高齢発症のうつ病は60歳以上で発症したうつ病で定義される.
一般内科外来では若年のうつ病よりも高齢発症のうつ病の方が実は多く診る.
不定愁訴で, 様々な科を受診したが診断がつかず, 夜間の救急外来も常連, という患者さんが実はうつ病であり, しっかりとマネージメントすることで頻回受診も無くなる, という例も稀ではない. そんな中, NEJMより高齢発症のうつ病についてのReviewがでたのでまとめる.
最初はうつ病の一般的な知識について
うつ病の一般的な頻度
Primary Care Settingでは4.8-8.6%の有病率
気分の変調に関しては2.1-3.7%
非典型的うつ症状は4.4-5.4%
うつ病の分類と定義(DSM-IV)
抑うつ気分
無快感症
睡眠障害
食欲, 体重変化
意欲の低下
精神運動の低下, 亢進
集中力の低下
罪悪感, 無価値と思い込む
自殺念慮
Category
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DSM-IV
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期間
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Major Depression
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>=5のうつ症状,
抑うつ気分, 無感を含む, 日常生活を著しく障害 |
>=2wk
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Minor Depression
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2-4のうつ症状,
抑うつ気分, 無感を含む 日常生活を著しく障害 |
>=2wk
|
Dysthymia
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3-4の気分変調症状,
日常生活を著しく障害 |
>=2yr
|
うつ病の診断について
うつ病の診断にはしっかりと診断クライテリア, スコアを用いた方が確実.
『うつ病っぽいな』で診断するのはダメ. 特にプライマリケア.
Primary Care Physicianによる, Unassisted DiagnosisではSn 50.1%[41.7-53.0], Sp 81.3%[74.5-87.3], LR(+) 2.7, LR(-) 0.6 (Lancet 2009;374:609-19)
*Unassisted; 診断Criteria, Scoreを使用しないで医師の判断で診断
偽陽性が約半数あり, 安易に診断してしまうと見落としに繋がる.
診断基準, Score, Criteriaをキチンと押さえることが重要.
診断基準, Score, Criteriaをキチンと押さえることが重要.
うつ病のスクリーニング
うつ病は2段階で評価
Screening ⇒ 疑い濃厚ならば, 時間をとって診断診察へ
スクリーニングとして有用なのは沢山あるが, PRIME-MD, PHQ-9が良いとされる
PRIME-MD (2 items) ; >=1ptで陽性
過去1か月以内に
気分の落ち込み, 抑うつ, 希望喪失によりしばしば悩まされましたか?
意欲の喪失, 興味の喪失によりしばしば悩まされましたか?
意欲の喪失, 興味の喪失によりしばしば悩まされましたか?
外来患者において, Sn 87%, Sp 78%, LR(+) 2.6[2.1-3.2], LR(-) 0.15[0.08-0.28]
Primary Care, OB/GYNにおいて, Sn 83%, Sp 92%
Nine item Patient Health Questionnaire (PHQ-9)
項目
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全く無い
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たまに
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半日以上
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ほぼ毎日
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1)物事に興味がわかない, 楽しくない
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0
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1
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2
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3
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2)落ち込み, 抑うつ, 希望喪失感がある
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0
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1
|
2
|
3
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3)睡眠障害, 入眠障害, 傾眠傾向がある
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0
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1
|
2
|
3
|
4)疲労感, エネルギー喪失感がある
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0
|
1
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2
|
3
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5)食欲低下, 過食がある
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0
|
1
|
2
|
3
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6)自分自身のことを悪く思う
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0
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1
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2
|
3
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7)集中力が低下している(新聞, テレビなど)
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0
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1
|
2
|
3
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8)移動, 行動, 会話がゆっくりと言われた
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0
|
1
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2
|
3
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9)死んだ方がマシと思える, 自殺を試みた
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0
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1
|
2
|
3
|
“全く無い”以外を4ヵ所以上Check ⇒ うつ病と考える SN 81, SP 92
“全く無い”以外を5ヵ所以上(1 or 2 + 4ヵ所) ⇒ Major Depression
“全く無い”以外を2-4ヵ所Check(1 or 2 + 1-3ヵ所) ⇒ その他のうつ病
感度は母集団により異なる; 心臓内科患者 54%, 透析患者 92% etc.
