチン値によるMALSの予測, 予後への関連
・フェリチン>4420ng/mLは 感度 24.2%, 特異度 97.9%でMALSを示唆する
・フェリチン≥4420となる群の28日死亡率は66.7%, 66%と高い
・Day 3でフェリチンの低下が<15%の場合, 予後不良に対する感度が>90%.
・フェリチン高値となる例では, 有意にIL-6, IL-18, IFN-γ値が高値となり,
IL-10/TNFαが低値
このデータより, 敗血症においてフェリチン値≥4420ng/mLはMALS合併の可能性を大きく上昇させることが示唆された.
敗血症でMALSを合併する場合, 抗菌薬治療や全身管理に加えて, 免疫抑制療法の併用も検討される(ステロイドやJAKi, IL-1, 6阻害など)
現在敗血症において上記フェリチン値上昇例を対象とした, IL-1阻害薬のPhase II trialsなどが進行中である.
また, 2021年11月に ICU管理となった市中肺炎症例の前向きCohortにおいて, このフェリチン値と予後への関連を評価した報告が発表.
Crit Care Med. 2021 Nov 1;49(11):1901-1911.
市中肺炎症例におけるMALS合併を評価した前方研究
・2箇所のICUにおける観察研究. 市中肺炎でICU管理となった患者群を対象.
・除外項目は再入院症例, 他ICUからの転院, ICU入室前に2日間以上経過した症例, 誤嚥性肺炎が疑われる症例, 合併感染症が疑われる症例, 心停止.
・上記を満たす153例の血清フェリチン値は275ng/mL[132-623]
・>4420ng/mLは15例(9.8%)で認められ, この群をCAP-MALSとした
CAP-MALS群のフェリチンは13880[9830-44720]
・CAP-MALSの5日, 10日間死亡率は33.3%,
CAP群では6.6%, 10.9%と有意にMALS合併群で予後不良であった.
背景に血液悪性腫瘍がある場合, CAP-MALSのリスクを有意に増大: OR 6.74[1.42-30.42]
・Absolute riskは血液腫瘍(-)群で7.1%[2.81-11.3]
血液腫瘍(+)群で41.7%[13.9-69.6%]でMALSを合併
・CAP-MALS群の33.3%で血液悪性腫瘍を合併 (CAP群では5.1%のみ)
この血液腫瘍群を除外した141例で評価した場合, MALS群と非MALS群で死亡リスクは有意差を認めない. ただしサイトカインの差はある.
このCohortからは, 敗血症でMALSを合併する症例ではその背景に血液腫瘍が存在する可能性が示唆された.
また死亡リスク上昇は血液腫瘍合併例でさらに死亡リスクとなり, それらがない患者群では死亡リスクの上昇は認めない.