症例: 透析中の85歳男性; 主訴 意識障害
・認知症, DM, 腎不全あり, ○○病院入院中.
・転院6日前より発熱あり, Cefepime(マキシピーム®) 1g/dを連日投与.
・透析は(月), (水), (金), Abxは水曜日より開始された.
・金曜日の透析後より意識レベル低下, 見当識障害を認め, 同日夜に転院
ERにて
・電解質, Glu, TSH, ガス, LP所見正常. 頭部CT正常.
・Sepsisによる意識障害 or せん妄を疑われ, 入院.
・金, 土, 日と意識レベル変わらず, GCS E1V2M4.
・点滴やらコードやら引っ張りまくる. ナースの手をつかむ. 良く分からない行動をとる. 暴れる.
・点滴やらコードやら引っ張りまくる. ナースの手をつかむ. 良く分からない行動をとる. 暴れる.
・(月)にMRI評価するも, 明らかな所見無し.
その後…
・(月)に鎮静しつつ透析を行い, 翌日評価したところ…
意識レベル改善; GCS E4V5M6…
・さらに透析を継続し, 意識状態改善. 座位, 歩行可能, 食事摂取良好.
・入院1wk後には見当識も改善を認め, 10日目に退院となった.
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という症例。
結果的に敗血症らしい所見も乏しく, 透析患者に対するCefepimeによる非けいれん性てんかん(NCSE)と考えているが, 残念ながら脳波が評価できていない。
Cefepimeの中枢毒性について
Cefepimeの特徴
・Cefepimeは85%が腎代謝であり, CCr<10ml/minの患者では健常者と比較して半減期が5倍となる. (通常2.3hr ⇒ 13.5hr~22hr)
・透析での排泄速度は透析膜に依存し, 大体1.6~2.3hr
・脳血液関門の通過性が良好であり, CNS感染症での適応も多い
・中枢では, GABA阻害作用を示し(他のβ-Lactumと同様), 痙攣閾値を減少させることが分かっている.
(Nephrol Dial Transplant 2008;23:966-70. Hosp Pharm 2009;44:557-61, 574)
Cefepimeによる中枢神経症状は報告例は, ほぼ全てが腎障害(+), 透析患者における不適切なDose使用によるもの
・2001年10月~2004年2月まで福山城西病院でCFPMを使用したのは58例, 中枢神経症状を認めたのは5例(8.6%)
その全例が透析患者であった (広島医学2004;57:553-5)
その全例が透析患者であった (広島医学2004;57:553-5)
・少ないながら, 腎機能正常で通常のDoseを投与した症例でもNeurotoxicityを生じた症例報告もあるため, 注意は必要.
・症状は緩徐進行性の意識低下, 昏睡, 昏迷, 焦燥, 全失語, ミオクローヌス. 舞踏病様運動, てんかん発作, 非けいれん性てんかんなどが報告
・Cefepime開始 ~ 神経症状発症までの期間は1-16日
・Cefepimeの中止により, 神経所見は改善を認める.
(Nephrol Dial Transplant 2008;23:966-70. Hosp Pharm 2009;44:557-61, 574)
Cefepime 42例, Ceftazidime 12例のReview
・発症平均年齢はCefepimeで61±19yr, Ceftazidimeで65±13yr.
・1例を除き, 他全てに腎障害を認め, 25%が透析中の患者であった.
Cefepime例の12%, Ceftazidime例の33%が急性腎不全合併患者.
Cefepime例の12%, Ceftazidime例の33%が急性腎不全合併患者.
・最も多い症状は混迷であり, 頻度はそれぞれ 93%, 91%.
・Myoclonusはそれぞれ29%, 50%. 痙攣はそれぞれ 14%, 8%の頻度であった.
・Myoclonusはそれぞれ29%, 50%. 痙攣はそれぞれ 14%, 8%の頻度であった.
・薬剤開始~発症までの期間は, 5d[4-10], 6.5[4-11]
・発症~診断までの期間は, 5d[4-6], 3d[2-4]
・症状持続期間は, 8d[5-10], 4d[4-6]
・発症~診断までの期間は, 5d[4-6], 3d[2-4]
・症状持続期間は, 8d[5-10], 4d[4-6]
・EEGパターンは3つに分けられ,Background activityの消失, θ, δ波, 三相波の出現を認める
他にはNonconvulsive status epilepticus, Generalized seizure.
(Pharmacotherapy 2003;23:369-73)
CephalosporinによるNonconvulsive status epilepticus10例.
・全例で腎不全を合併しており, 薬剤開始後1-10d(5±2d)で発症.
・薬剤はCTRX 2例, CEZ 2例, Cefepime 6例.
・症状は昏迷, 焦燥感, 顔面, 四肢のミオクローヌス症状.
・脳波は徐波で1-2Hzの棘波を混入する.
三相波様に見えるが, 厳密には肝性脳症の脳波とは異なる.
三相波様に見えるが, 厳密には肝性脳症の脳波とは異なる.
・全例が薬剤中止後7日以内に改善.
・血中濃度との関連は不明.
(Am J Med. 2001; 111:115–119)
2009-2011年にICUにてCefepimeを3日以上投与した成人例100例のRetrospective review.
