・歩行障害や神経因性膀胱, 認知症が徐々に進行し, 認知症が進行すると手術を行っても改善しないリスクが高まる.
・認知症が前面にでず、歩行障害や神経ん性膀胱がメインとなることや, 早期症状となることから, 神経内科よりもむしろ一般内科や救急で診療することが多く, 知っておく必要がある.
実際個人的にも
・痙攣で救急搬送しiNPHであった症例
・尿路感染症で入院し, iNPHによる神経陰性膀胱であった症例
・転倒で救急を受診し, iNPHであった症例....などなど多数のiNPHを診断し, Tap testやシャント術後に改善している症例は経験している.
iNPHの治療は脳室腹腔シャント(VPシャント)や腰髄-腹腔シャント(LPシャント)であり,
約30-90%で反応が認められる(Dan Med J 2014;61(10):A4911).
シャント術にて反応がある例もあれば, 残念ながら反応が乏しい症例もあり,
できれば術前に予測できれば良いと思うが, そのようなパラメータはあるのだろうか?
・世間一般的にはTap testの結果が有用との見方が多いが, 実際どうなのか?
Tap testの予測能
日本国内のSINPHONI trial.
(60-85yrで歩行障害, 認知障害, 排尿障害のいずれか1つ以上あり, MRIにて脳室の拡大, 円蓋部狭小化, 中央くも膜下腔の狭小化(+)を満たす100名でVPシャントを施行した前向きStudy)
・平均年齢は74.5(5.1)yr, 58名が男性.
・歩行障害 91%, 認知障害 80%, 排尿障害 60%.
・古典的三徴を認めたのは51%のみ.
・CSF圧は11.9(3.4)cmH2O, Evans indexは35.6(4.0)%
この群でVPシャントを施行したところ80%で反応は良好であった.
(Cerebrospinal Fluid Research 2010, 7:18)
このSINPHONI trialにおいて, シャント術による症状改善をアウトカムとした時のTap test感度, 特異度を評価 (Fluids and Barriers of the CNS 2012, 9:1)
感度(%)
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特異度(%)
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LR+
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LR-
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歩行スコア改善
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51.3%
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80.0%
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2.6
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0.6
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認知スコア改善
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25.0%
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85.0%
|
1.7
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0.9
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排尿スコア改善
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37.5%
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85.0%
|
2.5
|
0.7
|
全体スコア改善
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71.3%
|
65.0%
|
2.0
|
0.4
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TUG ≥10%改善
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34.3%
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73.6%
|
1.3
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0.9
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MMSE≥3改善
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63.8%
|
30.0%
|
0.9
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1.2
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上記いずれか
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92.5%
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20.0%
|
1.2
|
0.4
|
全体スコア改善, CSF圧>15cmH2O
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82.5%
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65.0%
|
2.4
|
0.3
|
この結果から, tap testにおいて症状が改善すれば, シャント術にて反応が見込める可能性は上昇する(特異度が高い)ものの, tap testで反応が乏しくても, シャント術が意味ないとは言えない(感度は低い).
2005年のReviewでは, Tap test(40-50mlドレナージ)では感度26-62%, 特異度 33-100%でシャントへの反応を示唆する結果であり, やはりtap testは特異性良いが, 感度は低いと考えるべきである(Neurosurgery 57:S2-17-S2-28, 2005).
では他に有用なものはあるか?
持続ドレナージ検査
持続ドレナージは24-72時間の間, 髄液をドレナージし続ける方法であり, 持続ドレナージ(3日間で500ml以上)のドレナージでは感度は上昇し, シャントへの反応性を感度50-100%, 特異度 60-100%で示唆する.(Neurosurgery 57:S2-17-S2-28, 2005).
iNPHを疑われ, 持続ドレナージを行った66例の後ろ向き解析
・持続ドレナージは4日間施行し, 症状の改善を認めたのは57例.
陽性例57例と, 陰性例3例でシャントを施行.
