P: polyneuropathy
O: organomegaly
E: Endocrinpathy
M: Monoclonal gammopathy (M protein)
S: Skin changes でPOEMS症候群. 別名 Crow-Fukase症候群
・形質細胞疾患の1つであり, MGUSやくすぶり型多発性骨髄腫, 多発性骨髄腫に合併する病態.
・骨硬化性の多発性骨髄腫 + 末梢神経障害を呈する患者群では, 色素沈着や浮腫, 皮膚肥厚, 肝腫大, ばち指の頻度が高く, その様な症候群をPOEMS症候群と呼ぶ様になった.
・サイトカインの関与が示唆されており, 特にVEGFが関与していると考えられている.
(Blood 2003;101:2496-506, Curr Opin Neurol 2009;22:480-5)
POEMS症候群の症状, 所見
・発症年齢は51歳[30-83], 男性が63%と多い.
・症状の頻度
(Blood. 2003
Apr 1;101(7):2496-506.)(Int J Dermatol. 2013 Nov;52(11):1349-56.)(J
Neurol Neurosurg Psychiatry. 2012
May;83(5):480-6.)
末梢神経障害は90-100%で認められる症状.
・POEMS症候群での末梢神経障害は脱髄性の多発神経根障害となる. CIDPに類似しており, 実際POEMS症候群で神経伝達速度検査を行うと, 70%がCIDPのクライテリアを満たす.
・POEMS症候群 51例とCIDP 46例を比較した報告では
症状はPOEMS症候群ではCIDPと比較して
下肢遠位の筋力低下が顕著(CIDPは近位も障害)
疼痛を伴うことが多い(76% vs 7%)
脳神経障害は少ない(2% vs 18%) という特徴がある
(J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2012 May;83(5):476-9.)
・また, 末梢神経障害ではPOEMS症候群以外に, 他の形質細胞疾患でも認められる. それぞれで機序や神経障害のパターンが異なる.
疾患
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M蛋白の種類
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末梢神経障害パターン
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神経伝導速度検査による分類
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IgM-MGUS
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IgMκ
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遠位のLarge fiberの障害による感覚神経障害と感覚性運動失調が主となる.
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脱髄性障害
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Waldenströmマクログロブリン血症
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IgMκ
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遠位のLarge fiberの障害による感覚神経障害と感覚性運動失調が主となる.
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軸索障害 > 脱髄性障害
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多発性骨髄腫
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IgG > IgA
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Length-dependentな感覚, 感覚運動, 運動神経障害
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軸索障害
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POEMS症候群
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IgGもしくはIgA, λ鎖
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感覚運動多発神経根障害(CIDP様)
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脱髄性障害
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ALアミロイドーシス
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λ鎖
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感覚運動末梢神経障害で, 自律神経障害が顕著となる
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軸索障害
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(Continuum (Minneap Minn). 2014 Oct;20(5):1307-22.).
皮膚変化のパターン
・皮膚変化は6-9割程度で認められる所見. 多いのは色素沈着, 他には多毛や血管腫, 皮膚硬化が認められる.
・皮膚硬化は全身性に出現し, 全身性硬化症様の所見となる. またレイノー現象も伴うことがあり, 全身性硬化症との鑑別が重要.
ちなみに, 全身性硬化症様の皮膚病変を呈する疾患としては以下のものが挙げられる
局所性強皮症 | 代謝, 内分泌疾患 糖尿病, カルチノイド症候群, ポルフィリア, フェニルケトン尿症, nephrogenic fibrosing dermopathy |
外傷性, 放射線療法 |
ムチン沈着性疾患 Scleromyxedema, Buschke scleredema, nephrogenic fibrosing dermopathy |
慢性GVHD | Inherited progeroid syndrome(Werner症候群) |
M蛋白性疾患 Sceromyxedema, POEMS, MM, Buschke scleredema |
化学物質性 好酸球-筋痛症侯群, Txic oil syndrome, polyvinyl-chloride disease, organic solvents, epoxy resins exposure |
先天性疾患 melorheosthosis, stiff skin syndrome, porphyria cutanea tarda, phenylketonuria, restrictive dermopathy, scleroatrophic Huriez syndrome |
好酸球性疾患 好酸球性筋膜炎, 好酸球-筋痛症候群, Txic oil syndrome |
薬剤性 ブレオマイシン, ペンタゾシン, プロゲスチン, vit B12, vit K, コカイン, D-ペニシラミン, peplomycin, INF-β1a, uracil-tegafur, パクリタキセル, methysergide, ゲムシタビン |
(Autoimmunity Reviews 7 (2008) 331–339)
骨病変は硬化性病変, 骨融解病変双方あり得る
・ただし骨融解像ならば他の形質細胞疾患でも認められるため, POEMS症候群に特異的というわけではない. 骨硬化像ならば特異的な所見であり, 従って診断基準にも含まれる.
その他の所見
・体液の血管外漏出が約半数で認められる. 浮腫や腹水, 胸水貯留となる.
POEMS症候群の検査所見
(Blood. 2003 Apr 1;101(7):2496-506.)(Int J Dermatol. 2013 Nov;52(11):1349-56.)(J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2012 May;83(5):480-6.)
POEMS症候群ではIgAλ, IgGλのM蛋白血症が9割以上を占める
・κ鎖やIgMのM蛋白血症は稀.
M蛋白血症を認めないのも1割程度である(軽鎖のみのパターン)
血液検査では, 多発性骨髄腫に典型的な低Alb血症やCa上昇, 貧血, 腎不全を伴うことは稀
・骨髄中形質細胞 >10%となる例がわずか14%のみであり, POEMS症候群の86%はMGUSということになる.
・M蛋白量も<2g/dLであることがほとんどであり, TP/Alb解離も乏しい.
>> 従って, TP/Alb解離がないのでPOEMSっぽくないよね、とは言えない.
CIDP様の神経症や皮膚変化, 原因のわからない浮腫や胸腹水では必ず鑑別に入れ, FLCやM蛋白のチェックは行うべきと言える.
POEMS症候群ではVEGF値が1500-2500pg/mL程度まで上昇
・他の形質細胞疾患, CIDP, GBSでは平均<500pg/mL
・一部で値がオーバーラップするため, 1000-1500pg/mL程度では判断がつかない.
(Clinica Chimica Acta 413 (2012) 1800–1807)
POEMS症候群の治療
・治療は多発性骨髄腫に準じて治療を考慮する.
・幹細胞移植の適応がある患者では考慮する
・化学療法ではメルファラン-プレドニゾロン, サリドマイド-デキサメタゾンが推奨される. レナリドミド-デキサメタゾンも効果的ある可能性が示唆されている(Clin
Lymphoma Myeloma Leuk. 2015 Sep;15(3):e57.)
・抗VEFGモノクローナル抗体(ベバシズマブ)も試されており, 半数程度で効果が認められており, 今後のStudyに期待.