“全く無い”以外を5ヵ所以上(1 or 2 + 4ヵ所) ⇒ Major Depression
“全く無い”以外を2-4ヵ所Check(1 or 2 + 1-3ヵ所) ⇒ その他のうつ病
感度は母集団により異なる; 心臓内科患者 54%, 透析患者 92% etc.
Outcome (PHQ >=10pt)
|
LR(+)
|
LR(-)
|
Major Depression
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4.9-7.3
|
0.02-0.14
|
Major Depression or Dysthymia
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5.9[4.2-8.3]
|
0.29[0.23-0.38]
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心血管疾患患者群での評価
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Sn(%)
|
Sp(%)
|
PPV
|
NPV
|
|
PHQ-9 >=6
|
83[67-92]
|
78[71-84]
|
46[34-58]
|
95[90-98]
|
Gen Hosp Psychiatry 2007;29:417-24
|
PHQ-9 >=10
|
54[47-60]
|
90[88-92]
|
60[53-67]
|
87[85-90]
|
Am J Cardiol 2005;96:1076-81
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2-Item; YES
|
90[86-93]
|
69[66-72]
|
45[40-50]
|
96[94-97]
|
J Psychosom Res 2003;54:279-87
|
該当項目が, どの程度自力で克服可能か評価するのも大事
Primary Care SettingでのPHQ-2,9のSn, Sp Ann Fam Med 2010;8:348-53
PHQ-2; PHQ-9の最初の2つの質問で評価した指標
2642名でPHQ-2,9を評価.
Reference StandardはComposite International Diagnostic Interview
Reference StandardはComposite International Diagnostic Interview
PHQ-2の感度, 特異度
PHQ-2 |
Sn(%) |
Sp(%) |
LR(+) |
LR(-) |
>=1 |
96 |
60 |
2.4 |
0.07 |
>=2 |
86 |
78 |
4 |
0.18 |
>=3 |
61 |
92 |
7.7 |
0.42 |
>=4 |
40 |
96 |
11 |
0.62 |
PHQ-9 |
Sn(%) |
Sp(%) |
LR(+) |
LR(-) |
>=8 |
82 |
85 |
5.8 |
0.16 |
>=10 |
74 |
91 |
8.4 |
0.28 |
>=12 |
61 |
94 |
10.6 |
0.44 |
>=15 |
45 |
97 |
17.3 |
0.57 |
MD* |
45 |
97 |
15 |
0.57 |
* Major depression; 1-2番目の質問の何れかが>=2ptで前部で5つ以上の質問で>=2ptを満たす
PHQ-2 >=1ならばPHQ-9を行う.
PHQ-9 >=10, MDを満たすならば, うつ病を強く疑い,診断基準を評価する.
PHQ-9 >=10, MDを満たすならば, うつ病を強く疑い,診断基準を評価する.
うつ病のマネージメント アルゴリズム JAMA. 2012;308(9):909-918
で, 本題
高齢発症のうつ病 N Engl J Med 2014;371:1228-36.
高齢発症のうつ病は60歳以降で発症したうつ病で定義.
地域社会に済む高齢者の5%がMajor depressive disorder.
地域社会に済む高齢者の5%がMajor depressive disorder.
また, 8-16%に抑うつ症状が認められる.
病気がある場合にさらにうつ病の頻度は上昇し, プライマリケアでは5-10%, 重症疾患で入院した後の群では37%でうつ病が認められる報告もある.
高齢発症のうつ病患者と, 若年発症のうつ病をもつ高齢者を比較すると前者の方が神経障害の頻度が高かったり, 頭部MRIでも加齢性変化がより顕著に認めることが多い.
認知症発症リスクも高い傾向にある.
これらの情報から, 高齢発症のうつ病の原因の1つに血管障害が関連している可能性が示唆されている.
認知症発症リスクも高い傾向にある.
これらの情報から, 高齢発症のうつ病の原因の1つに血管障害が関連している可能性が示唆されている.
若年発症のうつ病と比較して, 高齢発症のうつ病では
気分の落ち込みがより少ない. 反対にイライラ, 不安, 心身症の頻度が高い傾向にある.