・平均年齢65.8y[12.7], 使用量は平均2.5g/d[2.0-3.5]
・投与期間は6日[4-10].
・投与期間は6日[4-10].
・腎障害は84例で認められた.
Cefepimeによる神経毒性は15例で認めた(15%).
・投与開始〜症状出現まで3日[1-7].
・症状は意識障害(13), ミオクローヌス(11), Disorientation(6), NCSE(1)
神経毒性は腎障害と, 腎障害に応じた投与量の調節が無い場合がリスクとなる
(Critical Care 2013, 17:R264)
抗生剤による痙攣/てんかんリスクをまとめたReview (Neurology® 2015;85:1332–1341)
抗生剤による痙攣, NCSEを報告した文献のReview.
・その全てがEvidence level Class III-IV.
・原因薬剤で多いのはβラクタム(主にIII, IV世代セフェム), キノロン, カルバペネム(主にイミペネム).
βラクタム: ペニシリン
・ペニシリンによるGABA阻害作用が痙攣誘発に関連している可能性.
ペニシリンGもしくはOxacillinのIV投与で痙攣を発症するリスクは0.32%
その全てが高用量投与, もしくは腎不全患者で生じている.
その全てが高用量投与, もしくは腎不全患者で生じている.
βラクタム: PIPC/TAZ
・PIPC/TAZでも痙攣の報告はあり. ペニシリンと同じく, 痙攣リスクがある患者群で生じる(高用量, 腎不全).
βラクタム: セフェム系
・腎不全患者におけるセフェム系抗生剤も痙攣のリスクとなる.
GABAA受容体阻害作用が関連する.
脳組織, CSF中の抗生剤濃度と関連.
GABAA受容体阻害作用が関連する.
脳組織, CSF中の抗生剤濃度と関連.
・強直間代性痙攣, 重積以外にNCSEも多い.
・腎不全以外にも低アルブミンもCSF中の薬剤濃度上昇に関連.
・CNS疾患がある患者でもリスクは上昇.
・CNS疾患がある患者でもリスクは上昇.
・原因薬剤はセファゾリンの他, III-IV世代(Cefotiam, Cefixime, Ceftriaxone, Ceftazidime)で報告が多い.
βラクタム: カルバペネム
・カルバペネムは血液脳関門の通過性が良いため, より中枢のGABAA受容体阻害作用が強い可能性がある.
・中枢への作用以外に, カルバペネムでは抗てんかん薬(VPA)の代謝への影響もある.
元々てんかんがありVPAを使用中の患者ではそれでリスクが上昇する可能性も.
・メロペネムよりもイミペネムの方が痙攣リスクは高い.
また, メロペネムよりセフェピムの方がリスクは高い (Int J Clin Pharm 2013;35:683–687)
また, メロペネムよりセフェピムの方がリスクは高い (Int J Clin Pharm 2013;35:683–687)
・イミペネムは他のカルバペネムよりも中枢のGABAA受容体の親和性が高い.
1754例のイミペネム使用患者のうち, 痙攣は3%で認められ, その31%がイミペネムに関連した痙攣と評価 (大体1%).(Am J Med 1988;84:911–918.)
その大半が頭蓋内疾患やその既往歴があった(奇形, 脳萎縮, Stroke, 脳挫傷, 腫瘍, MS, 低酸素脳症など)
・メロペネムにおける痙攣のリスクは0.07-0.1%程度.
ドリペネムはGABAA受容体への親和性が低く, リスクも低い. (ドリペネム < PIPC/TAZ < イミペネム) (Curr Med Res Opin 2008;24:2113–2126. Crit Care Med 2008;36:1089–1096.)
キノロン系
・FQも特異的なGABAA受容体結合部位があり, 抑制に働く
・CPFXでせん妄や痙攣の報告がある.
・特にCNS疾患既往患者, 腎不全患者, テオフィリン併用患者で報告例あり
・特にCNS疾患既往患者, 腎不全患者, テオフィリン併用患者で報告例あり
・LVFXやMOFX, Gatifloxacinでは報告例は少ない.
マクロライド系: エリスロマイシン, クラリスロマイシン
・CYP3A4阻害作用があり, カルバマゼピンの血中濃度上昇に関与
・カルバマゼピン中毒で痙攣, 痙攣重積がある.
・カルバマゼピン中毒で痙攣, 痙攣重積がある.
・アジスロマイシンはCYP3A4阻害作用はなく, 痙攣リスクは低いと考えられている.
他の抗生剤
・イソニアジドは末梢神経障害, 精神症, 痙攣の原因となる.
ビタミンB6群のリン酸化に必要なピリドキサールキナーゼを阻害し, pyridoxal 5’ phosphateが低下し, GABAの合成障害に関連する.
ビタミンB6群のリン酸化に必要なピリドキサールキナーゼを阻害し, pyridoxal 5’ phosphateが低下し, GABAの合成障害に関連する.
・リファンピシンはCYP2C9, CYP2C19, CYP3A4, glucuronidaseを誘導することで, 抗てんかん薬の代謝を促進させる.
・リネゾリドではComplex partial seizure, てんかん重積の報告があるが, 機序は不明.