医療, 介護 関連肺炎(Health-care-associated Pneumonia: HCAP)と
院内肺炎(Hospital-Acquired Pneumonia: HAP)がある.
また他には人工呼吸器関連肺炎(VAP)や, さらに言えば誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia, pneumonitis: AP)も別に考えるべきだと思うけども、ここでは触れない.
元々、2000年ごろにはCAPとHAPのみであり,
HAPでは耐性菌の頻度が増加するため, 広域抗生剤で治療しましょうと言われてきた。
しかしながら, HAPではないものの, MRSAや緑膿菌などの耐性菌が増加する因子として、医療, 介護の暴露歴が指摘され、2005年にHCAPが定義された。
HCAPの定義は以下のとおり
2005 ATS/IDSAガイドラインによるHCAPの定義
48時間〜90日以内の入院歴
長期施設入所者
30日以内の透析クリニック通院歴
30日以内の経静脈投与治療通院歴(抗生剤や化学療法)
30日以内の外傷治療通院歴
上記のいずれかを満たす患者の肺炎をHCAPと定義した. (Respiratory Medicine (2012) 106, 1606-1612)
各肺炎の原因菌の頻度
日本国内における2005-2007年に入院したCAP, HCAP 371例の原因菌
Microbes
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HCAP(141)
|
CAP(230)
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GNR
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24.1%
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13.0%
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Klebsiella spp(ESBL)
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7.1%(0)
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1.7%(0)
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Pseudomonas spp
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5.7%
|
1.7%
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E coli(ESBL)
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3.5%(0.7%)
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0.4%(0)
|
Haemophilus influenzae
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2.8%
|
7.4%
|
Proteus mirabilis
|
2.8%
|
0.4%
|
Acinetobacter spp
|
2.1%
|
0
|
S maltophilia
|
0
|
0
|
他のGNR
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2.8%
|
1.3%
|
Microbes
|
HCAP(141)
|
CAP(230)
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GPC
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31.2%
|
31.3%
|
S pneumoniae
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13.5%
|
19.1%
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S aureus(MRSA)
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9.9%(3.5%)
|
6.1%(0.9%)
|
Strep 他
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7.1%
|
5.2%
|
他のGPC
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2.8%
|
1.3%
|
Atypical
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0.7%
|
7.0%
|
C pneumoniae
|
0.7%
|
5.7%
|
M pneumoniae
|
0
|
0.9%
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L pneumophila
|
0
|
0.4%
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Nocardia spp
|
0.7%
|
0
|
検出無し
|
45.4%
|
52.6%
|
Meta-analysisより (Clinical Infectious Diseases 2014;58(3):330–9)
さて, 本題であるが,
2005年のATS/IDSAガイドラインではHCAPでは緑膿菌やMRSAをカバーする抗生剤を用いるべきであると推奨している.
実際個人的にはそんなことはせず、まずCAPカバーの抗生剤や誤嚥性肺炎としてABPC/SBTを用いることが多く, そしてそれで苦労した覚えもない.
その辺を評価したStudyがいくつかあるので紹介する
高齢の施設入所者の肺炎 334例のRetrospective study.
(J Am Geriatr Soc 57:1030–1035, 2009.)
2003年のCAPガイドラインに準じた抗生剤選択と, 2005年のHCAPガイドラインに準じた抗生剤選択群に分類し, 予後を比較した.
・2003年IDSAガイドライン群: LVFX単独, βラクタム+マクロライド
・2005年ATS/IDSA群: 第4世代セフェム, カルバペネム, 緑膿菌カバーのFQ, 緑膿菌カバーのペニシリン系を使用
・上記2群に分類し, 予後を比較した.
・77%が2003年IDSAガイドラインで治療.
・両群で治療失敗リスク, 死亡リスクは有意差ない結果.
HCAP 100例のRetrospective study
(Respiratory Medicine (2012) 106, 1606-1612)
・ガイドラインに沿った抗生剤治療群(43)とそれ以外の抗生剤治療群(57)でアウトカムを比較.
・患者群のPSIは 124と高く, 敗血症を満たすのは55%,
・薬剤耐性菌は11%で検出.
・広域抗生剤群とそれ以外では臨床的安定化までの時間, 抗生剤変更, 在院日数, 死亡リスクに有意差無し.
耐性菌による感染症のリスク因子は,
・HCAPの定義を3つ以上の満たす場合と創傷治療で外来通院をしている場合
HCAP 228例のRetrospective study.
(Ann Pharmacother. 2013 Jan;47(1):9-19.)
・緑膿菌カバーしたのが106例, 通常のCAPでの抗生剤を使用したのが122例.
・臨床的改善は両者で有意差はなし.
・CAPでの抗生剤で治療した群では, より経静脈投与が短期間(4.39 vs 7.75日)であり, 入院期間も短い結果(6.36 vs 8.58日)であった.
2013年でのMeta-analysis
HCAPの治療において, ガイドラインに沿った抗生剤使用(広域)かそれ以外で比較したMeta-analysis(6 trials) (Lung. 2013 Jun;191(3):229-37.)
・広域抗生剤の使用は死亡リスクが上昇(OR 1.80[1.26-2.7])
・在院日数や臨床的安定も両者で有意差はない.
・広域を使用する方が状態が悪い, 重症例ということを差し引いてもHCAPの初期の治療として広域抗生剤(MRSAや緑膿菌カバー)を選択する利点は認められない.
2013年以降のStudy
中国における125例のHCAP症例のRetrospective study.
(Chin Med J 2014;127 (10): 1814-1819 )
・そのうち 70例が広域抗生剤で治療を開始され, 55例が市中肺炎で推奨される抗生剤を使用.
・広域抗生剤使用群の方がより治療成功率は良好(70% vs 51%)
・抗生剤の変更頻度も低くて済むが, 在院日数や院内死亡リスクは有意差無し.
HCAP 85097例のうち, 37.5%で広域抗生剤が使用(MRSA もしくは 緑膿菌カバー)
(J Antimicrob Chemother. 2015 May;70(5):1573-9.)
・広域抗生剤使用群はより重症肺炎, 基礎疾患が重度の患者.
・多変量解析において, Empiricalな広域抗生剤使用は死亡リスク改善効果は認められない結果.
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つらつらと書いてきましたが
この辺はほとんどが後ろ向きStudy.
当然, 広域抗生剤を使用する方が重症であることが予測されますが, それを差し引いても初めから広域抗生剤で開始する意義は乏しい.
自分のやり方は,
1)最初はCAPや誤嚥性肺炎に準じた抗生剤選択: CTRXやABPC/SBT
当然最初にグラム染色もチェックしておく.
2)治療開始後(抗生剤投与して半日後。朝投与なら夕方、夕投与なら翌朝)にグラム染色フォローし, ブドウ球菌様のGPCや緑膿菌様のGNRが生き残っていないかをチェック.
>>生き残っていれば, その後の臨床経過を考慮しつつ, 広域への変更を考慮
>>生き残っていなければそのまま抗生剤を継続. 培養結果を待つ.
このようなマネージメントでまず問題はありません。
最初から広域抗生剤を使用する場合は
a) 入院患者の病状をフォローする気がない。
b) いろいろな事情により入院患者をフォローできない。
c) 外すと翌日死ぬかもしれない 場合に限ります.
cはたまにやります。
bは連休前, 連休中とか...(それでもやりませんけども)
aをやってしまう場合は医師を辞めどきですね