高齢者のうつ病では併存疾患も多く, 使用薬剤も多いため, うつ病の治療をさらに複雑とする
薬剤代謝も低下しており, 抗うつ薬による副作用リスクも上昇する.
薬剤代謝も低下しており, 抗うつ薬による副作用リスクも上昇する.
プライマリケアにおいて, うつ病, 不安神経症の重症度と背景疾患, 疼痛との関連を評価.
(J Am Board Fam Pract 2002;15:183–90.)
重症例ではより頭痛や変形性関節症, 腹痛といった疼痛の頻度が高い.
うつ病や不安神経症のリスクとなる因子は女性, 健康状態, Disability, 疼痛が挙げられる.
このような患者ではフォローする際にうつ病の発症リスクがあることを念頭の置いておくべき
高齢発症のうつ病で注意すべき点
病歴にて注意すべき点
自殺リスクが高いため, 自殺企図の有無, 過去の自殺企図を評価.
ストレス因子, 環境因子の評価
アルコール, 違法薬剤, Polypharmacyの評価: ステロイドやProplanololはうつ病のリスクとなる.
既往歴の確認
慢性疼痛の有無
家族歴: 認知症と自殺の家族歴は其々のリスク因子となる.
認知症の評価: ただしうつ症状が強い場合, 認知機能評価テスト結果も悪化する傾向があるため, うつ症状が軽快した後に延期するのも可.
検査にて注意すべき点
貧血, 甲状腺機能低下症, ビタミンB12欠乏, 葉酸欠乏は要チェック.
これらは高齢者で多く, さらに抑うつ症状を来す可能性がある.
これらは高齢者で多く, さらに抑うつ症状を来す可能性がある.
高齢発症のうつ病の治療
生活習慣の変更
身体活動を可能な限り増やす様に指導, 勧める. Metaでは, 中等度の身体活動によりうつ症状は改善する. BJP 2012, 201:180-185.
他には栄養摂取, 趣味活動, 社会交流を促すことが大事.
ただしこれだけでは不十分であり, 薬剤や精神療法を併用して効果が見込める.
薬物療法
費用の面, 副作用の面からSSRIが1st choiceとなる.
SSRIにより35-60%が症状が50%以上改善する.(Placeboでは26-40%)
寛解率は32-44%との報告もあり(Placeboでは19-26%).
副作用は悪心, 頭痛が多いが軽度.
SSRIにより35-60%が症状が50%以上改善する.(Placeboでは26-40%)
寛解率は32-44%との報告もあり(Placeboでは19-26%).
副作用は悪心, 頭痛が多いが軽度.
2nd choiceとしてSNRI
TCAはSSRIと同等の効果だが, 副作用強いためオプションとして用いる
TCAはSSRIと同等の効果だが, 副作用強いためオプションとして用いる
精神療法
高齢発症のうつ病に対する精神療法は有用であり, 1st line treatmentとして用いられることもある.
週1回を8-12週間継続し, 認知行動療法, 問題解決療法を行う.
週1回を8-12週間継続し, 認知行動療法, 問題解決療法を行う.
認知行動療法は効果は期待できるが, 認知機能低下がある患者や, 身体疾患を併発している患者では効果が乏しい.
問題解決療法(Problem-solving therapy)では生活の問題点について解決できる能力を身につけることを目標とする.
これもうつ症状の改善, 改善の維持, QOLの改善効果が見込める.
これもうつ症状の改善, 改善の維持, QOLの改善効果が見込める.
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冒頭で触れた 夜間救急外来頻回受診, 他医頻回受診の末, 自分の外来に回ってきた患者さんの一人は 診断し, ストレス因子を探り, 病気を説明し, 問題解決療法を外来で2-3回やったら薬剤無しで良くなってしまいました。
当時は『問題解決療法』なんて言葉も知らず, ただ外来の終わり際まで待っていてもらい,そこで30分から1時間ほどのんびりと話しを聞きつつアドバイス, 問題の明瞭化をしているだけでしたが, それで眼に見えて良くなっていました(毎回外来の終わりには患者さんは泣いていました)。
そういう手探りでやっていたことが, このように推奨された治療であったと分かると何かうれしくなります。当然良くなったこともうれしいです。