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2021年1月19日火曜日

神経因性食思不振症による肝障害

神経因性食思不振症(AN)で低栄養が強い患者.

低血糖で搬送されたが, AST, ALT共に4桁台の肝障害を合併

(AST 3000台, ALT 1500, LDH 900)

薬剤や感染症, 胆道系疾患などの可能性は低そうであるが, ANを原因としていいのだろうか?


Anorexia nervosaでは, 低栄養性の肝炎が生じる.

Malnutrition-induced hepatitis(MIH)と呼ばれる

(Dig Dis Sci. 2017 Nov;62(11):2977-2981.)

・凝固障害や脳症を呈するほどの急性肝不全となる例は少ない.

また, ANでは, 栄養補充に伴い, 脂肪肝が生じ, それによる肝酵素上昇も認めるが, それは分けられる. 頻度はMIHの方が多い.

・AN患者の50%で肝酵素上昇が認められる. BMIが低下するほどリスクも上昇.

・AST, ALTは通常 3桁程度の中等度上昇が多い.

脂肪肝のように, ASTに比べて, ALTが比較的有意に上昇する

MIH合併のANでは, 糖新生の低下も加わり, 低血糖リスクが上昇


飢餓状態ではAutophagyが生じ, その結果肝細胞障害や細胞死が生じる. これがMIHの機序と推測されている

ANによる重症肝障害(平均肝酵素>1900 IU/L)における肝生検の結果は

・肝細胞のアポトーシスやネクローシスの所見は少なく1/3の患者で多くのautophagosome(自己貪食空胞)の所見が認められた

・栄養補充を行うと速やかに肝障害は改善を認める


AN 181例において, 肝障害の頻度を評価した報告

(Int J Eat Disord 2016; 49:151–158)

・BMI12.8±1.8

肝障害の頻度

・半数以上で肝酵素上昇が認められる.

・ALT上昇が目立つパターンが多く, 多くは2桁~3桁前半.

・INRの亢進は26%

・重度の上昇群ではよりBMIは低く, 栄養状態も悪い

入院中も, Refeedingによる低P血症や低血糖を呈するリスクが高いため, 注意が必要.


症例のように4桁となる例も報告はされている;

4桁上昇を認めた症例のReview (European Journal of Gastroenterology & Hepatology 2014, 26:473–477)

・AST, ALT1000を超える症例報告も少ないがある.

組織の低循環状態が合併していると考えられており速やかに補液と栄養補充により改善を認める例が多い.(Shock liver, 低酸素性肝炎のような病態)

・酵素上昇もALT有意ではなく, ASTが有意に上昇するパターンとなる


1例の詳細なデータ


・Shock liver, 低酸素性肝炎と違うのはLDHの上昇がASTやALTを超えない点.
 どちらかというとウイルス性肝炎や薬剤性に近いパターン.