疾患例: 60歳台女性, 1年前に腎梗塞の既往があり, その際の造影CTにて大動脈弓部に有茎性の血栓が認められた.
精査にて明らかな血栓症のリスクとなる凝固障害疾患は認められず. 動脈硬化は認めるものの, 軽度〜中等度程度であった. 大動脈瘤や解離は認めない.
抗凝固療法にて血栓は退縮し, およそ半年の治療で抗凝固療法は終了となった.
その数ヶ月後, 左上肢末梢の虚血症状, チアノーゼが出現. 再度精査にて同様の弓部の血栓症の再発が認められた.
というようなプレゼン.
Aortic mural thrombusは動脈硬化が強い患者や動脈瘤, 解離がある患者で多く認められる病態.
稀にそれらがない, 軽度な動脈硬化のみ, または正常血管でも生じ, 末梢塞栓症の原因となる例が報告されている: Primary Aortic Mural Thrombus(PAMT)
・Afや心臓からの塞栓を認めない四肢の虚血や臓器梗塞患者において, AMTは重要な鑑別の一つである.
・2011-2013に四肢, 臓器血管の閉塞で受診した88例を評価した報告では,
このうち19例が大動脈の壁在血栓による塞栓症と判断された.
胸部Aoが10例, 腹部/腎動脈分岐までが3例, 腎動脈分岐以遠が6例 (J Vasc Surg 2014;60:1524-34.)
2013年のLiterature Reviewより, 非動脈硬化・動脈瘤・解離症例の大動脈壁在血栓症例200例解析した報告. 治療は主に抗凝固薬, 外科手術が行われている.
(Ann Vasc Surg 2013; 27: 282–290 DOI: 10.1016/j.avsg.2012.03.011)
・平均発症年齢は50歳前後. 男女差はほぼない
・並存疾患として多いものは高血圧, 糖尿病, 高脂血症, 他に血液疾患, 悪性腫瘍が1割, 一部でIBD
・症状は四肢虚血が6-7割, 脳卒中が1-2割, 臓器虚血が2-3割となる.
・血栓の部位は, 弓部と下降Aoが多い.
外科手術が行われた患者群では弓部が多く 内科敵治療では下降Aoが多い.
・血栓の大きさは3-4cm程度.
無茎性(sessile)が12%. 茎がある症例が多い.
大動脈壁の動脈硬化は3-5割で認められる.
画像所見の例:
予後:
・持続性, 再発性の壁在血栓は 抗凝固薬治療群で26.4%, 外科手術群で5.7%で認められた. p<0.001
・末梢の塞栓症の再発は37例(18%), この内29例は抗凝固薬治療群, 外科治療群は8例
再発率は抗凝固療法群で25.7%, 外科治療群で9.1%, p=0.003
・Stroke, 四肢切断, 腸管切除は27.7% vs 17%と抗凝固群で多い傾向があるが, 有意差はない. p=0.07
・四肢切断のみでは抗凝固療法群で多い: 9% vs 2.3%, p=0.04
・死亡率はそれぞれ6.2%, 5.7%と同等
末梢塞栓症の再発リスク因子
・血栓部位が上行Ao OR 12.7[2.3-38.8]
血栓部位が大動脈弓部 OR 18.3[2.6-376.7]
大動脈壁に動脈硬化(+) OR 2.5[1-6.4]
Strokeで発症 OR 11.8[3.3-49.5]
抗凝固療法を施行した患者ではOR 0.3[0.1-1]とリスクは低下する
壁在血栓の残存, 再発のリスク因子
・軽度の動脈硬化像 OR 4.8[1.8-13.4]
四肢切断に関連する因子
・弓部の血栓 OR 0.1[0.01-0.4]
下降Aoの血栓 OR 0.2[0.01-0.7] と弓部, 下降Aoではリスクは低い
下降Aoのmural thrombusを調査したLiterature Riview
(J Vasc Surg 2017;66:931-6.)
・女性が多く, 82%が塞栓症後の評価にて AMTが認められた.
・治療は内科的, 開胸手術, 血管内治療が同程度.
TEVARでは再発率も低く,
近年はTEVARが選択されることが 多くなっている