高齢女性, 長らく抗セントロメア抗体陽性, 軽度の手指の皮膚硬化で他院フォローされていた.
特に症状はなく, 無治療であったが, ここ数年身体全体の疼痛や体動困難が増悪してきているとのことで紹介となった.
診察すると, 傍脊柱筋, 大腿の筋萎縮が目立ち, 上肢近位、遠位、下腿遠位部の筋は保たれていた. さらに, 話を聞くと今でも毎週プールでウォーキングをしている素晴らしい習慣があった.
そのウォーキングも徐々にしんどくなっている様子.
手指の皮膚硬化も高度なものではなく, 軽度Raynaud現象を認めるのみ.
関節所見も有意なものはなく, 疼痛は筋の把握で誘発された.
一般血液検査では特に気になる異常は認められなかった.
筋症を併発している可能性があるかもしれない, との疑いにて筋炎抗体や画像を評価したところ, 抗ミトコンドリアM2抗体のみ強陽性となった. 胆道系酵素上昇はない.
画像では某脊柱, 大腿部の筋萎縮と同部位の脂肪置換所見が得られた.
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抗ミトコンドリア抗体はPBC(原発性胆汁性肝硬変)で認められる抗体.
近年, 炎症性筋症の一部でもこの抗体が関連している報告が増えてきている
どのような臨床的な特徴があるのだろうか?
いくつかCohortを漁る.
抗ミトコンドリア抗体陽性の炎症性筋症
国内の212例の特発性筋症患者のうち11.3%で抗ミトコンドリア抗体が陽性となった(24例).
(Brain 2012: 135; 1767–1777)
・24例中PBC合併例は7例で, 17例はPBCを認めず.
・AMA陽性特発性筋症では, 筋萎縮が多く, 筋痛は少ない. さらに皮疹も少ない
・心障害を伴う頻度が高い.
・また, 25%で肉芽腫を伴う炎症所見が認められる
国内からのCohort: 神戸大学附属病院神経内科において, 2003-2014年に診断, 治療した炎症性筋症患者を解析.
(Eur Neurol 2017;78:290–295)
・41例でprobable myositisと診断, 且つ抗ミトコンドリアM2抗体を評価していた.
臨床的, 病理より封入体筋炎と診断された症例は除外.
・抗ミトコンドリアM2抗体陽性は8例.
DMが1例, 7例がPM.
・抗体陽性群 vs 陰性群の比較では,
陽性群は有意に発症~診断までの期間が長い(6.4y vs 1.9y)
CK値も低い傾向があるが有意差無し(1050±1137 IU/L vs 2085±2347)
筋症状の比較
・上腕二頭筋, 大腿四頭筋の障害はAMA陽性例には少なく, 陰性例で多い. 他の筋(体幹や他の四肢筋)は有意差なし
・CTの評価では陽性群では某脊柱筋の萎縮が目立つ
・心筋障害や不整脈は陽性群で多い
2009-2015年にJohns Hopkins Myositis Centerで診断した7例のAMA陽性筋症の解析
(Seminars in Arthritis and Rheumatism 47 (2018) 552–556)
・筋炎抗体を評価したのが1180例. このうちELISAでAMAが陽性となったのが7例(0.6%)
・診断時年齢は55歳. 全例で慢性経過であり, 発症~評価まで6.5年
・脱力は全例で認められ, 筋萎縮は6/7
・DMが1例, 壊死性筋症が4例, PMが1例, 非特異的筋炎/肉芽腫性筋炎が1例であった.
・心筋症合併が5例, いずれも不整脈を認めた
中国における特発性炎症性筋症のCohort.
(Neuromuscular Disorders 29 (2019) 5–13)
・136例中, 7例(5.15%)がAMA陽性筋症と診断.
DMと分類されたのが3例, PMが2例, 壊死性筋症が2例
・PBC合併は2例, 心筋症合併が2例
AMA筋症と診断された6例の大腿部MRIを評価した報告
(Muscle Nerve. 2020 Jan;61(1):81-87.)
・大内転筋と, 大臀筋がSTIRで高信号となる例が多い
Cohortのまとめ (前述の2つの国内からのCohort(3,6), 米国のCohort(5), 中国のCohort(Our study)を含む) (Neuromuscular Disorders 29 (2019) 5–13)
・特発性炎症性筋症のうち, 数~10%程度でAMA陽性が認められる可能性がある.
・他の筋炎と比較して, 発症〜進行は緩徐であり, 診断まで数年かかることもある.
・筋障害は体幹, 下肢近位部で比較的多い.
・病理はPMや壊死性筋症, 非特異的, 肉芽腫性炎症など様々なパターンがあり得る
・AMA陽性であるが, PBCを合併するのは1/3に満たない程度
・心筋障害を伴うリスクが高く, 不整脈リスクにもなる. 疑った場合は必ずチェックすべき