・ドレナージは10ml/hの速度に調節
・シャント術にて改善を認めたのは55例であり, その全例が持続ドレナージ反応群(55/57)
陰性群ではシャントを施行しても反応は認めなかった
・持続ドレナージ陰性でシャントを施行した3例は, Tap test陽性であったが, シャントへの反応はなし
・持続ドレナージ陽性例 57例のうち, Tap testも陽性なのが34例. Tap test陰性例でも持続ドレナージ陽性ならば反応は期待できる.
(Surg Neurol Int. 2014; 5: 12.)
iNPH疑いの68例を前向きにフォロー.
・術前に臨床所見評価, 夜間頭蓋内圧モニタリング, Lumber infusion test(LIFT), 持続ドレナージ(24-72h)を行いシャント術への反応予測に寄与する因子を評価.
・持続ドレナージにて反応を認めたのが33例で, その33例でシャント術を手配. 陰性例では施行せず
・33例中26例が12ヶ月後の症状の改善あり(79%)という結果.
・他にMMSE<21は感度93%, 特異度67%でシャント術への反応不良を示唆する結果
(Idiopathic normal pressure hydrocephalus: diagnostic and predictive value of clinical testing, lumbar drainage, and CSF dynamics. J Neurosurg. 2016 Jan 29)
画像所見はどうか?
VPシャントを施行したiNHP 108例の画像所見を評価.
・シャント術で所見が改善した群 vs しなかった群で比較.
Callosal angle, DESH, Temporal hornは有意にVPシャント反応性に関連する因子
Callosal angle, Temporal horn
DESH Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalus
iNPHに典型的な, 円蓋部の狭小化, シルビウス裂の拡大, 脳室拡大をDESHと呼ぶ.
・iNPHの90%がDESHを満たすが, 10%はnon-DESHとなる.
11名のVPシャントにて改善したiNPH患者と, 同年齢のAlzheimer病患者11名, 血管性痴呆11名で評価.
・T1-WIにおいて, 脳室, 基底槽, シルビウス裂, シルビウス裂上のクモ膜下腔のSpaceを評価.
画像による各スペースの評価
数字の羅列は, Spaceの拡張, 狭小化を表す.
・[重度の拡張] / [軽度~中等度] / [正常]/ [狭小化]
・NPHでは, AD, VDと比較して側脳室, 第三脳室, 中脳水道, 第四脳室, シルビウス裂が著明に拡張.
・Superior medial space, 円蓋上部は正常 or 狭小化している.
・基底槽はどれも有意差無し.
このように脳室の拡大やシルビウス裂の拡大が目立つのに, 円蓋部が密の所見をDESHと呼ぶ, その患者で歩行障害や神経因性膀胱が認められればまずiNPHを疑う.
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・iNPHは治療可能な認知症であるが, 認知症が進むとシャントの効果も低下する.
・シャントへの反応性を示唆する所見として, Tap testはあるものの, 感度は低いため, Tap testで反応がないからといってシャントが意味がないとは言えない点に注意.
・他にシャントへの反応性を示唆する所見は持続ドレナージであるが, あまり国内ではやっている施設は少ない(自分は知らない)
・また, 画像における側脳下角の拡大やCallosal angleの狭小化, DESH所見はシャントで反応する可能性を高めるため, それら要素が揃えばTap testの結果関係なしにシャントを考慮したほうがよいであろう.
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またたまにiNPHとDLBとの鑑別が問題となることがあるが, 調べていると以下の論文を見つけたので紹介する.
日本国内からの報告
127例の確実なiNPH症例(シャントで改善した症例)を解析
・そのうち21例でDLBが疑われ, I-MIBG心筋シンチが施行.
さらに7例で取り込みの低下が認められた.
・iNPHで心筋取り込み障害(+)群と(-)を比較
取り込み障害(+)群では神経因性膀胱が軽度でやや若年発症.
といっても臨床上鑑別になるほどの違いとも言えない.
症状の比較
取り込み正常例の方が幻覚は多い. 新鮮も取り込みがない方が多い.
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iNPHの画像所見があり、症状としてはDLBの鑑別が必要というケースがあるかもしれないが, それでMIBGシンチを行っても, 双方の鑑別はつかない.
それよりは治療可能な原因をしっかりと探るという姿勢, 迷えばその点を吟味し, 持続ドレナージを行うか, 患者と相談しつつシャントを行った方が良いかもしれない.